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44. 過去との対峙 (2)
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本当の事を言おうと、何度考えたかわからない。
言ってしまえたら自分の気持ちの奥底は楽になるが、みふゆを傷つけることになる。
青木重弘が実の父親ではない事実に。
何故精神を病んでしまったのか、その原因に。
真実が必ずしも良い結果をもたらすとは限らない。
両親がともに死んでしまった現在、みふゆには真実を確かめる術は無い。
だが、あの娘なら過去にどんなことがあったとしても、『仕方がなかったことだ』と許してくれるだろう。そして、静かに俺から離れて行ってしまうだろう。
いまあるみふゆとの関係を壊したくない。
貴之は縁側で一人、夜の空を見上げていた。
雲の切れ間から、ようやく月が顔を覗かせた。
「月か・・」
あの日と同じように、月は輝く。
「今夜も月がきれいですね」
わたしは灯りを消した二階の部屋の窓辺に座り、輝く月を見ていた。
夜、輝く月に向かって「月がきれいですね」と、呟くのがすっかりクセになっていた。
教えてくれたのは父だった。
名前は忘れたが、「アイラブユー」を「月がきれいですね」と訳した作家さんがいたとかなんとか・・・真偽は定かではないが。
でも、美しい表現方法だと思った。
そういえば、お父さんが最初にいた病院の病室からは月が綺麗に見えていた。
今日は思いがけず父親の話しになったせいか、やけに父親のことを思い出す。
『夜は網戸にカブトムシが張り付いているんだよ』
周囲は木々が生い茂っている。古い古い病院だった。
『月も星もとても綺麗に見えるんだ』
病院は山の中の高い場所にあった。
寂しがり屋の父親の為に、バスに乗って一人で会いに行くことも度々あった。
必ず本を持って行った。絵画の本。
父の本棚から、なんとなく持って行きたい本を選んで持って行った。
病棟の待合室で二人で並んで本を開いて、父が絵の説明をしてくれる。
思い出すと止まらない、あんなことやこんなこと。
『いーつーのことーだかー思い出してごーらんー
あんなーこーとー、こんなーこーとー、あーったーでしょー』
保育園のお迎えにきた父親と、手を繋いで歌いながら帰ったのもよく覚えている。
優しい父だった。
優しすぎるくらい優しかった。
だからおかしくなってしまったんだろうか?
父が入った最初の病院は、精神病院だった。
おかしくなるのは強さが足りないからだと言ったのは、親戚の人だったか。
では人はどこまで強ければいいのか、強さを計れる物差しをあなたは持っているのかと、言い返したのは母だった。
心が病むのを強さが足りないと言うなら、体が病むのも強さが足りないと言うのか。
それならば日本中の病を得た人に叫んでみるがいい。お前達は強さが足りないと。
病むことと強弱は全くもって関係無いのを理解できず、自分の健康と厚かましさを自慢したいなら他所でやるがいい!二度と来るな!出ていけ!!
「・・・あはは!」
思い出すといまでも笑える。
お母さんは強かった。
・・わたしも、強くなりたい。
なれる。きっとなれる。
お母さんの子だもの。
さあ、寝よう。
明日の朝、ダラダラするために。
わたしは窓を閉め、カーテンを閉めた。
夜の空には月が輝いている。
本当の事を言おうと、何度考えたかわからない。
言ってしまえたら自分の気持ちの奥底は楽になるが、みふゆを傷つけることになる。
青木重弘が実の父親ではない事実に。
何故精神を病んでしまったのか、その原因に。
真実が必ずしも良い結果をもたらすとは限らない。
両親がともに死んでしまった現在、みふゆには真実を確かめる術は無い。
だが、あの娘なら過去にどんなことがあったとしても、『仕方がなかったことだ』と許してくれるだろう。そして、静かに俺から離れて行ってしまうだろう。
いまあるみふゆとの関係を壊したくない。
貴之は縁側で一人、夜の空を見上げていた。
雲の切れ間から、ようやく月が顔を覗かせた。
「月か・・」
あの日と同じように、月は輝く。
「今夜も月がきれいですね」
わたしは灯りを消した二階の部屋の窓辺に座り、輝く月を見ていた。
夜、輝く月に向かって「月がきれいですね」と、呟くのがすっかりクセになっていた。
教えてくれたのは父だった。
名前は忘れたが、「アイラブユー」を「月がきれいですね」と訳した作家さんがいたとかなんとか・・・真偽は定かではないが。
でも、美しい表現方法だと思った。
そういえば、お父さんが最初にいた病院の病室からは月が綺麗に見えていた。
今日は思いがけず父親の話しになったせいか、やけに父親のことを思い出す。
『夜は網戸にカブトムシが張り付いているんだよ』
周囲は木々が生い茂っている。古い古い病院だった。
『月も星もとても綺麗に見えるんだ』
病院は山の中の高い場所にあった。
寂しがり屋の父親の為に、バスに乗って一人で会いに行くことも度々あった。
必ず本を持って行った。絵画の本。
父の本棚から、なんとなく持って行きたい本を選んで持って行った。
病棟の待合室で二人で並んで本を開いて、父が絵の説明をしてくれる。
思い出すと止まらない、あんなことやこんなこと。
『いーつーのことーだかー思い出してごーらんー
あんなーこーとー、こんなーこーとー、あーったーでしょー』
保育園のお迎えにきた父親と、手を繋いで歌いながら帰ったのもよく覚えている。
優しい父だった。
優しすぎるくらい優しかった。
だからおかしくなってしまったんだろうか?
父が入った最初の病院は、精神病院だった。
おかしくなるのは強さが足りないからだと言ったのは、親戚の人だったか。
では人はどこまで強ければいいのか、強さを計れる物差しをあなたは持っているのかと、言い返したのは母だった。
心が病むのを強さが足りないと言うなら、体が病むのも強さが足りないと言うのか。
それならば日本中の病を得た人に叫んでみるがいい。お前達は強さが足りないと。
病むことと強弱は全くもって関係無いのを理解できず、自分の健康と厚かましさを自慢したいなら他所でやるがいい!二度と来るな!出ていけ!!
「・・・あはは!」
思い出すといまでも笑える。
お母さんは強かった。
・・わたしも、強くなりたい。
なれる。きっとなれる。
お母さんの子だもの。
さあ、寝よう。
明日の朝、ダラダラするために。
わたしは窓を閉め、カーテンを閉めた。
夜の空には月が輝いている。
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