君の中へ

うなきのこ

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王宮での仕事

48 必要ない

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「三角くんが好きです!付き合ってください!」
『好き…顔が特に好き。断られるかな…こんな田舎だし三角くんみたいなかっこいい人なんて他にいないしっ』
「…付き合えない」
「っ!」
『うそ!?いま断った!?こんな田舎だけどその中では1番可愛いって言われてるのに!』
「………っ、ぐすっ…ぐすっ…ごめ、こめんね。泣いちゃってごめんなさいっ。」
『泣き落としてどうにかならないかしら…』
「…嘘泣きでしょ、それ」
「えっ」
「じゃ」
「え!?ちょっと!どういうことよ!泣いた女の子を放置するなんて─────!──!?」

こういった告白は何十回も経験したけれど俺の顔はいいらしくて、告白してくるそのほとんどが顔だけしか見ていない。
中身を見ていないのに付き合いでもしたら幻滅されるのだろう。
別れたカップルのを聞けば大抵別れた理由はそれだ。

高校に入った時には周りの声を遮断する術を身につけ必要な時にしか能力を使わなかった。
遺伝か少し勉強すれば余裕だったのでテストは能力を使って狡いことをしなくて済んだし良かったと思う。
親にもそこは疑われたことなんて1度もない。

個別に聞くことが出来たらすごく便利だとは思うけれどそこまで器用には使いこなせなかった。
オンオフのスイッチしかない能力。
使えば疲れるしここぞと言う時とか告白される時とかにしか使えない、なんとも使い勝手の悪い能力だ。

けれど大人になって社会に出ればこの能力には感謝した。
東京という人口の多い街で能力を使うのはかなり疲弊したけれど、少し煩いのを我慢するだけで相手の望む契約内容が丸わかりで、ギリギリのラインを常にせめて利益を齎した。
俺の仕事の出来に合わせて報酬は他の人たちよりもどんどん高くなっていき、24歳と言う若さでも既に高給取りで田舎に暮らす親へと仕送りをしていた。

そういえば最近あきらの顔を見ていないし会いに行こう。


「…………」
真っ白な壁…いや、天井か。
弟に会いに行こうとしたいい所で目が覚めるなんて。
夢の中だけでもせめて会いたかったな。

「今日は何を教えよう」
歯を磨いて顔を洗い、着替えて走りに行く。
丸一日休んだから少し体が重く感じるが概ね問題ない。
軽く4キロほど走ってアパートへと戻ると扉の前にゼレンがたっていた。

「おはようございます、ミオ様」
日が開けて間もないというのにお世話になっていた時よりも更にピシッとした服を着こなすゼレン。
「迎え、ですか…」
部屋へ招き入れて概要を聞くと昨日リンドさんが陛下へ会った時に「付き合うことにしたので手を出されませんように」と宣言したらしい。
わざわざ陛下に言う必要なくないか?と一瞬思ったけれど前に俺の事を好きらしいと取れる事を言っていたし、付き合いの長いリンドさんには陛下の恋心なんて見透かしていたのかもしれない。


「帰りは必要ありません。今後も送迎の必要ないです。リンドさんにもそう伝えて貰えますか?」
「分かりました。一応本人からの言付けだという一筆を頂けますでしょうか」

「送迎の必要なし」としたためた手紙をゼレンへ渡すと彼は胸ポケットへと仕舞う。

「朝食はどうなさいますか」
「え?」
「召し上がるということでしたらなにか作りますが」
「…それもリンドさんが?」
「いえ、私の自発的な行動です。王宮へ向かうにはまだ早いでしょう?」
「そうですね、あと2時間後くらい」

そうだよ。あと2時間もある。
なんでこんな早くに迎えが来たんだ?

「あの、なんでこんな時間に?それにアパート前には馬車が見当たらなかったですけど」
「馬車は裏へ置いてあります。ちゃんと見張りもいますからご安心ください。
この時間に来たのは…リンド様に追い出された形ですね。
護衛を兼ねて早めにと。」
「過干渉ですね…嫌いじゃないですけど、程々にって言っておかないとのちのち大変そう」
「そうですね。私からも一応一言添えておきますがよろしかったですか?」
「お願いします。
ところでゼレン、今から執事としてじゃなくて友達として出勤までの2時間をここで過ごしませんか」
「ふふ、ありがとうございます。正直私も行き過ぎた行動だと思っていたので助かりました。ミオが常識的で良かった」

「リンドさんちょっとズレてますからね…。本当に貴族出身とかじゃないんですか?」
「違いますよ。私と同じ平民です」

前から気になってたこと聞いてもいいかな?2時間もあるし。

「ゼレンとリンドさんって親友なんですよね?いつから友達になったんですか?何がきっかけだったのか知りたいです」

「あまり話せることは無いですが、出会ったのは13歳の時でした。二十年ほど前ですね。」

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