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番外編 こんにちは、赤ちゃん。 (7)
しおりを挟む診察時間になり、みふゆは京司朗と一緒に二階の産科外来にくだるエレベーターに乗った。
「一人か二人か、今日やっとわかります」
「・・そうだな。気持ちを落ち着けて話しを聞こう」
「はい!落ちついて!気合いを!」
みふゆは両手を軽く握り、『ファイト!』なポーズをとった。
「いや、だから落ちつこう」
「大丈夫!落ちついて気合いをいれています!何でも来やがれです!」
「・・ああ・・・、うん・・・」
京司朗は結果を知ってるだけに心配になった。
「結果ですが、落ち着いて聞いてください」
「はい!大丈夫です!まかせてください!」
すごく気合い入ってる。
みふゆの担当医師の一人となった東屋佳子は京司朗に視線を移した。
━━━大丈夫なのか。
京司朗は首を小さく横に振った。
━━━今のみふゆには検査結果以外何を言っても無駄。
「・・・結果から申し上げると、赤ちゃんは双子ではありませんでした」
「え?」
みふゆは落胆した。残念な気持ちになった。てっきり双子だと思っていた。双子だからおそろいの服やおもちゃを想像していた。最初聞いた時は不安が大きかったけど、ユーチューブの双子動画を観るうちになんだかとても楽しみになってきた。大変だろうけどきっと楽しい。男の子かな、女の子かな、それとも女の子男の子両方かもしれない。いろんなことを想像して楽しみにしていたのに。
貴之にも双子だと宣言してしまったのに。みふゆは後悔した。
「あ、・・でもじゃあ、一人ってことですよね?」
みふゆの質問に東屋が間を置いてから言葉を発した。
「いえ、実は・・・」
東屋はすぐには答えなかった。はっきりしてくれない。
何故?もしかして妊娠自体間違いだったとか?
まさか、まさかね。
みふゆの心臓がドクドクと鳴り出した。
「三つ子でした」
三つ子でした━━━━━━
「はい?」
「三つ子です」
「三つ・・子・・・?」
「はい。三つ子です」
みふゆの頭の中に祝福の鐘が三つ鳴り響き、同時に宇宙空間が展開された。
真剣な東屋の瞳とぶつかりあってるみふゆの瞳。
しかし、みふゆに見えているのは東屋ではなく宇宙だ。頭の中に展開されている宇宙空間だ。謎の電波が勢いよく飛び交っている。
「み、三つ子って・・・さ、三人?」
「そうですね。三つ子ですから三人です。双子かと思ったんですが、一人隠れていたんですね」
「え?隠れ・・?隠れて?え?三人・・・」
みふゆはふーっと気が遠くなった。
無限に広がる大宇宙、星がきれいですね。
なんだか騒がしい声が聞こえる。遠くのほうで。何を言ってるかわからない。
宇宙人?
そうか、祝福の鐘を鳴らしたのは宇宙人かもしれない。
何でも来やがれと啖呵をきったのは間違いだった。
ああ、お腹を三等分しなければ━━━━━
赤ちゃんはかくれんぼがお得意。
みふゆが目覚めたのはベッドの上だった。産科外来内に設置された休憩用のベッドの上。
心配そうにのぞき込む京司朗の顔が目の前にあった。胡蝶もいる。
「京さん・・・ママ・・」
我にかえったみふゆが飛び起きた。
「み、三つ子!!」
「あらあら落ちついて。赤ちゃんがビックリしてしまうわよ」
「三つ子って!先生が!隠れてた!」
「先生は隠れてないわよ。でもそうね。双子じゃなくて三つ子だったわね。あなたは食が細くなりやすいから栄養をきちんととって日々をすごさなくてはいけないわ。今後の食事の指示は私が出すから安心してちょうだい」
「でも、でも、三つ子って・・・」
「不安なのはわかるけど、大丈夫。医者は私を含めて名医ばかりだし、あなたを支える人はたくさんいるんですもの」
「でも!おっぱいは二つしかないのに!三人もいったいどうやって!?」
そこ?心配そこなの?
「大丈夫よ。世の中には粉ミルクというのがあるの。哺乳瓶であげればいいのよ(京司朗が)」
「粉ミルク・・。そういえば紗重ちゃんも粉ミルクだった・・。でも!それじゃあ一人だけ仲間はずれに・・・!!」
「同時授乳という方法もあるけれど、おっぱいをあげる時は一人ずつ抱っこをおすすめしたいわ。あなたにはその方が安心ね。幸い屋敷には会長も本橋もいるから大丈夫よ」
「順番は・・・、・・・クジ引きで・・?」
「・・・京司朗、お庭に連れてっておあげなさい。中央庭園に水仙やムスカリが咲いてるわ。チューリップも咲いてるはずよ。とてもきれいよ。枝ものはヤマブキやコデマリが見頃ね。ツツジも咲いてるでしょうし。山のしだれ桜もまだまだきれいだから見てらっしゃい」
花でも見て落ちつけ━━━━である。
「わあ・・、きれい」
中央庭園の水仙の小路。水仙の足元には青紫のムスカリが彩りにめりはりをつけている。所々にはまばらにチューリップが咲いている。
「でもどうしてチューリップが所々に咲いてるんだろ?」
「去年はチューリップの小路だったからその名残りかもな」
「え?見たかったそれ!」
「去年は新婚旅行だったろう?」
「あ・・そうだった」
新婚旅行━━━ソニーストア 銀座 (みふゆの希望)
「毎年花を変えてるから、来年は見に来よう」
「うん」
みふゆは笑顔で返事をすると花々を目に写して黙ってしまった。
「・・想定外でした」
京司朗の腕につかまりみふゆはつぶやいた。
「わたしの人生は何もかも想定外・・」
実の父がいたことも、京司朗と結婚したことも、自転車に乗れなくなってしまったことも。みふゆが考えていた人生からは大きくかけ離れている。
「まさか三つ子なんて」
みふゆは京司朗の腕から手を離しておなかに当てた。
「想定外か。俺もだよ。やっぱり俺達は気が合うじゃないか」
京司朗が離れたみふゆをそっと抱きしめた。
「きっと三倍騒がしくて、三倍楽しいぞ」
「三倍・・」
「大丈夫だ。ずっとそばにいると約束しただろう?」
「本当にずっとそばにいてくれるの?」
「ああ、産まれるまでも、産まれてからも・・ずっとずっと━━━━」
みふゆは京司朗の背中に手を回し、ぎゅっと抱きついた。京司朗の心臓の鼓動が聞こえそうだ。
京司朗もみふゆにこたえるように強く抱きしめた。
京司朗の愛が包んでくれる安心感はみふゆに自信を与えてくれた。
━━━━大丈夫
退院後、屋敷に帰ったみふゆは貴之はじめ、大勢の人々に見守られて過ごした。胡蝶が毎日来てくれることで、通院も必要最小限だった。
京司朗は約束通り、みふゆのそばにいてくれた。
おかげで濃密な夫婦の時間を持つことができた。
どんな時も不自由なく過ごせるのは幸せなことだと、みふゆは改めて自分の境遇に感謝した。自転車に乗れなくなったことは些細なことだと思うようになった。
こうしてたくさんの愛情に包まれて、みふゆは元気な三つ子を帝王切開により出産した。
男の子二人と女の子一人。
妊娠が発覚した同年の12月3日。雪の日だった。
長男 司(つかさ)
次男 朗(あきら)
長女 美之(みゆき)
惣領家は賑やかになる。
ちょっと変わった三つ子たちに振りまわされながら、幸せな賑やかな日々に満たされる。
こんにちは、赤ちゃん。~おわり~
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