21 / 40
五章 五節の柏餅とザンギ。子供の日は子供のリクエストを
(6)
しおりを挟む
「これは?」
透明な水の上に、菖蒲の若菜が一枚差してある。
「菖蒲酒です」
「これがさっき兎、が話してくれた菖蒲酒……」
「香りの強い菖蒲の根の部分を薄くスライスして日本酒を注ぎます。それから一時間から一日、好みで時間を調整し、最後にザルで裏ごしして完成なんです」
「案外簡単なんですね」
いただきます、とグラスを手に取って口に寄せると、日本酒の香りと混じった菖蒲の香りが鼻をくすぐる。
「すうっ、とした爽やかで優しい香り……」
「僕はほんのり香りがつく方が好きなので、あまり長くお酒には漬けておかないんですが、気に入ってもらえてよかったです」
「選ばれた『早乙女』達は、これを飲んで夜を過ごしたんですね。でも、いい歳の私が飲んでいいんですか?」
なんて笑ったら、辰巳が困った顔をして笑う。
「何言っているんですか。それを言ったら男の僕だって飲んではいけませんよ」
「あ、そうですよね」
笑い合い、辰巳が話を続ける。
「菖蒲の根は「菖蒲根」として漢方薬にも利用されています。鎮痛や去痰、血圧を下げる作用があるんです。他にも消化不良や胃炎、腹痛や咳の症状にも用いられることがあるそうです」
「なかなか万能ですね。私の地元ではあまりそういう行事は行わなかったし、漢方も習っていないので勉強になります」
「菜緒さんのご実家は北の方?」
「はい、北海道です。今の時期だと菖蒲の花はまだ咲いてないかな……。春と夏が短いので五、六月にかけて芽が息吹いて一気に花が咲くんです」
「地域ごとに特徴があって面白いですよね。食文化もそうですけれど――柏餅は、菜緒さんの実家では食べました?」
「いいえ、うちでは『べこ餅』というのを食べてました」
「べこ? ……牛餅?」
辰巳が目を見開く。
「いえ、名前のルーツは色々あるそうですけれど……べこ餅って黒砂糖とシンプルなお餅を合わせて葉っぱの形にしてるんです。ちょっと待っててください。画像……」
菜緒はスマホを取り出し、べこ餅の画像を辰巳に見せる。
さすがにスマホには驚かなかった辰巳なのに、べこ餅の画像には目を見張っていた。
「黒砂糖を使って作っていたことからカットする前、茶色の牛の種類に似ていたから『べこ餅』ともつけられたと考えられる、とかなので、ハッキリしていないんですよね」
「面白いですね。今度おやつに作ってみます」
「抹茶や餡子入りもあるし、黒砂糖が甘すぎるという人はココアを使う人もいますし、それと――こうやって他の色を混ぜてお花を作ったり、人の顔を作ったりとバリエーションも」
と他の画像を開いて見せる。
見事に菖蒲や桜を作ったべこ餅や、『お母さん』と言う題材で母親の顔を作ったべこ餅、可愛い動物をかたどったものなど、色々出てくる。
「そうですね……とりあえずシンプルに黒砂糖で作ってみます。まずは作って慣れないと」
と辰巳は、考えながら口を開く。
頭の中でどう作るか模索しているのだろう。作り方の説明の部分を真剣な眼差しで読んでいる。
「辰巳さん、タブレットとかお持ちですか?」
「いえ……どういう物かは知っていますが、持ってないんです。というか、スマホも持っていません」
「スマホよりは大きいですし、料理も色々検索できるので、料理を作る辰巳さんなら、一つ持っていて損はないと思います」
「うーん、そんな必要性を感じてなくて。料理を調べるなら、今は本で十分かなと」
そう答える辰巳は菜緒の案にちょっと困った様子だった。
余計なお節介だったかな、と菜緒は「そうですか」と愛想笑いをした。
それに気になることが発生している。
「……それより」
と同時声を上げ、子供達に目を向ける。
――食べ始めてから大人しすぎないか?
見て、菜緒も辰巳も息を飲んだ。
ザンギも唐揚げは皿に一種類一個ずつしか残っていなくて、子供五人はお腹いっぱいに食べた満足感にお腹を抱えて横になっていた。
「兎、鯛、犬、ウソ、鼠……オニギリやお野菜を食べないで……揚げ物ばかり……食べ過ぎです!!」
辰巳の怒った声を初めて聞いた菜緒だった。
透明な水の上に、菖蒲の若菜が一枚差してある。
「菖蒲酒です」
「これがさっき兎、が話してくれた菖蒲酒……」
「香りの強い菖蒲の根の部分を薄くスライスして日本酒を注ぎます。それから一時間から一日、好みで時間を調整し、最後にザルで裏ごしして完成なんです」
「案外簡単なんですね」
いただきます、とグラスを手に取って口に寄せると、日本酒の香りと混じった菖蒲の香りが鼻をくすぐる。
「すうっ、とした爽やかで優しい香り……」
「僕はほんのり香りがつく方が好きなので、あまり長くお酒には漬けておかないんですが、気に入ってもらえてよかったです」
「選ばれた『早乙女』達は、これを飲んで夜を過ごしたんですね。でも、いい歳の私が飲んでいいんですか?」
なんて笑ったら、辰巳が困った顔をして笑う。
「何言っているんですか。それを言ったら男の僕だって飲んではいけませんよ」
「あ、そうですよね」
笑い合い、辰巳が話を続ける。
「菖蒲の根は「菖蒲根」として漢方薬にも利用されています。鎮痛や去痰、血圧を下げる作用があるんです。他にも消化不良や胃炎、腹痛や咳の症状にも用いられることがあるそうです」
「なかなか万能ですね。私の地元ではあまりそういう行事は行わなかったし、漢方も習っていないので勉強になります」
「菜緒さんのご実家は北の方?」
「はい、北海道です。今の時期だと菖蒲の花はまだ咲いてないかな……。春と夏が短いので五、六月にかけて芽が息吹いて一気に花が咲くんです」
「地域ごとに特徴があって面白いですよね。食文化もそうですけれど――柏餅は、菜緒さんの実家では食べました?」
「いいえ、うちでは『べこ餅』というのを食べてました」
「べこ? ……牛餅?」
辰巳が目を見開く。
「いえ、名前のルーツは色々あるそうですけれど……べこ餅って黒砂糖とシンプルなお餅を合わせて葉っぱの形にしてるんです。ちょっと待っててください。画像……」
菜緒はスマホを取り出し、べこ餅の画像を辰巳に見せる。
さすがにスマホには驚かなかった辰巳なのに、べこ餅の画像には目を見張っていた。
「黒砂糖を使って作っていたことからカットする前、茶色の牛の種類に似ていたから『べこ餅』ともつけられたと考えられる、とかなので、ハッキリしていないんですよね」
「面白いですね。今度おやつに作ってみます」
「抹茶や餡子入りもあるし、黒砂糖が甘すぎるという人はココアを使う人もいますし、それと――こうやって他の色を混ぜてお花を作ったり、人の顔を作ったりとバリエーションも」
と他の画像を開いて見せる。
見事に菖蒲や桜を作ったべこ餅や、『お母さん』と言う題材で母親の顔を作ったべこ餅、可愛い動物をかたどったものなど、色々出てくる。
「そうですね……とりあえずシンプルに黒砂糖で作ってみます。まずは作って慣れないと」
と辰巳は、考えながら口を開く。
頭の中でどう作るか模索しているのだろう。作り方の説明の部分を真剣な眼差しで読んでいる。
「辰巳さん、タブレットとかお持ちですか?」
「いえ……どういう物かは知っていますが、持ってないんです。というか、スマホも持っていません」
「スマホよりは大きいですし、料理も色々検索できるので、料理を作る辰巳さんなら、一つ持っていて損はないと思います」
「うーん、そんな必要性を感じてなくて。料理を調べるなら、今は本で十分かなと」
そう答える辰巳は菜緒の案にちょっと困った様子だった。
余計なお節介だったかな、と菜緒は「そうですか」と愛想笑いをした。
それに気になることが発生している。
「……それより」
と同時声を上げ、子供達に目を向ける。
――食べ始めてから大人しすぎないか?
見て、菜緒も辰巳も息を飲んだ。
ザンギも唐揚げは皿に一種類一個ずつしか残っていなくて、子供五人はお腹いっぱいに食べた満足感にお腹を抱えて横になっていた。
「兎、鯛、犬、ウソ、鼠……オニギリやお野菜を食べないで……揚げ物ばかり……食べ過ぎです!!」
辰巳の怒った声を初めて聞いた菜緒だった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

魔法使いの名付け親
玉響なつめ
キャラ文芸
母子家庭で育った女子高生の柏木可紗は、ある日突然、母を亡くした。
そんな彼女の元に現れたのは、母親から聞いていた彼女の名付け親。
『大丈夫よ、可紗。貴女の名前はね、ロシアの魔法使いにつけてもらったんだから!』
母親に頼まれていたと語る不思議な女性、ジルニトラとその執事により身寄りもない可紗は彼らと暮らすことになる。
そして、母親の死をゆっくりと受け入れ始め、彼らとの新しい『家族』のカタチを模索していると――?
魔法使いと、普通の女子高生が織りなす穏やかな物語。
今まで気づかなかった世界に気がついた時、彼女は自分の中で閉じ込めていた夢を再び取り戻す。
※小説家になろう にも同時掲載しています
紅屋のフジコちゃん ― 鬼退治、始めました。 ―
木原あざみ
キャラ文芸
この世界で最も安定し、そして最も危険な職業--それが鬼狩り(特殊公務員)である。
……か、どうかは定かではありませんが、あたしこと藤子奈々は今春から鬼狩り見習いとして政府公認特A事務所「紅屋」で働くことになりました。
小さい頃から憧れていた「鬼狩り」になるため、誠心誠意がんばります! のはずだったのですが、その事務所にいたのは、癖のある上司ばかりで!? どうなる、あたし。みたいな話です。
お仕事小説&ラブコメ(最終的には)の予定でもあります。
第5回キャラ文芸大賞 奨励賞ありがとうございました。
ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜
蒼真まこ
キャラ文芸
生贄の花嫁は、あやかしの総大将と出会い、本当の愛と生きていく喜びを知る─。
時は大正。
九桜院さちは、あやかしの総大将ぬらりひょんの元へ嫁ぐために生まれた。生贄の花嫁となるために。
幼い頃より実父と使用人に虐げられ、笑って耐えることしか知らぬさち。唯一の心のよりどころは姉の蓉子が優しくしてくれることだった。
「わたくしの代わりに、ぬらりひょん様に嫁いでくれるわね?」
疑うことを知らない無垢な娘は、ぬらりひょんの元へ嫁ぎ、驚きの言葉を発する。そのひとことが美しくも気難しい、ぬらりひょんの心をとらえてしまう。
ぬらりひょんに気に入られたさちは、得意の洋食を作り、ぬらりひょんやあやかしたちに喜ばれることとなっていく。
「こんなわたしでも、幸せを望んでも良いのですか?」
やがて生家である九桜院家に大きな秘密があることがわかり──。
不遇な少女が運命に立ち向い幸せになっていく、大正あやかし嫁入りファンタジー。
☆表紙絵は紗倉様に描いていただきました。作中に出てくる場面を元にした主人公のイメージイラストです。
※エブリスタと小説家になろうにも掲載しておりますが、こちらは改稿版となります。
鳴響む
水戸けい
キャラ文芸
人ではない「ヒト」が、人の世を渡り歩いて――
荒寺にいつの間にか住み着いていた男が、気負う様子もなく、村の危機を救うと笑い、自分ひとりでは心もとないからと、村の少年をひとり、馬を一頭、共にして旅に出ると言った。
藁をもすがる思いで、男の申し出を受け入れることにした村人たち。
準備期間の一月後、粗末な格好をしていた男は、目も覚めるような美々しい姿で少年を迎えに現れ、旅に出る。
離縁の雨が降りやめば
月ヶ瀬 杏
キャラ文芸
龍の眷属と言われる竜堂家に生まれた葵は、三つのときに美雲神社の一つ目の龍神様の花嫁になった。
これは、龍の眷属である竜堂家が行わなければいけない古くからの習わしで、花嫁が十六で龍神と離縁する。
花嫁が十六歳の誕生日を迎えると、不思議なことに大量の雨が降る。それは龍神が花嫁を現世に戻すために降らせる離縁の雨だと言われていて、雨は三日三晩降り続いたのちに止むのが常だが……。
葵との離縁の雨は降りやまず……。
海の見える家で……
梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。
美しすぎる引きこもりYouTuberは視聴者と謎解きを~訳あり物件で霊の未練を晴らします~
じゅん
キャラ文芸
【「キャラ文芸大賞」奨励賞 受賞👑】
イケメン過ぎてひねくれてしまった主人公が、兄や動画の視聴者とともに事故物件に現れる幽霊の未練を解きほぐす、連作短編の「日常の謎」解きヒューマンストーリー。ちょっぴりブロマンス。
*
容姿が良すぎるために散々な目にあい、中学を卒業してから引きこもりになった央都也(20歳)は、5歳年上の兄・雄誠以外は人を信じられない。
「誰とも関わらない一人暮らし」を夢見て、自宅でできる仕事を突き詰めて動画配信を始め、あっという間に人気YouTuberに。
事故物件に住む企画を始めると、動画配信中に幽霊が現れる。しかも、視聴者にも画面越しに幽霊が見えるため、視聴者と力を合わせて幽霊の未練を解決することになる。
幽霊たちの思いや、兄や視聴者たちとのやりとりで、央都也はだんだんと人を信じる気になっていくが、とある出来事から絶望してしまい――。
※完結するまで毎日更新します!
お百度参りもすませてきたわ
夜束牡牛
キャラ文芸
和風ファンタジー
どこかの「昔」が、狂った世界。
廃れた神社でお百度参りをはじめる子供、
誰にも言えない子供の願いと、
それを辞めさせようとしたり、見守ろうとしたりする
神社の守り手である、狛犬と獅子のお話です。
●作中の文化、文言、単語等は、既存のものに手を加えた創作時代、造語、文化を多々使用しています。あくまで個人の創作物としてご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる