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side オリバー
しおりを挟む「旦那様、よろしいのですか?」
「何がだ?」
「ネル様です」
「……」
執事長の質問の意図はわかっている。
それでも俺は、もう二度と番を失うわけにはいかない。
「あれが…ネルの生きる希望となるのなら、いいじゃないか」
「本当にそうお思いですか?」
「ああ、それにあと半年はこちらで職務を行なうことも陛下から許可を得ている」
「…そうですか。旦那様が側におられるというのならネル様もご安心なさることでしょう」
「ネルの事は、陛下も気にかけてくださっているからな」
ネルが心を病んでしまったきっかけは2回目の発情期で孕んだ子が流れてしまった時だった。
焦らなくてもいいと言う俺にΩであるのに子を孕めないなんてこんな欠陥品は生きている価値もないとネルは泣いて謝った。
医者が言うにはまだ身体が成長しきっていないだけだから時が経てば十分に子も産めると言われていた。
だが、自身の親が同じ歳でネルの兄である第一子を産み、さらにその2年後には姉である第二子を産んでいる事から自分はもう子を産めないのかもしれないと思い込んでしまったのだ。
(子を産むことだけが全てでは無いのに…)
少なくとも俺は、まだ二人で運命の番を亡くした者同士ゆっくりと歩めればいいと、そう思っていた。
若くして公爵位を継いだ俺を気にかけてくださっていた国王陛下は、同じく俺の番であるネルの事もとても気遣ってくれていた。
少々ロマンチストなところがある陛下は運命の番を亡くした俺たちの事を不憫に思われていたのだろう。
ネルが子を流産したと聞いた時陛下は
「心が不安定になっているΩは番と離れると更に不安定になって取り返しのつかないことになる。落ち着くまで側にいてやりなさい」
と言い、更に城へはしばらく来なくて良いから、とまで言ってくださった。
それからネルを連れて、療養のため領地の中でも一番遠方にある地域の別荘へと移り、それからもうずっとここで生活をしている。
ここは自然も多く、空気は澄んでいて、一年を通して気候が安定しており国内外から避暑地や療養地として利用されている地域。
そしてそこで迎えた3回目の発情期。
ネルが子を孕む事は無かった。
それからネルは生きる屍のようになってしまった。
息をしているだけ、ただそれだけだった。
それでも、穏やかな時間の流れる屋敷で過ごすうちにネルは回復していっているのだと、そう、信じていた。
日がな一日窓の外を眺めるだけだったネルだがそれでも4回目の発情期はきちんとやってきた。
その時だけは意識がはっきりしていたと思う。
そうして2ヶ月ほど経った頃、子を孕んだと嬉しそうに笑った。
久しぶりにみたネルの笑顔に安心した。
(けど、)
「胎動も感じているというのに、どうしてだろうな、ネル…」
執務室から見渡せる庭園にいる番は、子など孕んでいない真っ平な腹を愛おしそうに撫でていた。
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