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第一章:監禁されるは生徒会

第八話:彼女と共に歩く

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 結論から言おう。俺に声をかけた人物、即ち俺の肩を叩いた人物はラムダではなかった。
「……誰ですか?」
「私だよ!」
 俺の肩を叩いた人物はアルファ先生だった。舌をちろと出し、両手の人差し指を両頬に当てている。正直言って、イタい。キツい。だがそんなことは言えない。
 俺が本音が漏れてしまわないように黙り込んでいると、アルファ先生は目をうるうるとさせた。
「……私のこと、忘れたの?」
 アルファ先生はしゃがみ込み、上目遣いで俺を見てくる。目に涙を浮かべているアルファ先生を見て、帝野は俺をジロリと睨みつけてくる。
 帝野は何も言っていないはずなのに「女の人を泣かせるなんて、さいてーっ! ですわ!」とか聞こえてくる。もはや空耳というレベルを通り越して幻聴だ。
 幻聴が原因かはわからないが、アルファ先生に対して罪悪感が込み上げてくる。男が女性の涙に弱いのはどの年齢でも共通だなあ。そう思い、俺ははあとため息をついた。
「忘れてないですよ、アルファ先生。どうしたんですか?」
 俺は出来る限り優しい声色で声をかける。するとアルファ先生はすっくと立ち上がった。
「冗談だ。ジョーク、ジョーク。さあ、お前ら行くぞ。ラムダは先に待っているから」
 アルファ先生のあまりにもあっけらかんとした様子に、俺は言葉が出ない。
 この人さっきまで泣いていなかったか?
 あまりの驚きにフリーズしてしまった俺をよそに、帝野は立ち上がる。
「こんな言葉がありますわ。バカとハサミ、或いは女の涙。それらはみんな、使いよう。つまり、そう言うことですわ」
 帝野はふふんと鼻を鳴らすと、おもむろに立ち上がった。
「さて、ではサザンカさん。行きますわよ」
 帝野はそう告げると、俺に背を向け歩き出した。その様子を見て、俺とアルファ先生は帝野の後を追った。
 アルファ先生が先導するんじゃないのかとも思ったが、余計な火種になりかねないと思い、口噤んだ。
 そう言えば、今日は言いたいことを我慢してばかりだな。そんなことを思うだけの、放課後が始まった。

 さて、俺たちが通う高校は47都道府県のどこにも属していない。名古屋県という48番目の県にある。
 校舎は四階建てで、Hの形をしている。各クラスの教室がある一般棟と職員室や化学実験室、音楽室などの各クラスの教室以外が集まった特別棟がある。その一般棟と特別棟の各階を渡り廊下で結ぶとめでたく校舎の完成だ。
 生徒会室はどうやら特別棟にあるようで、今俺たちは特別棟を歩いている。
 先導しているのはアルファ先生で、俺と帝野は1メートルほど後ろを歩いている。
 というのも、教室を真っ先に飛び出したのは帝野なんだが、帝野は教室を出るなり「どこへ行けばいいのかわかりませんわ! 生徒会室で良いのですか!? というか、そもそも生徒会室ってどこにあるのですか!?」とか言い出した。
 そんなこんながあって、アルファ先生が案内してくれているのだ。
「アルファ先生、一つ質問しても良いですか?」
 そんなアルファ先生に俺は声をかけた。
 アルファ先生が生徒会室に案内してくれているということは、俺と帝野が生徒会に入るというのはドッキリでもなければラムダの虚言、妄言の類いではないということだ。
 しかし、俺と帝野という問題児が生徒会に入る理由が思いつかない。俺は創作物の世界でしか生徒会を知らないが、どうしても生徒の模範となる人間が入るというイメージが強い。だから何故俺たちが生徒会に入るのか、知りたいのだ。
 だがそんな俺の気持ちとは裏腹に、アルファ先生からの返事はない。理由を教えたくないのだろうか。それとも聞こえなかったのだろうか。
「あの」
 俺が再び声をかけるとアルファ先生は立ち止まった。そして天を仰ぎ、ゆっくりと振り返る。わあ、これなんてシャフ度?
「質問、異議申し立て。どちらだ?」
「俺たちが生徒会に入る理由について……」
「君の質問に答える義理はない。いずれ? いいや、すぐわかるさ」
 アルファ先生はそう言うと前に向き直り、歩く出した。
 どこかはっきりとしない、掴みどころのない答えに納得がいかない。不快感と不可解な事実に、自然と眉根に皺が寄る。
「納得いかねえ……」
 俺が不満を口にすると、アルファ先生はからからと笑った。
「まあ、社会に出るとこんなもんさ。社会人になる前に慣れておくと良いさ」
「俺、高校生なんですけど」
「高校は大学と違って学問を学ぶところではない。学問を学ぶ準備を行いつつ、社会に出る練習をする場所だ。だから慣れておくと良い」
「まあ、そうですか。クラスとか小さい社会ですしね……」
 俺は今日クラスメイトからあからさまに避けられていた帝野に目を向けた。
 周囲から浮いた人間は異常者と見なされ、排除、或いは忌避される。この辺は社会もクラスも全く同じだな。
 そんなことを考えながら、俺はため息をつく。
 何はともあれ生徒会。
 
 
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