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おまけ
まっすぐなひねくれ者の目線
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あの髪型が厄介なんだよなあ。
顔のほとんどが隠れてるせいで、横からは勿論、前に立ってても目の動きが読みづらい。
目の動きが読めないってのは、相手に次の動作を予測させねーって事だ。
自分自身も相手の動きが見づらくなる代わりに、相手にも自分の動きを察知させない。しかも異常なくらい機敏なもんだから、どうしてもこっちが一手遅れちまう。
判断材料は目だけじゃないんですよ~と全身に注意を払ってみても、小柄な身体に付いた薄い筋肉じゃ、男の厳つい筋肉ほど分かりやすい変化は表面に出てきやしねえ。
おかげでほぼ毎回、停止状態からの急加速に見える。
離れた場所に立ってたヤツが、気付いた瞬間には目の前で切っ先を突き付けてんだもんな。対処するには同等以上の瞬発力と観察力が必要だ。
その辺、背の低さも武器にしてる感じ?
正面や頭上からの攻撃は受け慣れてっけど、腰下から掬い上げるような不意を衝く攻撃は男同士じゃなかなか通用しねえし。
うーむ。
考えれば考えるほど、とんでもねえ度胸と素早さと戦闘センスを持ってやがんぞ、あの女。
なんとか負かしてやりてえー……
とか言ってる間に、黄金色の髪を発見!
「たーいちょっ」
「気安い!」
「うわっ、ほい!」
「!?」
「あっぶね! 後ろから声を掛けただけで回し蹴りはないでしょ、隊長~」
「…………避けたな」
「ん?」
「お前が私の蹴りを避けたのは、これが初めてじゃないか?」
「……ああ、そうっすね」
三歩分退いた距離で向かい合うオーリィード隊長。
確かに、いつもだったら空中散歩へ送り出されてるところだ。寒季入りで色彩が減った黄緑色中心のつまらない庭園を眺めながら、冷たい旋風ごと地面へダイブしていたに違いない。
だが。
「俺だって、無闇に蹴られてるワケじゃねえんだぜ?」
っつーコトで、特攻!
怪訝な顔してる隊長の背中に両腕を回して、ぎゅむっと抱き締めてやる。
ちっせえ。
ホント、滅茶苦茶ちっせー身体してんな、隊長。
こんなちっこい身体で、どうして毎度毎度俺をぶっ飛ばせるんだ?
体積とか体重とか空気抵抗とかを考えりゃ、蹴られてる俺よりも、蹴った隊長の脚のほうが折れてそうな気がすんだけどな。
「はっ、なせ! こんの、バカ力!」
「……ん? あれ?」
なんで逃げないんだ、隊長?
手足の先でバタバタしてるだけじゃ……
あ。
「もしかして、近接格闘術とか苦手?」
「ばっ! 耳元で喋るな、気持ち悪い!」
ふーん。
隊長にも苦手な物があったのか。
「そういや、隊長の体術訓練とかはあんまし見てねえな。苦手だから?」
「ちがっ……いいから、離せ!」
「隊長、ジタバタしてっと小鳥みたいで面白え」
「うるさい!」
関節こそ押さえてるけど、基本的な技を応用すれば秒で脱け出せるぞ?
戦闘員なら初歩中の初歩だぜ、隊長。
実戦で何を得てきたんだ、あんた。
「隊長の俊敏さの理由ってさあ、ひょっとして、拘束技を仕掛けさせない為の初撃回避特化?」
「っ!」
おお。図星か。
痛いトコ突かれて固まるとか、正直すぎ。
「んじゃ、体術系が苦手なのは練習相手が少ないからだろ。団長か副団長かクソ兄貴かアーシュマーくらいしか話し相手がいないもんなあ、隊長には」
「……アランには関係無い!」
「顔、真っ赤だぜ」
「お前がいちいち余計な事を言うからだろうが! 私を挑発して何が楽しいんだ!?」
「そういう反応」
「私はお前の玩具じゃない!」
「ガキじゃねえんだから、玩具なんざ要らねーよ」
「だったら離せ! 絡んでくるな! 迷惑だ!」
「俺、隊長に勝ちてえんだわ」
「はあ!?」
「隊長はさ。俺が正面から斬り掛かっても、真横から蹴りを入れても、背後から飛び掛かっても、全部、事も無げに弾き返すじゃん? あれ、すんげー悔しいんだよ。悔しいんだけど、すんげー楽しいんだ。俺、強いヤツと張り合うのが大好きなんだけど、隊長は張り合う隙さえ与えてくれない。問答無用でグシャッて踏み潰してくる感じ。それはそれで、すんげー楽しいの。隊長にはもっともっとたくさん踏み潰されてえんだよ。ゲシゲシ踏み潰して、完膚なきまでに叩きのめして欲しいの。解る?」
「いや、それはちょっと解りたくないっていうか……気持ち悪いぞ、お前」
「気持ち悪くなんかねえよ。俺は隊長に踏み潰されて、叩き潰されて、押し潰されて、そんでもいつかは絶対に勝ちたい。バカみたいに強い隊長にも自力で勝ってやったぜ、ざまあみろこんにゃろーっ! って、世界中に自慢したいんだ。だからさ。俺ごときに見破られるようなつまんない弱点なんか作らないでよ、オーリィード隊長」
「ちょっ……!」
呆れと怒りが交じる顔に頬をすり寄せて、耳たぶにキスしてやった。
反撃してくれたら面白かったのに、襲ってきたのはオーリィード隊長の打撃じゃない。
クソ兄貴とアーシュマーの長剣だ。
「おバカも程々にしなさいね、愚弟」
「宮殿付近での私闘は取締り対象ですよ、アラン・フェリオ・フィールレイク。彼女と戦いたいのなら、演習や実技試験で思いっきりどうぞ。対戦相手に選ばれればの話ですが」
「隊長級以上の連中で対戦権を独占しといて、よく言うよ」
背後から両肩に突き付けられた二本の切っ先。
仕方なく、両手を上げて隊長を解放する。
シュバッと飛び退る隊長、格好良いな。着地時の足元に攻撃を仕掛けたら、どんな動きをするんだろう?
考えるだけでワクワクする。
「独占しているのではなく、隊長級以上の実力が無ければ彼女とは対等に戦えないだけです。ボロ雑巾にされて喜んでいるような三下は引っ込んでいなさい、おバカラン」
「は? なんだよ、その呼び方」
「救いようが無いおバカなアランの略ですよ、おバカラン」
「ムカつく」
「隊長に気遣われている事にも気付けていないおバカランには、バカにされて腹を立てる資格もありません。我が弟ながら、つくづく情けない」
「あ?」
気遣われてる?
俺が?
「オーリィードが訓練相手の不足で近接格闘術を苦手としているのは事実ですが。今の貴方に反撃しなかったのは、最適な攻撃箇所が『男性の急所』だと解っていたからですよ」
「……へ?」
「オーリィードの本気を急所に喰らったとして、全治一週間や二週間程度で済むと思いますか?」
「…………。」
「おバカランが機能不全になりたいと言うのなら、私達は止めませんけどね」
「………………顔が赤かった理由って、」
「「女性にそういう確認をしない!」」
なんだ。
別に、体術系が弱点って訳じゃないのか。
相手が俺だから遠慮してただけで……
「……遠慮されてるほうが腹立つんだけど?」
「『部下を使えない状態に追い込んだ上司』なんて悪評を隊長に押し付けるつもりですか? 彼女の経歴の汚点になるつもりなら、私が隊長の代わりに今この場で貴方を潰します。兄弟喧嘩でのうっかり事故なら責任問題には発展しませんからね。気兼ねなくいきますよ」
「手をボキボキ鳴らすな! 機能不全になりたいんじゃねえよ! 本気で戦ってくれねーのがつまらんだけだ!」
「戦闘狂ですか、貴方は」
「何事でも、やるなら全力だろ、普通!」
「「他人を巻き込む大迷惑な普通は要りません」」
似た者同士め!
ああ、クソ。
面白くねえなああーっ!
「……アランは、そんなに私と戦いたいのか?」
「へ? 当たり前でしょ。あんた強いし」
「アーシュマーのほうが強いぞ。腹立たしい事この上ないが」
「戦いにくい相手のほうが、勝った時の達成感デカいじゃん」
「戦闘狂め」
ジト目の隊長が、腰に手を当てて息を吐く。
顔はもう、赤くない。
「なら、明日から近接格闘術の稽古相手になれ」
「稽古お?」
「稽古中に一度でも勝てたら、実技試験の対戦相手にお前を指名してやろう。その時は、お望み通り全力で叩きのめしてやるよ」
「マジか」
「お前が勝てたらな」
「マジかマジか!? 言質は取ったからな!? 後になってやっぱりやめたー、とかはナシだかんな!? マジでマジの全力だな!?」
「しつこい」
「よっしゃあ!! 稽古でも何でも、死ぬまで付き合うぜ、隊長!」
隊長との全力勝負、すっげー楽しみだ!
きっと、普段とは比べ物にならない速さで動き回るんだろうな。
手も足も出せないばかりか、瞬殺されたりして?
……瞬殺は無いか。隊長だし。
あ、でも。
「オーリィード隊長さあ」
「? なんだ?」
「本当にヤバイと感じたら、相手が誰でも本気で戦えよ? あんたのそれ、気遣いっつーか、弱みに近い気がするぞ」
「……留意はしておく」
「おう! 明日からよろしくな、隊長!」
隊長とクソ兄貴とアーシュマーをその場に残して、俺はいそいそと持ち場へ戻る。
初撃対策が万全だってんなら、俺が注力すべきは二撃目だよな。
男相手の戦闘に慣れてんだろうから、連撃への警戒は目線より上で固定されてる筈。だとすると、殴りに見せかけた蹴りが案外有効か?
って、つまりは隊長の攻撃方法をそのまんまやり返す感じか!
なるほどなるほど、これは盲点になるかも!?
くくく……やり返された隊長、驚くかな? 驚くよな。
すみれ色の目をまん丸にした隊長、可愛いんだろうなあ。見たいなあ。
早く明日にならねえかなー!
「…………」
「どうかしましたか? オーリィード」
足取り軽やかなアランの背中を見送るオーリィードの真剣な表情に気付いたアーシュマーが、目を瞬きながら小首を傾げた。
「……いや……前にも似たような事を別の人に言われたんだ。もしも危険を感じたら、何を捨てても良いからとにかく自分の身を護れって。私は、戦闘員として成長できてないのかも知れない」
胸元で拳を握るオーリィード。
彼女の背後に並び立つ男性二人は、互いの顔を見合わせて肩を持ち上げる。
「戦闘員としての成長がどうというより、隊長のそれは性分でしょう」
「性分?」
「自分よりも他の人間や物事を優先してしまいがちなところです。美徳とも言えますが……確かに、弱みになりかねませんね。貴女の場合は」
「おバカランはあれでも一人一人をしっかり見ていますから、指摘内容は軽視できません。警告として頭の隅に置いていただければと思います」
「……ああ、そうしておこう。宮殿付近での抜剣は本来団長への報告ものだが、今回は黙っておく。二人のおかげで助かった。ありがとう、ティアン。アーシュマー」
「「どういたしまして」」
助かったのはアランだと思いますけどね、とは言わない男性二人。
結局、次の実技試験が彼らに訪れることはなかったが……オーリィードと稽古中の彼らは、とても楽しそうだった。
顔のほとんどが隠れてるせいで、横からは勿論、前に立ってても目の動きが読みづらい。
目の動きが読めないってのは、相手に次の動作を予測させねーって事だ。
自分自身も相手の動きが見づらくなる代わりに、相手にも自分の動きを察知させない。しかも異常なくらい機敏なもんだから、どうしてもこっちが一手遅れちまう。
判断材料は目だけじゃないんですよ~と全身に注意を払ってみても、小柄な身体に付いた薄い筋肉じゃ、男の厳つい筋肉ほど分かりやすい変化は表面に出てきやしねえ。
おかげでほぼ毎回、停止状態からの急加速に見える。
離れた場所に立ってたヤツが、気付いた瞬間には目の前で切っ先を突き付けてんだもんな。対処するには同等以上の瞬発力と観察力が必要だ。
その辺、背の低さも武器にしてる感じ?
正面や頭上からの攻撃は受け慣れてっけど、腰下から掬い上げるような不意を衝く攻撃は男同士じゃなかなか通用しねえし。
うーむ。
考えれば考えるほど、とんでもねえ度胸と素早さと戦闘センスを持ってやがんぞ、あの女。
なんとか負かしてやりてえー……
とか言ってる間に、黄金色の髪を発見!
「たーいちょっ」
「気安い!」
「うわっ、ほい!」
「!?」
「あっぶね! 後ろから声を掛けただけで回し蹴りはないでしょ、隊長~」
「…………避けたな」
「ん?」
「お前が私の蹴りを避けたのは、これが初めてじゃないか?」
「……ああ、そうっすね」
三歩分退いた距離で向かい合うオーリィード隊長。
確かに、いつもだったら空中散歩へ送り出されてるところだ。寒季入りで色彩が減った黄緑色中心のつまらない庭園を眺めながら、冷たい旋風ごと地面へダイブしていたに違いない。
だが。
「俺だって、無闇に蹴られてるワケじゃねえんだぜ?」
っつーコトで、特攻!
怪訝な顔してる隊長の背中に両腕を回して、ぎゅむっと抱き締めてやる。
ちっせえ。
ホント、滅茶苦茶ちっせー身体してんな、隊長。
こんなちっこい身体で、どうして毎度毎度俺をぶっ飛ばせるんだ?
体積とか体重とか空気抵抗とかを考えりゃ、蹴られてる俺よりも、蹴った隊長の脚のほうが折れてそうな気がすんだけどな。
「はっ、なせ! こんの、バカ力!」
「……ん? あれ?」
なんで逃げないんだ、隊長?
手足の先でバタバタしてるだけじゃ……
あ。
「もしかして、近接格闘術とか苦手?」
「ばっ! 耳元で喋るな、気持ち悪い!」
ふーん。
隊長にも苦手な物があったのか。
「そういや、隊長の体術訓練とかはあんまし見てねえな。苦手だから?」
「ちがっ……いいから、離せ!」
「隊長、ジタバタしてっと小鳥みたいで面白え」
「うるさい!」
関節こそ押さえてるけど、基本的な技を応用すれば秒で脱け出せるぞ?
戦闘員なら初歩中の初歩だぜ、隊長。
実戦で何を得てきたんだ、あんた。
「隊長の俊敏さの理由ってさあ、ひょっとして、拘束技を仕掛けさせない為の初撃回避特化?」
「っ!」
おお。図星か。
痛いトコ突かれて固まるとか、正直すぎ。
「んじゃ、体術系が苦手なのは練習相手が少ないからだろ。団長か副団長かクソ兄貴かアーシュマーくらいしか話し相手がいないもんなあ、隊長には」
「……アランには関係無い!」
「顔、真っ赤だぜ」
「お前がいちいち余計な事を言うからだろうが! 私を挑発して何が楽しいんだ!?」
「そういう反応」
「私はお前の玩具じゃない!」
「ガキじゃねえんだから、玩具なんざ要らねーよ」
「だったら離せ! 絡んでくるな! 迷惑だ!」
「俺、隊長に勝ちてえんだわ」
「はあ!?」
「隊長はさ。俺が正面から斬り掛かっても、真横から蹴りを入れても、背後から飛び掛かっても、全部、事も無げに弾き返すじゃん? あれ、すんげー悔しいんだよ。悔しいんだけど、すんげー楽しいんだ。俺、強いヤツと張り合うのが大好きなんだけど、隊長は張り合う隙さえ与えてくれない。問答無用でグシャッて踏み潰してくる感じ。それはそれで、すんげー楽しいの。隊長にはもっともっとたくさん踏み潰されてえんだよ。ゲシゲシ踏み潰して、完膚なきまでに叩きのめして欲しいの。解る?」
「いや、それはちょっと解りたくないっていうか……気持ち悪いぞ、お前」
「気持ち悪くなんかねえよ。俺は隊長に踏み潰されて、叩き潰されて、押し潰されて、そんでもいつかは絶対に勝ちたい。バカみたいに強い隊長にも自力で勝ってやったぜ、ざまあみろこんにゃろーっ! って、世界中に自慢したいんだ。だからさ。俺ごときに見破られるようなつまんない弱点なんか作らないでよ、オーリィード隊長」
「ちょっ……!」
呆れと怒りが交じる顔に頬をすり寄せて、耳たぶにキスしてやった。
反撃してくれたら面白かったのに、襲ってきたのはオーリィード隊長の打撃じゃない。
クソ兄貴とアーシュマーの長剣だ。
「おバカも程々にしなさいね、愚弟」
「宮殿付近での私闘は取締り対象ですよ、アラン・フェリオ・フィールレイク。彼女と戦いたいのなら、演習や実技試験で思いっきりどうぞ。対戦相手に選ばれればの話ですが」
「隊長級以上の連中で対戦権を独占しといて、よく言うよ」
背後から両肩に突き付けられた二本の切っ先。
仕方なく、両手を上げて隊長を解放する。
シュバッと飛び退る隊長、格好良いな。着地時の足元に攻撃を仕掛けたら、どんな動きをするんだろう?
考えるだけでワクワクする。
「独占しているのではなく、隊長級以上の実力が無ければ彼女とは対等に戦えないだけです。ボロ雑巾にされて喜んでいるような三下は引っ込んでいなさい、おバカラン」
「は? なんだよ、その呼び方」
「救いようが無いおバカなアランの略ですよ、おバカラン」
「ムカつく」
「隊長に気遣われている事にも気付けていないおバカランには、バカにされて腹を立てる資格もありません。我が弟ながら、つくづく情けない」
「あ?」
気遣われてる?
俺が?
「オーリィードが訓練相手の不足で近接格闘術を苦手としているのは事実ですが。今の貴方に反撃しなかったのは、最適な攻撃箇所が『男性の急所』だと解っていたからですよ」
「……へ?」
「オーリィードの本気を急所に喰らったとして、全治一週間や二週間程度で済むと思いますか?」
「…………。」
「おバカランが機能不全になりたいと言うのなら、私達は止めませんけどね」
「………………顔が赤かった理由って、」
「「女性にそういう確認をしない!」」
なんだ。
別に、体術系が弱点って訳じゃないのか。
相手が俺だから遠慮してただけで……
「……遠慮されてるほうが腹立つんだけど?」
「『部下を使えない状態に追い込んだ上司』なんて悪評を隊長に押し付けるつもりですか? 彼女の経歴の汚点になるつもりなら、私が隊長の代わりに今この場で貴方を潰します。兄弟喧嘩でのうっかり事故なら責任問題には発展しませんからね。気兼ねなくいきますよ」
「手をボキボキ鳴らすな! 機能不全になりたいんじゃねえよ! 本気で戦ってくれねーのがつまらんだけだ!」
「戦闘狂ですか、貴方は」
「何事でも、やるなら全力だろ、普通!」
「「他人を巻き込む大迷惑な普通は要りません」」
似た者同士め!
ああ、クソ。
面白くねえなああーっ!
「……アランは、そんなに私と戦いたいのか?」
「へ? 当たり前でしょ。あんた強いし」
「アーシュマーのほうが強いぞ。腹立たしい事この上ないが」
「戦いにくい相手のほうが、勝った時の達成感デカいじゃん」
「戦闘狂め」
ジト目の隊長が、腰に手を当てて息を吐く。
顔はもう、赤くない。
「なら、明日から近接格闘術の稽古相手になれ」
「稽古お?」
「稽古中に一度でも勝てたら、実技試験の対戦相手にお前を指名してやろう。その時は、お望み通り全力で叩きのめしてやるよ」
「マジか」
「お前が勝てたらな」
「マジかマジか!? 言質は取ったからな!? 後になってやっぱりやめたー、とかはナシだかんな!? マジでマジの全力だな!?」
「しつこい」
「よっしゃあ!! 稽古でも何でも、死ぬまで付き合うぜ、隊長!」
隊長との全力勝負、すっげー楽しみだ!
きっと、普段とは比べ物にならない速さで動き回るんだろうな。
手も足も出せないばかりか、瞬殺されたりして?
……瞬殺は無いか。隊長だし。
あ、でも。
「オーリィード隊長さあ」
「? なんだ?」
「本当にヤバイと感じたら、相手が誰でも本気で戦えよ? あんたのそれ、気遣いっつーか、弱みに近い気がするぞ」
「……留意はしておく」
「おう! 明日からよろしくな、隊長!」
隊長とクソ兄貴とアーシュマーをその場に残して、俺はいそいそと持ち場へ戻る。
初撃対策が万全だってんなら、俺が注力すべきは二撃目だよな。
男相手の戦闘に慣れてんだろうから、連撃への警戒は目線より上で固定されてる筈。だとすると、殴りに見せかけた蹴りが案外有効か?
って、つまりは隊長の攻撃方法をそのまんまやり返す感じか!
なるほどなるほど、これは盲点になるかも!?
くくく……やり返された隊長、驚くかな? 驚くよな。
すみれ色の目をまん丸にした隊長、可愛いんだろうなあ。見たいなあ。
早く明日にならねえかなー!
「…………」
「どうかしましたか? オーリィード」
足取り軽やかなアランの背中を見送るオーリィードの真剣な表情に気付いたアーシュマーが、目を瞬きながら小首を傾げた。
「……いや……前にも似たような事を別の人に言われたんだ。もしも危険を感じたら、何を捨てても良いからとにかく自分の身を護れって。私は、戦闘員として成長できてないのかも知れない」
胸元で拳を握るオーリィード。
彼女の背後に並び立つ男性二人は、互いの顔を見合わせて肩を持ち上げる。
「戦闘員としての成長がどうというより、隊長のそれは性分でしょう」
「性分?」
「自分よりも他の人間や物事を優先してしまいがちなところです。美徳とも言えますが……確かに、弱みになりかねませんね。貴女の場合は」
「おバカランはあれでも一人一人をしっかり見ていますから、指摘内容は軽視できません。警告として頭の隅に置いていただければと思います」
「……ああ、そうしておこう。宮殿付近での抜剣は本来団長への報告ものだが、今回は黙っておく。二人のおかげで助かった。ありがとう、ティアン。アーシュマー」
「「どういたしまして」」
助かったのはアランだと思いますけどね、とは言わない男性二人。
結局、次の実技試験が彼らに訪れることはなかったが……オーリィードと稽古中の彼らは、とても楽しそうだった。
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