隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた

文字の大きさ
上 下
33 / 40
八章 再びの開門、菜緒思い出す。そして激怒。

(4)

しおりを挟む
(よくよく考えてみたらこの子達、人の姿はしているけど元は違うのよね?)

 人間と同じような健康診断の方法でいいのだろうか? と菜緒は五人の身長・体重を量り、記入しながら首を傾げる。
 院長は普通の子供を診るように子供達に聴診器をあて、「べー」と舌を出させ、下瞼、いわゆる下眼瞼を診ている。

「うん、順調ね。全員健康状態良好!」
 院長のお墨付きに子供達は嬉しそうに声を上げ、辰巳はホッと安堵していた。

「それでも子供のことだから、急に体調を崩すことがあるからね。おかしかったらすぐに連絡して」
「はい」
 院長の言葉に辰巳は真摯に頷く。

 院長はついで子供達にも語りかけるように話した。
「あなた達も体がおかしいな、と思ったら我慢しないのよ。藤村さんにどこがおかしいのかちゃんと話すこと」
「はーい」

 院長のことだからきっと、毎回そう話しているのだろう。
 けれど子供達はそれに辟易などしないで、きちんと話を受け止めている。
 本当に良い子達だ。

 菜緒も職業柄色々な子供達を見てきている。
 その中でもこの五人の子達はしっかりとしていて、聞き分けがいい。
 さすが神徒候補の子供達だ。
 辰巳の育て方も関係しているのだろうけれど、と思い起こし、菜緒はまた自分の記憶を塗りつぶされたことまで思い出して、ムッと口角を下げた。

 辰巳はそんな菜緒の心情を知ってか知らずか、穏やかな表情を崩さずに立ち上がると、
「院長先生、菜緒さん。よかったらお昼召し上がってください」
 そう話しかけてくる。

 院長は喜びを隠さずに辰巳に応えた。
「やった。私、これが楽しみで診察にきているようなものなのよ」
「菜緒さんも召し上がりますよね?」

 最初、どうして自分の記憶を塗りつぶしたのか、理由を聞いて断罪する気満々でいたが、他人行儀の辰巳といて勢いが半減した菜緒は、このまま帰ろうかとも思っていた。
 だが、喜んでいる院長に水を差すわけにもいかないし、それにちゃんと話をしないまま帰るのも癪だ。

 それに――
「菜緒も一緒に食べよーよ」
「辰巳の作ったご飯、美味しいの知ってるでしょ?」
 と可愛い鯛と美少女の兎に腕を抱きつかれ、無邪気に強請られたら断れない。

「じゃ、じゃあ……ご相伴にあずかります」
 楚々、と言ってみる。
 辰巳は微笑みながら頷く。

 こういう、人をホッとさせる笑みは変わらないと菜緒は思う。

「今、準備しますので。兎と鯛は手伝ってくれる? カラスと鼠と犬は院長先生達を客室に案内して」
「はい」と揃った返事をして、各々動き出す。

「院長先生、菜緒。案内します!」
 犬が誘導お任せあれ、と直立不動に菜緒達の前に立つ。

 場所は以前通された、雪見障子のある中庭が見える客間だった。
「ここで『お座り』! ――じゃなくて、おくつろぎください」
 犬の言葉に、菜緒も院長も思わず笑ってしまう。
 犬は真っ赤になりながらお辞儀をして、
「台所、手伝ってきます。ごゆっくり!」
 と逃げるように廊下を走っていった。

 ついで、ウソと鼠も「お茶! お茶もってくる!」とバタバタと犬の後を追いかけていく。
 このやりとりなんか、普通の人間の子供と変わらない。
 それがとても微笑ましくて、菜緒はニコニコと表情を緩ませた。
 それは院長も同じようで、互いに顔を合わせてふふ、と笑い合う。
 それから院長の笑顔が変わった。
 ニタニタとした邪な笑顔だ。

「ふっふーん。『菜緒さん』ね。仲良しさんだったんじゃない?」
 なんて、からかうように言ってくる。

 菜緒はまた口角を下げ、ブンブンと首を横に振った。
「院長が思っているような関係じゃありませんし」

 そうして思い出したことを掻い摘まんで院長に話した。
 体調不良、寝不足でこの平屋前で倒れたこと。
 それから看病してくれたお礼に菓子折を持っていったこと。
 そしてこどもの日に子供達のリクエストで「ザンギ」「からあげ」を作ったこと。
 辰巳は、どうやら和食以外の食事を子供達に食べさせるのを躊躇っていること――を話した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

龍神様の神使

石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。 しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。 そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。 ※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

よんよんまる

如月芳美
キャラ文芸
東のプリンス・大路詩音。西のウルフ・大神響。 音楽界に燦然と輝く若きピアニストと作曲家。 見た目爽やか王子様(実は負けず嫌い)と、 クールなヴィジュアルの一匹狼(実は超弱気)、 イメージ正反対(中身も正反対)の二人で構成するユニット『よんよんまる』。 だが、これからという時に、二人の前にある男が現われる。 お互いやっと見つけた『欠けたピース』を手放さなければならないのか。 ※作中に登場する団体、ホール、店、コンペなどは、全て架空のものです。 ※音楽モノではありますが、音楽はただのスパイスでしかないので音楽知らない人でも大丈夫です! (医者でもないのに医療モノのドラマを見て理解するのと同じ感覚です)

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~

椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。 あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。 特異な力を持った人間の娘を必要としていた。 彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。 『これは、あやかしの嫁取り戦』 身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ―― ※二章までで、いったん完結します。

処理中です...