上 下
1 / 3

結婚するって本当ですか?1

しおりを挟む
.


ある晴れた日のこと。

洋服の某ブランドのショップの店長を務める私・東雲 結しののめゆいの耳に、ひとつの噂が届けられた。

『仙道京司朗が結婚する』

「まさか、仙道先輩は大学時代から結婚完全否定派よ?」

噂を運んできたのは、私がハイエナと(心のなかで)呼んでいる、当店の大変優秀なスタッフ三名だ。

宝飾等アクセサリー専門の
ハイエナ一号・小林真奈
「もう婚約したって話ですよ」
帽子・靴専門のハイエナ二号・富田洋子
「考えなんて変わりますからね」
服飾デザイナーをやめたあと、占い師に転職した一番の変人、(当店に勤めながら現在も占い師をやっている)ハイエナ三号・須藤七瀬
「大学時代の考えなんかよく信用してられますね」

くそ!コイツらほんとにかわいげねーな!
「い、いいわよ。あとで確かめるから」

仙道先輩といえば、私の先輩陣のなかでも筋金入りの結婚否定派。
恋人はつくっても結婚はしない。
要は躯だけの関係。

結婚を少しでも匂わすと、恋人達はその場で永久のお別れになる(関係者談)

その彼が?

結婚?

「ないないないない。無ーい。あははははははは」

私は動揺していた。
マネキンの首を180度回転させてしまうほどに動揺していた。
ホラーの王道『エクソシスト』レベルの首回転であった。


「否定を頭に植え付けようと必死ですね、店長」
「これはおもしろい」
「修羅場のニオイがいたしますな」

スタッフの目が輝いているのに私は気づかなかった。


マネキンの首を真後ろに向かせたままウインドウに出してしまった私は、経営者でデザイナーの洋平先生に叱られたが、心中はそれどころではない。
「ちょっと!東雲!聞いてるの?!」

聞いてない。
こっちはそれどころじゃねえんだよ。


仙道先輩が結婚?もう婚約済み?

マンションに帰っても頭のなかから仙道先輩のことが離れない。

あり得ないことだと思いつつ、私の心は重かった。

「・・・・イヤイヤイヤイヤ、無い無い無い無い。絶対無い!」


━━仙道先輩は結婚しないんですか?
━━興味がないな。家庭を作る気もなければ、子供をほしいとも思わない。
━━寂しくないですか?
━━ひとりの方が楽だ。
━━そうですか・・。
━━お前はどうなんだ?結婚したい男がいるのか?

仙道先輩はよくできた憧れの先輩だった。
私は彼にとってよくできた後輩だったと思う。

「・・・」
あれから何年たったんだろう?
あんなに頑なな考えの人が。

ベッドの上でぼんやりと考えているとスマホが鳴った。

《もしもし?オレだけど》
「・・オレオレ詐欺なら相手を選びな、クソッタレ」
《オレだよ!香取だよ!相変わらずだなお前は》
「あー、香取先輩、お疲れさまっス」
《仙道が結婚するって話がまわってきてさー。お前大丈夫かなーって・・》
「・・・無いですよ。だって、あの仙道京司朗ですよ?噂ですよ噂。誰かが流した根も葉もない噂」
《・・でも、なんか落ち込んでねーか?お前。気持ちはわかるけど》

私は通話を切った。

何が『気持ちはわかるだ』ちくしょう!

私は抱き抱えていたクッションを壁にぶつけた。

駄目だ。
こんな気持ちで過ごすくらいなら確かめてみよう。

そうだ、確かめて・・・

本当だったらスッパリあきらめよう。


その夜、私は夢を見た。

仙道先輩が、『どこから出てきた話だよ』と煙草をくわえ、笑っていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修羅場好きとしましては。

由宇ノ木
恋愛
【全三話完結】「300万あるの!これで服を何点か選んでもらえない!?」結のいとこ・沙也子が叫んだ。洋服の某ブランドのショップの店長を務める東雲結(しののめ ゆい)の元に、いとこの沙也子が訪れた。どうやら長くつきあって結婚の約束をしている同棲中の彼氏と破局を迎えたらしく・・。

花相(かしょう)の願い

由宇ノ木
恋愛
初めて会ったとき、 彼女は俺を花の宰相・芍薬に例えた。 関連作 『花相の誓い』 『繚乱ロンド』など

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

結婚までの120日~結婚式が決まっているのに前途は見えない~【完結】

まぁ
恋愛
イケメン好き&イケオジ好き集まれ~♡ 泣いたあとには愛されましょう☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ 優しさと思いやりは異なるもの…とても深い、大人の心の奥に響く読み物。 6月の結婚式を予約した私たちはバレンタインデーに喧嘩した 今までなら喧嘩になんてならなかったようなことだよ… 結婚式はキャンセル?予定通り?それとも…彼が私以外の誰かと結婚したり 逆に私が彼以外の誰かと結婚する…そんな可能性もあるのかな… バレンタインデーから結婚式まで120日…どうなっちゃうの?? お話はフィクションであり作者の妄想です。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

夫は使用人と不倫をしました。

杉本凪咲
恋愛
突然告げられた妊娠の報せ。 しかしそれは私ではなく、我が家の使用人だった。 夫は使用人と不倫をしました。

処理中です...