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短編
答えが無い物語【改稿版】
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『吟遊詩人と金色の薔薇』
とある国のすみっこに、小さな小さな村がありました。
住んでいる大人の数は、両手の指の数と同じだけ。
子供はその半分しか居ない、静かで平和な村です。
ある日、村の出入り口に吟遊詩人が倒れていました。
吟遊詩人の服や靴や楽器は、見るからにボロボロでした。
食べ物やお金は持っていないようで、吟遊詩人のお腹はぺったんこです。
喉も、カラカラに渇いているのでしょう。
絞り出した声は嗄れて、とても苦しそうでした。
そんな吟遊詩人を、子供達は可哀想に思いました。
子供達は、大人達に「吟遊詩人を助けてあげよう」と言いました。
大人達も、吟遊詩人のボロボロな姿を見て、可哀想に思いました。
村人達は皆で話し合い、吟遊詩人を助けてあげることにしました。
まずは村長のお家へ連れて行き、お水とご飯と古着をあげて。
それから、楽器を直す為に必要な道具と、一晩の寝床も貸し与えました。
ボロボロだった吟遊詩人は綺麗な声を取り戻し、親切な村人達へ、何度も何度もありがとうと言って、涙をぽろぽろと流しました。
次の日。
村人達から借りた道具で楽器を綺麗に直した吟遊詩人は、大人達と子供達それぞれに、助けてくれたお礼として、自分にできることがあれば、何でもさせてくださいとお願いしました。
それならばと、大人達は村の畑を耕すお手伝いを。
子供達は旅の思い出を聴かせて欲しいと、吟遊詩人にお願いしました。
吟遊詩人は喜んで、村人達のお願いを叶えました。
大人達は、吟遊詩人にありがとうと言って、ご飯とお水をあげました。
子供達は、吟遊詩人の思い出話をウソだ、夢だと言って指を差し、お腹を抱えて笑いました。
吟遊詩人は困ってしまいました。
思い出話はウソではないと何回説明しても、子供達は信じてくれません。
子供達は、『吟遊詩人はウソ吐きだ、ウソを吐く悪い大人だ、悪い大人は村から出ていけ』と言って、笑いながら吟遊詩人に石を投げます。
見かねた大人達が吟遊詩人に話を聴くと、吟遊詩人は、大人達にも思い出話を語りました。
赤と青、白と黒が入れ代わり混じる大空の下。
熱砂の地にて、宙に浮き上がった都市を追い。
寒極まる地にて、明けぬ夜と沈まぬ陽を眺め。
塩水を湛えた平地にて、鏡写しの白雲に乗り。
緑濃き地にて、生きた虫を食べる植物と会い。
裂けた大地の奥深くへと流れ消え行く大河の水飛沫を浴びながら、天高く帯状に伸びる七色の透明な橋を仰ぐ。
地中、光溢れる水面で全体が群青に輝く洞窟。
海中、視界を埋め尽くす魚群を丸呑みする巨体生物。
空中、鮮やかに発光しながら揺れる星色のカーテン。
直した楽器を高らかに鳴らし、吟遊詩人は一生懸命歌いました。
吟遊詩人がその目で見てきたもの、その体で感じてきたものを。
どれほどの時間が経っても色褪せない想いを、聴いてくれている人達にも色鮮やかなままで届けられますようにと願って。
感謝の気持ちを込めて、一生懸命歌い、語りました。
野生の獣に追われた森。
崩れ落ちた古い吊り橋。
毒を持つ極彩色の昆虫。
戸惑い、恐怖、悲しみ、諦め、驚き、喜び、再出発。
たった一人で味わってきた、険しき旅の、その道中。
吟遊詩人は、他の誰も知らない『楽園』へと辿り着きました。
そこには、見目美しい人達が住んでいました。
そこには、どんな病も治せる薬がありました。
そこには、目が眩むほどの財宝がありました。
そこには、不自由しない暮らしがありました。
『楽園』で三日三晩お世話になった吟遊詩人は、四日目の朝に『楽園』を離れました。
帰り際、『楽園』を訪れた記念にと、野に咲いていた金色の薔薇を何本か摘み取って。
そうしてもう一度、世界を巡る旅に出たのです。
吟遊詩人の歌を聴いた大人達は、大変喜びました。
よく出来た作り話だと。
良い暇潰しになりました、ありがとうと。
ですが、子供達は純粋なので、作り話を真実だと言わないでくださいと。
作り話はウソだから、ウソを本当だなんて言わないでくださいと。
吟遊詩人は、涙を流して悲しみました。
ウソではない、本当にあったこと、本当に見てきたものを語ったのに。
どうか伝わりますようにと、精一杯、心を込めて歌ったのに。
しくしくと泣き出してしまった吟遊詩人に驚いた村人達は、村人同士顔を見合わせ、やがて吟遊詩人にこう言いました。
「ならば、証を見せておくれ。あなたが摘んできたという、この世界にあるとは思えない、金色の薔薇を」
吟遊詩人は、大人達にこう答えました。
「ほとんどの薔薇は、これまでお世話になった方々へ分けてしまいました。なので、私が今持っている薔薇は、この花びら一枚しかありません」
吟遊詩人が昨日まで着ていた、ボロボロの服。
その腰ポケットから取り出された薔薇の花びらは、とても綺麗な黄金色をしていました。
まるで、本物の黄金みたいにピカピカで、キラキラしています。
そんな金色の花びらを見た大人達は、大変驚き。
金色の花びらを手に取った子供達は、すごいすごいと大はしゃぎ。
金の延べ棒から作り出されたかのような金色の花びらは、吟遊詩人の歌が本物であると、村人達に訴えていました。
大人達は吟遊詩人に頭を下げて、ごめんなさいと言いました。
子供達も吟遊詩人に頭を下げて、石を投げてごめんなさいと言いました。
吟遊詩人は信じてもらえたことを心から喜び、最後の一枚だった花びらを村人達へと譲りました。
村人達は、吟遊詩人に尋ねました。
「私達も『楽園』に行けるのでしょうか」
吟遊詩人は、村人達に答えました。
「一人旅の私にも辿り着けたのですから、きっと行けますよ」
村人達は、吟遊詩人に尋ねました。
「もし良かったら、『楽園』までの道を教えてくれませんか」
吟遊詩人は、村人達に答えました。
「私が通った道で良いのなら」
次の日、吟遊詩人は旅立ちました。
吟遊詩人を見送った村人達も、これまで住んでいた村を離れ、『楽園』を目指して旅に出ました。
長く長い、とても険しい道のりの果て。
村人達は呆然と立ち尽くしてしまいました。
吟遊詩人に教えてもらった道の先。
広大な草原を渡り、複雑な地形の森を潜り抜け、少し太めな川を越えて、せり出している崖を二つよじ登ったら、あとはまっすぐ進むだけ。
けれど、教えられた通りに行き着いたそこは、金色の薔薇どころか雑草の一本さえも見当たらない、荒れ果てた不毛の大地だったのです。
おまけに、正面と左右は岩壁で囲まれた行き止まり。
見上げてみれば、岩壁の天辺は遥か雲の上。
吟遊詩人が歌った『楽園』なんて、どこにもありません。
村人達は、何も無い景色に驚き、戸惑い、苛立ち。
最後には怒って、来た道を引き返してしまいました。
帰り道の途中。
大人達は、吟遊詩人をウソ吐きめ、ウソ吐きめと声高に罵り。
子供達は、もうイヤだよ、お家に帰りたいよと言って地面にうずくまり、大きな声で泣き叫びました。
すると、村人達の前に、あの吟遊詩人が現れて、こう言いました。
「お疲れさまでした。『楽園』はどうでしたか? それはそれは美しい場所だったでしょう?」
村人達は、吟遊詩人の嬉しそうな笑顔を、言葉もなく見上げていました。
それから百年後のことです。
三人の冒険者が、岩壁を見上げる荒れ地にやって来ました。
三人の冒険者も、吟遊詩人が歌ったとされる『幻の楽園』の伝説を聴き、一目『楽園』を見てみたいと、吟遊詩人が通った道を歩いてきたのです。
しかし、百年後のその場所も、やっぱり大地は荒れ果てていて。
岩壁の天辺は、遥か雲の上にありました。
伝説として語り継がれている『幻の楽園』らしい『楽園』の姿は、どこをどう探しても、まったく見つけられません。
三人の冒険者は互いに顔を見合わせて、これはどういうことだろう? と首を傾げます。
一人は「伝説はウソだったのだろう」と言いました。
一人は「実は、ここじゃないのかも知れないよ」と言いました。
一人は「いいや、ここまでの道は伝説の通りだったのだから、『楽園』はここにあるに違いない」と言いました。
けれど、どれだけ見ても、どれだけ探しても、正面と左右は雲の上に頭を出す岩壁。
唯一歩ける道は、後ろに伸びる一本道だけ。
ですが、後ろの道を歩けば『幻の楽園』には辿り着けません。
吟遊詩人の歌には、行き止まりを引き返すという道案内が無いからです。
三人の冒険者は、悩みに悩んで。
ふと、行き止まりの岩壁を下から上へと目で辿り、空を見上げました。
すると、一人が言いました。
「この岩崖を、天辺まで登ってみるのはどうだろう」
他の二人も岩壁の天辺を見て、それから一人を見ました。
「この岩壁を、登る?」
一人は、岩壁の天辺を指で差して言います。
「ここから天辺が見えているのだから、終点が見えているのだから、岩壁は行き止まりではなくて、上へとまっすぐ進むだけの、長い長い一本道だよ」
二人は驚いて、一人の意見に反対しました。
「この高い岩壁を、楽器を持ち歩いていた吟遊詩人がたった一人で登ったり下りたり、できると思うのか? そんなの、絶対にムリだよ」
「雲の上まで登ろうなんて、とんでもない。落ちたら危ないじゃないか」
けれど一人は、天辺を見ながら言います。
「この世には無いと思われていた金色の花びらが、本当にこの世にあったんだから、ムリなことなんか、この世には何一つ無いんだよ、きっと。上から見下ろした雲は、どれだけ美しいのだろう? 見てみたいと思わない?」
二人は呆れた顔をして、興奮している一人を見て言いました。
「それは確かに、上から見下ろした雲は、きっと美しいと思うけど。でも、やっぱり危ないよ」
「高い所から落ちてしまったら、雲が美しいとか、言ってられないよ」
一人は二人を見て、嬉しそうに言いました。
「わかった。なら、自分一人で登ってみるね」
一人は、驚く二人をその場所に残し、岩壁を登り始めました。
右手で岩肌のでっぱりを掴み、左足を別のでっぱりに乗せて。
左足を右足より高い場所にあるでっぱりにしっかり乗せて、右手より高い場所にあるでっぱりを左手で掴んで。
よいしょ、よいしょ、と、上に向かってズンズン進んでいきます。
その途中、一人は何度も何度も滑り落ちそうになりました。
足が滑り、手元のでっぱりが崩れ。
何度も何度も、地面に落ちかけました。
そんな一人の様子を見ていた二人は
「危ないよ」
「もう、やめようよ」
と、何度も何度も声を掛けました。
けれど、一人は決して、止まりません。
腕が疲れても、足が痛くても。
指先が傷だらけになっても、身体中が汗だくになっても。
一人は一生懸命に、岩壁を上へと登り続けます。
地面に立って、一人を見上げていた二人は、一人が岩壁の半分まで登ったところで互いの顔を見合わせ、もう一度一人を見上げて、言いました。
「もしかしたら、本当に天辺まで登れるかも知れない」
「自分達も、行ける所まで行ってみようか」
二人は頷き合い、登り続ける一人の後を追って、岩肌に手を掛けました。
よいしょ、よいしょ、と腕を伸ばし、足を持ち上げ。
一生懸命、岩壁を登っていきます。
その途中、二人もやっぱり、何度も何度も落ちかけました。
天辺は見えているのに、終わりが見えないまっすぐな道を、もうダメだ、やっぱりムリなんだと諦めて、何度も何度も引き返したくなりました。
けれど、二人が諦めたくなる、そのたびに。
先を行く一人の姿が、二人の目に映ります。
二人よりも上に居る一人は、二人よりも傷だらけで。
二人よりも息苦しそうで、二人よりも疲れ切っていました。
なのに、諦めようとはしません。
お日様が眠ったら、岩肌にしがみついて一休み。
お日様が起きたら、落ちそうになりながらも、上へ上へと進みます。
二人は、そんな一人を追いかけながら、言いました。
「もう少しだけ、頑張ろう」
「もう少しだけ、上に進もう」
先を進む一人と、一人の後を付いて行く二人。
三人はそれぞれ身体に傷を付けながら、汗だくになりながら、落ちそうになりながら、息を切らしながら、岩壁を一生懸命に登り続けました。
やがて、朝と昼と夜を何回見送ったのか、三人にも分からなくなった頃。
二人がふと気付くと、一人の姿が見えなくなっていました。
二人は慌てて、自分達の周りを見渡しました。
一人が落ちてしまったのではないかと。
あるいは落ちかけて、どこかの岩肌に引っ掛かっているのではないかと、心配になったのです。
しかし、一人の姿はどこにも見当たりません。
二人は息苦しさに耐えながら、一人に声を掛けました。
「おーい、どこへ行ったんだ。返事をしてくれ」
「大丈夫? 聞こえているなら、返事をして」
すると、二人の頭上から、一人の声が聞こえてきました。
「大丈夫だよ。もう少しだから、二人とも頑張って」
聞こえた一人の元気そうな声に、二人は安心しました。
そして、足下に広がる白い雲を蹴って。
思いがけず、岩壁の終わりを掴み取ります。
そう。
一人を後を追いかけて、傷だらけになりながら、ヘトヘトになりながら、夢中で岩壁を登ってきた二人は。
いつの間にか、雲の上の天辺にまで、辿り着いていたのです。
先に辿り着いていた一人は、天辺へ足を乗せた二人に、言いました。
「ほら、下を見て。なんて美しい景色なんだろう」
二人は、登ってきた岩壁の下、雲の下の世界を見て、言葉をなくします。
そこは、岩壁を登る前まで居た世界とは別物のように広大で、大きかった筈の森や湖の一つ一つが、とても小さな作り物に見えました。
そして、登ってきた岩壁の反対側。
高い高い山々に丸く切り取られた緑豊かな世界もまた、雲の下で作り物のように小さく、美しく広がっていました。
三人の冒険者は、体の疲れが消えるまで、雲の上でゆっくりと休んだ後、登ってきた岩壁の反対側を、何日も掛けて下りました。
今度は一人と二人ではなく、三人で一緒に、協力しながら下りました。
三人は、雲の下の地面に足を下ろしてすぐに、この世の物とは思えない、金色の薔薇が視界を埋め尽くす野原を見つけました。
黄金色に輝いているその薔薇の花びらは、どう見ても、どこを触っても、作り物などではありません。
かつて、吟遊詩人が『楽園』を本当に見てきた証として、お世話になった人達へ配っていたとされる金色の薔薇、そのものです。
三人は期待に胸をときめかせ、金色の薔薇の野原を通り過ぎ、『楽園』を目指してまっすぐに歩きました。
野原を通り、川を越え、林に入って半日後。
三人の冒険者は、どこからともなく聞こえてくる楽しげな笑い声を辿り。
見たこともない髪の色や服を着た、美しい外見の人々と出会い。
初めて見る形の建物がたくさん並んでいる場所へ、連れて行かれました。
美しい人々は、三人の冒険者とは全然違う言葉を使っているので、会話はできません。
けれど、美しい人々が親しげな笑顔で差し出した飲み物を飲んでみると、岩壁から歩いてきて疲れ切っていた三人の体が、みるみる元気を取り戻し、それを嬉しそうに喜んでくれたので、三人と美しい人々はすぐに打ち解けてしまいました。
三人は、美しい人々から二日目・三日目と、連日寝床を借りました。
美味しいご飯も、一日三食、欠かさず分け与えられました。
お礼を求められることもなく手厚い歓迎を受けた三人の冒険者は、美しい人々が住んでいるこの集落こそが、吟遊詩人が歌ったとされる『幻の楽園』であると確信しました。
集落には、見目美しい人々が住んでいます。
集落には、そこにある病なら、どんな物でも治せる薬があります。
集落には、お金には変えられない、人々の心遣いと絆があります。
集落には、互いの不足を補い支え合う、心豊かな暮らしがあります。
吟遊詩人が歌った『幻の楽園』の伝説は、天高く、雲を突き抜ける岩壁に守られていた、『事実』だったのです。
三人の冒険者は、親切に優しく接してくれた美しい人々と、たった一人で険しい道や岩壁を通って『楽園』に辿り着いていた吟遊詩人へ敬意を表し、吟遊詩人と同じく、四日目の朝に『楽園』を出ました。
美しい人々は、旅立つ三人の冒険者にお水とご飯と新しい服を分け与え、岩壁へと戻っていく背中を、笑顔で見送りました。
帰り道の途中。
野原で金色の薔薇を花束にした三人の冒険者は、再び岩壁を乗り越えて、一番近くにあった街へと立ち寄りました。
そして、世にも珍しい金色の薔薇の花束を見て驚いた街の人々へ、三人が体験した『事実』のすべてを語り聴かせ、黄金色の花びらで作った押し花を世界中に拡めたことで、吟遊詩人が歌に残した伝説は本当だったんだよと、後の世にも知らせました。
その後、百年の伝説の真実を明らかにした三人の冒険者と、伝説の発祥地である集落を見つけた吟遊詩人は、他に類を見ない英雄として語り継がれ。
岩壁近くの不毛な大地に、栄誉を称える石碑が建てられたそうです。
おしまい
物語とは、不思議なものです。
同じ文章を読んでいたとしても、主観か傍観、好感度や経験値や知識量や偏見や思い込みなどで、見る人の数だけ違った印象が生じてしまいます。
同じ物語を読んでも、悲劇と受け止める人も居れば、茶番劇と受け止める人も居るのです。
私の学生時代、教室でロミオとジュリエットの映画を鑑賞していました。
ロミオとジュリエットは、大雑把にまとめると、自殺を装った駆け落ちをしようとして本当に死んでしまった、すれ違いの悲劇です。
鑑賞後、クラスメイトの反応は概ね「二人共バカ」というものでした。
また別の日には、伊勢湾台風を題材にしたアニメが放映されていました。
放映中、クラス内に笑いが起きました。
その瞬間の場面は、屋内に取り残された少年を、おばあさんが発見した、というものでした。
どうやら、おばあさんの顔面アップで笑っていたようです。
正直、私はクラスメイトの反応には、何一つ共感できませんでした。
ですが、クラスメイトが見ていた物語と私が見ていた物語は同一のものであり、それに対する反応はどちらが正しいというものでもないのでしょう。
私には理解できない捉え方があった、それだけのことで。
これは、物語のような作り話だけでなく。
日常の会話にも、まったく同じことが当てはまります。
どんな言葉も、見え方や思い入れといった前提への認識次第では正しく、同時に、正しくはなかったりします。
あなたにとって、この物語は『夢と希望への挑戦』でしたか?
それとも……
とある国のすみっこに、小さな小さな村がありました。
住んでいる大人の数は、両手の指の数と同じだけ。
子供はその半分しか居ない、静かで平和な村です。
ある日、村の出入り口に吟遊詩人が倒れていました。
吟遊詩人の服や靴や楽器は、見るからにボロボロでした。
食べ物やお金は持っていないようで、吟遊詩人のお腹はぺったんこです。
喉も、カラカラに渇いているのでしょう。
絞り出した声は嗄れて、とても苦しそうでした。
そんな吟遊詩人を、子供達は可哀想に思いました。
子供達は、大人達に「吟遊詩人を助けてあげよう」と言いました。
大人達も、吟遊詩人のボロボロな姿を見て、可哀想に思いました。
村人達は皆で話し合い、吟遊詩人を助けてあげることにしました。
まずは村長のお家へ連れて行き、お水とご飯と古着をあげて。
それから、楽器を直す為に必要な道具と、一晩の寝床も貸し与えました。
ボロボロだった吟遊詩人は綺麗な声を取り戻し、親切な村人達へ、何度も何度もありがとうと言って、涙をぽろぽろと流しました。
次の日。
村人達から借りた道具で楽器を綺麗に直した吟遊詩人は、大人達と子供達それぞれに、助けてくれたお礼として、自分にできることがあれば、何でもさせてくださいとお願いしました。
それならばと、大人達は村の畑を耕すお手伝いを。
子供達は旅の思い出を聴かせて欲しいと、吟遊詩人にお願いしました。
吟遊詩人は喜んで、村人達のお願いを叶えました。
大人達は、吟遊詩人にありがとうと言って、ご飯とお水をあげました。
子供達は、吟遊詩人の思い出話をウソだ、夢だと言って指を差し、お腹を抱えて笑いました。
吟遊詩人は困ってしまいました。
思い出話はウソではないと何回説明しても、子供達は信じてくれません。
子供達は、『吟遊詩人はウソ吐きだ、ウソを吐く悪い大人だ、悪い大人は村から出ていけ』と言って、笑いながら吟遊詩人に石を投げます。
見かねた大人達が吟遊詩人に話を聴くと、吟遊詩人は、大人達にも思い出話を語りました。
赤と青、白と黒が入れ代わり混じる大空の下。
熱砂の地にて、宙に浮き上がった都市を追い。
寒極まる地にて、明けぬ夜と沈まぬ陽を眺め。
塩水を湛えた平地にて、鏡写しの白雲に乗り。
緑濃き地にて、生きた虫を食べる植物と会い。
裂けた大地の奥深くへと流れ消え行く大河の水飛沫を浴びながら、天高く帯状に伸びる七色の透明な橋を仰ぐ。
地中、光溢れる水面で全体が群青に輝く洞窟。
海中、視界を埋め尽くす魚群を丸呑みする巨体生物。
空中、鮮やかに発光しながら揺れる星色のカーテン。
直した楽器を高らかに鳴らし、吟遊詩人は一生懸命歌いました。
吟遊詩人がその目で見てきたもの、その体で感じてきたものを。
どれほどの時間が経っても色褪せない想いを、聴いてくれている人達にも色鮮やかなままで届けられますようにと願って。
感謝の気持ちを込めて、一生懸命歌い、語りました。
野生の獣に追われた森。
崩れ落ちた古い吊り橋。
毒を持つ極彩色の昆虫。
戸惑い、恐怖、悲しみ、諦め、驚き、喜び、再出発。
たった一人で味わってきた、険しき旅の、その道中。
吟遊詩人は、他の誰も知らない『楽園』へと辿り着きました。
そこには、見目美しい人達が住んでいました。
そこには、どんな病も治せる薬がありました。
そこには、目が眩むほどの財宝がありました。
そこには、不自由しない暮らしがありました。
『楽園』で三日三晩お世話になった吟遊詩人は、四日目の朝に『楽園』を離れました。
帰り際、『楽園』を訪れた記念にと、野に咲いていた金色の薔薇を何本か摘み取って。
そうしてもう一度、世界を巡る旅に出たのです。
吟遊詩人の歌を聴いた大人達は、大変喜びました。
よく出来た作り話だと。
良い暇潰しになりました、ありがとうと。
ですが、子供達は純粋なので、作り話を真実だと言わないでくださいと。
作り話はウソだから、ウソを本当だなんて言わないでくださいと。
吟遊詩人は、涙を流して悲しみました。
ウソではない、本当にあったこと、本当に見てきたものを語ったのに。
どうか伝わりますようにと、精一杯、心を込めて歌ったのに。
しくしくと泣き出してしまった吟遊詩人に驚いた村人達は、村人同士顔を見合わせ、やがて吟遊詩人にこう言いました。
「ならば、証を見せておくれ。あなたが摘んできたという、この世界にあるとは思えない、金色の薔薇を」
吟遊詩人は、大人達にこう答えました。
「ほとんどの薔薇は、これまでお世話になった方々へ分けてしまいました。なので、私が今持っている薔薇は、この花びら一枚しかありません」
吟遊詩人が昨日まで着ていた、ボロボロの服。
その腰ポケットから取り出された薔薇の花びらは、とても綺麗な黄金色をしていました。
まるで、本物の黄金みたいにピカピカで、キラキラしています。
そんな金色の花びらを見た大人達は、大変驚き。
金色の花びらを手に取った子供達は、すごいすごいと大はしゃぎ。
金の延べ棒から作り出されたかのような金色の花びらは、吟遊詩人の歌が本物であると、村人達に訴えていました。
大人達は吟遊詩人に頭を下げて、ごめんなさいと言いました。
子供達も吟遊詩人に頭を下げて、石を投げてごめんなさいと言いました。
吟遊詩人は信じてもらえたことを心から喜び、最後の一枚だった花びらを村人達へと譲りました。
村人達は、吟遊詩人に尋ねました。
「私達も『楽園』に行けるのでしょうか」
吟遊詩人は、村人達に答えました。
「一人旅の私にも辿り着けたのですから、きっと行けますよ」
村人達は、吟遊詩人に尋ねました。
「もし良かったら、『楽園』までの道を教えてくれませんか」
吟遊詩人は、村人達に答えました。
「私が通った道で良いのなら」
次の日、吟遊詩人は旅立ちました。
吟遊詩人を見送った村人達も、これまで住んでいた村を離れ、『楽園』を目指して旅に出ました。
長く長い、とても険しい道のりの果て。
村人達は呆然と立ち尽くしてしまいました。
吟遊詩人に教えてもらった道の先。
広大な草原を渡り、複雑な地形の森を潜り抜け、少し太めな川を越えて、せり出している崖を二つよじ登ったら、あとはまっすぐ進むだけ。
けれど、教えられた通りに行き着いたそこは、金色の薔薇どころか雑草の一本さえも見当たらない、荒れ果てた不毛の大地だったのです。
おまけに、正面と左右は岩壁で囲まれた行き止まり。
見上げてみれば、岩壁の天辺は遥か雲の上。
吟遊詩人が歌った『楽園』なんて、どこにもありません。
村人達は、何も無い景色に驚き、戸惑い、苛立ち。
最後には怒って、来た道を引き返してしまいました。
帰り道の途中。
大人達は、吟遊詩人をウソ吐きめ、ウソ吐きめと声高に罵り。
子供達は、もうイヤだよ、お家に帰りたいよと言って地面にうずくまり、大きな声で泣き叫びました。
すると、村人達の前に、あの吟遊詩人が現れて、こう言いました。
「お疲れさまでした。『楽園』はどうでしたか? それはそれは美しい場所だったでしょう?」
村人達は、吟遊詩人の嬉しそうな笑顔を、言葉もなく見上げていました。
それから百年後のことです。
三人の冒険者が、岩壁を見上げる荒れ地にやって来ました。
三人の冒険者も、吟遊詩人が歌ったとされる『幻の楽園』の伝説を聴き、一目『楽園』を見てみたいと、吟遊詩人が通った道を歩いてきたのです。
しかし、百年後のその場所も、やっぱり大地は荒れ果てていて。
岩壁の天辺は、遥か雲の上にありました。
伝説として語り継がれている『幻の楽園』らしい『楽園』の姿は、どこをどう探しても、まったく見つけられません。
三人の冒険者は互いに顔を見合わせて、これはどういうことだろう? と首を傾げます。
一人は「伝説はウソだったのだろう」と言いました。
一人は「実は、ここじゃないのかも知れないよ」と言いました。
一人は「いいや、ここまでの道は伝説の通りだったのだから、『楽園』はここにあるに違いない」と言いました。
けれど、どれだけ見ても、どれだけ探しても、正面と左右は雲の上に頭を出す岩壁。
唯一歩ける道は、後ろに伸びる一本道だけ。
ですが、後ろの道を歩けば『幻の楽園』には辿り着けません。
吟遊詩人の歌には、行き止まりを引き返すという道案内が無いからです。
三人の冒険者は、悩みに悩んで。
ふと、行き止まりの岩壁を下から上へと目で辿り、空を見上げました。
すると、一人が言いました。
「この岩崖を、天辺まで登ってみるのはどうだろう」
他の二人も岩壁の天辺を見て、それから一人を見ました。
「この岩壁を、登る?」
一人は、岩壁の天辺を指で差して言います。
「ここから天辺が見えているのだから、終点が見えているのだから、岩壁は行き止まりではなくて、上へとまっすぐ進むだけの、長い長い一本道だよ」
二人は驚いて、一人の意見に反対しました。
「この高い岩壁を、楽器を持ち歩いていた吟遊詩人がたった一人で登ったり下りたり、できると思うのか? そんなの、絶対にムリだよ」
「雲の上まで登ろうなんて、とんでもない。落ちたら危ないじゃないか」
けれど一人は、天辺を見ながら言います。
「この世には無いと思われていた金色の花びらが、本当にこの世にあったんだから、ムリなことなんか、この世には何一つ無いんだよ、きっと。上から見下ろした雲は、どれだけ美しいのだろう? 見てみたいと思わない?」
二人は呆れた顔をして、興奮している一人を見て言いました。
「それは確かに、上から見下ろした雲は、きっと美しいと思うけど。でも、やっぱり危ないよ」
「高い所から落ちてしまったら、雲が美しいとか、言ってられないよ」
一人は二人を見て、嬉しそうに言いました。
「わかった。なら、自分一人で登ってみるね」
一人は、驚く二人をその場所に残し、岩壁を登り始めました。
右手で岩肌のでっぱりを掴み、左足を別のでっぱりに乗せて。
左足を右足より高い場所にあるでっぱりにしっかり乗せて、右手より高い場所にあるでっぱりを左手で掴んで。
よいしょ、よいしょ、と、上に向かってズンズン進んでいきます。
その途中、一人は何度も何度も滑り落ちそうになりました。
足が滑り、手元のでっぱりが崩れ。
何度も何度も、地面に落ちかけました。
そんな一人の様子を見ていた二人は
「危ないよ」
「もう、やめようよ」
と、何度も何度も声を掛けました。
けれど、一人は決して、止まりません。
腕が疲れても、足が痛くても。
指先が傷だらけになっても、身体中が汗だくになっても。
一人は一生懸命に、岩壁を上へと登り続けます。
地面に立って、一人を見上げていた二人は、一人が岩壁の半分まで登ったところで互いの顔を見合わせ、もう一度一人を見上げて、言いました。
「もしかしたら、本当に天辺まで登れるかも知れない」
「自分達も、行ける所まで行ってみようか」
二人は頷き合い、登り続ける一人の後を追って、岩肌に手を掛けました。
よいしょ、よいしょ、と腕を伸ばし、足を持ち上げ。
一生懸命、岩壁を登っていきます。
その途中、二人もやっぱり、何度も何度も落ちかけました。
天辺は見えているのに、終わりが見えないまっすぐな道を、もうダメだ、やっぱりムリなんだと諦めて、何度も何度も引き返したくなりました。
けれど、二人が諦めたくなる、そのたびに。
先を行く一人の姿が、二人の目に映ります。
二人よりも上に居る一人は、二人よりも傷だらけで。
二人よりも息苦しそうで、二人よりも疲れ切っていました。
なのに、諦めようとはしません。
お日様が眠ったら、岩肌にしがみついて一休み。
お日様が起きたら、落ちそうになりながらも、上へ上へと進みます。
二人は、そんな一人を追いかけながら、言いました。
「もう少しだけ、頑張ろう」
「もう少しだけ、上に進もう」
先を進む一人と、一人の後を付いて行く二人。
三人はそれぞれ身体に傷を付けながら、汗だくになりながら、落ちそうになりながら、息を切らしながら、岩壁を一生懸命に登り続けました。
やがて、朝と昼と夜を何回見送ったのか、三人にも分からなくなった頃。
二人がふと気付くと、一人の姿が見えなくなっていました。
二人は慌てて、自分達の周りを見渡しました。
一人が落ちてしまったのではないかと。
あるいは落ちかけて、どこかの岩肌に引っ掛かっているのではないかと、心配になったのです。
しかし、一人の姿はどこにも見当たりません。
二人は息苦しさに耐えながら、一人に声を掛けました。
「おーい、どこへ行ったんだ。返事をしてくれ」
「大丈夫? 聞こえているなら、返事をして」
すると、二人の頭上から、一人の声が聞こえてきました。
「大丈夫だよ。もう少しだから、二人とも頑張って」
聞こえた一人の元気そうな声に、二人は安心しました。
そして、足下に広がる白い雲を蹴って。
思いがけず、岩壁の終わりを掴み取ります。
そう。
一人を後を追いかけて、傷だらけになりながら、ヘトヘトになりながら、夢中で岩壁を登ってきた二人は。
いつの間にか、雲の上の天辺にまで、辿り着いていたのです。
先に辿り着いていた一人は、天辺へ足を乗せた二人に、言いました。
「ほら、下を見て。なんて美しい景色なんだろう」
二人は、登ってきた岩壁の下、雲の下の世界を見て、言葉をなくします。
そこは、岩壁を登る前まで居た世界とは別物のように広大で、大きかった筈の森や湖の一つ一つが、とても小さな作り物に見えました。
そして、登ってきた岩壁の反対側。
高い高い山々に丸く切り取られた緑豊かな世界もまた、雲の下で作り物のように小さく、美しく広がっていました。
三人の冒険者は、体の疲れが消えるまで、雲の上でゆっくりと休んだ後、登ってきた岩壁の反対側を、何日も掛けて下りました。
今度は一人と二人ではなく、三人で一緒に、協力しながら下りました。
三人は、雲の下の地面に足を下ろしてすぐに、この世の物とは思えない、金色の薔薇が視界を埋め尽くす野原を見つけました。
黄金色に輝いているその薔薇の花びらは、どう見ても、どこを触っても、作り物などではありません。
かつて、吟遊詩人が『楽園』を本当に見てきた証として、お世話になった人達へ配っていたとされる金色の薔薇、そのものです。
三人は期待に胸をときめかせ、金色の薔薇の野原を通り過ぎ、『楽園』を目指してまっすぐに歩きました。
野原を通り、川を越え、林に入って半日後。
三人の冒険者は、どこからともなく聞こえてくる楽しげな笑い声を辿り。
見たこともない髪の色や服を着た、美しい外見の人々と出会い。
初めて見る形の建物がたくさん並んでいる場所へ、連れて行かれました。
美しい人々は、三人の冒険者とは全然違う言葉を使っているので、会話はできません。
けれど、美しい人々が親しげな笑顔で差し出した飲み物を飲んでみると、岩壁から歩いてきて疲れ切っていた三人の体が、みるみる元気を取り戻し、それを嬉しそうに喜んでくれたので、三人と美しい人々はすぐに打ち解けてしまいました。
三人は、美しい人々から二日目・三日目と、連日寝床を借りました。
美味しいご飯も、一日三食、欠かさず分け与えられました。
お礼を求められることもなく手厚い歓迎を受けた三人の冒険者は、美しい人々が住んでいるこの集落こそが、吟遊詩人が歌ったとされる『幻の楽園』であると確信しました。
集落には、見目美しい人々が住んでいます。
集落には、そこにある病なら、どんな物でも治せる薬があります。
集落には、お金には変えられない、人々の心遣いと絆があります。
集落には、互いの不足を補い支え合う、心豊かな暮らしがあります。
吟遊詩人が歌った『幻の楽園』の伝説は、天高く、雲を突き抜ける岩壁に守られていた、『事実』だったのです。
三人の冒険者は、親切に優しく接してくれた美しい人々と、たった一人で険しい道や岩壁を通って『楽園』に辿り着いていた吟遊詩人へ敬意を表し、吟遊詩人と同じく、四日目の朝に『楽園』を出ました。
美しい人々は、旅立つ三人の冒険者にお水とご飯と新しい服を分け与え、岩壁へと戻っていく背中を、笑顔で見送りました。
帰り道の途中。
野原で金色の薔薇を花束にした三人の冒険者は、再び岩壁を乗り越えて、一番近くにあった街へと立ち寄りました。
そして、世にも珍しい金色の薔薇の花束を見て驚いた街の人々へ、三人が体験した『事実』のすべてを語り聴かせ、黄金色の花びらで作った押し花を世界中に拡めたことで、吟遊詩人が歌に残した伝説は本当だったんだよと、後の世にも知らせました。
その後、百年の伝説の真実を明らかにした三人の冒険者と、伝説の発祥地である集落を見つけた吟遊詩人は、他に類を見ない英雄として語り継がれ。
岩壁近くの不毛な大地に、栄誉を称える石碑が建てられたそうです。
おしまい
物語とは、不思議なものです。
同じ文章を読んでいたとしても、主観か傍観、好感度や経験値や知識量や偏見や思い込みなどで、見る人の数だけ違った印象が生じてしまいます。
同じ物語を読んでも、悲劇と受け止める人も居れば、茶番劇と受け止める人も居るのです。
私の学生時代、教室でロミオとジュリエットの映画を鑑賞していました。
ロミオとジュリエットは、大雑把にまとめると、自殺を装った駆け落ちをしようとして本当に死んでしまった、すれ違いの悲劇です。
鑑賞後、クラスメイトの反応は概ね「二人共バカ」というものでした。
また別の日には、伊勢湾台風を題材にしたアニメが放映されていました。
放映中、クラス内に笑いが起きました。
その瞬間の場面は、屋内に取り残された少年を、おばあさんが発見した、というものでした。
どうやら、おばあさんの顔面アップで笑っていたようです。
正直、私はクラスメイトの反応には、何一つ共感できませんでした。
ですが、クラスメイトが見ていた物語と私が見ていた物語は同一のものであり、それに対する反応はどちらが正しいというものでもないのでしょう。
私には理解できない捉え方があった、それだけのことで。
これは、物語のような作り話だけでなく。
日常の会話にも、まったく同じことが当てはまります。
どんな言葉も、見え方や思い入れといった前提への認識次第では正しく、同時に、正しくはなかったりします。
あなたにとって、この物語は『夢と希望への挑戦』でしたか?
それとも……
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