宰相様は抱き枕がほしい【完結】

うなきのこ

文字の大きさ
上 下
21 / 31

19 宰相の後継

しおりを挟む
「ハイドラ様」
「ダメだよタジオ」
まだ何も言っていないが先回りして否定される。
これでは仕事が進まない。
「ですがいつ誰が尋ねてくるかも分からないのですから」
「それならもう少しだけ…」
ハイドラはそういうと膝に向かい合わせで抱えていたタジオをギュッと抱きしめる。
自宅でなら離してくれなどと言い出さないのだがここは城内の執務室だ。
宰相であるハイドラを訪ねて来る者も少なくない。
訪問者が来た時にすぐ対処できるように離れていたいのだがそれを許してくれなかった。
「抱き合うと幸せな気分になるそうだよ  私は今、君から幸せを感じでいるが君はどうかな?幸せかい?」
そんなこと聞かなくても分かっているだろうに問いかける。
こういう所がすごく可愛らしいなと思ってしまう。
「貴方の隣にいるだけでも幸せですがこうしていると更に幸せですね」
満足そうに微笑むハイドラの顔が美しくて見とれていると扉を叩く音と入室の許可を願う声が聞こえた。
「…名残惜しいな」
「いつでもできるのですから離してください」
タジオの腰を掴んでいた手が離れ、ハイドラの膝上から降りて服装を整える。
「入りたまえ」
「失礼します」
宰相後継のジョニー・ラグレイが訪ねてきた。
年齢はハイドラより少し上の齢46だが国の補佐をする立場で言えばハイドラと同じく若造の部類だ。
ハイドラ程ではないにしろ侍従にしてはなかなかの手練と有名で後継にはジョニーラグレイをとハイドラたっての希望で声を掛けていた。

侍従という立場は通常なら家名の無い者がなる様な働き口と言われるが国王に仕える者は皆貴族であった。
国王という立場には庶民では務まらない仕事が多く存在する。
国王に仕えるに値すると選ばれた者は誇らしく思っていた。

「書類仕事ばかりで疲れただろう?この3日間お疲れ様」
貴族社会では年齢よりも地位が優先される為に敬語は使われないがジョニー・ラグレイはハイドラとは同じ地位の上位貴族だ。
同位なら年上相手には通常は敬語を使う。
ともすれば何故ジョニー相手に敬語を使うのか。
本人が気軽に話してくれないと仕事がやりにくい、との事だった。
「ありがとう、なかなか大変だな宰相というのは。肩がこる」
「でしょう?だから使は使った方がいい」
「そこの彼も使かな?」
「貸さないしあげないよ」
本気には取っていないが釘を刺す。
まだ後継にと決まって日は浅いもののこのジョニーと意気投合して大分打ち解けていた。
「私も貴方みたいにでもしようかな」
慈善事業なんて言うが要は『使える物を育てる』という事だろう。
容易く育て上げることなんてできないがハイドラがジョニーを気に入っている様だし影の1人を貸すくらいはしそうだ。
ジョニーを支援することはつまり国民を支援すると同義だ。
手を抜くはずもない。

「…育てるのは大変だよジョニー。それとやらないだろうけど無理強いは許さないよ」
鋭い目でジョニーを見遣る。
ハイドラが育て上げた影らはみんなハイドラの為に動く。ハイドラの為に先回りして役に立ちたくて技術を得た。その努力は簡単には手に入らない。
人を思いやるハイドラだからこそ着いていくのだとそんな眼差しをハイドラへ向けた。
「タジオはハイドラを慕っているんだね。なるほど。尊敬して貰えるように動いた方が確かに得策か…参考にしますよ」

報告と相談に来ただけだからと執務室から出ていく。

「支援はされるんですか?」
「ジョニーの?しないよ。彼は己の力だけでやって行けるだろうからね。
それにしても今まで国王の世話(侍従)をしてただけだなんて勿体ないな」
引き抜きを許可したのは国王だし更にそれに食いついたのもジョニー本人だ。

ハイドラについて国王と謁見する事もあったタジオは『国王の侍従』を捨てて宰相後継を選んだジョニーラグレイに少し違和感を覚えた。
確かに国王侍従よりも宰相の方が立場は上であるがそもそもハイドラに近い能力のあった彼ならハイドラよりも先に宰相の地位につけたのではないだろうか。
何か企みの様なものがあるに違いないが調査をしても大した物は出てこず一旦保留となっていた。
ハイドラが何も言わないのなら問題にはならないだろうと口を噤む。
酷く楽しそうな表情を浮かべていたハイドラは先程まで「タジオで手一杯だ」とタジオを膝に抱えるだけで手をつけていなかった書類にやっと手を伸ばした、
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻on vacation

夕凪
BL
BL団地妻第二弾。 団地妻の芦屋夫夫が団地を飛び出し、南の島でチョメチョメしてるお話です。 頭を空っぽにして薄目で読むぐらいがちょうどいいお話だと思います。 なんでも許せる人向けです。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

土地神になった少年の話【完結】

米派
BL
十五になったら土地神様にお仕えするのだと言われていた。けれど、土地神様にお仕えするために殺されたのに、そこには既に神はいなくなっていた。このままでは山が死に、麓にある村は飢饉に見舞われるだろう。――俺は土地神になることにした。

【完結】神様はそれを無視できない

遊佐ミチル
BL
痩せぎすで片目眼帯。週三程度で働くのがせいっぱいの佐伯尚(29)は、誰が見ても人生詰んでいる青年だ。当然、恋人がいたことは無く、その手の経験も無い。 長年恨んできた相手に復讐することが唯一の生きがいだった。 住んでいたアパートの退去期限となる日を復讐決行日と決め、あと十日に迫ったある日、昨夜の記憶が無い状態で目覚める。 足は血だらけ。喉はカラカラ。コンビニのATMに出向くと爪に火を灯すように溜めてきた貯金はなぜか三桁。これでは復讐の武器購入や交通費だってままならない。 途方に暮れていると、昨夜尚を介抱したという浴衣姿の男が現れて、尚はこの男に江東区の月島にある橋の付近っで酔い潰れていて男に自宅に連れ帰ってもらい、キスまでねだったらしい。嘘だと言い張ると、男はその証拠をバッチリ録音していて、消して欲しいなら、尚の不幸を買い取らせろと言い始める。 男の名は時雨。 職業:不幸買い取りセンターという質屋の店主。 見た目:頭のおかしいイケメン。 彼曰く本物の神様らしい……。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...