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結婚するって本当ですか?3

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マンションの鍵を開けると靴があった。
「ただいまー」
私は声をかけた。
足音がする。カチャリとホールのドアが開いた。
「お帰り、結ちゃん。僕も "ただいま" って言わせて」
ニコニコと笑顔の椎那しいなが顔を出した。
「あはは、お帰り、しーちゃん」
「ごはん、出来てるよ」
「やった!」

椎那が出張先から一ヶ月ぶりに帰ってきていた。

椎那と暮らして一年。
3つ年下の椎那は弟のようにかわいい。

「かんぱーい」

ふたりでワインを明け、近況を報告しあった。

「じゃあ仙道さんほんとに結婚したんだ」
「って言ってた」
「そっか。・・・でもよかったの?」
「何が?」
「・・・自分の気持ち、ちゃんと伝えないままで」
「うん。・・もうね、いいんだ」
先輩のあんな幸せそうな優しい笑顔を見てしまったらもう・・・。

「そう、じゃあ約束通り、僕と結婚になるけどいいの?」

椎那が至極真面目な表情かおで私をみつめている。


『椎那、私好きなひといるんだよ。そのひとは結婚しないって言ってるから私も結婚はしないよ』
『じゃあ、そのひとが誰かと結婚したら僕と結婚してくれる?』
『いいよ』
『約束だよ』
『約束する』

「・・そうだね」
それが約束だからね。

椎那は私の返事を聞いて、自分のトランクのなかをごそごそし始め、何かを持ってきた。そして、私の目の前でパカッと開けると、
「パリで買ってきたんだ」
と言って、私の左の薬指に指輪をはめてくれた。
「結ちゃんの誕生石はサファイアだからね」
椎那はニコッと笑った。

私は涙が溢れた。

「結ちゃん・・」

椎那に申し訳なくて。

「ごめん、椎那、ごめんね」
「・・いいんだよ。泣きたい時は泣いても。これからも僕はずっと側にいるよ」

椎那、ほんとにごめん。
この涙は感動の嬉し涙じゃなくて、仙道先輩を思う涙なんだよ。それも全部知ってて、椎那はこうして私に結婚しようと言ってくれる。

椎那、ほんとにほんとにごめん。

でも今だけは泣かせて。

そうしたら全て忘れて、またいつもの私に戻るから。


さよなら、大好きだった先輩。

初めて愛した男性ひと・・。


ひとしきり泣いて、ワインをがぶ飲みした私は、翌日二日酔いのまま出勤となった。

「結婚?!」
洋平先生の声が頭に響く。
私は店のバックヤードで洋平先生に報告をしていた。
「はい」
頭いてぇ。ずきずきする。
昨日は心因性の頭痛で、今日は二日酔いの頭痛である。
「東雲、ほんとに本気なの?!」
「はい。今までも一緒に暮らしてたし、・・パリから指輪を買ってきてくれて・・、あんまり待たせるのもどうかなって」
「仙道君といい、あんたといい、結婚ラッシュね。まあ、おめでたいことだからいいけど。そのうち本人連れてきなさいね」
「はい」
あー、頭いてぇな。来たばかりだけど早退しようかな。

そんな二日酔い全開の私の間近で、

パーン!パンパンパーン!!

クラッカーが鳴った。

「店長!おめでとうございます!」
「我々スタッフ一同、心よりお祝い申し上げます!」
「今後のご多幸をお祈りしつつ、修羅場の際には是非とも我々スタッフにご連絡頂きたくお願い申し上げます」

「・・・・」

頭の芯に炸裂したクラッカー音。

「店長?」
「感動のあまり固まっている」
「修羅場、我が命の糧」

「貴様ら・・・」

「爆発寸前」
「退避」
「本日の営業は終了しました」

「何が修羅場だ!そんなに修羅場が好きなら今ここを修羅場にしてやる!」

「ちょっと!店のなかで騒がないでちょうだい!!」


人生何が起こるかわからないな━━━



本当にそうですね、・・先輩。

だから人生は面白いのかもしれません。辛いときもあるけれど。

でも、辛さも、苦しさも、悲しみも、見えなかった優しさや幸せに気づく為にあるのなら、

この人生を精一杯楽しむ自信が出てくるんです。



そうして私は結婚の報告を仙道先輩にも伝えた。

仙道先輩からの御祝儀は、誰よりも一番の、桁の違う金額だったことは言うまでもない。








end
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