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01 「両親と祖母」
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日本には四季があり冬の冷たい風に代わる暖かい風が流れて穏やかな日が続く。それでも朝夜と昼の温度差がまだ残る。
日本の代表花と親しまれる桜の蕾も膨らみ今にも咲きそうだ。
株式会社CROW輸送の東京本社の社長室から外を眺めていた黒川 巽(27)は静かに桜を見下ろす。
「もう…2度目の春か…」
-----
両親と祖母が亡くなった事故から2年経つ。
2年前の3月28日。その日は風のないとても陽気な日だった。
祖父(鴻)の趣味である釣りに魚好きな巽はついて行く。
同日。
バードウォッチングが趣味な祖母に付き合う両親。
別行動で移動していた矢先。
高速道路で居眠り運転した大型トラックが追突し4台も絡む大事故が起きた。
そのトラックに最初に追突されたのが祖母と両親の乗った車だった。
運転手も含めた4人が死亡。
2人へ連絡が行ったのは黒川邸からさほど遠くない海へ行って魚を数匹釣り上げた後だった。
運転手が「急いで病院へ」と慌てて伝えに来た。
巽は事故の知らせに呆然とし祖父は動揺したものの直ぐに病院へ行こうと運転手を促すが手が震えていてこちらも事故を起こしそうだと判断してタクシーを呼ぶ。
死に目には会えなかった。即死だったらしい。
遺体の確認は祖父が行なった。
警察からは「綺麗にはしましたがおよそ見れる状態ではありませんので無理なさらないでください」と。
巽が茫然としている間に葬儀が終わっていた。
その後のニュースでみたトラックに押し潰されて原型のない車。
巻き込まれた3台とトラック運転手は重傷ではあるものの怪我で済んだという報道。
泣く暇も怒る暇もなく数日がすぎた。
「巽。しっかりしなさい、巽。」
「…はい…」
「死んでから10日も過ぎた。巽。悲しめるのは今だけだぞ?泣くなら今のうちに泣きなさい。慎も葉月ちゃんも秋代ももう居ない。受け入れろ」
落ち着いた低音で未だ死んだという事実に向き合いきれていない巽へ鴻は手を伸ばして抱きしめる。
「私も寂しい。でもいつまでも泣いてはいられない。お前が次代のCROWを背負わなければならない。私がちゃんと支えてやるから。安心しなさい」
もう居ない。泣け。
その言葉に胸が苦しくなり一気に涙が溢れる。
「かあさんっ…とうさん…ばあちゃっ……ぅ…」
もう居ない相手を何度も呼びながら泣き続けた。
-----
「ねぇ、桜っていつ咲くっけ?来週休みだし花見しない?」
暗い思い出を押し込む様に明るい声でそばに居た秘書へ提案してみた。
「蕾も膨らみきっているので丁度来週には満開になってると思います。花見には最適ですね」
「じいちゃんと墓参り行ってからになるけどその後総くんと愁くんと合流して花見、決定ね!」
「決定事項なのか。鴻さんにもちゃんと私達がお邪魔してもいいかお伺いしておくよ、お墓参りも。」
「わかった、よろしく」
周りに誰も居ないと確認してから幼馴染として誘われたのだからと秘書は砕けた口調で了承の返事をした。
目の前にいる秘書、長谷総一郎ともう一人の秘書、西森 愁弥は幼少の頃からの幼馴染で2人は先代である父(慎)の秘書もしていた。
因みに2人は巽より3つ年上で今年31歲になる。
事故後祖父と一緒に経営を支えて巽を社長として育ててくれた。
「そういえば愁くんは?今日は見てない気がする」
余裕がなかったとは言え仕事に身が入り過ぎていただけの巽は秘書が居ない違和感を口にしたが聞かなくても良かったと後悔する。
「あいつは鴻さんと一緒に"取引先の美人と食事"に行きました」
皮肉を込めてか敬語に戻っていた。
「鴻さんは引退したから楽しむのはいいとして。愁弥まで。仕事中なのにすみません。アレの手綱はしっかり持っておけないので。」
「いいよ、今に始まったことじゃないし」
以前から性に奔放だった愁弥へ呆れる。
話題に上がっている愁弥は本人がイケメンだからか恋人に選ぶ人達も男女問わず美形だった。
秘書らしく落ち着いていてもらいたいが出来ないらしい。
がっしりした体型でけれどガチムチという程でもない、身体だけはしっかりしたお兄さん。
ついでに総一郎はイケメンと言うより美人。
こちらも着痩せしているが脱げば所謂細マッチョで均整のとれた美しい体型をしている。
どちらも性の対象には年齢性別関係ないらしく、巽は以前愁弥に尋ねたことがあった。
美人の総一郎とは付き合う事はしないのかと。
2人から冗談じゃない!
と全力否定された。
巽は「きっと1度は付き合ったことあるだろうな」と思っている。
本当にそんな事実はないのだが。
そして黒川家も代々美形揃いで巽もそうだった。
本人は総一郎ほどでは無いと言っているがタイプが違うだけでかなりの美人だ。
総一郎がかっこいい美人とすると巽は可愛い美人。
祖父の鴻も若い美人さん達から未だにモテる程のイケメンで有名だった。
数日後巽の休日に有名な桜の名所へと来ていた。
キャンプ地ということもありレジャーシートを敷いて花見をする観光客が多く、毎年なかなかの人気で今や予約しないと見ることが出来ないほどだった。
さてそんな美形揃いが男4人でそんな所へ花見に行くとこうなる。
「きゃー!イケメンが!」
「あのイケおじみて!素敵!」
「かっこいい~」
「あの人クロウの人だよね?!生で見るの初めてー!」
女性達からは黄色い声
「うっわ…何あそこ」
「おい、そっちばっか見るなよ、迷惑だろ」
「まじでかっこいいな」
「ほんとだクロウの人だ」
女性達の視線が軒並み巽らに向いているのを面白くないと思いつつも顔を見て嫉妬通り越して羨望の眼差しを向けていた。
数百年も続くCROW輸送は美形故に人前に出される事も多く全国どころか世界的にもハリウッドスター並に有名だった。
そんな視線を向けられるが話題の中心になる事などざらにあった4人は特に何も思わず。
巽と総一郎は花見
鴻と愁弥は花より団子で。
「じいちゃん、うちにも桜植えない?紅葉も綺麗だけどね」
「そうだな。なら山買った方が早いか?確か知り合いの持ち山が紅葉も桜もあったと思うし聞いといてやるよ」
「…いや、買わなくてもいいよ。でも山に入ってもいいのかは聞いといて」
翁の割に口調が若くはっきりと喋る。
こういうところも若い人に受けるのだろうなと関心している総一郎は最早"山を買う"という気軽な発言に驚きもしなかった。
「愁弥、お前巽の好物は残せよ」
「んう!」
既になくなりそうだ。
懇意にしてくれている和菓子屋の店主から墓参りと花見に行くなら、と普段は作っていない黒川家のためだけの和菓子が詰められたお重。
それを半分も一人で平らげた。
「遠慮せず食べなさい、私は桜を見て食休みするから」
「俺も団子より花だから」
「ありがとうございます」
「はぁ…少しは桜を見ろ」
一見バカだが無遠慮なわけでもない。
これでいてちゃんと秘書が務まるほどの頭を持っているからそれ以上注意はしない。
30分ほどして風呂敷で綺麗に平らげたお重を包み、レジャーシートも片付けていく。
「山貸してくれるってよ」
なんの事だと3人は鴻へ視線を向ける。
「桜と紅葉だよ」
いつ連絡とったんだ…と3人がそう思った。
昔からどこか不思議な爺さんだとは感じていたけど深堀はしない。なんか知っては行けないような気がしていたからだ。
まだその山は満開にはなっていないらしく東京とはひと月ズレるらしい。
鴻が「巽が楽しかったのなら行きたい社員連れてまた行くか」
と言うので賛成したのだが。
後日東京本社社内報で鴻が招集かけたら社員全員が行くと返事があって巽はびっくりした。
こんなに全ての人間が行きたいなんて言うか?と巽は思ったが「まぁじいちゃんが招集したのだし」と納得した。人徳だなぁとしか思ってない。
社員はCROW万歳!とウキウキしていた。
ひと月後に借りた山へバス数台で社員と花見に行ったがそちらもとても楽しくて巽は思い切り羽を伸ばしたのだった。
日本の代表花と親しまれる桜の蕾も膨らみ今にも咲きそうだ。
株式会社CROW輸送の東京本社の社長室から外を眺めていた黒川 巽(27)は静かに桜を見下ろす。
「もう…2度目の春か…」
-----
両親と祖母が亡くなった事故から2年経つ。
2年前の3月28日。その日は風のないとても陽気な日だった。
祖父(鴻)の趣味である釣りに魚好きな巽はついて行く。
同日。
バードウォッチングが趣味な祖母に付き合う両親。
別行動で移動していた矢先。
高速道路で居眠り運転した大型トラックが追突し4台も絡む大事故が起きた。
そのトラックに最初に追突されたのが祖母と両親の乗った車だった。
運転手も含めた4人が死亡。
2人へ連絡が行ったのは黒川邸からさほど遠くない海へ行って魚を数匹釣り上げた後だった。
運転手が「急いで病院へ」と慌てて伝えに来た。
巽は事故の知らせに呆然とし祖父は動揺したものの直ぐに病院へ行こうと運転手を促すが手が震えていてこちらも事故を起こしそうだと判断してタクシーを呼ぶ。
死に目には会えなかった。即死だったらしい。
遺体の確認は祖父が行なった。
警察からは「綺麗にはしましたがおよそ見れる状態ではありませんので無理なさらないでください」と。
巽が茫然としている間に葬儀が終わっていた。
その後のニュースでみたトラックに押し潰されて原型のない車。
巻き込まれた3台とトラック運転手は重傷ではあるものの怪我で済んだという報道。
泣く暇も怒る暇もなく数日がすぎた。
「巽。しっかりしなさい、巽。」
「…はい…」
「死んでから10日も過ぎた。巽。悲しめるのは今だけだぞ?泣くなら今のうちに泣きなさい。慎も葉月ちゃんも秋代ももう居ない。受け入れろ」
落ち着いた低音で未だ死んだという事実に向き合いきれていない巽へ鴻は手を伸ばして抱きしめる。
「私も寂しい。でもいつまでも泣いてはいられない。お前が次代のCROWを背負わなければならない。私がちゃんと支えてやるから。安心しなさい」
もう居ない。泣け。
その言葉に胸が苦しくなり一気に涙が溢れる。
「かあさんっ…とうさん…ばあちゃっ……ぅ…」
もう居ない相手を何度も呼びながら泣き続けた。
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「ねぇ、桜っていつ咲くっけ?来週休みだし花見しない?」
暗い思い出を押し込む様に明るい声でそばに居た秘書へ提案してみた。
「蕾も膨らみきっているので丁度来週には満開になってると思います。花見には最適ですね」
「じいちゃんと墓参り行ってからになるけどその後総くんと愁くんと合流して花見、決定ね!」
「決定事項なのか。鴻さんにもちゃんと私達がお邪魔してもいいかお伺いしておくよ、お墓参りも。」
「わかった、よろしく」
周りに誰も居ないと確認してから幼馴染として誘われたのだからと秘書は砕けた口調で了承の返事をした。
目の前にいる秘書、長谷総一郎ともう一人の秘書、西森 愁弥は幼少の頃からの幼馴染で2人は先代である父(慎)の秘書もしていた。
因みに2人は巽より3つ年上で今年31歲になる。
事故後祖父と一緒に経営を支えて巽を社長として育ててくれた。
「そういえば愁くんは?今日は見てない気がする」
余裕がなかったとは言え仕事に身が入り過ぎていただけの巽は秘書が居ない違和感を口にしたが聞かなくても良かったと後悔する。
「あいつは鴻さんと一緒に"取引先の美人と食事"に行きました」
皮肉を込めてか敬語に戻っていた。
「鴻さんは引退したから楽しむのはいいとして。愁弥まで。仕事中なのにすみません。アレの手綱はしっかり持っておけないので。」
「いいよ、今に始まったことじゃないし」
以前から性に奔放だった愁弥へ呆れる。
話題に上がっている愁弥は本人がイケメンだからか恋人に選ぶ人達も男女問わず美形だった。
秘書らしく落ち着いていてもらいたいが出来ないらしい。
がっしりした体型でけれどガチムチという程でもない、身体だけはしっかりしたお兄さん。
ついでに総一郎はイケメンと言うより美人。
こちらも着痩せしているが脱げば所謂細マッチョで均整のとれた美しい体型をしている。
どちらも性の対象には年齢性別関係ないらしく、巽は以前愁弥に尋ねたことがあった。
美人の総一郎とは付き合う事はしないのかと。
2人から冗談じゃない!
と全力否定された。
巽は「きっと1度は付き合ったことあるだろうな」と思っている。
本当にそんな事実はないのだが。
そして黒川家も代々美形揃いで巽もそうだった。
本人は総一郎ほどでは無いと言っているがタイプが違うだけでかなりの美人だ。
総一郎がかっこいい美人とすると巽は可愛い美人。
祖父の鴻も若い美人さん達から未だにモテる程のイケメンで有名だった。
数日後巽の休日に有名な桜の名所へと来ていた。
キャンプ地ということもありレジャーシートを敷いて花見をする観光客が多く、毎年なかなかの人気で今や予約しないと見ることが出来ないほどだった。
さてそんな美形揃いが男4人でそんな所へ花見に行くとこうなる。
「きゃー!イケメンが!」
「あのイケおじみて!素敵!」
「かっこいい~」
「あの人クロウの人だよね?!生で見るの初めてー!」
女性達からは黄色い声
「うっわ…何あそこ」
「おい、そっちばっか見るなよ、迷惑だろ」
「まじでかっこいいな」
「ほんとだクロウの人だ」
女性達の視線が軒並み巽らに向いているのを面白くないと思いつつも顔を見て嫉妬通り越して羨望の眼差しを向けていた。
数百年も続くCROW輸送は美形故に人前に出される事も多く全国どころか世界的にもハリウッドスター並に有名だった。
そんな視線を向けられるが話題の中心になる事などざらにあった4人は特に何も思わず。
巽と総一郎は花見
鴻と愁弥は花より団子で。
「じいちゃん、うちにも桜植えない?紅葉も綺麗だけどね」
「そうだな。なら山買った方が早いか?確か知り合いの持ち山が紅葉も桜もあったと思うし聞いといてやるよ」
「…いや、買わなくてもいいよ。でも山に入ってもいいのかは聞いといて」
翁の割に口調が若くはっきりと喋る。
こういうところも若い人に受けるのだろうなと関心している総一郎は最早"山を買う"という気軽な発言に驚きもしなかった。
「愁弥、お前巽の好物は残せよ」
「んう!」
既になくなりそうだ。
懇意にしてくれている和菓子屋の店主から墓参りと花見に行くなら、と普段は作っていない黒川家のためだけの和菓子が詰められたお重。
それを半分も一人で平らげた。
「遠慮せず食べなさい、私は桜を見て食休みするから」
「俺も団子より花だから」
「ありがとうございます」
「はぁ…少しは桜を見ろ」
一見バカだが無遠慮なわけでもない。
これでいてちゃんと秘書が務まるほどの頭を持っているからそれ以上注意はしない。
30分ほどして風呂敷で綺麗に平らげたお重を包み、レジャーシートも片付けていく。
「山貸してくれるってよ」
なんの事だと3人は鴻へ視線を向ける。
「桜と紅葉だよ」
いつ連絡とったんだ…と3人がそう思った。
昔からどこか不思議な爺さんだとは感じていたけど深堀はしない。なんか知っては行けないような気がしていたからだ。
まだその山は満開にはなっていないらしく東京とはひと月ズレるらしい。
鴻が「巽が楽しかったのなら行きたい社員連れてまた行くか」
と言うので賛成したのだが。
後日東京本社社内報で鴻が招集かけたら社員全員が行くと返事があって巽はびっくりした。
こんなに全ての人間が行きたいなんて言うか?と巽は思ったが「まぁじいちゃんが招集したのだし」と納得した。人徳だなぁとしか思ってない。
社員はCROW万歳!とウキウキしていた。
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