誰にも触れられたくないトコロ 【完結】

うなきのこ

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04 「半田感謝の日」

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両親と祖母の死後から2年目やっと仕事にもプライベートにも余裕が出てきた5月13日。

いつものように三人で出社…とは行かなかった。

前日の夜に酒盛りをして意外にもザルな総一郎を除く他二人は見事に二日酔いになってダウンしている。
巽は1杯目でほろ酔い2杯目で寝た。
愁弥は飲める方だがザルと飲み比べしたせいで絶賛二日酔い中。

どちらも今日は出社しても使い物にならない。

社長が二日酔いで仕事を休むだなんて慕われていたとしても事実を知ったら冷めるだろうと、一人で出社して社員らに質問攻めにあった総一郎は
「愁弥は二日酔いで社長は風邪です」
とサラッとうそぶく。


愁弥はいない事の方が多いので普段からほぼ総一郎が秘書の仕事をしていた。二日酔いでいないからと言って大して仕事量は変わらない。

巽の今日の予定は海外支社との定期報告のみで他の会議は入ってなかったなと社長室で再度確認する。

定期報告は社長じゃなくても問題ないので自身が代打をした。

「おはようございます。今日は社長が体調不良の為私が代わりとなります。よろしくお願いします。」

「おはようございます長谷さん。社長の体調不良の件了解しました。お大事にとお伝えください。

それではまずアメリカ支社の小峰から。今季の動向ですが───」


海外8支社の内どこも大きなトラブルは無かったようでマイナスもない。順調だ。

会議を昼前に終えた総一郎は黒川邸にいる半田へと通信の早いSNSで連絡する。
"そろそろ二人は回復しましたか?"
"いえ巽くんはベッドで寝たまま動けないらしくて愁弥くんもソファーでぐったりですね笑
しじみ汁とお粥は二人とも綺麗に食べてくれました"
"そうですかお世話ありがとうございます。4時頃には引き上げてそちらへ行きますね"
"承知しました"

スマホを閉じると半田が昨日の酒がまだ残っているだろうと気を利かせて持たせた弁当を広げる。
胃に優しい物と二日酔いに効く野菜なども入った物だった。
見た目もいいが栄養バランスも考えられている見事なお弁当へ口を付けるが一人で食べる事に少し寂しくも思っていた。

諸々の仕事を終えた4時前、自身の采配とはいえ時間通りに終わらせた事を褒めて黒川邸へ向かう。


鍵で扉を開けて「ただいま」と言おうとした時ドンッと腹に何かぶつかって来た。
痛くはないが何事かとそちらへ顔を向けると巽がしがみついていた。
「そうちゃん…」
「…どうした?」
巽が幼少期に使っていた呼び方に可愛いなと一瞬思ったが眦に涙が見えて何かあったのかと後ろにいた愁弥を睨む。

「いやいや何もしてないからな!?玉ねぎだよ」

「あ?玉ねぎ?」

「そー半田さんが「総一郎くんは4時頃仕事を終えて帰ってくるそうですよ」て言ったから晩飯の下拵えを手伝おうかって話になって」

「なんだびっくりした」

「おかえりなさい。総一郎くん。」

「ただいま。ところで二人とも二日酔いはもういいのか?」

「あぁ、大丈夫」
「うん元気だよ」

「そうか。半田さん俺も手伝いますね」

二日酔いの心配は無いらしいと聞くと夕飯の準備をみんなで手伝う。

今日は半田さんレシピの煮込みハンバーグだそう。
分かってる。すごく美味しい。
高級料理店にもよく行く三人だが揃って「半田さんの作る方が万倍美味しい」とよく褒めるメニューだ。

「半田さーんお酒って書いてあるけど赤ワインだよね?どれ開ければいい?」

「開いてなかったですか?右の方のやつ」

「あ、あったわ」

「半田さんこれ今入れればいい?」

「はい、入れてください」

「半田さんお忙しいところすみませんがこのレシピ少し変えました?香草なんて使わなかったですよね?」

「今までならなくても良かったんですけど仕入先のお肉の質が変わったのでそれに合わせて改善しました」

「そうですか、なら入れた方がいいんですね」

そうしてわいわいしながら4人で夕飯を作り上げていく。
それぞれ半田のレシピ通りに作っていくのでほぼ半田の手助けは必要ないまま煮込みハンバーグが完成した。
レシピ通りに作れば半田の作る料理と大差ない。
何故か若干味は劣る事は3人とも承知の上で今日は作った。
半田への恩返しをこうやって時々する可愛いらしい三人だった。

「んー!美味しい!半田さんのレシピで飲食店とか開いたら大人気になるね」

「でもやっぱり半田さんの作る方が味は数段上ですよね。はぁ美味い」

「美味しきゃなんでもいいだろ?まぁ確かに半田さんの作るもんがいちばん美味いけどな」

ひとくち食べる毎に美味しいと口ずさむ三人を半田は微笑ましく見守っていた。

「皆さんが作ってくれたのも美味しいですよ?私の為に作ってくれたものですし余計に^^*ありがとうございます」

「「「どういたしまして」」」

今日は迷惑かけた分、半田を労るデーを急遽制定して風呂も1番に入らせた。

「お風呂お先に頂きました」

「巽が次入るか?」

「いや今日は部屋の風呂にする」

実はそれぞれの部屋に浴槽付きの風呂が備え付けてある。もちろん常駐の半田の部屋にも風呂はある。

普段は5人ほどが窮屈なく並んで入れるほどの大きさの風呂だけを沸かしていた。
個々の部屋に湯を貼るのは半田が大変な想いをするからだ。

それに共有の風呂は露天風呂になっていて枠はヒノキを使っている。水に浸かるととてもいい匂いがしてとてもリラックスできる空間だ。

早朝出勤をしない日はそれぞれ風呂に入ってる間に残りの3人でボードゲームをして就寝時間まで遊んでいた。

「それでいいの?」
「いいんですか?」
「そうですね…」

2人が半田を揺すりに掛けているところに愁弥が風呂から戻る。

「ただーいまー
半田さん、多分この3枚捨てる方がいいですよ」

「そう…じゃあこれ捨てて…3枚貰いますね」

愁弥の提案を素直に受け入れて山札からカードをめくる。

「全員それでいいんだな?」
「「「はい」」」

ディーラー兼半田のアドバイザーになった愁弥が確認を取る。

「オープン」

「うわっ」
「えー」
「流石愁弥くんです…すごい」

ポーカーをしていた。
巽はフルハウス
総一郎はフォーカード
そして半田は愁弥が来る前はツーペアだったが提案を受け入れたあとなんとロイヤルストレートフラッシュ

その場に居なかったはずの愁弥は捨てられた手札と2人のやり取り、半田の手札を加味して見事引き当てた。

「半田さん持ってますね~!まさかちゃんとロイヤル引くとは」

「いや愁弥くんのおかげですよ
ほら、賭けてたお菓子総取りですよ?半分どうぞ」

「ありがとう」

愁弥のお陰だと言いながらちゃっかり半分かっさらっていく。強かだ。

「今日はとても楽しかったです、さて、もう寝ましょうか」

「「「半田さんおやすみなさい」」」

「おやすみなさい」

半田をソファーから見送りカードやチェスを片付けてゆく
「さっきの、愁くんよく当てれたよね?」

「ん?」

「カードだよ。裏になってるカードもあったのに」

「あぁ、あれは洞察力がありゃよっぽど勝てるぞ。
総一郎も多分山札に何があるかくらい分かってただろ?」

「まぁな」

「えーーーーなにそれどういう頭してるんだ!見せろ!」

がばりと二人の頭を引き寄せ中身を見る素振りをする。

「こらこら巽、かち割ろうとするな」


半田は自室に届くきゃっきゃと聴こえる声に賑やかだなとそれを肴に夜酒を愉しんだ。
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