【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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番外編 こんにちは、赤ちゃん。(5)

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惣領家は天地をひっくり返す騒ぎとなっていた。

京司朗達が乗った飛行機が行方を絶っているのだ。

リビングのソファで胡蝶と楓が泣きだしたみふゆを抱きしめている。
貴之と松田俊也が、それぞれあらゆるルートから京司朗達の無事を確認しようと必死になっている。
搭乗名簿に京司朗、三上、村井の名前があったのは確かだった。


「大丈夫、大丈夫よ」
胡蝶はみふゆを離さず、みふゆは胡蝶にすがったままだ。

これは悪い夢だ。悪い夢だとみふゆは自分に言い聞かせた。

みふゆは後悔した。京司朗に素直な気持ちを伝えなかったことに。どこにも行ってほしくないと、そばにいてほしいと伝えればよかったのに。

「わたしの・・せい・・・」
「みふゆちゃん?」
「どこにも行ってほしくなかったのに・・、そばにいてほしかったのに・・、わたしが伝えなかったから・・・!伝えたらきっとインドなんか行かなかった!きっとそばにいてくれた!なのに・・!邪魔になりたくなくて!わがままって思われるのが嫌で・・!」
「落ちつきなさい。あなたのせいじゃないわ。今はまだなんにもわかってないのよ」
胡蝶が必死でみふゆを宥めた。
「わたしのせいよ!わたしの!」

みふゆの声が貴之の耳に届いた。

「くそっ!なんだってこんな時に限って通信障害が起きてるんだ!!」
貴之が忌々しい口調で携帯電話を握りしめた。
電話もネット回線も現在使用不可能となっていた。大規模通信障害が発生しているのだ。

松田俊也は貴之に近寄り小声で何かを告げた。貴之は「頼めるか」と松田を真剣に見、松田は「ここで情報を待ってるよりはいいでしょう」と言った。

松田俊也は胡蝶をちらりと見ると胡蝶はみふゆを抱きしめたまま頷いた。

〈先ほどの臨時ニュースの続報を申し上げます。関西国際空港発、クアラルンプール経由デリー行き━━━━━━〉

テレビの大型画面にお馴染みのアナウンサーが真剣な口調で続報を告げた。

みふゆは息をのんだ。

〈━━━が、フィリピンのパラワン島沖に墜落。フィリピン政府の発表によりますと乗員乗客は全員死亡と━━━━━〉

リビングにみふゆの悲鳴が響いた。

貴之がみふゆに駆けよった。


松田俊也が黒岩正吾に「確認を急げ!」と指示をした。黒岩は返事もおろそかに玄関に走った。


「あ、あ、・・行かなきゃ・・・」
みふゆがふらりと立ち上がった。
「京さんのとこに行かなきゃ・・」
「みふゆ・・!」
貴之が立ち上がったみふゆを抱きしめた。
零れ落ちる涙が貴之の羽織を濡らしている。
「あ、赤ちゃんと・・一緒に・・行かなきゃ・・」
みふゆが空中に手を伸ばした
「みふゆ・・!!」
「行かなきゃ・・!だって・・!・・」


その時だった。





━━━━━うわああああぁぁぁっっ!





男の叫び声がした。






「か、会長!!惣領会長ーーっ!!」





貴之を呼ぶ数人の男の叫び声に、貴之はみふゆを胡蝶と楓に預け、松田俊也とともに玄関に向かった。




玄関先が騒然としている。



「なんだ!!何を大声で━━━━━」

貴之が怒鳴ろうして止めた。


「━━━親父?・・みんなどうしたんだ?人を化け物みたいに見て」


京司朗が玄関に立っていた。


「・・京・・司朗・・?」

「?だからどうしたんだ?」

「・・・お前・・本物か・・?」

「俺の偽物がいたら会ってみたいもんだ」

答える京司朗に、貴之は近づいた。

刹那━━━━━

貴之は京司朗の顔面を拳でぶん殴った。

「!?・・な、━━━なんなんだ!!」

京司朗、さすがに怒る。
どんな理由があってのこの仕打ちなのか。

貴之は京司朗を殴った右手の拳をみつめて、
「痛え・・」
と、呟いた。

「痛いのはこっちだ!」
━━━━なんてそっくりなんだ。この父にしてあの娘ありか。

新婚当初はみふゆから意味不明の肘鉄ひじてつをくらい、いまは父親から謎の拳をくらった京司朗だ。

「だから一体どうしたって言うんだ!?」

バタバタと足音がした。

みふゆが走ってきたのだ。

「みふゆ?走って大━━━━」大丈夫なのか

みふゆは涙をこぼして京司朗に両手を差し伸べ抱きついた。

「行かないで!!どこにも行かないで!!そばにいて!!お願いだから!!」

泣き叫び、京司朗をきつくきつく抱きしめたみふゆを、京司朗もまたわけがわからぬまま抱きしめた。

「ああ。どこにも行かない。ずっと、ずっと君のそばにいるよ。その為に俺は帰ってきたんだから」






事情はこうだ。

京司朗は搭乗のためラウンジから出た。

出たが━━━━━

───リーン・・
 
耳をかすめた音に京司朗は振り向いた。

「なんだ?」━━━鈴の音?

「代表?どうされましたか?」

京司朗の後ろを歩く三上が不思議そうに訊いた。

「今、聞こえなかったか・・?」

「何が・・、ですか?」

「いや、・・」━━━空耳か?

「代表、時間が・・」

前を歩く村井が声をかけた。

「ああ━━━」

━━━━行かないで━━━━

今度はハッキリと聞こえた。
みふゆの声だ。

京司朗はラウンジに足早に戻った。

「代表!?」
三上と村井が追いかけた。

京司朗はラウンジに戻ると辺りを見回した。

「代表!?どうしたんですか!?」

「三上━━━インドの事業、お前に任せていいか?」

京司朗が三上の顔を見据えて言った。三上は一瞬驚いた表情をしたが、
「もちろんです」
と、自信たっぷりにニヤリと笑った。



「三上が・・?じゃあ飛行機には三上が乗ったのか!?」
「いや、搭乗時間に間に合わなかったから、三上は関空から東京へ飛んで明日の朝に成田から直行便でインドに向かうことになった」
京司朗は説明を続けた。
「オンラインでインド側と菊池を含めて話し合いをした。まっ先にこっちに連絡をすればよかったんだ。話し合いが終わったあとに何度か携帯電話で連絡をとろうとしたが、もうできなくなっていた。パソコンも繋がらなくなった」
京司朗が説明を続けてる間も、みふゆは京司朗にしがみついていて離れなかった。

「すまない。初めからインドには行かないことを選ぶべきだったんだ。そうすれば君をこんなに悲しませることはなかったのに」

京司朗がみふゆの肩を抱きしめた。

「わたしが・・、わたしが素直に行って欲しくないって伝えればよかったのに・・、見栄をはって言わなかったの・・迷惑をかけたくなくて・・」
「・・君の声が聞こえたんだ。『行かないで』って。君はまた俺の命を救ってくれた。ありがとう」

京司朗は優しくしっかりとみふゆを抱きしめた。

貴之は大きく安堵のため息をつき、天井を仰いでソファの背もたれに寄りかかった。
「京司朗」
「はい」
京司朗がみふゆを抱きしめたまま貴之に返事をした。
「今度また俺の娘を泣かせやがったらただじゃおかねえからな」
天井に顔を向けたままの貴之の脅し文句は、電流をながしたように空気をピリつかせている。

京司朗は「肝に銘じます」とさらりと返した。

「俺は本気で言ってるぞ」
貴之が睨むと京司朗は、
勿論もちろん」━━━わかってるさ
と、不敵な笑みを貴之に向けた。

「意地の張り合いはそれくらいにしてくださいな」

胡蝶が皿に盛った北海道土産のお菓子をリビングのテーブルに置いた。サンルームに準備していた三時のお茶のお菓子だ。
楓と使用人頭の本橋信子は人数分のコーヒーを運んできた。

「みふゆちゃん、あなたにはミルクティーよ。いつもより甘くしてあるわ。気持ちを落ちつかせましょう」
みふゆには胡蝶特製のミルクティーだ。

みふゆは鼻をぐずぐずさせ、京司朗からティッシュの箱を渡されると鼻をひとしきりかみ、涙を拭いて、まろやかなミルクティーを口にした。












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