3 / 3
修羅場好きとしましては。3
しおりを挟む
.
捕らえられている女が
「沙也子先輩!助けて!あたし関係ないんです!本当です!!お願い!!」
と叫びだした。
真一もようやく動けるようになったのか、起き上がり、
「さ、沙也子・・、違うんだ・・、誤解・・しないで・・・」
「何が違うの・・?」
沙也子がぼんやりとした表情で呟いた。
「何が誤解なの・・?」
「こ、こいつとはなんでも・・、なんでもない・・・から・・」
「そ、そうよ、あたし真一とはなんでもないし、強盗なんて知らない!」
「なんでもないのに呼び捨てにするの?中川さん、新車400万近くしたって言ってたわよね?彼氏に買って貰ったって・・。真一君、買ってあげたの?」
「ち、違うんだ・・それは」
真一が言い訳しようとすると、仙道先輩が顎をクイッとさせて、何かを指示した。
真一を捕まえている先輩の舎弟が「ほんとのこと言えやこのクソ野郎が!」と真一の首を締め上げた。
「うっぐぅ・・!」と真一は苦しがり、慌てて「そうです!そうです!買いました!」と白状した。
「その300万は・・何に使う気だったの・・・」
「しゃ、借金があって、今日中に返さないとオレヤバいんだ・・!い、一時的でいいから・・!」
「なんで・・?なんでそんな借金なんてあるの・・!?あなたここ一年あたしに一円だって生活費入れてくれなかったじゃない!!」
「沙也子・・、沙也子ぉ、・・ゆ、許してくれよ・・・、な?な?」
惨めったらしい真一の懇願に、
「警察に逮捕されればヤバい目にあわなくても済む。よかったじゃないか」
仙道先輩が冷たく言い放った。
遠かったパトカーのサイレンがハッキリと聞こえ始めた。
「逮捕・・?・・・イヤだ、・・イヤだ・・!イヤだあぁっ!沙也子ぉ、沙也子おぉ!許してくれよおぉ!助けてくれよおぉぉ!!」
泣きわめく真一。
隣で女も泣き出した。
「山本と村井は置いていくからあとは任せていいか?東雲」
「はい。ありがとうございました」
私は最後にもう一度お礼を言い、仙道先輩は自社ビルに入って行った。
パトカーのサイレンはどんどん近づいてくる。
「・・・あたしって・・本当にバカ・・」
沙也子の声はパトカーのサイレンに紛れて、独り言のように聞こえた。
二人は「捕まりたくない」「許してくれ」と懇願しているが、沙也子の耳には届いていないだろう。
沙也子はただうつむいて、涙は歩道のレンガを濡らしている。
レンガの色は沙也子の涙で朱色に変えられ、パトカーが二人を連れて行くまで、歩道は沙也子の涙で濡れていた。
警察で事情聴取を受け、その後、沙也子も私もハイエナスタッフも解放された。
真広と、沙也子を "先輩" と呼んだ中川という女は身柄を確保されたまま、のちに逮捕となった。
中川は去年入社の、沙也子と同じ総務の後輩だという。昨年の忘年会が真一の営業部と合同になり、紹介しあったのだと沙也子は言っていた。
『一年前から一円だって』
その時から付き合っていたのだろう。
店に戻ると経営者の洋平先生が「いったい何があったの!?」と迫ってきた。
私は洋平先生をハイエナスタッフに任せ、沙也子をアパートではなく実家に送り届け事情を説明した。
あれから、沙也子は実家に戻り、家から近い職場に転職して頑張っている。
真一は実刑をくらいそうだ。
400万は真一の両親から沙也子の口座に返されたが、謝罪はなかったという。
沙也子も沙也子の両親も、関わりになりたくないからそれでいいと言っていた。
沙也子は結婚よりいまは人生を楽しむことにしたと笑顔で話してくれた。服を選んでほしいと頼まれたことは近いうちに実現するだろう。
洋平先生が新しい人生の門出に、ワンピースをプレゼントすると言ってくれた。
私はそんな洋平先生のお店で、これまでと変わらずに店長として働いている。
そして、店のハイエナスタッフは
「え?浮気?」
「それっぽいんですよねぇ」
「よかったらお話、お聞きしますよ」
「話せば気持ちも楽になることもありますから!」
「その上で女っぷりをあげるお手伝いさせていただきますわ!」
「今までとは違う魅力を私達が引き出して差し上げます!」
今日もお客様との会話に修羅場のニオイを嗅ぎとろうと精をだしている。懲りねーなコイツら。
ウインドウから見える外は厚手のコートを着込む人が増えた。
もうすぐ冬が来るのだろう、そんな季節の出来事だった。
end
捕らえられている女が
「沙也子先輩!助けて!あたし関係ないんです!本当です!!お願い!!」
と叫びだした。
真一もようやく動けるようになったのか、起き上がり、
「さ、沙也子・・、違うんだ・・、誤解・・しないで・・・」
「何が違うの・・?」
沙也子がぼんやりとした表情で呟いた。
「何が誤解なの・・?」
「こ、こいつとはなんでも・・、なんでもない・・・から・・」
「そ、そうよ、あたし真一とはなんでもないし、強盗なんて知らない!」
「なんでもないのに呼び捨てにするの?中川さん、新車400万近くしたって言ってたわよね?彼氏に買って貰ったって・・。真一君、買ってあげたの?」
「ち、違うんだ・・それは」
真一が言い訳しようとすると、仙道先輩が顎をクイッとさせて、何かを指示した。
真一を捕まえている先輩の舎弟が「ほんとのこと言えやこのクソ野郎が!」と真一の首を締め上げた。
「うっぐぅ・・!」と真一は苦しがり、慌てて「そうです!そうです!買いました!」と白状した。
「その300万は・・何に使う気だったの・・・」
「しゃ、借金があって、今日中に返さないとオレヤバいんだ・・!い、一時的でいいから・・!」
「なんで・・?なんでそんな借金なんてあるの・・!?あなたここ一年あたしに一円だって生活費入れてくれなかったじゃない!!」
「沙也子・・、沙也子ぉ、・・ゆ、許してくれよ・・・、な?な?」
惨めったらしい真一の懇願に、
「警察に逮捕されればヤバい目にあわなくても済む。よかったじゃないか」
仙道先輩が冷たく言い放った。
遠かったパトカーのサイレンがハッキリと聞こえ始めた。
「逮捕・・?・・・イヤだ、・・イヤだ・・!イヤだあぁっ!沙也子ぉ、沙也子おぉ!許してくれよおぉ!助けてくれよおぉぉ!!」
泣きわめく真一。
隣で女も泣き出した。
「山本と村井は置いていくからあとは任せていいか?東雲」
「はい。ありがとうございました」
私は最後にもう一度お礼を言い、仙道先輩は自社ビルに入って行った。
パトカーのサイレンはどんどん近づいてくる。
「・・・あたしって・・本当にバカ・・」
沙也子の声はパトカーのサイレンに紛れて、独り言のように聞こえた。
二人は「捕まりたくない」「許してくれ」と懇願しているが、沙也子の耳には届いていないだろう。
沙也子はただうつむいて、涙は歩道のレンガを濡らしている。
レンガの色は沙也子の涙で朱色に変えられ、パトカーが二人を連れて行くまで、歩道は沙也子の涙で濡れていた。
警察で事情聴取を受け、その後、沙也子も私もハイエナスタッフも解放された。
真広と、沙也子を "先輩" と呼んだ中川という女は身柄を確保されたまま、のちに逮捕となった。
中川は去年入社の、沙也子と同じ総務の後輩だという。昨年の忘年会が真一の営業部と合同になり、紹介しあったのだと沙也子は言っていた。
『一年前から一円だって』
その時から付き合っていたのだろう。
店に戻ると経営者の洋平先生が「いったい何があったの!?」と迫ってきた。
私は洋平先生をハイエナスタッフに任せ、沙也子をアパートではなく実家に送り届け事情を説明した。
あれから、沙也子は実家に戻り、家から近い職場に転職して頑張っている。
真一は実刑をくらいそうだ。
400万は真一の両親から沙也子の口座に返されたが、謝罪はなかったという。
沙也子も沙也子の両親も、関わりになりたくないからそれでいいと言っていた。
沙也子は結婚よりいまは人生を楽しむことにしたと笑顔で話してくれた。服を選んでほしいと頼まれたことは近いうちに実現するだろう。
洋平先生が新しい人生の門出に、ワンピースをプレゼントすると言ってくれた。
私はそんな洋平先生のお店で、これまでと変わらずに店長として働いている。
そして、店のハイエナスタッフは
「え?浮気?」
「それっぽいんですよねぇ」
「よかったらお話、お聞きしますよ」
「話せば気持ちも楽になることもありますから!」
「その上で女っぷりをあげるお手伝いさせていただきますわ!」
「今までとは違う魅力を私達が引き出して差し上げます!」
今日もお客様との会話に修羅場のニオイを嗅ぎとろうと精をだしている。懲りねーなコイツら。
ウインドウから見える外は厚手のコートを着込む人が増えた。
もうすぐ冬が来るのだろう、そんな季節の出来事だった。
end
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる