2 / 2
分離する天上の世界 (2) 妖精王と精霊王
しおりを挟む
妖精界を統べる王レオニードは、天界に与しているわけではない。だからといって魔界に与しているわけでもなかった。
妖精界は中立の位置にいるのだ。
全ての世界は互いに引き合っているという意味を、一番よく知っていたし、一番よく利用もしている。
まだ王になる前の若い頃だ。
レオニードは人間界に紛れ込んで悪さをしていた。人間をからかうのが面白かったのだ。
しかし、魔界の者にケガを負わされ、命が危うくなったときに、レオニードは一人の人間に助けられた。
彼は己の生命エネルギーを使い、レオニードを助けてくれたのだ。
レオニードは初めて人間に、人間の持つ強い生命エネルギーに感動し、感謝した。
レオニードを助けた人間、ジェス・クライスト。
彼こそがのちの、人間から初めて大天使ラファエルとなった者だった。
それゆえ、ラファエルの命令にて、神官シグルトや天界の片翼の天使達が妖精王の庇護を求めて北の樹海を訪れた時、何も言わずに受け入れたのである。
何よりも、ジェス・クライスト・ラファエルを無惨にも死に追いやった天使長エアリエルを、許すことはできない。
「天使長エアリエル、私に何用か」
銀のオーラをまとった妖精王レオニードが、空の境界の際に立ち、天使長エアリエルの軍勢と対峙していた。
「天界の神に背いた反逆者シグルトと追随した者達の引き渡しを願おう」
エアリエルの軍勢は、妖精界との天地の境界を隙間なく埋め尽くしている。
一言あれば、軍勢は妖精王の配下である北の樹海に攻めいるだろう。
「天使長ごときが何故に私に戦いを挑むか」
妖精王はクスクスと嘲笑う。まるでエアリエルを煽っているかのごとく。
「妖精王よ。あなたが魔界と通じてるのはもはや周知の事実。戦いに理由があるとしたら、これほどの理由が他にあるのか」
エアリエルは戦う意思があるのを露にすると、腰から剣を抜き、妖精王に突きつけた。
エアリエルの軍勢は身構える。
「世の理は天界のみにあらず」
妖精王はそう言うと、わずかばかり後ろを気にかけた。
「天界が世のすべてを支配しているという世迷い言を、未だ信じている愚か者がこれ程いるとは。呆れてしまいます」
金色に薄く輝くベールを被り、妖精王の後ろに現れたのは精霊王だ。
「妖精王にお仕えする精霊王ジュスティーヌ、参上いたしました。レオニード様」
周囲がどよめいた。
姿を現すことのなかった精霊王が現れたのだ。
精霊王が姿を現すのは天界の神の御前のみと言われている。それは、精霊界が天界を指示しているとされる証でもあった。
天界の天使達も、恐らくエアリエルでさえ、精霊王と会うのは初めてだろう。
妖精王は再び小さく笑い、
「ジュスティーヌ、下がっていなさい。あなたがいちいちすべき相手ではない」
と、精霊王に言葉をかけた。
「わたくし、天界の神に会いに行きましたの。けれど会えませんでした」
ジュスティーヌはレオニードの肩に触れ寄り添った。
「会えなかったとは?」
「はい。回廊を通れなかったのです。強い結界が張られていました」
「ほう・・」
「ですから聞きたいのです。エアリエル、おまえ、神に何をしたの?」
天使達は動揺した。
「神に会えぬとしたらそれはあなたが精霊王ではない証であろう。だが、我々はあなた方と争うためでなく、謀反を企てた者たちの引き渡しを要求しにきたのだ。おとなしく引き渡しさえして頂ければ良いだけのこと」
エアリエルは涼しげに言った。
「私に剣を突きつけて、争う気はないと申すか、エアリエル。先ほどの私を斬りつけんばかりの意気はどうしたのだ?」
刹那、エアリエルの空の軍勢の半分が突然消え、残った天使達は何が起きたかわからず呆然とした。
エアリエルも平静を装ってはいるものの、見開いた眼に驚きが読み取れた。
「レオニード様、わたくし、精霊王の偽物と言われてしまいましたわ」
「あなたに対する無礼は私が払いましょう。これからじっくりとね」
妖精王がエアリエルの瞳を睨付けた。
エアリエルは戦闘の開始を告げるべく、左手をあげた。
妖精界は中立の位置にいるのだ。
全ての世界は互いに引き合っているという意味を、一番よく知っていたし、一番よく利用もしている。
まだ王になる前の若い頃だ。
レオニードは人間界に紛れ込んで悪さをしていた。人間をからかうのが面白かったのだ。
しかし、魔界の者にケガを負わされ、命が危うくなったときに、レオニードは一人の人間に助けられた。
彼は己の生命エネルギーを使い、レオニードを助けてくれたのだ。
レオニードは初めて人間に、人間の持つ強い生命エネルギーに感動し、感謝した。
レオニードを助けた人間、ジェス・クライスト。
彼こそがのちの、人間から初めて大天使ラファエルとなった者だった。
それゆえ、ラファエルの命令にて、神官シグルトや天界の片翼の天使達が妖精王の庇護を求めて北の樹海を訪れた時、何も言わずに受け入れたのである。
何よりも、ジェス・クライスト・ラファエルを無惨にも死に追いやった天使長エアリエルを、許すことはできない。
「天使長エアリエル、私に何用か」
銀のオーラをまとった妖精王レオニードが、空の境界の際に立ち、天使長エアリエルの軍勢と対峙していた。
「天界の神に背いた反逆者シグルトと追随した者達の引き渡しを願おう」
エアリエルの軍勢は、妖精界との天地の境界を隙間なく埋め尽くしている。
一言あれば、軍勢は妖精王の配下である北の樹海に攻めいるだろう。
「天使長ごときが何故に私に戦いを挑むか」
妖精王はクスクスと嘲笑う。まるでエアリエルを煽っているかのごとく。
「妖精王よ。あなたが魔界と通じてるのはもはや周知の事実。戦いに理由があるとしたら、これほどの理由が他にあるのか」
エアリエルは戦う意思があるのを露にすると、腰から剣を抜き、妖精王に突きつけた。
エアリエルの軍勢は身構える。
「世の理は天界のみにあらず」
妖精王はそう言うと、わずかばかり後ろを気にかけた。
「天界が世のすべてを支配しているという世迷い言を、未だ信じている愚か者がこれ程いるとは。呆れてしまいます」
金色に薄く輝くベールを被り、妖精王の後ろに現れたのは精霊王だ。
「妖精王にお仕えする精霊王ジュスティーヌ、参上いたしました。レオニード様」
周囲がどよめいた。
姿を現すことのなかった精霊王が現れたのだ。
精霊王が姿を現すのは天界の神の御前のみと言われている。それは、精霊界が天界を指示しているとされる証でもあった。
天界の天使達も、恐らくエアリエルでさえ、精霊王と会うのは初めてだろう。
妖精王は再び小さく笑い、
「ジュスティーヌ、下がっていなさい。あなたがいちいちすべき相手ではない」
と、精霊王に言葉をかけた。
「わたくし、天界の神に会いに行きましたの。けれど会えませんでした」
ジュスティーヌはレオニードの肩に触れ寄り添った。
「会えなかったとは?」
「はい。回廊を通れなかったのです。強い結界が張られていました」
「ほう・・」
「ですから聞きたいのです。エアリエル、おまえ、神に何をしたの?」
天使達は動揺した。
「神に会えぬとしたらそれはあなたが精霊王ではない証であろう。だが、我々はあなた方と争うためでなく、謀反を企てた者たちの引き渡しを要求しにきたのだ。おとなしく引き渡しさえして頂ければ良いだけのこと」
エアリエルは涼しげに言った。
「私に剣を突きつけて、争う気はないと申すか、エアリエル。先ほどの私を斬りつけんばかりの意気はどうしたのだ?」
刹那、エアリエルの空の軍勢の半分が突然消え、残った天使達は何が起きたかわからず呆然とした。
エアリエルも平静を装ってはいるものの、見開いた眼に驚きが読み取れた。
「レオニード様、わたくし、精霊王の偽物と言われてしまいましたわ」
「あなたに対する無礼は私が払いましょう。これからじっくりとね」
妖精王がエアリエルの瞳を睨付けた。
エアリエルは戦闘の開始を告げるべく、左手をあげた。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
神と悪魔 infinity
由宇ノ木
ファンタジー
魔界との戦いに辛くも勝利した天界。
新たな神の誕生と、天使長に就任したミカエルの力により、天界には平和な日々が続いていた。かつては両翼天使族と片翼天使族に二分し争っていたが、魔界との戦いをきっかけとし、いまでは互いの存在を認めあい、交流を深めていた。そんな中、片翼天使族の長の一族から、まだ幼い、こどもの天使が天使院にやってきた。名をレックスという。レックスは、天使長ミカエルによって育てられることが決まっていたのだが・・・。
魔界饗宴 ・外伝 ケルベロスの花嫁
由宇ノ木
ファンタジー
【完結 10/2 魔界饗宴・外伝 ケルベロスの花嫁 全8ページ】
【完結 魔界饗宴本編( 前編 ・後編 )】
魔界の悪神サタンの人間界に造られた新たな城の完成を祝うため開かれた舞踏会。知らずに生け贄として連れてこられた人間の女達、集う悪魔達。悪神サタンの妻リリス、魔界の王ルシフェル、公爵ベール、将軍ベルゼブブ。そして、ルシフェルの第三夫人となった、天界の聖女ジョゼフィーヌの姿もあった。
R-18です。魔界饗宴・前後編は過去に他のサイトで公開された作品を、多少書き直したものです。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!
日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」
見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。
神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。
特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。
突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。
なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。
・魔物に襲われている女の子との出会い
・勇者との出会い
・魔王との出会い
・他の転生者との出会い
・波長の合う仲間との出会い etc.......
チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。
その時クロムは何を想い、何をするのか……
このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
成長チートと全能神
ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。
戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!!
____________________________
質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる