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24. 思惑 (2)
しおりを挟む店から二階の休憩室までは距離がある。
店内の横の、スタンド花を作る作業スペースを通り、社員用の駐車場まで行かなくてはならない。休憩室は駐車場の上にあるからだ。
3棟の古い建物を買い上げて改装したため、少し妙な構造となった。
従業員の休憩室のつもりだったが、店から離れすぎて不便だと誰も使わず、結局、俺専用の昼寝部屋から、女とのヤリ部屋に変わっていった。
「堀内、あまりからかうと辞められてしまうぞ」
後ろから松田の声がした。
「そりゃやべぇな。あいつがいねぇと店がまわらねぇ」
「なら大事にしろ。いい従業員なんだから」
「言われるまでもねぇよ。従業員じゃなくて本気で嫁にしてぇくれぇだ」
「お前にはエリカさんがいるだろう」
「あいつとは最初から偽装結婚だ。お互い社会的地位のために一緒になったにすぎねぇよ。一度は結婚したって事実が欲しかっただけだ。一度結婚して離婚すりゃ、周りもうるさくは言わねぇ。どっちかが離婚したくなったらそれまでってことでお互い納得してる。それにエリカより青木と一緒の方が面白そうだ。からかいがいもあるしな」
松田は黙ってしまった。
二階に上ると、右手にまっすぐの長い廊下があり、突き当たった左側が休憩室だ。
林を切り捨てたあと、しばらく俺が寝泊まりに使ってたが、なんだか落ち着かなくて部屋を壊すことにした。キッチンもユニットバスもついていて便利だったんだがな。まあ、いい区切りだろ。
部屋のドアと廊下の窓が全開になっている。
掃除機の音が止まって俺は部屋を覗いた。
「終わったかー?」
糸川がテーブルを拭いていた。
片付けられて久しぶりに見えたテーブルの上。
AVやエロ雑誌がいっせいに部屋の隅っこに寄せられている。
「終わったかじゃないですよ!ソファもテーブルも最近買い換えたばかりじゃないですか!なんでこんなに散らかして・・!」
糸川が俺に食ってかかろうとしたが、後ろから松田が、
「もう十分ですよ。片付けてくれてありがとう」
と、礼を言った。
こいつは言葉がうまい。昔から。
「あ、い、いえ、あの、ごゆっくり・・・できないかもしれませんが、座る場所はつくりましたので」
松田の言葉に顔を赤らめて、糸川はやたらと愛想よく振る舞う。
なんだこいつ。俺への態度とは雲泥の差じゃねーか。
仕方ねぇ、俺もたまには褒めてやるか。
「上等、上等。ごくろーさん」
と、せっかくねぎらってやったのに、糸川は俺の足を思い切り踏んづけた。
「いっ!社長の足踏んづけるとはいい度胸じゃねーか糸川!ボーナス減らすぞ!」
糸川は振り向き様、俺に
「いーーーっ!だ!」と歯を剥き出して、階段をかけ降りていった。
「小学生かお前は!」
「堀内」
「なんだよ!」
松田は部屋をあごで指して、
「・・短時間でここまで片付けたんだ。大変だったことを考えるんだな」
確かに壊滅的な部屋だったのは認める。
「ここはもう壊すんだよ。あんたがこなけりゃ片付ける必要なんかなかったんだよ。まあ、適当に座ってくれ。林がいなくなってから買い換えたやつだから安心して座っていいぞ」
松田は無言でソファに腰をおろした。そして、座って早々に、
「部屋を壊すのは女との思い出が辛いせいか?」
と、再び同情めいたことを言った。
「だから違うって言ってんだろーが。あんたどこからそのバカ話を聞いて」
松田を問い詰めようとしたところに、ドアをノックする音と「お茶をお持ちしました」 と青木の声がした。
「失礼します」と会釈をし、注文通りに氷がたっぷり入った茶を盆にのせ、青木は入ってきた。
松田は青木に「ありがとう」と言うと、青木は
「すみません、こんな所で。よかったらお菓子もどうぞ」と、頼んでもいない菓子まで持ってきた。それも松田の好きな落雁だった。
俺は青木にもとりあえず言い訳をした。
「だからここは壊すから片付ける必要なかったんだよ」
青木はすぐさま、
「そーゆー問題じゃないですぅぅ」
と、嫌みったらしく語尾を伸ばして、青木は俺を睨みつつ、松田に会釈し部屋を出て言った。
松田は青木を終始にこやかに見ていた。
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