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ダーク聖女、誕生
その2
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「ミサト、ミオが軟禁されていた棟はどこだ?」
ウィルドさんに聞かれ、ハッとする。
そうだった。私は私の任務「澪ちゃん救出」を実行しないと。
集中だ!
「あそこです」
と指さす。
「東棟か。移動されていると思うが念を入れて確認に行こう」
「はい!」
私はガーディアンのハンドルを左に傾け、方向を変えて東棟へ。
三角屋根の棟が全部で四つある。
とりあえず東棟の、澪ちゃんが出てきた窓を覗くけど、人の気配がなかった。
「やっぱ、移動されてるみたいです」
「一通り見て回って、それから中へ侵入しよう。親父達は下から上へ向かって制圧するから、俺達は上からだ」
とウィルドさん。
「分かりました」
私は四つの全部の棟の最上階を確認する。
「最上階にはいないみたい」
どこの棟にもいない。
「可能性が高いのは君主が住む居住エリアだな。そこにいなければ王や王太子締め上げて吐かせるしかねぇ」
「本当に吐かないように聞いてくださいね?」
ちょっと怖い。やりすぎて相手の胃の内容物全部出しそうな雰囲気だよ、ウィルドさん。
背中越しにブルッっとくる気配に、私は冷や汗を掻く。
「とりあえず、どこかの棟から侵入するしかないな」
「そうですね」
上から虱潰しに部屋を探すしかないかな――城の広さを目視してゲンナリする私だったが、最後に確認した棟の屋根裏部屋に侵入した私達はあまりの静けさに首を傾げる。
「シッ」とウィルドさんが口に人差し指をあて、静かにするよう私に促してきて、私も頷きながらガーディアンのベルを手で塞ぐ。
ウィルドさんは腰に下げていた短めの包丁(といっても30センチはある)を手に持ち替え、扉ち近づきゆっくりと開けた。
兵士達が飛びかかってくる? ――と思ったけれど、開けた先も誰もいなかった。
それでもウィルドさんは警戒を解かず、緊迫した顔で包丁を両手で持ち素早く部屋の外へ出る。
けれど外も誰もいなかったらしく、
「ミサト、出てきていいぜ」
と呼んだ。
私は「おいで」とガーディアンと一緒に部屋から出る。
螺旋状の階段が目の前に広がる。
けれど、人の気配なんてないどころか、ネズミ一匹いないような静けさだ。
「とりあえず、降りるか」
とウィルドさんと、途中にある部屋を確認しながら下へ降りていく。
「静かですね……」
「皆、正門である城門に集まってしまったのか。裏からも仲間が襲撃してるからな。手が回らないのかもしれないが……それにしたってこんなに人がいないとは……」
訝しげているウィルドの後ろをついていく。
「……あ、声がようやく」
遠くから声が聞こえる。
私は声のする方向へ耳を傾けた。
「ああ、やっぱり居住エリアだな」
警戒を解かず、下まで降りていったけれど、その騒がしさに私もウィルドさんも気色を悪くする。
一言で言えば「阿鼻叫喚」的な騒ぎに、私もウィルドさんもガーディアンも進める足を速くした。
「普通じゃねーぞ、この騒ぎ」
「アントンさん達、暴れすぎてるとか? もしかしたらおじさん達かも」
と可能性を口にするけれど、そんな声音じゃない。
――恐ろしい何かが無差別に襲っている、そんな予感を感じざるえない恐怖の混じった大勢の声だ。
渡り廊下を通り、居住区へ向かうとやっぱりそこが発生元みたいだ。
私達は知らず駆けだしていた。
「ウィルド! やばいぞ!」
おっさんズの一人が飛び出してくる。
それから私を見て、ギョッとした後哀しそうな顔をする。
嫌な予感に私の胸の鼓動が速くなった。
「ミサトはここで待ってろ!」
「でも私も行きます! 澪ちゃんがいるんでしょう?」
言葉を詰まらせるおっさんを見て、やっぱり澪ちゃんがあの扉の向こうにいるのは間違いないようだ。
「ここで待たせても結果は同じだ。――行くぞ、ミサト!でも、念のためにガーディアンに乗っておけ」
「はい!」
ウィルドさんの判断に頷き、私はガーディアンのサドルに座る。
「ガーディアン、ミサトを守るんだぞ」
リーン、とガーディアンが返事をする。
「行くぜ!」
「ガーディアン、GO-!」
私達は扉の向こうの喧噪の正体を確かめに乗り込んだ。
――そこは大食堂らしかった。
けれど、テーブルや椅子は倒され、破壊され、テーブルクロスは破かれ、踏まれて酷い有様だ。
そこに兵士やローブを着込んだ魔法使いらしき人。騎士達が無造作に転がっている。
血まで流している人もいて、私は「ひっ」と声を上げた。
――でも
それより私が衝撃を受けたのは――
部屋の中央に浮かぶ、少女の姿だった。
長い黒髪が風もないのに蛇のように揺らぎ、顔色も土気色。
口は邪悪そのものに耳まで裂けて。
瞳は妖しい血の色で、獲物を求めているよう輝いている。
――でもこの顔、制服――私、知ってる……
「……嘘。嘘でしょ……?」
澪ちゃん……?
「やばいぞ、ミサト……」
ウィルドさんが呟く。
「ミオが『ダーク聖女』にチェンジした……」
ウィルドさんに聞かれ、ハッとする。
そうだった。私は私の任務「澪ちゃん救出」を実行しないと。
集中だ!
「あそこです」
と指さす。
「東棟か。移動されていると思うが念を入れて確認に行こう」
「はい!」
私はガーディアンのハンドルを左に傾け、方向を変えて東棟へ。
三角屋根の棟が全部で四つある。
とりあえず東棟の、澪ちゃんが出てきた窓を覗くけど、人の気配がなかった。
「やっぱ、移動されてるみたいです」
「一通り見て回って、それから中へ侵入しよう。親父達は下から上へ向かって制圧するから、俺達は上からだ」
とウィルドさん。
「分かりました」
私は四つの全部の棟の最上階を確認する。
「最上階にはいないみたい」
どこの棟にもいない。
「可能性が高いのは君主が住む居住エリアだな。そこにいなければ王や王太子締め上げて吐かせるしかねぇ」
「本当に吐かないように聞いてくださいね?」
ちょっと怖い。やりすぎて相手の胃の内容物全部出しそうな雰囲気だよ、ウィルドさん。
背中越しにブルッっとくる気配に、私は冷や汗を掻く。
「とりあえず、どこかの棟から侵入するしかないな」
「そうですね」
上から虱潰しに部屋を探すしかないかな――城の広さを目視してゲンナリする私だったが、最後に確認した棟の屋根裏部屋に侵入した私達はあまりの静けさに首を傾げる。
「シッ」とウィルドさんが口に人差し指をあて、静かにするよう私に促してきて、私も頷きながらガーディアンのベルを手で塞ぐ。
ウィルドさんは腰に下げていた短めの包丁(といっても30センチはある)を手に持ち替え、扉ち近づきゆっくりと開けた。
兵士達が飛びかかってくる? ――と思ったけれど、開けた先も誰もいなかった。
それでもウィルドさんは警戒を解かず、緊迫した顔で包丁を両手で持ち素早く部屋の外へ出る。
けれど外も誰もいなかったらしく、
「ミサト、出てきていいぜ」
と呼んだ。
私は「おいで」とガーディアンと一緒に部屋から出る。
螺旋状の階段が目の前に広がる。
けれど、人の気配なんてないどころか、ネズミ一匹いないような静けさだ。
「とりあえず、降りるか」
とウィルドさんと、途中にある部屋を確認しながら下へ降りていく。
「静かですね……」
「皆、正門である城門に集まってしまったのか。裏からも仲間が襲撃してるからな。手が回らないのかもしれないが……それにしたってこんなに人がいないとは……」
訝しげているウィルドの後ろをついていく。
「……あ、声がようやく」
遠くから声が聞こえる。
私は声のする方向へ耳を傾けた。
「ああ、やっぱり居住エリアだな」
警戒を解かず、下まで降りていったけれど、その騒がしさに私もウィルドさんも気色を悪くする。
一言で言えば「阿鼻叫喚」的な騒ぎに、私もウィルドさんもガーディアンも進める足を速くした。
「普通じゃねーぞ、この騒ぎ」
「アントンさん達、暴れすぎてるとか? もしかしたらおじさん達かも」
と可能性を口にするけれど、そんな声音じゃない。
――恐ろしい何かが無差別に襲っている、そんな予感を感じざるえない恐怖の混じった大勢の声だ。
渡り廊下を通り、居住区へ向かうとやっぱりそこが発生元みたいだ。
私達は知らず駆けだしていた。
「ウィルド! やばいぞ!」
おっさんズの一人が飛び出してくる。
それから私を見て、ギョッとした後哀しそうな顔をする。
嫌な予感に私の胸の鼓動が速くなった。
「ミサトはここで待ってろ!」
「でも私も行きます! 澪ちゃんがいるんでしょう?」
言葉を詰まらせるおっさんを見て、やっぱり澪ちゃんがあの扉の向こうにいるのは間違いないようだ。
「ここで待たせても結果は同じだ。――行くぞ、ミサト!でも、念のためにガーディアンに乗っておけ」
「はい!」
ウィルドさんの判断に頷き、私はガーディアンのサドルに座る。
「ガーディアン、ミサトを守るんだぞ」
リーン、とガーディアンが返事をする。
「行くぜ!」
「ガーディアン、GO-!」
私達は扉の向こうの喧噪の正体を確かめに乗り込んだ。
――そこは大食堂らしかった。
けれど、テーブルや椅子は倒され、破壊され、テーブルクロスは破かれ、踏まれて酷い有様だ。
そこに兵士やローブを着込んだ魔法使いらしき人。騎士達が無造作に転がっている。
血まで流している人もいて、私は「ひっ」と声を上げた。
――でも
それより私が衝撃を受けたのは――
部屋の中央に浮かぶ、少女の姿だった。
長い黒髪が風もないのに蛇のように揺らぎ、顔色も土気色。
口は邪悪そのものに耳まで裂けて。
瞳は妖しい血の色で、獲物を求めているよう輝いている。
――でもこの顔、制服――私、知ってる……
「……嘘。嘘でしょ……?」
澪ちゃん……?
「やばいぞ、ミサト……」
ウィルドさんが呟く。
「ミオが『ダーク聖女』にチェンジした……」
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