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帰還は突然に
その2
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「おい、そこのデブス! てめえのせいだぞ! もっと痩せろよ! つーか、穴から出ろよ!」
またミナトが文句を言い出す。たく、口の減らない奴だよ。
「つーか! お前が呼び過ぎなんだ! アホ!」
「そーだよ! いい気になって偉そうに!」
私が口を開くより先に、代わる代わる皆がミナトを批判。
「そういうあんたが穴から出ればいいでしょ! 責任持ちなよ!」
「そうだそうだ!」
揃ってミナトさんを押し出そうとする。
「えっ? や、止めてくれよ……! 帰りたいんだよ、俺は……!」
皆に押しだされて、ミナトさんは半泣きになってしまった。
「私だってそうだよ!」
「俺だって!」
と、ギッシリ詰まってるなかで大喧嘩勃発。
――そんな中、だるまのように固まっていたところからひょい、と飛び出したのがいた。
下へ落下して、見事着地しウィルドさんの元へ。
「ガーディアン!?」
ガーディアンが自ら下へ降りて……!?
「ガーディアンは、俺が責任もって面倒見るから安心しろ、ミサト!」
ウィルドさんがそう言って、いつものように親指を立てる。
「ガ、ガーディアン……」
リーン! とガーディアンがベルを鳴らす。
『心配しないで!』とでも言うように。
もう! 最後までいい子なんだから!
一台分軽くなった。
――けれど、まだ警鐘は鳴り続ける。
「まだ重量オーバーなのか?」
「どうする?」
「ここで駄目でも、後から帰れるの?」
皆口々に言うけれど、打開策が思い浮かばない。
「…………」
――決めた。
「澪ちゃん。もし、私の家族に会うことがあったら私のことを伝えてね」
「――!?」
澪ちゃんは息をのみ、私を見つめる。
黒目がちの瞳が涙で揺らぐ。
「ま、待って! 実里ちゃん! 一緒に帰ろうねって。向こうに帰ってからも一緒に遊ぼうねって……言ったじゃない!」
「だけど、このままじゃ多分、全員帰れそうもなくなっちゃう……」
「なら、私も一緒に降りるよ!」
澪ちゃんの言葉に私は「駄目」と首を振った。
「澪ちゃんまでいなくなったら、お爺ちゃんとお婆ちゃん、立ち直れなくなっちゃうよ? 息子や娘だけじゃなくて孫まで失ってしまったって……哀しくてきっと今頃寝込んでいるかもしれないよ? 帰って安心させてあげて」
私の言葉に澪ちゃんは顔まで歪めた。
「私達、離れてても友達だよ!」
「……うん、ソウルメイトだよね」
ぎゅう、と互いの手を握る。
「じゃあね!」
私は詰まっている転移の穴から抜け出し、下へ落ちていった。
「ミサト!」
私をキャッチしてきれたのはウィルドさん。
「ご、ごめんなさい! 重たいのに……」
「こんなの重たいうちにはいらねーって! ……でも」
とウィルドさんは私を下ろしながら上を見上げる。
「いいのかい?」
と。
「うん。いいの……」
ようやく、警報みたいな音が止まったし。
皆が渦の中心飲み込まれていく。
「実里ちゃん! 実里ちゃんの家族に会うから! 時間がかかっても会ってちゃんと実里ちゃんのこと話すから!」
澪ちゃんが私に向かって、何度も大きく手を振る。
「うん! ありがとう! 澪ちゃん! 元気でね!」
私も手を振り続けた。
皆が見えなくなって、渦が消滅するまで――何度も。
「すいません! ウィルドさん! またしばらくお世話になります!」
私はウィルドさんに向かって、深々と頭を下げる。
「今度こそお金を貯めて、部屋を借りますので! それまでよろしくお願いします!」
「……ミサトが良いなら、ずっと部屋を使っていいんだぞ? 本当に一人になってしまったんだから」
そうだ。私は自分のいた世界に戻ることはしなかった。
今度、いつ「国の危機」が訪れて召喚できる環境が整うのかわからない。
すぐかも知れないし、十年、二十年先かもしれない――
今、国の危機のために召喚された人達はもういない。
私しかいないんだ。
「そんなことないです! 一人じゃありません! だって――」
私はガーディアンに触れる。
「ガーディアンも一緒です」
リリリーン! とガーディアンも同意するようにベルを鳴らした。
そんな私とガーディアンを見て、ウィルドさんは優しげに微笑むと元気づけてくれるように言った。
「そうだな! ガーディアンもいることだし! じゃあ、この素敵なおじさんがまとめて面倒みてやろう!」
「はい! さすがです、ウィルドさん!」
「……一生、な」
「はい?」
何かボソッと言いませんでした?
「ウィルドさん、今なんて言ったんです? 聞こえませんでした」
「何でもねえよ」
「ええ~、絶対何か言った~! 気になる~!」
「いずれ教えてやるって――よし、ガーディアンは俺が漕いでやろう! ミサトは後ろに乗れ」
「あ、誤魔化した! ずるいです!」
「いいから、乗れって」
「でもガーディアンは私以外の人は前に乗せては……乗せてるね」
ウィルドさんがサドルに腰をかけても、ぜんぜん嫌がらない。
懐いちゃってるね~。
私はおとなしく荷台に腰をかける。
「じゃあ、帰るか!」
「はい!」
そうして私とガーディアンは、またウィルドさんにお世話になることが決まったのです。
またミナトが文句を言い出す。たく、口の減らない奴だよ。
「つーか! お前が呼び過ぎなんだ! アホ!」
「そーだよ! いい気になって偉そうに!」
私が口を開くより先に、代わる代わる皆がミナトを批判。
「そういうあんたが穴から出ればいいでしょ! 責任持ちなよ!」
「そうだそうだ!」
揃ってミナトさんを押し出そうとする。
「えっ? や、止めてくれよ……! 帰りたいんだよ、俺は……!」
皆に押しだされて、ミナトさんは半泣きになってしまった。
「私だってそうだよ!」
「俺だって!」
と、ギッシリ詰まってるなかで大喧嘩勃発。
――そんな中、だるまのように固まっていたところからひょい、と飛び出したのがいた。
下へ落下して、見事着地しウィルドさんの元へ。
「ガーディアン!?」
ガーディアンが自ら下へ降りて……!?
「ガーディアンは、俺が責任もって面倒見るから安心しろ、ミサト!」
ウィルドさんがそう言って、いつものように親指を立てる。
「ガ、ガーディアン……」
リーン! とガーディアンがベルを鳴らす。
『心配しないで!』とでも言うように。
もう! 最後までいい子なんだから!
一台分軽くなった。
――けれど、まだ警鐘は鳴り続ける。
「まだ重量オーバーなのか?」
「どうする?」
「ここで駄目でも、後から帰れるの?」
皆口々に言うけれど、打開策が思い浮かばない。
「…………」
――決めた。
「澪ちゃん。もし、私の家族に会うことがあったら私のことを伝えてね」
「――!?」
澪ちゃんは息をのみ、私を見つめる。
黒目がちの瞳が涙で揺らぐ。
「ま、待って! 実里ちゃん! 一緒に帰ろうねって。向こうに帰ってからも一緒に遊ぼうねって……言ったじゃない!」
「だけど、このままじゃ多分、全員帰れそうもなくなっちゃう……」
「なら、私も一緒に降りるよ!」
澪ちゃんの言葉に私は「駄目」と首を振った。
「澪ちゃんまでいなくなったら、お爺ちゃんとお婆ちゃん、立ち直れなくなっちゃうよ? 息子や娘だけじゃなくて孫まで失ってしまったって……哀しくてきっと今頃寝込んでいるかもしれないよ? 帰って安心させてあげて」
私の言葉に澪ちゃんは顔まで歪めた。
「私達、離れてても友達だよ!」
「……うん、ソウルメイトだよね」
ぎゅう、と互いの手を握る。
「じゃあね!」
私は詰まっている転移の穴から抜け出し、下へ落ちていった。
「ミサト!」
私をキャッチしてきれたのはウィルドさん。
「ご、ごめんなさい! 重たいのに……」
「こんなの重たいうちにはいらねーって! ……でも」
とウィルドさんは私を下ろしながら上を見上げる。
「いいのかい?」
と。
「うん。いいの……」
ようやく、警報みたいな音が止まったし。
皆が渦の中心飲み込まれていく。
「実里ちゃん! 実里ちゃんの家族に会うから! 時間がかかっても会ってちゃんと実里ちゃんのこと話すから!」
澪ちゃんが私に向かって、何度も大きく手を振る。
「うん! ありがとう! 澪ちゃん! 元気でね!」
私も手を振り続けた。
皆が見えなくなって、渦が消滅するまで――何度も。
「すいません! ウィルドさん! またしばらくお世話になります!」
私はウィルドさんに向かって、深々と頭を下げる。
「今度こそお金を貯めて、部屋を借りますので! それまでよろしくお願いします!」
「……ミサトが良いなら、ずっと部屋を使っていいんだぞ? 本当に一人になってしまったんだから」
そうだ。私は自分のいた世界に戻ることはしなかった。
今度、いつ「国の危機」が訪れて召喚できる環境が整うのかわからない。
すぐかも知れないし、十年、二十年先かもしれない――
今、国の危機のために召喚された人達はもういない。
私しかいないんだ。
「そんなことないです! 一人じゃありません! だって――」
私はガーディアンに触れる。
「ガーディアンも一緒です」
リリリーン! とガーディアンも同意するようにベルを鳴らした。
そんな私とガーディアンを見て、ウィルドさんは優しげに微笑むと元気づけてくれるように言った。
「そうだな! ガーディアンもいることだし! じゃあ、この素敵なおじさんがまとめて面倒みてやろう!」
「はい! さすがです、ウィルドさん!」
「……一生、な」
「はい?」
何かボソッと言いませんでした?
「ウィルドさん、今なんて言ったんです? 聞こえませんでした」
「何でもねえよ」
「ええ~、絶対何か言った~! 気になる~!」
「いずれ教えてやるって――よし、ガーディアンは俺が漕いでやろう! ミサトは後ろに乗れ」
「あ、誤魔化した! ずるいです!」
「いいから、乗れって」
「でもガーディアンは私以外の人は前に乗せては……乗せてるね」
ウィルドさんがサドルに腰をかけても、ぜんぜん嫌がらない。
懐いちゃってるね~。
私はおとなしく荷台に腰をかける。
「じゃあ、帰るか!」
「はい!」
そうして私とガーディアンは、またウィルドさんにお世話になることが決まったのです。
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