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夏の思い出 Ⅰ
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どこまでも澄み渡り、天高く突き抜ける青い空。
真綿を千切って積み重ねたような、ふわふわでもこもこな白い雲。
『眩しい』を超えて、いっそ攻撃的にギラギラと降り注ぐ真夏の陽光。
轟音と圧力を伴って吹きつける潮風と、足元に寄せては返す忙しない波。
白浜との対比が映えるエメラルドグリーンに透き通った水平線と、網膜が焼けるほどにきらめく水面が美しい、フリューゲルヘイゲン王国最東端の地シュタール海岸。
その一画にある、ハインリヒ家所有のプライベートビーチ。
こぢんまりした白亜の邸宅と、その周りを囲む南国的な形状の色彩豊かな植物達から少し離れた所にある、二十段程度の石階段を下った先の浜辺。
柔らかな微笑みを浮かべているメイド三人と。
唇の端を愉しげに持ち上げている男装騎士二人と。
心配そうに腕を上下させている男性二人の前方で。
両目を限界まで開ききっている女性一人と。
同じく目や口を開きっ放しにしている子供二人が。
十五分もの間、身動き一つせずに、茫然と。
ただただ茫然と、立ち尽くしていた。
☆★☆★☆★☆★☆★
十三日ほど前。
一日の仕事を終えて帰宅する直前だったシュバイツァー公爵夫妻を自分の執務室に招いた国軍大将グエンが、にっこり笑って、こう言った。
「シュバイツァー公爵一家にね、首都の外へ出張して欲しいんだ」
前触れも無く告げられた一言に、シュバイツァー家の当主グローリアと、その夫アーシュマーが、揃って首を傾げる。
「ヘイムディンバッハの外へ……『出張』?」
「一家とはつまり、騎士としてではなく、公爵家の仕事として、ですか?」
夫妻がフリューゲルヘイゲン王国の公職に就いてから、約五年。
二人の持ち場は基本的に城内で、騎士としても随時ヘイムディンバッハへ派遣される程度だった。
国内外の領主達から何度となく招待されているものの、周辺地域の歴史や文化を学んだり、慣れない育児で奮闘したり、大陸間侵攻を企む武装勢力の暗躍で騎士の出動が急増したりと、様々な理由が次から次へと降って湧き、結局現在に至るまで、首都から外へは一度も出た例が無い。
情報でしか知らない場所へ。
しかも、仕事として。
まだまだ幼い子供達を連れて行けとの辞令に、夫妻は軽く動揺した。
「そうだよ。シュバイツァー公と君、ヴィント嬢とナディア嬢。それから、メイドを三人と騎士を三人、同行させようと思ってる。全員顔見知りだし、君達のいつもの公務には代理人を立てるから、そこは安心して良い」
グエンが手ずから淹れたお茶を飲み、ローテーブルの上にカップを置く。
その正面でソファーに並んで座っている夫妻は、それぞれ淹れてもらったお茶に手を付ける余裕も無く戸惑う顔を見合わせ、グエンに向き直った。
「シュバイツェル王家の方々には常より格別の取り計らいをいただき感謝に絶えませんが、今回は子供達にも役目があるとのこと。問題を起こさせない為にも、可能であれば任務の詳細をお聞かせ願えますでしょうか」
「私達はどこへ行き、何をすれば良いのですか?」
少なくとも、外交関係ではない。
シュバイツァー公爵夫妻の公務は、フリューゲルヘイゲン王国の内政だ。
当初は、フリューゲルヘイゲン王国の言語を修得する為の勉強も兼ねて、各種議事録の整理整頓など、雑務ではあっても決して軽くはない守秘義務が課される事務職を任されていた。
それらに加え、現在は軍事関係を中心とした会計監査等も預かっている。
特に、大量の木炭を高すぎず安くもない絶妙な値で売り払った金銭感覚の持ち主は、情報を得られる環境さえあれば時世を読む力にも長けている、とみなされ、大臣を始めとする経済部のお歴々に重用されていた。
この辺りは「文句があるなら拳でどうぞ」なフリューゲルヘイゲン王国の頭を使わない国民性も関係している気はするが、それはともかく。
南大陸からの侵攻を警戒中の昨今、軍事と経済の両方に関わった人材を、そう易々と手放すとは思えない。
超大国の国家元首、フィオルシーニ皇帝がグローリア=シュバイツァーの後ろ楯になっている事実からしても、外国人達と足を取り合ったり引っ張り合ったりする険悪で繊細な駆け引きの現場へ、外交官や補佐官も付けずに、社交界デビューすらしていない五歳女児を二人も連れて行けなどと。
まるでシュバイツァー公爵家の失態と失墜を望んでいるかのような、冗談にしても悪質な命令が下されるとは、到底考えられなかった。
では何の為にどこへと問う夫妻に、グエンは少しも笑みを崩さず答える。
「目的地はハインリヒ家が所有するシュタール海岸のプライベートビーチ。目的は出張。現時点で言えることは以上だ。期間は明後日から、移動時間も含めて一ヶ月」
「「一ヶ月も!?」」
「一年の内で最も暑くなるこの時期は、国の内外から海に向かって観光客が殺到するんだ。だから、どの道を選んでも海と首都の往復で日数が掛かる。逆に涼しい時期なら、どんな道を通ってもあっという間に着くんだけどね」
「……ああ」
「バスティーツ大陸の南東部では、暑くなる時期はどうしても集中力などの著しい低下で生産性に影響が出てしまうからと、国民全員が少しずつ日程をずらして交代しながらまとまった休みを取る習慣があるのでしたね」
「その通り。感覚としては、暑くて仕事にならないから休むというよりも、仕事にならないと分かっている時期を狙って旅行を楽しむ為に、他の時期は働いていると言うべきなんだけど。ウェラントやベルゼーラがある南西部に『夏の長期休暇』の習慣は無いんだよね?」
「はい。周辺国がどうかは判りませんが、ウェラント王国の場合は、国事や祝日以外でまとまった休暇など、自分か親類縁者が病に臥せたり看病する時くらいのもので、それが普通でした。私が知る限りではの話ですが」
「ベルゼーラ王国と近隣国も、私が知る限り、ウェラント王国と同じです」
ウェラント王国の後宮で姫君教育を、国軍で戦闘員教育を施されていた、元伯爵家のご令嬢、グローリア=シュバイツァー。
過去にいろいろあって、自国民の生活と触れ合う機会はほとんど無かったベルゼーラ王国の元王子、アーシュマー=シュバイツァー。
二人は、その特殊すぎる経歴が故に、生まれ育った故郷の一般的な習慣に関しては、実体験が伴う有効知識をほぼほぼ持っていなかった。
「うん。まあ、そうだろうなあとは思ってた。フリューゲルヘイゲンでも、王宮内で役職を与えられている人間達は、情報漏洩防止の観点から慣例的に自主返上してるし。君達にも、体調不良や転居絡み以外の理由でまとまった休暇は提供してあげられなかったからね。そちらに意識が向かなかったのは仕方ないかな」
「「侵略行為に長期休暇があるとは思えませんから」」
口を揃えて「護国の任を預かる者が忙しいのは当然です」と答えた働き者夫妻に、一旦目線を落としたグエンが自身の肩を浅く上下に動かす。
「なら、この出張は、移住してきて以降ずっと働き続けてくれてる君達へとダンデリオン陛下が下賜された『夏の長期休暇』だと思ってくれれば良い」
「え?」
「ですが、仕事ですよね?」
「働いてばかりでは疲労で視野が狭くなり、思考力も能率も下がる一方だ。適度な休息も立派な仕事だぞ! とは、陛下からのありがたい訓辞だ」
「「……………………」」
夫妻は無言で目蓋を伏せ、グエンは両の手足を組んだ。
「君達のそういう敏いところ、私は好きだよ。言葉の意味って、いつ、誰が放つか、誰が聞いたかで、面白いくらいにコロコロ変わるよね。本当」
夫妻でなくても、『二頭の鷲』の真実を知る者なら、大体想像がつく。
ダンデリオン王の言葉を聞いたグエンは、その場で説教したに違いない。
「お前が言うな!」と。
ありがたい訓辞の内容は、グエンからダンデリオン王に進言するのならばともかく、ダンデリオン王からグエンへと告げるには、こなしてきた仕事の量や質の面で、あまりにも説得力が無さすぎた。
おそらく幾つもの重責を担うグエンを気遣ったのであろう労いの言葉は、残念ながら、ダンデリオン王が休みたいだけの言い訳に聞こえてしまう。
とはいえ、表向きは賢王と名高いダンデリオン王の訓辞に対し、否定的な言動や、それを認める態度を執るなど、臣下の身で許される筈もなく。
若干苛立った様子のグエンに、夫妻は無反応を貫くしかなかった。
「……と、そんな訳で、明日は業務の引き継ぎと旅支度に専念して欲しい。支度に関しては、馬車も宿もハインリヒ家で手配するし、数日分の着替えを用意してくれれば十分だからね。ちなみに、制服や礼服は要らないよ」
「私服だけで良いのですか?」
「武装などは」
「隠し武器の所持は全員に認めよう。人目につく武装は全て却下だ。騎士の剣も、一時的に王宮で預からせてもらう」
「……子供達の存在がご迷惑になる、あるいは子供達が危険に曝される仕事ではないと、そう考えて良いのでしょうか」
「君達が私を信じ、ご令嬢方をしっかり見ていてくれるなら」
ダンデリオン王への不満を脳内で解消したらしいグエンが、目蓋を開いた夫妻に真顔で応じる。
困惑しきりだった夫妻もグエンの揺るぎない目を見て覚悟を決め、背筋を伸ばして頷き合った。
元より断る術が無く、断るつもりもない上司命令。
聴けば、夫妻がずっと行きたいと思っていた『海』が目的地。
仕事内容の不明瞭さには不安が残るものの、尊敬と信頼を預けている人が安全を保証してくれたのだ。
今この場で、これ以上の問答には意味が無い。
「承知しました、我らが上官殿」
「シュバイツァー公爵家一同、謹んで拝命いたします」
「ありがとう。良い機会だし、フリューゲルヘイゲン王国を堪能してね」
「「お心遣いに感謝いたします」」
立ち上がって上司への礼を執る夫妻。
グエンも頷いて立ち上がり、二人と固い握手を交わした。
真綿を千切って積み重ねたような、ふわふわでもこもこな白い雲。
『眩しい』を超えて、いっそ攻撃的にギラギラと降り注ぐ真夏の陽光。
轟音と圧力を伴って吹きつける潮風と、足元に寄せては返す忙しない波。
白浜との対比が映えるエメラルドグリーンに透き通った水平線と、網膜が焼けるほどにきらめく水面が美しい、フリューゲルヘイゲン王国最東端の地シュタール海岸。
その一画にある、ハインリヒ家所有のプライベートビーチ。
こぢんまりした白亜の邸宅と、その周りを囲む南国的な形状の色彩豊かな植物達から少し離れた所にある、二十段程度の石階段を下った先の浜辺。
柔らかな微笑みを浮かべているメイド三人と。
唇の端を愉しげに持ち上げている男装騎士二人と。
心配そうに腕を上下させている男性二人の前方で。
両目を限界まで開ききっている女性一人と。
同じく目や口を開きっ放しにしている子供二人が。
十五分もの間、身動き一つせずに、茫然と。
ただただ茫然と、立ち尽くしていた。
☆★☆★☆★☆★☆★
十三日ほど前。
一日の仕事を終えて帰宅する直前だったシュバイツァー公爵夫妻を自分の執務室に招いた国軍大将グエンが、にっこり笑って、こう言った。
「シュバイツァー公爵一家にね、首都の外へ出張して欲しいんだ」
前触れも無く告げられた一言に、シュバイツァー家の当主グローリアと、その夫アーシュマーが、揃って首を傾げる。
「ヘイムディンバッハの外へ……『出張』?」
「一家とはつまり、騎士としてではなく、公爵家の仕事として、ですか?」
夫妻がフリューゲルヘイゲン王国の公職に就いてから、約五年。
二人の持ち場は基本的に城内で、騎士としても随時ヘイムディンバッハへ派遣される程度だった。
国内外の領主達から何度となく招待されているものの、周辺地域の歴史や文化を学んだり、慣れない育児で奮闘したり、大陸間侵攻を企む武装勢力の暗躍で騎士の出動が急増したりと、様々な理由が次から次へと降って湧き、結局現在に至るまで、首都から外へは一度も出た例が無い。
情報でしか知らない場所へ。
しかも、仕事として。
まだまだ幼い子供達を連れて行けとの辞令に、夫妻は軽く動揺した。
「そうだよ。シュバイツァー公と君、ヴィント嬢とナディア嬢。それから、メイドを三人と騎士を三人、同行させようと思ってる。全員顔見知りだし、君達のいつもの公務には代理人を立てるから、そこは安心して良い」
グエンが手ずから淹れたお茶を飲み、ローテーブルの上にカップを置く。
その正面でソファーに並んで座っている夫妻は、それぞれ淹れてもらったお茶に手を付ける余裕も無く戸惑う顔を見合わせ、グエンに向き直った。
「シュバイツェル王家の方々には常より格別の取り計らいをいただき感謝に絶えませんが、今回は子供達にも役目があるとのこと。問題を起こさせない為にも、可能であれば任務の詳細をお聞かせ願えますでしょうか」
「私達はどこへ行き、何をすれば良いのですか?」
少なくとも、外交関係ではない。
シュバイツァー公爵夫妻の公務は、フリューゲルヘイゲン王国の内政だ。
当初は、フリューゲルヘイゲン王国の言語を修得する為の勉強も兼ねて、各種議事録の整理整頓など、雑務ではあっても決して軽くはない守秘義務が課される事務職を任されていた。
それらに加え、現在は軍事関係を中心とした会計監査等も預かっている。
特に、大量の木炭を高すぎず安くもない絶妙な値で売り払った金銭感覚の持ち主は、情報を得られる環境さえあれば時世を読む力にも長けている、とみなされ、大臣を始めとする経済部のお歴々に重用されていた。
この辺りは「文句があるなら拳でどうぞ」なフリューゲルヘイゲン王国の頭を使わない国民性も関係している気はするが、それはともかく。
南大陸からの侵攻を警戒中の昨今、軍事と経済の両方に関わった人材を、そう易々と手放すとは思えない。
超大国の国家元首、フィオルシーニ皇帝がグローリア=シュバイツァーの後ろ楯になっている事実からしても、外国人達と足を取り合ったり引っ張り合ったりする険悪で繊細な駆け引きの現場へ、外交官や補佐官も付けずに、社交界デビューすらしていない五歳女児を二人も連れて行けなどと。
まるでシュバイツァー公爵家の失態と失墜を望んでいるかのような、冗談にしても悪質な命令が下されるとは、到底考えられなかった。
では何の為にどこへと問う夫妻に、グエンは少しも笑みを崩さず答える。
「目的地はハインリヒ家が所有するシュタール海岸のプライベートビーチ。目的は出張。現時点で言えることは以上だ。期間は明後日から、移動時間も含めて一ヶ月」
「「一ヶ月も!?」」
「一年の内で最も暑くなるこの時期は、国の内外から海に向かって観光客が殺到するんだ。だから、どの道を選んでも海と首都の往復で日数が掛かる。逆に涼しい時期なら、どんな道を通ってもあっという間に着くんだけどね」
「……ああ」
「バスティーツ大陸の南東部では、暑くなる時期はどうしても集中力などの著しい低下で生産性に影響が出てしまうからと、国民全員が少しずつ日程をずらして交代しながらまとまった休みを取る習慣があるのでしたね」
「その通り。感覚としては、暑くて仕事にならないから休むというよりも、仕事にならないと分かっている時期を狙って旅行を楽しむ為に、他の時期は働いていると言うべきなんだけど。ウェラントやベルゼーラがある南西部に『夏の長期休暇』の習慣は無いんだよね?」
「はい。周辺国がどうかは判りませんが、ウェラント王国の場合は、国事や祝日以外でまとまった休暇など、自分か親類縁者が病に臥せたり看病する時くらいのもので、それが普通でした。私が知る限りではの話ですが」
「ベルゼーラ王国と近隣国も、私が知る限り、ウェラント王国と同じです」
ウェラント王国の後宮で姫君教育を、国軍で戦闘員教育を施されていた、元伯爵家のご令嬢、グローリア=シュバイツァー。
過去にいろいろあって、自国民の生活と触れ合う機会はほとんど無かったベルゼーラ王国の元王子、アーシュマー=シュバイツァー。
二人は、その特殊すぎる経歴が故に、生まれ育った故郷の一般的な習慣に関しては、実体験が伴う有効知識をほぼほぼ持っていなかった。
「うん。まあ、そうだろうなあとは思ってた。フリューゲルヘイゲンでも、王宮内で役職を与えられている人間達は、情報漏洩防止の観点から慣例的に自主返上してるし。君達にも、体調不良や転居絡み以外の理由でまとまった休暇は提供してあげられなかったからね。そちらに意識が向かなかったのは仕方ないかな」
「「侵略行為に長期休暇があるとは思えませんから」」
口を揃えて「護国の任を預かる者が忙しいのは当然です」と答えた働き者夫妻に、一旦目線を落としたグエンが自身の肩を浅く上下に動かす。
「なら、この出張は、移住してきて以降ずっと働き続けてくれてる君達へとダンデリオン陛下が下賜された『夏の長期休暇』だと思ってくれれば良い」
「え?」
「ですが、仕事ですよね?」
「働いてばかりでは疲労で視野が狭くなり、思考力も能率も下がる一方だ。適度な休息も立派な仕事だぞ! とは、陛下からのありがたい訓辞だ」
「「……………………」」
夫妻は無言で目蓋を伏せ、グエンは両の手足を組んだ。
「君達のそういう敏いところ、私は好きだよ。言葉の意味って、いつ、誰が放つか、誰が聞いたかで、面白いくらいにコロコロ変わるよね。本当」
夫妻でなくても、『二頭の鷲』の真実を知る者なら、大体想像がつく。
ダンデリオン王の言葉を聞いたグエンは、その場で説教したに違いない。
「お前が言うな!」と。
ありがたい訓辞の内容は、グエンからダンデリオン王に進言するのならばともかく、ダンデリオン王からグエンへと告げるには、こなしてきた仕事の量や質の面で、あまりにも説得力が無さすぎた。
おそらく幾つもの重責を担うグエンを気遣ったのであろう労いの言葉は、残念ながら、ダンデリオン王が休みたいだけの言い訳に聞こえてしまう。
とはいえ、表向きは賢王と名高いダンデリオン王の訓辞に対し、否定的な言動や、それを認める態度を執るなど、臣下の身で許される筈もなく。
若干苛立った様子のグエンに、夫妻は無反応を貫くしかなかった。
「……と、そんな訳で、明日は業務の引き継ぎと旅支度に専念して欲しい。支度に関しては、馬車も宿もハインリヒ家で手配するし、数日分の着替えを用意してくれれば十分だからね。ちなみに、制服や礼服は要らないよ」
「私服だけで良いのですか?」
「武装などは」
「隠し武器の所持は全員に認めよう。人目につく武装は全て却下だ。騎士の剣も、一時的に王宮で預からせてもらう」
「……子供達の存在がご迷惑になる、あるいは子供達が危険に曝される仕事ではないと、そう考えて良いのでしょうか」
「君達が私を信じ、ご令嬢方をしっかり見ていてくれるなら」
ダンデリオン王への不満を脳内で解消したらしいグエンが、目蓋を開いた夫妻に真顔で応じる。
困惑しきりだった夫妻もグエンの揺るぎない目を見て覚悟を決め、背筋を伸ばして頷き合った。
元より断る術が無く、断るつもりもない上司命令。
聴けば、夫妻がずっと行きたいと思っていた『海』が目的地。
仕事内容の不明瞭さには不安が残るものの、尊敬と信頼を預けている人が安全を保証してくれたのだ。
今この場で、これ以上の問答には意味が無い。
「承知しました、我らが上官殿」
「シュバイツァー公爵家一同、謹んで拝命いたします」
「ありがとう。良い機会だし、フリューゲルヘイゲン王国を堪能してね」
「「お心遣いに感謝いたします」」
立ち上がって上司への礼を執る夫妻。
グエンも頷いて立ち上がり、二人と固い握手を交わした。
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