隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた

文字の大きさ
上 下
1 / 40
一章 神様達の井戸端会議

(1)

しおりを挟む
 二十畳はあると思われる板間。
 扉のある面以外の壁には、神棚が設置されてある。
 どれも手入れが行き届き、瑞々しい榊も供えられている。
 しかし三面に神棚が設置されているとは、また変わった光景である。
 
 そんな板間の中央で老若男女が肩を寄せ合って、ごにょごにょと話し合っていた。
 計七人。
 みな現代の人間と違う、かけ離れた姿をしていた。
 まるで古代の日本から出てきたような――

「しかし、藤龍の強情さときたら……」
「ほんにほんに」
「もっと、柔らこうなってもいいと思うのだが」
「優しいお顔をしているのにねぇ」
「見かけと同じとはいかぬものだ」
「神は見かけと中身は対でなければいかん」
「これこれ、それは致し方なかろう。藤龍は――」

「――」の部分はかき消された。しかし、皆分かっているようだ。
 そうだった、と皆うんうん、と頷く。
 その藤龍が淹れてくれた茶を一すすり。
 ほうじ茶だ。
 一口すすると、炒った茶の香ばしさが鼻腔を通り抜ける。
 
 神力のある樹齢数百年のケヤキの樹からできた板間で、そのせいか弾力があり座っても痛みもないし、寒くもない。
 しかし静謐な静けさに、どこからとなく冷風が部屋に入りこむと「寒い」という感覚が七人の肩を窄ませた。

「うう、寒い。少々『気』を出して暖めようではないか」
「そうねぇ」
 
 皆、おいおい『気』を出す。
 すると、空気が暖かくなり、七人は窄めていた肩を伸ばした。
 不思議な容貌に、時代を遡ったような衣装にヘアスタイル。
 そして板間の寒々しい空気を温かくしてしまう不思議な力。
 
 七人は、日本では知る人ぞ知る『七福神』達だ。
 
 恵比寿に大黒天、福禄寿、寿老人、布袋尊、毘沙門天に紅一点の弁財天。
 神様達は色々な背景があって日本ではそう呼ばれているが、元々他の宗教や信仰で崇められていた。
 時代を経て定着したのである。
「七難即滅、七福即生」の説に基づき、信仰された。
 
 自分たちは『縁起を担ぐ存在』だから、信仰されているとわかっている。
 どこからやってきたとか経歴など、過去のもの。
 こうして崇められ、『信仰心』という、神様にとって命の大事な源が入ってくればいいのだ。

 ――しかし、それだって限界がある。

『信仰心』だけで、腹は膨れないのだ。
 
 だから時々、おねだりにきて食事を摂る場所がこの板間であった。

「三月は行事が多くてお供えも多いし、小さい女の子おみなが着飾って目の保養になるのは楽しいけれどねぇ」
 と弁財天。それに寿老人が注意する。
「これこれ、今の時代それをいうと『せくはら』とか『ろりこん』とか勘違いされてしまうぞ」

「いやいや、寿老人様。『ろりこん』にも色々あって、年齢ごとに呼び方が違うらしい。『ろりこん』というのは十二歳以上十五歳未満に好意を持つのが『ろりこん』だということだ」
 それに大黒天がうんちくを語り出す。

「皆様、それは異性にそのような目で見るのがいけないということであって、同性であるわらわが可愛いと愛でてもなんの支障もございませんよ」
 弁財天がコロコロと、鈴を転がすように笑った。
 
 そのタイミングで青年が、盆を両手に抱え入ってきた。
 青年は年の頃は二十中盤から後半で、線は華奢だ。
 しかし顔立ちはとても美しく、整っていた。
 翠の黒髪は後ろに高く結い上げ、残した短めの髪が頬に触れては揺れる。
 瞳は黒目がちと思いきや、濃い紫色だ。
 
 どこか神々しさまであり、七人の福の神と似た光を発している。
 神とも思う彼が持つ盆の上には、丸く成形された牡丹餅が七皿。
 それを見た七人はがっくりと肩を落とした。

「またそれか」
「毎年、代わり映えしないの~」
 
 ブーブー口を尖らせる七人の前に青年は、狼狽えることなく牡丹餅を置いていく。

「突然やってきてお菓子を要求してきたのですから文句、言わないでください」
 けんもほろろな態度の青年に七人のうち福禄寿が、自分のふっくらとした大きな耳たぶを擦りながら異議を申し立てる。

「藤龍よ、数百数千年も代わり映えしない供え物を食べる我々の身にもなっておくれ」
「そう言いながら、美味しく頂いているではありませんか」
「まあ、そうだがなの」
 と大黒天が、菓子楊枝で牡丹餅を綺麗に切るとパクリ、と口に入れる。
 
 粒餡にくるまれた餅米はよく潰してあり、モチッとしながらも滑らかな舌触りだ。
 使われている餅米も小豆も良いもので、藤龍のこだわりが見られる。

「材料に拘っておるし、丁寧な作りで美味いには美味いのだが、飽きた」
 藤龍と呼ばれた青年にきっぱり言ってきたのは、鎧を着込んだ重々しい姿の男――毘沙門天だ。

「牡丹餅は縁起物ですから、飽きたとかいうものではありませんよ。赤ものは魔除けの効果があるとして作られてきたものでしょう? 邪気を払い、先祖の霊を慰めるために長く作られてきたものであって、ありがたい食べ物なんですよ」

「わかってるわかってる。もう何千年も人が供えてくれた縁起物を食べているのだ」
 藤龍のお説教に毘沙門天は軽くあしらう。
 
 文句を言いながらしっかり完食するのだから、藤龍もついつい溜め息をついてしまう。
 
 溜め息をついたって福を呼ぶ七福神達と距離が近い。ついた分、また福がやってきそうなので溜め息のつき放題だろう。




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

龍神様の神使

石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。 しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。 そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。 ※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

よんよんまる

如月芳美
キャラ文芸
東のプリンス・大路詩音。西のウルフ・大神響。 音楽界に燦然と輝く若きピアニストと作曲家。 見た目爽やか王子様(実は負けず嫌い)と、 クールなヴィジュアルの一匹狼(実は超弱気)、 イメージ正反対(中身も正反対)の二人で構成するユニット『よんよんまる』。 だが、これからという時に、二人の前にある男が現われる。 お互いやっと見つけた『欠けたピース』を手放さなければならないのか。 ※作中に登場する団体、ホール、店、コンペなどは、全て架空のものです。 ※音楽モノではありますが、音楽はただのスパイスでしかないので音楽知らない人でも大丈夫です! (医者でもないのに医療モノのドラマを見て理解するのと同じ感覚です)

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~

椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。 あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。 特異な力を持った人間の娘を必要としていた。 彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。 『これは、あやかしの嫁取り戦』 身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ―― ※二章までで、いったん完結します。

処理中です...