隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた

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二章 不思議な夢

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 引っ越しで契約したアパートは、鉄筋コンクリート二階建ての一部屋。
 二棟前後に建っているが、棟と棟の間は駐車スペースもあるおかげで距離が離れており日射しに問題なかった。
 
 何より、菜緒が気に入ったのは、隣に神社があることだ。
 大きな神社その裏には、歴史を刻んだ森林が厳かに息づいている鎮守の森だ。
 
 そして森を抜けた先――道路側には平屋の木造一戸建て住宅がある。
 菜緒が借りようとしているアパートの部屋は、ちょうどその木造平屋住宅の隣に位置していた。
 
 神社も鎮守の森も惹かれたが、菜緒の視線を釘付けにしたのは、その木造平屋住宅だった。
 そこだけ、時が止まっているように見える。
 明治か大正の時代に軒並みに建っていた一般的な平屋一戸建て。
 庭は広くとってあって、金木犀や椿にツツジと季節折々に花を咲かせる樹木の他、蜜柑や金柑、柿に栗、枇杷まで植えてある。
 
 菜緒は北国出身だ。冬に雪の重さで潰されそうな建築物に郷愁の念など持ちようもないのに、どうしてか胸の奥、いや、体の深いところで震えるような感覚を覚えた。
 
 そして菜緒の目が離せなかったのは――平屋の住民達だった。
 未就学児くらいの男児と女児が、目についただけでも四人。
 
 そして麗しいという言葉がふさわしい青年が一人。
 彼らの父か兄か、それとも平屋は託児所で彼は保父さんなのか。素性は分からない。
 
 襟足で切ってある漆黒の髪が陽の光を織り込んで宝石のように艶めいている。
 遠目から見る瞳は切れ長だが、冷たい印象は受けない。
 遠目で見ているのに彼の顔立ちが、菜緒の目にはっきりと映る。
 スッと通る鼻も結んだ形良い唇も、うつむき加減になると長い睫が影を作り。なまめかしいのにどことなく、はかなさまである。
『眉目秀麗』という言葉が真っ先に思い浮かぶ。

(そしてイクメンだ……)
 
 それにどうしてだろう。彼を見ていると心が落ち着いてくる。
 何とかなるんじゃないかと、ホッとする。
 心だけでなく体も清浄するような、そんな感じだ。
 自分が今、求めているのは守護であり、安心感だ。
 
 神社に鎮守の森に、眉目秀麗の青年。
 三つ巴の好条件。

 たとえ駅からバスで十三分だろうとも、菜緒の体はこの場所を求めている。
 それに引っ越しも早いほうが良い。迅速にあのストーカー親子から逃げるべきだ。

 即決だった。
 
 かくて引っ越しして半年――
 
 菜緒の心身は最悪になっていた。




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