神と悪魔 infinity

由宇ノ木

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止まない雨 2

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「子供に八つ当たりしないでよ!!この役立たず!!」
ガブリエルがレックスをかばいミカエルに怒鳴る。

「役立たず?」
ミカエルの形相はよりいっそう迫力を増し、鋭くなった。

「おい・・、役立たずかどうかお前の体で確かめてやろうか?ええ?」

天使長にあるまじき台詞である。
こどもの育成と教育に携わる者が果たしてこれでいいものか?


「何よ!脅しをかけたって無駄よ!あんたみたいなセクハラエロ親父に誰が負けるもんですか!!ヘッヘーンだ!手を出せるものなら出してみやがれっンベーだっっ!!」
小学生どころか幼稚園児のケンカのセリフである。
「・・・お前は・・どこまでも俺を怒らせたいらしいな・・・」
不機嫌と怒りのオーラを放出しながらミカエルは、ゆらりとガブリエルに近づいて行く。


が━━━


「何を騒いでおるのですかな?!!隣の部屋まで聞こえておりますぞ!!」

睨み合うミカエルとガブリエル、双方の横の扉が開き、それぞれの扉から成人天使が現れた。
ガブリエルの左横からは、天界議会議長・智天使ちてんしを統べる長でもあるムーア。


「小さな子が泣いて怯えておりますわ。お慎みなさいませ、お二人とも」
ミカエルの左横からは、癒しの大天使ラファエル(テリウス・アウローラ・ラファエル)が現れた。


ムーアは天界でも長命の最古参天使のひとりで、天界の生き字引きとも言われている。言わばありがたいご意見番だ。
大天使ラファエルは、テリウス・アウローラといって、天界の神が冥界より呼び寄せた、元は人間だった女性だ。


「まったく、幼子の前で何を揉めておるのですか!」
「私のせいではありません!ミカエルが乱暴なんですわ!」
「だから俺のどこが乱暴だというんだ!ガキをしつけるのにいちいち甘い顔なんぞしてられるか!!」
「それが乱暴だと」

「お黙りなさーーーいっっ!!!」

ムーアはひときわ大きな声で二人を諌めた。

「幼子の前だと言ってるのが」



「う・・うわああぁぁぁんっっっ!!」



「あ、泣いちゃった」
呑気なガブリエル。

「まあ・・」
ラファエルが泣き出したレックスを抱き寄せる。

「お、おお・・、すまぬすまぬ、驚かせてしまったか・・!」

とうとう大声をあげて泣き出してしまったレックスは、もはやミカエルを気にする余裕は無かった。
もう限界だった。
ラファエルにしがみついてわんわん泣くレックスを指してミカエルは言った。

「ムーア、こんな小さなこどもを泣かせていったい何を考えているんだ」
ミカエル、責任転嫁。

「何を言っておるのですか!もとはといえば誰のせいで・・!!」
再度怒鳴ったムーアにビクッと体を震わせレックスは、さらに大声をあげラファエルにしがみつきわんわん泣きだした。

「お、おお・・、すまぬすまぬ。お前を叱ったのではないぞ?・・これ!誰か!菓子を持て!幼子が食べられるような菓子をな!」

ムーアは自分の役職室の扉の向こうに命令し、再びミカエルとガブリエルに注意を促そうとくるりと振り向いた。
一度じっくりと説教をせねばと思っていたのだ。ちょうど良い機会だ。

「よいですか!お二人とも!」
「お二人なら先ほど出て行かれましたわムーア様」
「・・・まったくあの二人は!いつもいつも逃げおってっっ!!」

ムーアの三度の大声に、泣き止みかけていたレックスが、また泣き出した。

「ああ、泣くな泣くな。今うまい菓子がくるからな、待っておれよ。菓子はまだか!?早くせぬか!」

ラファエルはレックスをあやすムーアをほほえましく思った。
ただムーアは気付いてはいないらしい。
ガブリエルが去ったのは、単に逃げたかっただけだが、ミカエルが部屋を去ったのには理由があった。

ミカエルは『それ』のために部屋を出て行ったのだ。




院長室から出て来たミカエルを誰もが振り向き、ささやく。

<まあ、お珍しいこと。ミカエル様が幼子を抱いていらっしゃるわ>

<どなた様のお子かしら?>

<茶色の髪に緑の瞳がかわいらしいこと>


ミカエルは片手に『レックス』を抱き、学院の裏庭への通り路で降りしきる雨を見ていた。

「この雨は止みそうにないな。さあ、どうする?」
ミカエルは『レックス』に問い掛けた。
「あっち、お外」
『レックス』は笑いながら外を指差した。
「そうか、外に行きたいか。では連れて行ってやろう」


ミカエルは『レックス』を抱いたまま、空中へ高く飛ぶと、ふたりは雨の中に消え去った。





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