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八章 再びの開門、菜緒思い出す。そして激怒。
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(よくよく考えてみたらこの子達、人の姿はしているけど元は違うのよね?)
人間と同じような健康診断の方法でいいのだろうか? と菜緒は五人の身長・体重を量り、記入しながら首を傾げる。
院長は普通の子供を診るように子供達に聴診器をあて、「べー」と舌を出させ、下瞼、いわゆる下眼瞼を診ている。
「うん、順調ね。全員健康状態良好!」
院長のお墨付きに子供達は嬉しそうに声を上げ、辰巳はホッと安堵していた。
「それでも子供のことだから、急に体調を崩すことがあるからね。おかしかったらすぐに連絡して」
「はい」
院長の言葉に辰巳は真摯に頷く。
院長はついで子供達にも語りかけるように話した。
「あなた達も体がおかしいな、と思ったら我慢しないのよ。藤村さんにどこがおかしいのかちゃんと話すこと」
「はーい」
院長のことだからきっと、毎回そう話しているのだろう。
けれど子供達はそれに辟易などしないで、きちんと話を受け止めている。
本当に良い子達だ。
菜緒も職業柄色々な子供達を見てきている。
その中でもこの五人の子達はしっかりとしていて、聞き分けがいい。
さすが神徒候補の子供達だ。
辰巳の育て方も関係しているのだろうけれど、と思い起こし、菜緒はまた自分の記憶を塗りつぶされたことまで思い出して、ムッと口角を下げた。
辰巳はそんな菜緒の心情を知ってか知らずか、穏やかな表情を崩さずに立ち上がると、
「院長先生、菜緒さん。よかったらお昼召し上がってください」
そう話しかけてくる。
院長は喜びを隠さずに辰巳に応えた。
「やった。私、これが楽しみで診察にきているようなものなのよ」
「菜緒さんも召し上がりますよね?」
最初、どうして自分の記憶を塗りつぶしたのか、理由を聞いて断罪する気満々でいたが、他人行儀の辰巳といて勢いが半減した菜緒は、このまま帰ろうかとも思っていた。
だが、喜んでいる院長に水を差すわけにもいかないし、それにちゃんと話をしないまま帰るのも癪だ。
それに――
「菜緒も一緒に食べよーよ」
「辰巳の作ったご飯、美味しいの知ってるでしょ?」
と可愛い鯛と美少女の兎に腕を抱きつかれ、無邪気に強請られたら断れない。
「じゃ、じゃあ……ご相伴にあずかります」
楚々、と言ってみる。
辰巳は微笑みながら頷く。
こういう、人をホッとさせる笑みは変わらないと菜緒は思う。
「今、準備しますので。兎と鯛は手伝ってくれる? カラスと鼠と犬は院長先生達を客室に案内して」
「はい」と揃った返事をして、各々動き出す。
「院長先生、菜緒。案内します!」
犬が誘導お任せあれ、と直立不動に菜緒達の前に立つ。
場所は以前通された、雪見障子のある中庭が見える客間だった。
「ここで『お座り』! ――じゃなくて、おくつろぎください」
犬の言葉に、菜緒も院長も思わず笑ってしまう。
犬は真っ赤になりながらお辞儀をして、
「台所、手伝ってきます。ごゆっくり!」
と逃げるように廊下を走っていった。
ついで、ウソと鼠も「お茶! お茶もってくる!」とバタバタと犬の後を追いかけていく。
このやりとりなんか、普通の人間の子供と変わらない。
それがとても微笑ましくて、菜緒はニコニコと表情を緩ませた。
それは院長も同じようで、互いに顔を合わせてふふ、と笑い合う。
それから院長の笑顔が変わった。
ニタニタとした邪な笑顔だ。
「ふっふーん。『菜緒さん』ね。仲良しさんだったんじゃない?」
なんて、からかうように言ってくる。
菜緒はまた口角を下げ、ブンブンと首を横に振った。
「院長が思っているような関係じゃありませんし」
そうして思い出したことを掻い摘まんで院長に話した。
体調不良、寝不足でこの平屋前で倒れたこと。
それから看病してくれたお礼に菓子折を持っていったこと。
そしてこどもの日に子供達のリクエストで「ザンギ」「からあげ」を作ったこと。
辰巳は、どうやら和食以外の食事を子供達に食べさせるのを躊躇っていること――を話した。
人間と同じような健康診断の方法でいいのだろうか? と菜緒は五人の身長・体重を量り、記入しながら首を傾げる。
院長は普通の子供を診るように子供達に聴診器をあて、「べー」と舌を出させ、下瞼、いわゆる下眼瞼を診ている。
「うん、順調ね。全員健康状態良好!」
院長のお墨付きに子供達は嬉しそうに声を上げ、辰巳はホッと安堵していた。
「それでも子供のことだから、急に体調を崩すことがあるからね。おかしかったらすぐに連絡して」
「はい」
院長の言葉に辰巳は真摯に頷く。
院長はついで子供達にも語りかけるように話した。
「あなた達も体がおかしいな、と思ったら我慢しないのよ。藤村さんにどこがおかしいのかちゃんと話すこと」
「はーい」
院長のことだからきっと、毎回そう話しているのだろう。
けれど子供達はそれに辟易などしないで、きちんと話を受け止めている。
本当に良い子達だ。
菜緒も職業柄色々な子供達を見てきている。
その中でもこの五人の子達はしっかりとしていて、聞き分けがいい。
さすが神徒候補の子供達だ。
辰巳の育て方も関係しているのだろうけれど、と思い起こし、菜緒はまた自分の記憶を塗りつぶされたことまで思い出して、ムッと口角を下げた。
辰巳はそんな菜緒の心情を知ってか知らずか、穏やかな表情を崩さずに立ち上がると、
「院長先生、菜緒さん。よかったらお昼召し上がってください」
そう話しかけてくる。
院長は喜びを隠さずに辰巳に応えた。
「やった。私、これが楽しみで診察にきているようなものなのよ」
「菜緒さんも召し上がりますよね?」
最初、どうして自分の記憶を塗りつぶしたのか、理由を聞いて断罪する気満々でいたが、他人行儀の辰巳といて勢いが半減した菜緒は、このまま帰ろうかとも思っていた。
だが、喜んでいる院長に水を差すわけにもいかないし、それにちゃんと話をしないまま帰るのも癪だ。
それに――
「菜緒も一緒に食べよーよ」
「辰巳の作ったご飯、美味しいの知ってるでしょ?」
と可愛い鯛と美少女の兎に腕を抱きつかれ、無邪気に強請られたら断れない。
「じゃ、じゃあ……ご相伴にあずかります」
楚々、と言ってみる。
辰巳は微笑みながら頷く。
こういう、人をホッとさせる笑みは変わらないと菜緒は思う。
「今、準備しますので。兎と鯛は手伝ってくれる? カラスと鼠と犬は院長先生達を客室に案内して」
「はい」と揃った返事をして、各々動き出す。
「院長先生、菜緒。案内します!」
犬が誘導お任せあれ、と直立不動に菜緒達の前に立つ。
場所は以前通された、雪見障子のある中庭が見える客間だった。
「ここで『お座り』! ――じゃなくて、おくつろぎください」
犬の言葉に、菜緒も院長も思わず笑ってしまう。
犬は真っ赤になりながらお辞儀をして、
「台所、手伝ってきます。ごゆっくり!」
と逃げるように廊下を走っていった。
ついで、ウソと鼠も「お茶! お茶もってくる!」とバタバタと犬の後を追いかけていく。
このやりとりなんか、普通の人間の子供と変わらない。
それがとても微笑ましくて、菜緒はニコニコと表情を緩ませた。
それは院長も同じようで、互いに顔を合わせてふふ、と笑い合う。
それから院長の笑顔が変わった。
ニタニタとした邪な笑顔だ。
「ふっふーん。『菜緒さん』ね。仲良しさんだったんじゃない?」
なんて、からかうように言ってくる。
菜緒はまた口角を下げ、ブンブンと首を横に振った。
「院長が思っているような関係じゃありませんし」
そうして思い出したことを掻い摘まんで院長に話した。
体調不良、寝不足でこの平屋前で倒れたこと。
それから看病してくれたお礼に菓子折を持っていったこと。
そしてこどもの日に子供達のリクエストで「ザンギ」「からあげ」を作ったこと。
辰巳は、どうやら和食以外の食事を子供達に食べさせるのを躊躇っていること――を話した。
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