【R18】逆さの砂時計

梅見月ふたよ

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外伝

少女怪盗と仮面の神父 41

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「では、裁決! の、前に」

 首を伸ばしてでも咬みついてきそうな暗殺者から目を離し。
 ハウィスの腕を抱えている少女へと顔を向ける。
 アルフィンは、不安そうな表情をしていた。

「ねえ、アルフィン。ハウィスはリアメルティの領主様なんだって。貴女、知ってた?」
「……領主さま? リアメルティ領の?」
「そう。ネアウィック村の村長様よりも偉い人」

 ミートリッテを見て、ハウィスを見て。
 もう一度ミートリッテを見たアルフィンは、首を傾げ。
 考え込むようにうつむいてから、頭を振って『否』を返した。

「そっか。でも、偉い人のお仕事を邪魔したら、それ相応の罰を受けなきゃいけないってことは解るよね? それでもハウィスの腕を離す気はない?」

 ハウィスは王子の命令に従い、、断罪の剣を掲げた。
 そのハウィスの腕を力ずくで止めるということは、領主……
 いては、ハウィスの後ろ楯であるエルーラン王子への反抗だ。
 目撃者も十人を超える、言い逃れ不可能な公務執行妨害罪。
 普通なら、それがたとえ未成年であっても一般民が王族の決定に逆らって見逃される筈がない。
 良くてアルフィン一人の極刑。
 最悪、監督責任を問われたグレンデルも一緒に処刑されてしまう。

 イオーネも気付いているのだろう。
 アルフィンがぎこちなく頷くと同時に、肌を刺激する物騒な殺気が一段と大きく膨れ上がった。
 やすりで軽く撫でられていた部分を、小針でザクザク刺されだした気分。
 アーレストが押さえてなかったら瞬きの間に殺されてたな……と、内心で冷や汗を垂らしつつ、アルフィンとの会話に集中する。

「貴女のお願いを聞いたハウィスが剣を退いてくれても、ああ良かった、で終わる話じゃないんだよ?」

 イオーネは、二ヶ国の軍が辺境へ出動するほどの騒ぎを起こした犯罪者。
 エルーラン王子やハウィスが捕縛した場合、一定期間はアルスエルナ軍の監視下に置かれ、身の安全も保障される。

 でも、その後は?
 アルスエルナとバーデルの二ヶ国で罪を犯した彼女には、解放された後に帰る家も、仕事も、お金も、国境を越える権利も一切無い。
 かといって、不穏な思想の持ち主を野に放つのはあまりに危険すぎる。
 なら、最終的にどうするか。

「分かる? 落し物は『軍が処分する』か『拾った人間に譲渡される』の。命を救いたいと願うなら、貴女にも相応の責任と辛苦が求められるのよ」

 貴女、イオーネの言動を全部背負える?
 自分一人でも生きていくのが難しいのに、これから先ずーっと、自分とは違う生命の維持に務めていける?
 きっと想像できる以上に辛くて苦しくて悲しい思いをするし、現実問題、どうしたってお金が関わる話だもん。体にもすっごく重たいよ。

 第一、貴女はまだ就労を認められない子供。貴女に掛かる負担はすべて、保護者であるグレンデルさんの負担になってしまうの。
 貴女がイオーネに関係することで苦悩するたび、グレンデルさんも貴女とイオーネのことでたくさん心を砕かなきゃいけなくなる。
 ここで半端な覚悟を見せた結果、莫大な負債を抱えたグレンデルさんが、貴女の代わりに死んでしまう可能性も、絶対ないとは言い切れないんだよ?

「それでも? 大好きなお父さんに、今まで以上の苦労を押し付けてでも、ハウィスを止めたい? イオーネの命を救いたい?」

 自身の深傷ふかでを抉る代わりにミートリッテを護ったハウィスのように。
 愛する妻を失ってもなお、血の繋がりを持たないアルフィンを実子として慈しんでいるグレンデルのように。
 イオーネが今を生き残り、これから先もずっと生きていく未来の為に。
 アルフィン自身の時間と思考と体力を費やせるのか。
 その覚悟を、持ち続けていられるのか。

「……ミー姉は」
「ん?」

 問いかけてる間うつむいていたアルフィンは、そろりと顔を上げ

「ミー姉は私を……信じて、くれる……?」

 恐々こわごわと尋ね返した。

(保証が欲しいの? 自分に命を預かれるだけの覚悟があるのか、私の目で判断して欲しいってこと? だとしたら……)

 答えない。
 不安色に染まっている少女の顔を、ひたすら無言で見つめ返す。
 否定もしなければ、肯定もしない。

 保証するのは容易い。
 アルフィンなら大丈夫だよ! と、一言告げるだけで良い。
 しかし、アルフィンが求めているのは『責任の分担』だ。
 不都合が起きた際、あの時ミートリッテがこう言ったから信じたのにと、現実から目を逸らす為の口実。
 「大丈夫」にせよ、「やめておきなさい」にせよ、誰かに背中を押された事実がある限り、どちらを選んでも彼女自身の答えにはならないのだ。

 命を左右するアルフィンの決断に、他者の意思が介入してはいけない。

 求められ、支えるべきは、選択の先。
 本音では諦めてくれれば良いと思っていても。
 今は、アルフィンにすべてをゆだねる。

「…………」

 早くアルフィンを連れて行け、自分を殺せと喚き散らすイオーネの眼前でくり広げられる、沈黙の攻防戦。

「……ミー姉」

 先に声を発したのは、アルフィンだった。

「イオーネさんを助けたい」
「アルフィン‼︎」

 この場に居る全員の鼓膜をぶち抜きそうな怒声にもまったく揺るがない、左右で色違いのまっすぐな目線。
 迷いは、無い。

「……うん。解った」

 ミートリッテを貴族にさせまいとしていたハウィスや騎士達の気持ちが、少しだけ理解できた。
 これは確かに、自分一人さえ支えられない子供には残酷な道だ。

 けど、選んだのは紛れもなくアルフィンの意思。
 だったら、歩かせる。アルフィンが自身で進むと決めた未来を。

「では、改めて裁決! よぉ~く耳を澄ませてお聴きなさい、アリア信仰の神父殺害を企てた無断越境者よ!」

 イオーネに向き直って勢いよく立ち上がり、首から離した刃を天に掲げ


「悪い子には、おしおきっ‼︎」


 イオーネの頭頂部を目がけて、柄頭つかがしらを振り下ろす!

「「「…………はい?」」」

 ぺし! と響く、間抜けすぎる音。
 削がれまくった緊張感で一同の目が点になる中、腰に両手の甲を当てつつ胸を張る得意気なミートリッテを見て、王子が首を傾けた。

「終わりか?」
「ええ、一応。一つ気が付いたんですが、力を入れて殴ろうと身構えたら、却って抜けてしまうものなんですね。できれば下を向いて欲しかったのに、彼女の顔は微動だにしてくれませんでした。神父様に首を抱えられてるせいでもあるんでしょうけど、なんか悔しいです」

 一瞬驚き、直後に極悪化した銀色のつり目。
 怖くて堪らないので、もう二度と直接は覗き込みたくない。
 視線が重なる前に顔を逸らし、今度はエルーラン王子と向かい合う。

「お前が臆病なんだろ。人殺しへの罰が拳骨一つとは、ずいぶん軽いな」
「だって、私は、彼女が人を殺す瞬間を一度たりとも目撃してませんもの。商人の殺害に関しては、彼女の犯行を示す物的証拠が手元にありませんし。暗殺組織の首領だっていう話も、実際のところはどうなんでしょうねえ? 他の人達、私の前には全然出て来なかったんですけど。もしかして、本人が「私は暗殺者だぁー」と言ってるだけじゃないですか? アルフィン誘拐と私への脅迫と神父様の殺人未遂は現行犯ですし、貴方に斬られた背中の傷も考慮して裁きましたが……いけませんよ、お父様。満足な証拠もないのに、参考程度の証言だけで鉄槌を下すとか。万が一イオーネが暗殺者の頭がちょっと可哀想な女性だったら、貴方の指示と私の決断に対して、一般民が大激怒です。非難囂囂ひなんごうごうです。ただでさえ、貴族への風当たりは厳しいのに、王族への反抗心まで量産なんかして、アルスエルナ王国が内側からひっくり返ったらどうするんですか」
「なるほど。では、私に対する無礼な態度は裁かないのか? 王族への礼に欠けた振る舞いは、即刻打ち首にされても仕方がない重罪だぞ」
「それを言うなら、ベルヘンス卿も自分から貴方に声をかけてましたよね。貴族社会では、許しもなく下から上に声をかけるのは不敬だと記憶してますけど、ベルヘンス卿も裁きの対象ですか?」
「ベルヘンスの生母は私とアーレストの乳母だ。幼少期の関係上、両陛下と私が特別に許している」

(は? アーレスト神父と王子が乳兄弟⁉︎)

「許すじゃなくて、一族ぐるみの強制でしょうに……(おかげさまで他家にどれだけ睨まれているか……)」

 ベルヘンス卿がうなだれて。
 腹部の少し上辺りをさすりながら、重苦しい息を吐く。
 後半は小声で呟いたつもりなのだろうが、距離を置いたミートリッテにもバッチリ聞こえている。

(そうか。王子がアーレスト神父と親しげだったのは、そういう……ん? 王族と同じ乳母が付いてた? それじゃ、アーレスト神父も王族に限りなく近い家の生まれ……なの?)

 何度じーっくり見直しても、やはり二人の顔立ちや雰囲気は似ていない。
 片や、近所の地味なお兄さん。
 片や、歌って走る芸術品。
 血縁者とは到底思えないが。

「だとしても……元一般民のなりたて貴族もどきが居る場所で披露して良い態度でしたか? 王候貴族の常識に疎い子供が、こうすれば良いのか! と誤認しちゃいますよ? まさか、無知を自覚しているが故に、生粋の貴族を真似て距離感を誤ってしまった者にまで逐一不敬を問うおつもりですか? 親しい貴族だけは例外にして? それこそ暴君、独裁者じゃないかと国民に軽蔑されますよ。出過ぎた物言いを承知で申し上げますが。何事も、初めは形から入るもの。高貴なる方々には是非、常日頃から敬意の払い方などでも正しいお手本であっていただきたいと考えます。本件はベルヘンス卿の過失ということで、お父様の寛大な恩情に期待したいです」
「その理窟で赦されるのはお前だけだ。イオーネは立派な成人で元は子爵に仕えていた侍女。礼儀を知らぬ道理はない」
「真に誇り高き貴族に仕えていたのなら、下で働く者としての礼節に疑問を挟む余地はありません。ですが、お父様は件の子爵をどう評価しましたか。国防を柱とする貴方の目に映った子爵は、一般出のイオーネを正しく導ける良きお手本でしたか? お父様とイオーネの話を総合してみた限りですと、とてもそういう人種には思えませんが」
「少なくとも、王族に殺気を向けたりはしなかったが……まあ、そうだな。追い詰められて愚行に走る短慮さはよく似てるか」
「でしょう? 仮にも暗殺者を名乗るなら、複数の獲物の前に飛び出しちゃダメですよねぇ。バーデル軍が現れるまで身を潜めていれば、私達のほうが圧倒的不利だったのに。暗殺の領域を自分から捨てちゃう残念ぶりですよ。不幸にも、侍女職を通して子爵の愚かな部分を受け継いでしまった、としか思えません。ですが、短時間でも間近で見ていた私なりの感想を述べさせていただきますと、彼女、再教育を施せばアルスエルナ王国にとって戦力面で非常に希少で有益な人材になると思うんですよね。ほら、お父様も先ほど、人材は有限だと仰ってましたし。ここは一つ彼女の将来性を買って、試しにお持ち帰りしてみませんか?」
「ふむ。使える人間は多いほうが良いのは事実だな。しかし、バーデル軍がどこから現れるか分からない状況下でどうやって持ち帰る? 見つかったら終わりだぞ」
「あんまり現実味はないのですが、可能性に賭けてみようかと」
「可能性?」

 いぶかしむ王子へ頷き。
 イオーネの右肩に顎を乗せているアーレスト神父の前で、両膝を突く。

「神父様」

 呼びかけても反応はない。瞬きすらしない。
 暗闇の影響もあって、髪と目の色を失くしたら、まるきり本物の彫刻だ。
 しかも、全身ずぶ濡れ。不気味すぎる。

「……そのままで良いので、話を聴いてください」

 女神へ祈りを捧げるように重ねた両手で、短剣の柄を強く握りしめた。

「神父様がここまで導いてくださったから、私の苦しみは自業自得だったと理解できました。本来なら私こそがこの場で断罪されるべきだと思います。でも、私を護る為に命懸けで戦っている人達がいます。心配しながら帰りを待ってくれている人達もいます。私はまだ彼らに何も返せてない。護られ、奪っていただけで、良くも悪くも何一つ報いていないのです。このまま死ぬなんて嫌。私のせいで誰かが死ぬのはもっと嫌。極刑を避けたいだけだろうと責められ、卑怯者と罵られても構いません。いつか、私が苦しめた誰かに殺されるとしても、息絶えるその前に、可能な限りたくさんのありがとうとごめんなさいを形にして、みんなへ返しておきたいんです。ここではまだ、死ねない。死にたくない。死なせたくない。だから、お願いします」

 一旦言葉を切って長く息を吐き、吸って……止める。
 アーレストの横顔をじっと見つめ

「私達を、助けてください」

 使い慣れない音を並べた。
 緊張で手のひらに汗が滲む。喉が渇く。

(でも、だからこそ、シャムロックが犯した四つ目の過ちは、きっとこれ、なんだよね。多分)

 シャムロックは、誰にも頼らなかった。
 みんなの為だと勝手に思い込んで暴走するくらい、誰も信じてなかった。
 そうして、顔も名前も知らない被害者を大勢生み出した。

 相談するべきだったのだ。
 シャムロックのことも、仕事探しのことも。
 ハウィスや村の人達の役に立ちたいと願ったことも全部。
 周りの人達に、正直な気持ちを打ち明けるべきだった。

(今更だけど相談しろって言ったのは貴方だもん。都合良く頼ってやる! 無視はしないでよ? 誰かに頼るのって、かなり度胸が要るんだからね⁉︎ ああ、嫌な汗が止まらないーっ!)

 腹黒い策士とか、あんた呼ばわりとか、ド阿呆とか。
 散々な言い様をした相手に助けを求めるなんて。
 図々しい? 恥知らず? 厚かましい?

 上等だ。いくらでも呆れれば良い。嫌われたって、それがどうした。
 みんなを助けられるなら、自尊心も自衛心も喜んでかなぐり捨ててやる。

 そんな気持ちで、耳奥に破裂しそうな鼓動を聴きながら。
 アーレストの横目を覗いて、彼の答えを待つ。

「……何故?」
「え?」

 動きはないが、無視はされなかった。
 ほっとする反面、疑問の意味が解らず首をひねる。

「イオーネさんはアルスエルナを不要な物、邪魔な物としか見ていません。ここで彼女を助けても、いずれまた様々な手で襲いかかってくるでしょう。監視を名目にして権力者の近くでかくまえば、更に細かく正確な国内外の情報を集めやすくなる。今度は確実に叛乱の烽火のろしを上げますよ。他国をも巻き込む大河の如き奔流。貴女の力で止められるとは思えません。厄介事の種を好き好んで育てるより、多少強引にでも今のうちに朽ちさせておいたほうが、後々安全なのではありませんか?」
「……神父様、なんか印象が変わってませんか? 柔らかく表現したつもりかも知れませんが、要はここで殺しておいたほうが良いって話ですよね? めっちゃくちゃ物騒なんですけど。聖職者のセリフですか、それ」
「事実を口にしているだけです」

 いや、事実だろうがなんだろうが、慈愛を謳う女神に仕える神父が子供に殺人を推奨しちゃダメだろう。怪我人の首を絞め続けてるのもどうなんだ。
 体勢のわりに、苦しそうではないけども。

「……なら、私も事実だけを口にします。今後、イオーネにアルスエルナは決して滅ぼせません。きっかけを作ることも、絶対に不可能です」
「根拠は?」
「イオーネも私の『わるぅーい寝癖』を知ってるから」

 王子へちらりと目を走らせた途端。
 視界の隅できゃんきゃん喚いてたイオーネが、青白い顔で絶句した。
 ……察しが良いな。

「ね、イオーネ。王族と国軍は今回の件であなたの正体も狙いも把握した。あなたが護ろうとしたものにも当然、鉄壁の『守り』が付くよ。けど、私は『守り』に弾かれないから。あなたがしっかりしてないと、内側でうっかり「眠いーっ」とか口走っちゃうかもね?」
「お前……っ お前は‼︎」

 親の仇を見る目って、こういう物を指すんじゃなかろうか。
 視線が痛い。ついでに、濃厚な殺意入りの刺々しい声を拾った耳も痛い。
 恐怖で脳と心肺機能が停止しそうだ。
 直には見ない。見てはいけない。

「なんとでも言えば良いよ。決めたのはアルフィン自身だし私も退かない。諦めない。ただ、同じ道を進むだけ」
「殺してやる……! 必ず! お前を殺してやる‼︎」
「第二王子の後ろ盾を持つ領主の後継者で、えーと、三の隊? だっけ? だから多分、第三王子? と、その騎士団にがっちり護られてる私ですが、やれると思うんならいつでもお好きにどうぞ。ただし、貴族の私と一般民のアルフィン、どっちが先に抹殺されるか、よく考えて行動してね」

 イオーネの、歯を食い縛る音がやけに大きく聴こえた。
 怖い。
 でもそれは、アルフィンを大切に想っているからこその憎しみ。
 冷や汗は止まらないが、アルフィンの友達としては、嬉しくも感じる。

 アルフィンはイオーネを受け入れた。
 イオーネも、アルフィンだけは傷付けない。
 イオーネが居てくれるなら、グレンデルが漁に出ている間、アルフィンは一人じゃなくなる。
 もう、波打ち際にたった一人で立ち竦まなくて良いんだ。
 失わせたくはない。

「そんなわけで、イオーネにアルスエルナはどうこうできません。私自身は一生狙われるかも知れませんけど。尋きたいことは以上ですか? 神父様」
「……ええ。よく、解りました。ミートリッテさん、貴女は今」

 アーレストの頭がイオーネの肩を離れ、王子と目を合わせて頷き合い。
 二人同時にミートリッテを見て、柔らかく微笑む。

「「選んだ」」

「へ?」
「ミートリッテ=インディジオ=リアメルティ。貴女に女神アリアの祝福と裏返しの嘆きを託します。私の言葉を復唱してください」
「え? え⁇」
「我、女神アリアの愛を乞い願う者」
「わ、我、女神アリアの愛を乞い願う者?」

 王子とアーレストの急な温かい眼差しに疑問をぶつける間も与えられず。
 指示された通りに唇を動かす。

「我、女神アリアに赦しを請い願う者」
「我、女神アリアに赦しを請い願う者」
「人の世の名を返上し、身命を賭して教えをまっとうする」
「人の世の名を返上し、身命を賭して教えを……まっとう、する?」

 ちょっと待て、何かおかしくないか。
 名前を返す?

「はい、結構です。私、アーレスト=ブラン=メルキオーレが託されている『アルスエルナ教会の大司教を選定する権限』により、貴女は本日をもってミートリッテ=ブラン=リアメルティと名を改め、アルスエルナ教会の次期大司教プリシラ=ブラン=アヴェルカインの第一補佐、及び戦士の指揮者に就任しました。実質、次世代の次期大司教。つまり、二代後の大司教です。貴女の優しさと強さで、どうかアリア信仰を善き方向へとお導きください」

「……………………………………………………は?」

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