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短編
囚人
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むかしむかし、あるところに
それはそれは美しい女人がおりました
地をなでる髪は黒々と艶を放ち
衣から覗く肌はまるで真珠のよう
紅をさした唇はふっくらと柔らかく
朱を乗せた頬は瑞々しい桃の果実
幼子のごとくぱっちり開いた目は
満月を知る夜空を思わせ
頼りない指先はしなやかに風を舞います
そんな女人の噂に心奪われる男子は後を絶たず
国を越え、大陸を越え、海を越え
多くの者がその姿を一目収めんと
彼女の家に押し掛けました
ある日のこと
連日想いを歌う男子が女人の元を訪れると
なにやら家の者達が右往左往しています
はて、何事かと話を聴けば
女人がさらわれてしまったと言うではありませんか
男子達は、にわかにざわめきました
ある者は、せっかく来たのにと憤慨して帰り
ある者は、家の者達を落ち着かせんと気を配り
ある者は、女人を取り戻さねばと奮起しました
悪の行い赦すまじと立ち上がった雄雄しい彼らに
家の者達は涙を湛えて願います
『娘を連れ戻せた方に婿の資格を約束しましょう』
男子達は、武器を片手に意気揚々と旅立ちました
家の者達は、彼らの無事を黙して祈りました
一方その頃、女人はと言えば…………
「のどが渇いたんですけど。果実水くれません? あと、ご飯を食べるには少し早いから、適当にお菓子とかおつまみとかそういう物も欲しいな。あ、苦いのとか辛いのはやめてね。しょっぱいのは大丈夫。塩辛とか、スルメも美味しいよね。枝豆なんかがあれば文句無いんだけどな~~?」
「…………」
無言で差し出されたグラスを手に取り
なみなみと注がれた檸檬水をグイ飲みします
「っぷはあぁあ――っ! おいっしいぃ~~っ! この、甘味と酸っぱさの程よいバランスがたまらなーいっ!」
窓枠に座って三日月を眺めながら
戸惑いを隠しきれていない拉致犯の前で
彼女はとても満足そうに微笑みました
「さあーて、何人がここまで辿り着けるかなあ?」
「…………おい」
「あれだけたくさんの腕自慢やら財自慢が揃ってたんだし? まさか一人もいないってことはないと思うけど……」
「……おい」
「本当に一人も来れなかったらお笑い種よね~。口だけなんかい! って、世界中の女の子が幻滅しちゃいそう」
「おい! 話を聴っ」
「そうなったら、ちゃあんと貴方に貰われてあげるから。一応、念のために準備だけはしておいてね? 名前も知らない拉致犯さん」
「~~~~っ」
柔らかな指先が、拉致犯の唇をイタズラっぽくつつきます
女人をさらってきた彼は、この時初めて知りました
人を見た目で判断すると、ロクな事にはならないと
拉致犯の彼もまた、女人の噂を耳にして
ぜひとも妻にと望んだ男子の一人でした
家の者が寝静まった深夜、女人の部屋へと忍び込み
噂以上に美しい彼女の寝姿を見て
たまらず拉致してしまったのです
女人は貰い受けたと置き手紙を残し
その声を聴きたい、その目に己を映したいと
逸る鼓動もそのままに
魔界と呼ばれた山頂の天辺へ連れ帰ってみれば
「あー……そーなんだ……。ま、いっか。じゃ、お世話よろしく。えーと、そうねぇ……まずは~~……」
目覚めた途端の、この仕打ち
男子の美しい幻想は、女人の胆力に粉砕されました
拾った命は最後まで愛情をもって面倒みましょう
女人はそう言って拉致犯に華々しく微笑みます
女人の隣でゆらゆらと歪む三日月を見上げながら
拉致犯の男子は心の底から祈りました
謝るから、どうか助けてください、勇者さま……と
それはそれは美しい女人がおりました
地をなでる髪は黒々と艶を放ち
衣から覗く肌はまるで真珠のよう
紅をさした唇はふっくらと柔らかく
朱を乗せた頬は瑞々しい桃の果実
幼子のごとくぱっちり開いた目は
満月を知る夜空を思わせ
頼りない指先はしなやかに風を舞います
そんな女人の噂に心奪われる男子は後を絶たず
国を越え、大陸を越え、海を越え
多くの者がその姿を一目収めんと
彼女の家に押し掛けました
ある日のこと
連日想いを歌う男子が女人の元を訪れると
なにやら家の者達が右往左往しています
はて、何事かと話を聴けば
女人がさらわれてしまったと言うではありませんか
男子達は、にわかにざわめきました
ある者は、せっかく来たのにと憤慨して帰り
ある者は、家の者達を落ち着かせんと気を配り
ある者は、女人を取り戻さねばと奮起しました
悪の行い赦すまじと立ち上がった雄雄しい彼らに
家の者達は涙を湛えて願います
『娘を連れ戻せた方に婿の資格を約束しましょう』
男子達は、武器を片手に意気揚々と旅立ちました
家の者達は、彼らの無事を黙して祈りました
一方その頃、女人はと言えば…………
「のどが渇いたんですけど。果実水くれません? あと、ご飯を食べるには少し早いから、適当にお菓子とかおつまみとかそういう物も欲しいな。あ、苦いのとか辛いのはやめてね。しょっぱいのは大丈夫。塩辛とか、スルメも美味しいよね。枝豆なんかがあれば文句無いんだけどな~~?」
「…………」
無言で差し出されたグラスを手に取り
なみなみと注がれた檸檬水をグイ飲みします
「っぷはあぁあ――っ! おいっしいぃ~~っ! この、甘味と酸っぱさの程よいバランスがたまらなーいっ!」
窓枠に座って三日月を眺めながら
戸惑いを隠しきれていない拉致犯の前で
彼女はとても満足そうに微笑みました
「さあーて、何人がここまで辿り着けるかなあ?」
「…………おい」
「あれだけたくさんの腕自慢やら財自慢が揃ってたんだし? まさか一人もいないってことはないと思うけど……」
「……おい」
「本当に一人も来れなかったらお笑い種よね~。口だけなんかい! って、世界中の女の子が幻滅しちゃいそう」
「おい! 話を聴っ」
「そうなったら、ちゃあんと貴方に貰われてあげるから。一応、念のために準備だけはしておいてね? 名前も知らない拉致犯さん」
「~~~~っ」
柔らかな指先が、拉致犯の唇をイタズラっぽくつつきます
女人をさらってきた彼は、この時初めて知りました
人を見た目で判断すると、ロクな事にはならないと
拉致犯の彼もまた、女人の噂を耳にして
ぜひとも妻にと望んだ男子の一人でした
家の者が寝静まった深夜、女人の部屋へと忍び込み
噂以上に美しい彼女の寝姿を見て
たまらず拉致してしまったのです
女人は貰い受けたと置き手紙を残し
その声を聴きたい、その目に己を映したいと
逸る鼓動もそのままに
魔界と呼ばれた山頂の天辺へ連れ帰ってみれば
「あー……そーなんだ……。ま、いっか。じゃ、お世話よろしく。えーと、そうねぇ……まずは~~……」
目覚めた途端の、この仕打ち
男子の美しい幻想は、女人の胆力に粉砕されました
拾った命は最後まで愛情をもって面倒みましょう
女人はそう言って拉致犯に華々しく微笑みます
女人の隣でゆらゆらと歪む三日月を見上げながら
拉致犯の男子は心の底から祈りました
謝るから、どうか助けてください、勇者さま……と
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