宰相様は抱き枕がほしい【完結】

うなきのこ

文字の大きさ
上 下
24 / 31

22 引き継ぎ

しおりを挟む
ジョニーが宰相を正式に引き継げるまであとひと月となった頃、ジョニーはすっかりハイドラのように考えたことを表情に出すことはしなくなり自分の下僕も作っていた。
ハイドラの影とジョニーの下僕ではまだまだ大きな差はあるものの王室へひっそり入ることなど造作もない程の腕利きが何人かいる。
ただアルペンジオ邸へは未だ侵入できていない。

「参りますね…このはクリアできなさそう。ハイドラ様、もう少し邸の警備緩めてくれ」
「影を貸したのだからやり方くらいわかっているだろう?」
「それでも貴方の影ほど上手く気配を消せないみたいで。今も上にいるの分かるでしょう?」
「…私が指導しましょうか?」
タジオが自ら指導しようかと申し出るがハイドラに止められる。
「タジオは大人しくしていてくれ。まだだと言っても無茶をして母体を酷使させるつもりはないよ」

城の執務室でまたも膝上に抱えられながら話を進める彼らに最初こそ呆れていたが最近では最早慣れたジョニーはただ遠い目で「仲睦まじいなぁ」と思うのみだった。

「酷使という程でもないですよ
それにハイドラ様の方が今はお辛いでしょう?なのにこんな膝に抱えるなんて。まだまだ元気がお有りのようで?」
昨夜致した情事を思い出したハイドラは珍しく顔を歪ませジョニーにすらバレてしまう。
「こらタジオ、これ以上虐めないでくれ」
「申し訳ありません、下ろしてくれたらやめますよ」
甘ったるい空気になってしまったこの空間には未だ慣れはしないジョニーだったが初めて知った事実があった。
(あれ?子を産むのはタジオだと言っていたから当然タジオが受け入れる側だとおもってたな。なるほど邸に入れたらこういう情報も…どうやって邸に侵入させるか…)

そう考え出したジョニーを見て宰相になるべく最後の課題へやる気を出せたようで何より、と2人は目を合わせ微笑み合った。


その1週間後ついにジョニーの下僕はアルペンジオ邸へ侵入を果たした。
ただ違和感もあった。なぜならあまり苦労せずにすんなりと入れたからだ。
もしかしたら先日の会話で警備を少し緩めてくれたのかもしれない。そう思ったのも束の間で影にあっさりと捕まってしまり、こういった時の対処法は…など追加で指導を施された。
「ハイドラ様、改めてありがとうございます。おかげで出来そうです」
侵入することが宰相を引き継ぐ最後の課題でそれを見事なし得たジョニーの下僕たち。
その下僕たちへ指導を施した影らの報告によれば問題なく今後も仕事できる域にはあるとの事。

ハイドラは民のことを考えないような者に宰相を引き継がせる予定など更々なく、ジョニーの行動や意志も改めて確認した上で宰相という立場を退いた。
勿論王城に影を忍び込ませるのは継続だが。

後継者を作り始めたと話が出た瞬間から纒わり付く貴族たちを暗に「忙しいから」と告げて華麗に避けてきたが宰相を退いた今なら暇だろうと深い交流を求める者も増えてしまった。

「笑顔、やめたらどうですか?」
今までやらなくてもいい仕事を民の為にと我慢して笑顔で対応してきたハイドラへタジオは捨ててしまえと助言する。
「どうやら張り付いてしまったようでね…困ったものだ。
王もどうにかしたいが先に身の回りから整理していこうかな。あちらにはジョニーがいるしね」
「手筈は整っていますよ。あとはハイドラ様が許可を出して頂けたらと」
「ふふ、さすが私の優秀な子だね!頼もしいよ」
見惚れて動けなくなるほど美しい笑顔にタジオは蕩ける感覚を味わうが直ぐに持ち直す。
「あなたの育てた子であり、伴侶ですから当然ですよ」
「せっかく身軽になったのだからこちらもしようか」
「はい」

─────

「あの人たちがイチャついてる気配がする。と言っている場合ではなくてこの量をあの人たちは熟していたのか…死にそう。」
誰にともなく宰相の執務室で独りごちたジョニーの目の前にはおよそ確認だけでも数日かかりそうな書類の山が聳えていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻on vacation

夕凪
BL
BL団地妻第二弾。 団地妻の芦屋夫夫が団地を飛び出し、南の島でチョメチョメしてるお話です。 頭を空っぽにして薄目で読むぐらいがちょうどいいお話だと思います。 なんでも許せる人向けです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

もう一度。俺と。

Kyrie
BL
Twitterで矢の字@紫裕りうさんから投げられたお題 "ある日俺が目覚めると俺の世界が微妙に違う。 何がどう違うのかと聞かれたらよく分からないのだが何かが違う。何が起こっているのか分からずにパニックを起こしていたら、親友だった友人に「お前は俺の恋人だ」と告げられるパラレルファンタジー" https://twitter.com/yaguruma_yanozi/status/1218172697965780993?s=20 を基にしたお話。 * 本編全3話の予定。高校の同級生の小さなお話。 なんでもおいしく食べる人向け。 * 他サイトにも掲載しています。

【完結】神様はそれを無視できない

遊佐ミチル
BL
痩せぎすで片目眼帯。週三程度で働くのがせいっぱいの佐伯尚(29)は、誰が見ても人生詰んでいる青年だ。当然、恋人がいたことは無く、その手の経験も無い。 長年恨んできた相手に復讐することが唯一の生きがいだった。 住んでいたアパートの退去期限となる日を復讐決行日と決め、あと十日に迫ったある日、昨夜の記憶が無い状態で目覚める。 足は血だらけ。喉はカラカラ。コンビニのATMに出向くと爪に火を灯すように溜めてきた貯金はなぜか三桁。これでは復讐の武器購入や交通費だってままならない。 途方に暮れていると、昨夜尚を介抱したという浴衣姿の男が現れて、尚はこの男に江東区の月島にある橋の付近っで酔い潰れていて男に自宅に連れ帰ってもらい、キスまでねだったらしい。嘘だと言い張ると、男はその証拠をバッチリ録音していて、消して欲しいなら、尚の不幸を買い取らせろと言い始める。 男の名は時雨。 職業:不幸買い取りセンターという質屋の店主。 見た目:頭のおかしいイケメン。 彼曰く本物の神様らしい……。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

ペイン・リリーフ

こすもす
BL
事故の影響で記憶障害になってしまった琴(こと)は、内科医の相澤に紹介された、精神科医の篠口(しのぐち)と生活を共にすることになる。 優しく甘やかしてくれる篠口に惹かれていく琴だが、彼とは、記憶を失う前にも会っていたのではないかと疑いを抱く。 記憶が戻らなくても、このまま篠口と一緒にいられたらいいと願う琴だが……。 ★7:30と18:30に更新予定です(*´艸`*) ★素敵な表紙は らテて様✧︎*。 ☆過去に書いた自作のキャラクターと、苗字や名前が被っていたことに気付きました……全く別の作品ですのでご了承ください!

処理中です...