17 / 40
五章 五節の柏餅とザンギ。子供の日は子供のリクエストを
(2)
しおりを挟む
(なんていうことでしょう!)
電話のあと、菜緒は当初の目的である買い出しに行った。
そうして、気が付けば当初の予定になかった食材を大量に買ってしまった。
手には鶏もも肉三キロ。
卵にサラダ油。
重たい物ばかりだ。
軽いのと言えば、履歴書とそれ用の写真ぐらい。
ついでに本来買いたかった食材まで買ったものだから、両手に花ではなく両手に荷物状態である。
(いくら国産鶏肉が安かったからって、三キロも買ってどうするつもりなの? 私)
自分の行動が全く理解できない。
アパートの自分の部屋には単身者用とはいえ立派ではある冷蔵庫だが、三キロの肉なんて入るわけがない
大好きなアイスが冷凍庫の半分も占めている状態なのに、絶対に入らない。
(うううう、どう消化しようか……調味料に漬けて毎日消費してどうにかなるの?)
荷物で行きの二倍の時間をかけて、どうにか我が家のアパート前まで辿り着いた。
あと少し、と安堵しているところに、
「菜緒!」
と自分を呼ぶ幼い声に振り向く。
木造平屋の住宅から鯛が駆け出てきたのだ。
「待ってたの!」
明るい笑顔で菜緒の腕を掴む。
「あ、危ない~! こっち卵入ってるの。引っ張っちゃ駄目、割れちゃう」
鯛に落ち着くように諭す。
「ごめんね、菜緒。僕、嬉しくって。今日は『子供の日』なの」
そう、今日はこどもの日だ。菜緒が働いている工場は盆と年末年始以外は稼働しているので、気づかなかった。
現にゴールデンウィークなのに昨日今日と出勤したし。
そこは年中無休と言っても過言ではない病院で働いていたときと、そう変わらないので体力は大丈夫だが。
ただ、病院勤めの頃と比べたら日にちの感覚がなくなっている気がする。
(だからさっき電話するまで気づかなかったのよねぇ)
「そういえば、そうね。もうお祝いはしたの?」
「ううん、これから」と鯛。
それからまた鯛は菜緒の腕を引っ張る。今度は荷物に気をつけて優しく。
「あのね、今日は『こどもの日』でしょ? だから辰巳が『食べたい物作ってあげる』って! だから、『ザンギっていうの食べたい』って言ったんだ」
「ザンギ?……って、鯛は知ってるの?」
「うん! だから菜緒を待ってたの! 鶏肉たくさん買ってきたんでしょ?」
「うん、三キロ………………って、どうして知ってるの!?」
「だって、恵比寿様が『お願いしておいた』って言ってたもの。あとザンギに使う材料も!」
恵比寿様?
――っていうのは、商売繁盛に御利益のある神様?
(まさかねぇ? 恵比寿は恵比寿でも、きっと苗字よね?)
どうして鶏肉を三キロも購入してしまったことを知っているのかも驚かされたが、恵比寿様がお願いしておいたってどういうことなのかさっぱりで、頭が理解できない。
「ねぇ、鯛。恵比寿様って鯛の知り合いかな?」
「菜緒は知らないの?」
意外、という顔をされたて菜緒は苦笑する。
「私の知り合いには『えびす』という苗字の人はいないなぁ……」
「違うよー、恵比寿様は神様でしょ?」
「お、おう……」
「お金使わせちゃったからって、菜緒にいい職場を紹介したって言ってたよ」
「???? もしかしたら、私が求人見て電話して空振ったの知ってるの?」
そう、あの後すぐに電話を掛けたが、今日はこどもの日でゴールデンウィークだ。
大抵、個人のクリニックは休みだ。
とりあえず留守電に入れといたが、ゴールデンウィーク明けの明日にも掛けるつもりでいた。
「よかったね、菜緒。きっと良いご縁のところだよ。だって恵比寿様のご紹介だもの!」
「お、おおう……」
ニコニコと太陽が輝いているような笑顔で言われては、菜緒は何も言えない。
鯛の妄想かもしれない。このくらいの歳の子は現実と夢の世界をごっちゃにして語ることも多い。
だからと、ここで否定をしてはいけない。
(ただ、辰巳さんにはお話しておいた方がいいかもしれない)
だって神様と話ができるって鯛の親がどこかの怪しい宗教に入信していて、その影響かもしれないし。
と、ここではたと気づいて菜緒は足を止める。
前回の菓子折訪問のとき、自分がここに来ることを歓迎していないように思えた。
自分が入ってもいいのだろうか?
「どうしたの? 菜緒」
「辰巳さんは知ってるの? このこと。私、事前に連絡もなしに入っちゃっていいのかな?」
「大丈夫だよ。辰巳も知ってる。今台所で柏餅作っていて手が離せないの。だから僕が迎えにきたの」
「そうなんだ」
今日は歓迎ムードでホッとした菜緒は、鯛に続いて玄関に入っていった。
電話のあと、菜緒は当初の目的である買い出しに行った。
そうして、気が付けば当初の予定になかった食材を大量に買ってしまった。
手には鶏もも肉三キロ。
卵にサラダ油。
重たい物ばかりだ。
軽いのと言えば、履歴書とそれ用の写真ぐらい。
ついでに本来買いたかった食材まで買ったものだから、両手に花ではなく両手に荷物状態である。
(いくら国産鶏肉が安かったからって、三キロも買ってどうするつもりなの? 私)
自分の行動が全く理解できない。
アパートの自分の部屋には単身者用とはいえ立派ではある冷蔵庫だが、三キロの肉なんて入るわけがない
大好きなアイスが冷凍庫の半分も占めている状態なのに、絶対に入らない。
(うううう、どう消化しようか……調味料に漬けて毎日消費してどうにかなるの?)
荷物で行きの二倍の時間をかけて、どうにか我が家のアパート前まで辿り着いた。
あと少し、と安堵しているところに、
「菜緒!」
と自分を呼ぶ幼い声に振り向く。
木造平屋の住宅から鯛が駆け出てきたのだ。
「待ってたの!」
明るい笑顔で菜緒の腕を掴む。
「あ、危ない~! こっち卵入ってるの。引っ張っちゃ駄目、割れちゃう」
鯛に落ち着くように諭す。
「ごめんね、菜緒。僕、嬉しくって。今日は『子供の日』なの」
そう、今日はこどもの日だ。菜緒が働いている工場は盆と年末年始以外は稼働しているので、気づかなかった。
現にゴールデンウィークなのに昨日今日と出勤したし。
そこは年中無休と言っても過言ではない病院で働いていたときと、そう変わらないので体力は大丈夫だが。
ただ、病院勤めの頃と比べたら日にちの感覚がなくなっている気がする。
(だからさっき電話するまで気づかなかったのよねぇ)
「そういえば、そうね。もうお祝いはしたの?」
「ううん、これから」と鯛。
それからまた鯛は菜緒の腕を引っ張る。今度は荷物に気をつけて優しく。
「あのね、今日は『こどもの日』でしょ? だから辰巳が『食べたい物作ってあげる』って! だから、『ザンギっていうの食べたい』って言ったんだ」
「ザンギ?……って、鯛は知ってるの?」
「うん! だから菜緒を待ってたの! 鶏肉たくさん買ってきたんでしょ?」
「うん、三キロ………………って、どうして知ってるの!?」
「だって、恵比寿様が『お願いしておいた』って言ってたもの。あとザンギに使う材料も!」
恵比寿様?
――っていうのは、商売繁盛に御利益のある神様?
(まさかねぇ? 恵比寿は恵比寿でも、きっと苗字よね?)
どうして鶏肉を三キロも購入してしまったことを知っているのかも驚かされたが、恵比寿様がお願いしておいたってどういうことなのかさっぱりで、頭が理解できない。
「ねぇ、鯛。恵比寿様って鯛の知り合いかな?」
「菜緒は知らないの?」
意外、という顔をされたて菜緒は苦笑する。
「私の知り合いには『えびす』という苗字の人はいないなぁ……」
「違うよー、恵比寿様は神様でしょ?」
「お、おう……」
「お金使わせちゃったからって、菜緒にいい職場を紹介したって言ってたよ」
「???? もしかしたら、私が求人見て電話して空振ったの知ってるの?」
そう、あの後すぐに電話を掛けたが、今日はこどもの日でゴールデンウィークだ。
大抵、個人のクリニックは休みだ。
とりあえず留守電に入れといたが、ゴールデンウィーク明けの明日にも掛けるつもりでいた。
「よかったね、菜緒。きっと良いご縁のところだよ。だって恵比寿様のご紹介だもの!」
「お、おおう……」
ニコニコと太陽が輝いているような笑顔で言われては、菜緒は何も言えない。
鯛の妄想かもしれない。このくらいの歳の子は現実と夢の世界をごっちゃにして語ることも多い。
だからと、ここで否定をしてはいけない。
(ただ、辰巳さんにはお話しておいた方がいいかもしれない)
だって神様と話ができるって鯛の親がどこかの怪しい宗教に入信していて、その影響かもしれないし。
と、ここではたと気づいて菜緒は足を止める。
前回の菓子折訪問のとき、自分がここに来ることを歓迎していないように思えた。
自分が入ってもいいのだろうか?
「どうしたの? 菜緒」
「辰巳さんは知ってるの? このこと。私、事前に連絡もなしに入っちゃっていいのかな?」
「大丈夫だよ。辰巳も知ってる。今台所で柏餅作っていて手が離せないの。だから僕が迎えにきたの」
「そうなんだ」
今日は歓迎ムードでホッとした菜緒は、鯛に続いて玄関に入っていった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

魔法使いの名付け親
玉響なつめ
キャラ文芸
母子家庭で育った女子高生の柏木可紗は、ある日突然、母を亡くした。
そんな彼女の元に現れたのは、母親から聞いていた彼女の名付け親。
『大丈夫よ、可紗。貴女の名前はね、ロシアの魔法使いにつけてもらったんだから!』
母親に頼まれていたと語る不思議な女性、ジルニトラとその執事により身寄りもない可紗は彼らと暮らすことになる。
そして、母親の死をゆっくりと受け入れ始め、彼らとの新しい『家族』のカタチを模索していると――?
魔法使いと、普通の女子高生が織りなす穏やかな物語。
今まで気づかなかった世界に気がついた時、彼女は自分の中で閉じ込めていた夢を再び取り戻す。
※小説家になろう にも同時掲載しています
紅屋のフジコちゃん ― 鬼退治、始めました。 ―
木原あざみ
キャラ文芸
この世界で最も安定し、そして最も危険な職業--それが鬼狩り(特殊公務員)である。
……か、どうかは定かではありませんが、あたしこと藤子奈々は今春から鬼狩り見習いとして政府公認特A事務所「紅屋」で働くことになりました。
小さい頃から憧れていた「鬼狩り」になるため、誠心誠意がんばります! のはずだったのですが、その事務所にいたのは、癖のある上司ばかりで!? どうなる、あたし。みたいな話です。
お仕事小説&ラブコメ(最終的には)の予定でもあります。
第5回キャラ文芸大賞 奨励賞ありがとうございました。
ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜
蒼真まこ
キャラ文芸
生贄の花嫁は、あやかしの総大将と出会い、本当の愛と生きていく喜びを知る─。
時は大正。
九桜院さちは、あやかしの総大将ぬらりひょんの元へ嫁ぐために生まれた。生贄の花嫁となるために。
幼い頃より実父と使用人に虐げられ、笑って耐えることしか知らぬさち。唯一の心のよりどころは姉の蓉子が優しくしてくれることだった。
「わたくしの代わりに、ぬらりひょん様に嫁いでくれるわね?」
疑うことを知らない無垢な娘は、ぬらりひょんの元へ嫁ぎ、驚きの言葉を発する。そのひとことが美しくも気難しい、ぬらりひょんの心をとらえてしまう。
ぬらりひょんに気に入られたさちは、得意の洋食を作り、ぬらりひょんやあやかしたちに喜ばれることとなっていく。
「こんなわたしでも、幸せを望んでも良いのですか?」
やがて生家である九桜院家に大きな秘密があることがわかり──。
不遇な少女が運命に立ち向い幸せになっていく、大正あやかし嫁入りファンタジー。
☆表紙絵は紗倉様に描いていただきました。作中に出てくる場面を元にした主人公のイメージイラストです。
※エブリスタと小説家になろうにも掲載しておりますが、こちらは改稿版となります。
鳴響む
水戸けい
キャラ文芸
人ではない「ヒト」が、人の世を渡り歩いて――
荒寺にいつの間にか住み着いていた男が、気負う様子もなく、村の危機を救うと笑い、自分ひとりでは心もとないからと、村の少年をひとり、馬を一頭、共にして旅に出ると言った。
藁をもすがる思いで、男の申し出を受け入れることにした村人たち。
準備期間の一月後、粗末な格好をしていた男は、目も覚めるような美々しい姿で少年を迎えに現れ、旅に出る。
離縁の雨が降りやめば
月ヶ瀬 杏
キャラ文芸
龍の眷属と言われる竜堂家に生まれた葵は、三つのときに美雲神社の一つ目の龍神様の花嫁になった。
これは、龍の眷属である竜堂家が行わなければいけない古くからの習わしで、花嫁が十六で龍神と離縁する。
花嫁が十六歳の誕生日を迎えると、不思議なことに大量の雨が降る。それは龍神が花嫁を現世に戻すために降らせる離縁の雨だと言われていて、雨は三日三晩降り続いたのちに止むのが常だが……。
葵との離縁の雨は降りやまず……。
美しすぎる引きこもりYouTuberは視聴者と謎解きを~訳あり物件で霊の未練を晴らします~
じゅん
キャラ文芸
【「キャラ文芸大賞」奨励賞 受賞👑】
イケメン過ぎてひねくれてしまった主人公が、兄や動画の視聴者とともに事故物件に現れる幽霊の未練を解きほぐす、連作短編の「日常の謎」解きヒューマンストーリー。ちょっぴりブロマンス。
*
容姿が良すぎるために散々な目にあい、中学を卒業してから引きこもりになった央都也(20歳)は、5歳年上の兄・雄誠以外は人を信じられない。
「誰とも関わらない一人暮らし」を夢見て、自宅でできる仕事を突き詰めて動画配信を始め、あっという間に人気YouTuberに。
事故物件に住む企画を始めると、動画配信中に幽霊が現れる。しかも、視聴者にも画面越しに幽霊が見えるため、視聴者と力を合わせて幽霊の未練を解決することになる。
幽霊たちの思いや、兄や視聴者たちとのやりとりで、央都也はだんだんと人を信じる気になっていくが、とある出来事から絶望してしまい――。
※完結するまで毎日更新します!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる