3 / 34
動けるデブは貴重ですか?
その1
しおりを挟む
「いらっしゃいませ!」
ここ「鷹の目亭」で働かせてもらって早一ヶ月。
私は一日もりもりと働いている。
「ミサト、配達がきたから裏から牛乳を持ってきてくれ!!」
「はい!」
私は客が引いたテーブルから食器を片手にどんどん重ねて、厨房の水を張ってあるシンクに突っ込むと、裏庭に回る。
私の腰まであるミルクタンク二つ。
「よ……いしょっ!」
片手に一本ずつ持って厨房へ。
「持ってきましたよ。いつもの場所に置いておきますね」
「ああ! それからすまん、出前の注文が! 行ってきてくれるか?」
「アイアイサー!」
私はウィルドさんから食事が入った籠を受け取ると、額に手を添えて「敬礼!」ポーズ。
「場所は東エリアにある図書館だ。注文者は館長のカスターさん。時間指定なんだ。A1時までに着くように頑張ってくれ」
「えー! あと十五分じゃないですか! もっと早く言って下さいよ!」
ここから図書館まで徒歩で二十分。間に合うはずない。
「ほら、ミサトの相棒でちゃちゃっと!」
「もう、仕方ないですね!」
へらへらと手を合わせるウィルドさんを睨む私。
まあ、いつものことなので怒っているように見せてるだけだけど。
「帰ってきたら、特製まかない用意しておくから!」
「アイスカフェオレもつけて下さいね!」
「了解」と、ウィルドさんは笑顔で親指をたてる。
仕事中は人使い荒いんだけど、それ以外は優しいおじさんだ。
頑張れば頑張った以上の見返りをくれる。
だから、私もちょっと無理してでも頑張ろう! なんて思う。
「目標到着時間十分! 行くわよ、ガーディアン!」
私は愛チャリのガーディアンに乗るとペダルに足を乗せ、回転させる。
のんびりモードでは駄目だわ! 快速モード!
私は遅刻ぎりぎりで学校に飛び込んだ時を想像して、ペダルを踏む。
「うおおおおおおお!」
唸り声を上げながら、一心不乱にペダルを踏む。
あまり舗装のよくない(これでもこの世界の中では、素晴らしく交通整備はいいらしい)道を走るとゴトゴトと上下に揺れるけどなんのその。
頑張れ私! 頑張れガーディアン! これが終わったらご飯だよ!
「ご苦労様。ウィルドさんによろしく言ってくれ」
「はい。ご利用ありがとうございます!」
私はカスターさんに十人分の昼食を渡すと、元気よく腰を曲げて挨拶をする。
「週末に食べにいくとも伝えておくれ」
「はい! ではご来店お待ちしております!」
出前が終わり役目を終えた私は、帰りはガタガタ道をのんびりと戻る。
といっても、普通モードだけど。
不思議なんだけど、これだけガタガタ揺れるのに出前のご飯は崩れたことがない。
サンドイッチやスープ、また皿に綺麗に並べられたオードブルも、出来上がりの時と変わらない形を保っているのだ。
(これはあれかな? 異世界にきた異能の一つなんだろうか?)
ならチャリを漕ぐ私の身体も、ガタガタ揺れない補正も欲しい……
お店に戻ったらウィルドさん特製まかないが待っていて、道が悪くてガタガタ揺れたままの私の身体は一瞬に元に戻る。
今日は、樽漬けした魚をほぐしたものと野菜をあえて味付けしたものをはさんだサンドイッチと、ベーコン・ほうれん草のミニキッシュにマッシュポテト。それとカフェ・オレ。
「ふわー美味しそう~! いただきまーす!」
手を合わせて今日の生きる糧に感謝してからいただきます。
まず、ほぐした魚と野菜のサンドイッチをパクリ。
「ふぅ~ん! オリーブオイルと香味料の中に樽漬けされ、酸味がばっちりきいている青魚に刻んだ葉物とタマネギを混ぜ、パンに付けたマヨネーズ系の甘みのマッチングがたーまりません!」
至福です! 一汗掻いたあとのご飯はおいしーです!
「あっはっは! ミサトが食べると何でも美味そうに見えるな!」
食べにきたおじさんたちが笑いながら「俺もミサトが食べてるやつ!」とウィルドさんに注文する。
「うまそうじゃないです。本当に美味しいんです!」
食べながら反論。
ウィルドさんはパンを切りながら「よせやい」とぼそり。照れてる。
「しかし、ミサトが働き者で良かったな。お前一人で店と宿屋経営してるから、いつか倒れやしないかと心配してたんだ」
と客のおじさん。
そうなんだ。
確かに宿泊用の二階の部屋は四つしかないし、一階の食堂はカウンター五席とテーブル二つ。数えても最大十三人くらいしか入れないけれど、繁盛していて客がとぎれたことなんてない。
閉店まで満員御礼で、すごい時なんて外に簡易テーブルを設置して立ち飲み席まで作る。
「一人たって、せまい店だ。それに俺の体力は底なしだって言ってるじゃねーか」
「ばっか! いつまでも若い気でいやがって!」
常連客の気安さか、ちょっと口げんかに発展して、「まあまあ」と止める私。
「――そこへ住み込みで働くとか言う女の子が現れた、っていうからよ。安心したんだ。倒れて店ぇ閉められたら楽しみの一つがなくなっちまうからさ」
「えへ! じゃあ私、この店の救世主ですね!」
うん、国は救えないけど店は救えそうだ。
「そうそう! 正直ミサトを見たときは不安だったけどな~」
「ああ……」
「うんうん」とここにいる客が全員、納得とばかり頷く。
ウィルドさんまで頷いてますが……?
「……えっ? どうしてですか?」
「いや、だってさ……」
「なあ……」
皆、私を見て苦笑してる。
この視線、元の世界でも経験あるな……
「横に長いから動けないと思ってました?」
ずばり! という指摘に皆、気まずそうに視線を逸らす。
「ふ……ふふふふふ」
私、不敵の笑み。
「い、いやぁ、だけど、なあ?」
「ああ! ミサト。その辺の若い子より動くし!」
「動きも機敏だし、力もあるしすげーな! って」
皆が必死に私にゴマする姿勢のなか、ウィルドさんが、
「本当に助かってるよ。仕事覚えも早いし、ミサトのおかげで目新しいメニューも増えたし。ありがとな」
といい笑顔を向けてくれる。
――ウィルドさん、いい人だ……本当にいい人だ。
彼の笑顔がまるで仏のようだ。
拝んでいいですか?
ここ「鷹の目亭」で働かせてもらって早一ヶ月。
私は一日もりもりと働いている。
「ミサト、配達がきたから裏から牛乳を持ってきてくれ!!」
「はい!」
私は客が引いたテーブルから食器を片手にどんどん重ねて、厨房の水を張ってあるシンクに突っ込むと、裏庭に回る。
私の腰まであるミルクタンク二つ。
「よ……いしょっ!」
片手に一本ずつ持って厨房へ。
「持ってきましたよ。いつもの場所に置いておきますね」
「ああ! それからすまん、出前の注文が! 行ってきてくれるか?」
「アイアイサー!」
私はウィルドさんから食事が入った籠を受け取ると、額に手を添えて「敬礼!」ポーズ。
「場所は東エリアにある図書館だ。注文者は館長のカスターさん。時間指定なんだ。A1時までに着くように頑張ってくれ」
「えー! あと十五分じゃないですか! もっと早く言って下さいよ!」
ここから図書館まで徒歩で二十分。間に合うはずない。
「ほら、ミサトの相棒でちゃちゃっと!」
「もう、仕方ないですね!」
へらへらと手を合わせるウィルドさんを睨む私。
まあ、いつものことなので怒っているように見せてるだけだけど。
「帰ってきたら、特製まかない用意しておくから!」
「アイスカフェオレもつけて下さいね!」
「了解」と、ウィルドさんは笑顔で親指をたてる。
仕事中は人使い荒いんだけど、それ以外は優しいおじさんだ。
頑張れば頑張った以上の見返りをくれる。
だから、私もちょっと無理してでも頑張ろう! なんて思う。
「目標到着時間十分! 行くわよ、ガーディアン!」
私は愛チャリのガーディアンに乗るとペダルに足を乗せ、回転させる。
のんびりモードでは駄目だわ! 快速モード!
私は遅刻ぎりぎりで学校に飛び込んだ時を想像して、ペダルを踏む。
「うおおおおおおお!」
唸り声を上げながら、一心不乱にペダルを踏む。
あまり舗装のよくない(これでもこの世界の中では、素晴らしく交通整備はいいらしい)道を走るとゴトゴトと上下に揺れるけどなんのその。
頑張れ私! 頑張れガーディアン! これが終わったらご飯だよ!
「ご苦労様。ウィルドさんによろしく言ってくれ」
「はい。ご利用ありがとうございます!」
私はカスターさんに十人分の昼食を渡すと、元気よく腰を曲げて挨拶をする。
「週末に食べにいくとも伝えておくれ」
「はい! ではご来店お待ちしております!」
出前が終わり役目を終えた私は、帰りはガタガタ道をのんびりと戻る。
といっても、普通モードだけど。
不思議なんだけど、これだけガタガタ揺れるのに出前のご飯は崩れたことがない。
サンドイッチやスープ、また皿に綺麗に並べられたオードブルも、出来上がりの時と変わらない形を保っているのだ。
(これはあれかな? 異世界にきた異能の一つなんだろうか?)
ならチャリを漕ぐ私の身体も、ガタガタ揺れない補正も欲しい……
お店に戻ったらウィルドさん特製まかないが待っていて、道が悪くてガタガタ揺れたままの私の身体は一瞬に元に戻る。
今日は、樽漬けした魚をほぐしたものと野菜をあえて味付けしたものをはさんだサンドイッチと、ベーコン・ほうれん草のミニキッシュにマッシュポテト。それとカフェ・オレ。
「ふわー美味しそう~! いただきまーす!」
手を合わせて今日の生きる糧に感謝してからいただきます。
まず、ほぐした魚と野菜のサンドイッチをパクリ。
「ふぅ~ん! オリーブオイルと香味料の中に樽漬けされ、酸味がばっちりきいている青魚に刻んだ葉物とタマネギを混ぜ、パンに付けたマヨネーズ系の甘みのマッチングがたーまりません!」
至福です! 一汗掻いたあとのご飯はおいしーです!
「あっはっは! ミサトが食べると何でも美味そうに見えるな!」
食べにきたおじさんたちが笑いながら「俺もミサトが食べてるやつ!」とウィルドさんに注文する。
「うまそうじゃないです。本当に美味しいんです!」
食べながら反論。
ウィルドさんはパンを切りながら「よせやい」とぼそり。照れてる。
「しかし、ミサトが働き者で良かったな。お前一人で店と宿屋経営してるから、いつか倒れやしないかと心配してたんだ」
と客のおじさん。
そうなんだ。
確かに宿泊用の二階の部屋は四つしかないし、一階の食堂はカウンター五席とテーブル二つ。数えても最大十三人くらいしか入れないけれど、繁盛していて客がとぎれたことなんてない。
閉店まで満員御礼で、すごい時なんて外に簡易テーブルを設置して立ち飲み席まで作る。
「一人たって、せまい店だ。それに俺の体力は底なしだって言ってるじゃねーか」
「ばっか! いつまでも若い気でいやがって!」
常連客の気安さか、ちょっと口げんかに発展して、「まあまあ」と止める私。
「――そこへ住み込みで働くとか言う女の子が現れた、っていうからよ。安心したんだ。倒れて店ぇ閉められたら楽しみの一つがなくなっちまうからさ」
「えへ! じゃあ私、この店の救世主ですね!」
うん、国は救えないけど店は救えそうだ。
「そうそう! 正直ミサトを見たときは不安だったけどな~」
「ああ……」
「うんうん」とここにいる客が全員、納得とばかり頷く。
ウィルドさんまで頷いてますが……?
「……えっ? どうしてですか?」
「いや、だってさ……」
「なあ……」
皆、私を見て苦笑してる。
この視線、元の世界でも経験あるな……
「横に長いから動けないと思ってました?」
ずばり! という指摘に皆、気まずそうに視線を逸らす。
「ふ……ふふふふふ」
私、不敵の笑み。
「い、いやぁ、だけど、なあ?」
「ああ! ミサト。その辺の若い子より動くし!」
「動きも機敏だし、力もあるしすげーな! って」
皆が必死に私にゴマする姿勢のなか、ウィルドさんが、
「本当に助かってるよ。仕事覚えも早いし、ミサトのおかげで目新しいメニューも増えたし。ありがとな」
といい笑顔を向けてくれる。
――ウィルドさん、いい人だ……本当にいい人だ。
彼の笑顔がまるで仏のようだ。
拝んでいいですか?
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる