神世界 Fascinate

由宇ノ木

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分離する天上の世界 (2) 妖精王と精霊王

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妖精界を統べる王レオニードは、天界に与しているわけではない。だからといって魔界に与しているわけでもなかった。
妖精界は中立の位置にいるのだ。
全ての世界は互いに引き合っているという意味を、一番よく知っていたし、一番よく利用もしている。

まだ王になる前の若い頃だ。
レオニードは人間界に紛れ込んで悪さをしていた。人間をからかうのが面白かったのだ。
しかし、魔界の者にケガを負わされ、命が危うくなったときに、レオニードは一人の人間に助けられた。
彼は己の生命エネルギーを使い、レオニードを助けてくれたのだ。
レオニードは初めて人間に、人間の持つ強い生命エネルギーに感動し、感謝した。

レオニードを助けた人間、ジェス・クライスト。

彼こそがのちの、人間から初めて大天使ラファエルとなった者だった。

それゆえ、ラファエルの命令にて、神官シグルトや天界の片翼の天使達が妖精王の庇護を求めて北の樹海を訪れた時、何も言わずに受け入れたのである。

何よりも、ジェス・クライスト・ラファエルを無惨にも死に追いやった天使長エアリエルを、許すことはできない。

「天使長エアリエル、私に何用か」

銀のオーラをまとった妖精王レオニードが、空の境界の際に立ち、天使長エアリエルの軍勢と対峙していた。

「天界の神に背いた反逆者シグルトと追随した者達の引き渡しを願おう」

エアリエルの軍勢は、妖精界との天地の境界を隙間なく埋め尽くしている。
一言あれば、軍勢は妖精王の配下である北の樹海に攻めいるだろう。

「天使長ごときが何故なにゆえに私に戦いを挑むか」
妖精王はクスクスと嘲笑わらう。まるでエアリエルを煽っているかのごとく。

「妖精王よ。あなたが魔界と通じてるのはもはや周知の事実。戦いに理由があるとしたら、これほどの理由が他にあるのか」

エアリエルは戦う意思があるのを露にすると、腰から剣を抜き、妖精王に突きつけた。
エアリエルの軍勢は身構える。

「世のことわりは天界のみにあらず」
妖精王はそう言うと、わずかばかり後ろを気にかけた。

「天界が世のすべてを支配しているという世迷い言を、未だ信じている愚か者がこれ程いるとは。呆れてしまいます」

金色に薄く輝くベールを被り、妖精王の後ろに現れたのは精霊王だ。
「妖精王にお仕えする精霊王ジュスティーヌ、参上いたしました。レオニード様」

周囲がどよめいた。
姿を現すことのなかった精霊王が現れたのだ。
精霊王が姿を現すのは天界の神の御前のみと言われている。それは、精霊界が天界を指示しているとされる証でもあった。

天界の天使達も、恐らくエアリエルでさえ、精霊王と会うのは初めてだろう。

妖精王は再び小さく笑い、
「ジュスティーヌ、下がっていなさい。あなたがいちいちすべき相手ではない」
と、精霊王に言葉をかけた。

「わたくし、天界の神に会いに行きましたの。けれど会えませんでした」
ジュスティーヌはレオニードの肩に触れ寄り添った。
「会えなかったとは?」
「はい。回廊を通れなかったのです。強い結界が張られていました」
「ほう・・」
「ですから聞きたいのです。エアリエル、おまえ、神に何をしたの?」

天使達は動揺した。

「神に会えぬとしたらそれはあなたが精霊王ではない証であろう。だが、我々はあなた方と争うためでなく、謀反を企てた者たちの引き渡しを要求しにきたのだ。おとなしく引き渡しさえして頂ければ良いだけのこと」
エアリエルは涼しげに言った。

「私に剣を突きつけて、争う気はないと申すか、エアリエル。先ほどの私を斬りつけんばかりの意気はどうしたのだ?」

刹那、エアリエルの空の軍勢の半分が突然消え、残った天使達は何が起きたかわからず呆然とした。

エアリエルも平静を装ってはいるものの、見開いた眼に驚きが読み取れた。

「レオニード様、わたくし、精霊王の偽物と言われてしまいましたわ」
「あなたに対する無礼は私が払いましょう。これからじっくりとね」

妖精王がエアリエルの瞳を睨付ねめつけた。

エアリエルは戦闘の開始を告げるべく、左手をあげた。




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