上 下
8 / 14
第一章:監禁されるは生徒会

第五話:もぐもぐお嬢様

しおりを挟む
「おかしいですわー!」
 昼休みへの突入を告げるチャイムが校内に鳴り響くと同時、帝野は天に向かって叫んだ。
 4時間目の授業を教えていた教員は帝野を注意しようと口を開けるが、すぐに口を閉じ、ため息をついた。そして気怠そうに授業の終了を告げると、のろのろと教室から退室した。
 振り返ると、帝野が机に突っ伏していた。
「どしたん?」
 俺が訊ねると、帝野は机に突っ伏したまま話し始めた。
「誰もワタクシたちに話しかけてくれませんわ……」
「いや、お前……当然だろ。クラスメイトを可燃ゴミ扱いしといて、話しかけてくれるわけないだろ。何? 脳内お花畑なの? お花を摘みに行く時って、いつも脳内に積みに行っているの?」
「何でしょう……サザンカさんの当たりが強いですわ……」
「いや、よく考えたら初っ端から殴り合いの喧嘩してるのに、今更気を使う必要はなかったわ。たとえお嬢様でも、ね?」
「むぅ……」
 帝野を顔を上げて俺の方を睨むとぷうと頬を膨らませた。
 そんな俺たちの様子を見て笑っていたラムダは、おもむろに立ち上がった。
「さあて、ランチタイムと洒落込もうじゃないか」
 ラムダはニヨニヨとした笑顔を浮かべながら、俺の顔を覗き込んできた。
「誰も話しかけてくれなかったねえ~?」
「お前……流石に言うけど、性格悪いな!?」
「器量も度胸も良いからね。せめて性格くらいは悪くないと」
 そう言ってラムダはケタケタと笑った。
 ラムダの様子を見てため息をつくと、俺はおもむろに立ち上がり、机をラムダの方へと向けてピッタリと付ける。帝野も俺が机を動かしたのを確認すると、俺とラムダの机の横側に机を付けてくる。所謂お誕生日席というやつだ。
 そして帝野はのそのそと弁当箱を机に横にかけてある鞄から取り出す。俺とラムダも釣られるように弁当を取り出す。
 弁当を机の上に置き、帝野の弁当箱を見つめる。1秒、2秒、3秒。
 ふと思う。おかしいと。
 視線を自分の弁当箱、そしてラムダの弁当に移し、目を擦る。そして再度帝野の弁当箱へと目を向ける。
「……デカい」
 無意識にうちに言葉が漏れ出ていた。
 帝野の弁当箱はお嬢様である本人とは非常にミスマッチ。岩のようにゴツゴツとした形状とラムダの二倍はある大きさが特徴的な二段弁当だった。
 一見するとお嬢様の弁当とは思えないのだが、きゅるきゅると黒光りしており、よく見ると高価な弁当箱であるということがわかる。
「デカいね……」
 ラムダも驚いたように呟いた。
 しかし帝野は俺たちの言葉を気にする様子はなく、ふんふんと鼻歌を歌いながら弁当箱を開けた。
「お……おお! お? おお!?」
「こ……これが帝野桔梗ちゃん……いや! 大天使ミカエル!」
 帝野の弁当を見た俺は言葉にならない声が洩れ続け、ラムダは驚きからか意味のわからないことを言い始めた。
 帝野の弁当は、おおよそ俺が妄想する女子の可愛らしいお弁当とは正反対だった。
 一段目はギッチギチに詰め込まれた白米、二段目にはローストビーフにハンバーグ、ウインナー、唐揚げ……とにかく肉料理が詰め込まれていた。とにかく茶色い。
「茶色っ!? 弁当、茶色っ!? お前、名古屋人もびっくりの茶色さだぞ!?」
「何故名古屋人ですの?」
「ほら、名古屋メシって大体茶色いからさ」
「だねえ。味噌煮込みうどん、手羽先、ひつまぶし、えとせとらえとせとら……ミカエルのお弁当は名古屋に匹敵するんじゃないか?」
「つーかミカエルって誰だよ」
「帝野だからミカエルだよ。弁当が肉肉しすぎて尊敬しちゃったからさ、良いあだ名で呼んであげようと思って」
 そんな俺たちの会話を帝野は「ふーん」と興味なさげに聞き流すと、はむはむとご飯を食べ始めた。食事中の猫に匹敵する集中だ。
 その様子を見て俺とラムダは目を見合わせて微笑んだ。
 そして俺も弁当箱を開ける。中にはコンビニかスーパーで買ったであろうおにぎりが三個詰め込まれている。実に思春期男子らしい個数だ。
 ちらとラムダの方に目をやる。ラムダの弁当は帝野ほどではないにしろ、かなり茶色だった。
「いや茶色……」
 あまりの呆れから我慢出来ず、本音が漏れ出る。
 ラムダは俺の言葉を聞くと、ぷりぷりと怒った。
「伝統の味をバカにするなー! ぶーぶー!」
 ラムダのお弁当。小さめのおにぎりが二つに刻み生姜にごま塩、にんじん、さくらんぼ、椎茸、ゴボウ、穴が空いたレンコン、筋が通ったフキ。
 なるほど、伝統の味だ。とは言え、今時の女子高生が食べるにはあまりにも渋すぎる。
 渋い顔してながら食べてるんだろうなと思い、ラムダの方に目をやると「うみゃー」と言いながら美味しそうに食べていた。
 舌が大人で良いなと思いつつ、俺は朝から疑問に思っていたことを口に出した。
「それでラムダ。朝言ってた委員会のことって?」
「それはね」
 俺が訊ねると、ラムダは食事の手を止めた。
 すると、ビリリと右半身に刺されるような痛みが走る。
 右を向くと、リスみたいに口いっぱいに唐揚げを頬張る帝野が俺を鋭い目つきで睨みつけていた。刺し殺さんとばかりに俺を睨みつけてくる帝野を見て、俺は手を合わせた。
「いただきます!」
 帝野と過ごすようになって一日目。早くも俺は教訓を身につけた。
 帝野桔梗の食事、邪魔するべからず。だって邪魔したら睨まれるからね。
 まんじゅう怖い、まんじゅう怖い。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ハイスペックな元彼は私を捉えて離さない

春野 カノン
恋愛
システムエンジニアとして働く百瀬陽葵(ももせひまり)には付き合って2年程の彼氏がいるが忙しくてなかなか会う時間を作れずにいた。 そんな中、彼女の心を乱すある人物が現れる。 それは陽葵が大学時代に全てを捧げた大好きだった元彼の四ノ宮理玖(しのみやりく)で、彼はなんと陽葵の隣の部屋に引っ越してきたのだ。 ひょんなことなら再び再会した2人の運命は少しづつ動き出す。 陽葵から別れを切り出したはずなのに彼は懲りずに優しくそして甘い言葉を囁き彼女の心を乱していく。 そんな彼となぜか職場でも上司と部下の関係となってしまい、ますます理玖からの溺愛&嫉妬が止まらない。 振られたはずの理玖が構わず陽葵に愛を囁き寵愛を向けるその訳は───。 百瀬陽葵(ももせひまり) 26歳 株式会社forefront システムエンジニア       × 四ノ宮理玖(しのみやりく) 28歳 株式会社forefront エンジニアチーフ ※表紙はニジジャーニーで制作しております ※職業、仕事など詳しくないので温かい目でみていただきたいです

処理中です...