【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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152. 突破された守り

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その夜、山との境を警備する男達が、大型犬とみられる獣の侵入を確認し、ライフルを手にしてのりだした。しかし獣は電気柵・防壁を一気に飛び越え侵入を図った。想定外の脚力だった。地に降り立った実物を目の当たりにすると、姿形は大型犬のドーベルマンに似た黒い毛並みで、牙を剥き出しにする凶暴な顔つきは、狂犬病を思わせた。

「撃て!撃て!仕留めろ!!」

「犬も放て!!」

三名の男達が防壁を越えて侵入した黒い獣を撃ったが、獣は男達を一瞥すると、猛スピードで屋敷へと駆けていった。放たれたグレイハウンドが後を追っている。

「バカな・・!!当たったはずなのに!!」
「追いかけるぞ!!」
「川添と西田がバイクで今出ました!!」
「屋敷に連絡はついたのか!!」
「繋がらねえ!警報装置も作動しねえぞ!」


緊急の事態に怒号が飛び交った。







「あれ?三上さん帰ったんじゃないんスか?」
現れた三上を見ながら、夜食を頬張ってる矢口が言った。
屋敷を警備する二階の常駐組に矢口がいた。貴之の車での護衛を終え、矢口はそのまま夜勤の常駐組に加わっていた。
「朝、会長に屋敷の改築案の説明があるからな。ここで寝た方が早い」
着替えをクローゼットにしまい、三上が答えた。
「で、わざわざまた来たんスか?三上さん、この屋敷、ホンット好きッスね」
矢口が言うと、
「お前に言われたかぁねえよ。お前こそほとんど寮に帰ってねぇだろーが」
三上が呆れて言った。
「おれは惣領会長のお嬢さん・・女神に人生を捧げた男ッス。常にそばにいるッス」
お嬢さん女神は入院中じゃねぇか。屋敷ここにゃいねぇぞ」
同じように夜勤で常駐組に混ざった高城が茶化した。
「だからッス。お嬢さんが大切に思っている惣領会長の身を守ることがお嬢さんのためにもなるんスよ。本当は病院に居たくて直談判したけど会長に叱られたッス」

『てめぇ!俺の娘に懸想してんのか!!』

「・・・って、すげー怖かったッス」

矢口はサンドイッチをくわえたままうなだれ、ため息をついた。

こいつホントにバカだな━━━話しを聞いていた男達は思った。

「おい、いい加減にしろよ矢口。お前が下手こくと一蓮托生で俺達にまで累が及ぶんだからな」
「わかってるッス。だからおれは静かに祈るッス。おれの命を捧げた女神、みふゆお嬢さん、早くお体がよくなりますように・・。神様、頼んまッス。アーメン・・・」
食べ終わった矢口は病院の方角にむかって手を組み片膝をついて祈りの姿勢をつくった。
「なあ、お前ってキリスト教徒か?」
「仏教徒ッス」
「なら仏様に祈れよ!お釈迦様でも菩薩様でもよ!」
高城は矢口のこめかみを両手でグリグリと押さえつけた。
「痛いッス痛いッス高城さん、ギブギブギブッッ」
「静かにしろよ。寝てる連中がいるんだぞ。俺も隣の部屋で」
言いかけた三上の言葉を遮り矢口が突然ライフルを手にして、「なんか来るッス」と窓の外を凝視した。

「起きろ!トラブルだ!赤色灯が点滅してる!」
見張り台から鳥谷部が降りてきた。
「バカ野郎!非常ボタンを押せ!」
三上が怒鳴った。
「押したけど鳴らねえんだよ!」

慌ただしく動き始めた男達の耳に銃声が聞こえた。

「裏門か?!」
「もしかしたら車を追って来てた獣かもしれないッス」
矢口は狙撃用の小窓からライフルをかまえた。
「モニターには何も映ってないぞ!」
高城がセキュリティの警報スイッチを押しながら、
「こっちも鳴らねえ?!!故障かよ!?」
「黒岩さんにも仙道さんにも携帯繋がりません!」
「降りたほうが早い!何人か来い!会長の部屋に急げ!」
三上が一階に降りようと扉に手をかけた。

扉が開かない━━━━




黒岩海斗は翌日が開校記念日で高校が休みとあって夜更かしをしていた。ついさっきまでDVDで惣領貴之と松田俊也の真剣稽古を観ていた。二十年も前のもので、何度も観ているせいか、動きの速さに目が追いつくようになった。だが、これが海斗自身の稽古となれば、叩きのめされるだけでついていけないと海斗は判っている。

海斗は気分転換に、開けっぱなしの窓から真夜中の空を眺めた。

星の輝く夜空に、みふゆの見舞いに行った日の疑問がふと蘇った。みふゆは思っていたより元気そうだったが、以前と違った。海斗に親しげに話しかけてきたのだ。みふゆは、仕草、ふるまい、笑顔までも、まるで小学生の小さな女の子のようだった。
海斗は動揺したが、いつも通りに振るまって、みふゆには気付かせなかった。

帰りに母親の楓に聞いてもはぐらかされるだけで詳しくは教えてもらえなかった。ただ、『動揺した素振りを見せなかったのは偉かったわ』と褒められた。しかし、惣領家の重鎮である父親の仕事を手伝うようになっても、惣領家の男としてはみてもらえていない。未熟ゆえにまだまだ信頼されていないのだ。

━━━━もっと力をつけないと。父さんと母さんにきちんと信頼される男にならないとダメだ。実の親に信頼されてないのに、会長に信頼されるはずがない。

地道に自分の責任をこなしていくしかない。
みふゆのことも、何が起きてるにしてもしっかりと支えていく覚悟があると、貴之に理解してもらいたい。17歳だからと侮られたくない。惣領貴之は15歳で惣領家の当主となったのだから。

海斗は唇を真一文字に結び決意を新たにした。
海斗の耳が異変をとらえたのはそんな時だった。

数発の発砲音だ。

━━━━銃声?!

海斗の瞳に『獣』が走る姿が映ったのは一瞬だった。『獣』のあとを惣領家の三頭の猟犬が追っている。

海斗は自室を飛び出し「父さん!」と叫び父親の書斎に向かった。今夜も書斎で寝てるはずだ。
父親の黒岩正吾はすでに黒岩家と屋敷の間の扉の解錠をしていた。片手に銃を持っている。

「父さん!獣だ!うちの猟犬が追ってる!」
「獣?!」
黒岩正吾は扉が開いたとドアノブに手をかけた。
ガチッとドアノブが音をたてた。いつもなら開いてるはずなのだ。

「開かない?!」

扉の解錠システムがエラーを赤く点滅させている。
家中の扉がロックされてしまった。
「━━━━俺の部屋の窓が開いてる!!」
海斗が走り出した。


部屋の時計が午前二時を表示していた。





自室で眠りについた京司朗は不穏な気配を感じて起きあがった。

━━━━何だ?このまとわりつく嫌な空気は・・

奇妙な感覚に、ベッドから出ると金属音が聞こえた。

━━━━金属音・・どこから・・

小さな音だ。間近で鳴っている。

京司朗は室内を見渡した。

床の間だ。

床の間の日本刀が鳴っている。

貴之から譲り受けた惣領家の守り刀だ。


京司朗は背筋に走った悪寒に、守り刀をつかんで部屋を飛び出した。


貴之の身に何かが起きている━━━━


京司朗が部屋を飛び出したとほぼ同時に、


銃声が響いた。






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