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「お目覚めでございますか、ジョゼフィーヌ様」
「セルジュ・・?」
「はい、セルジュでございます。」
スイスの山奥、人知れぬ里に館はあった。
館の女主人ジョゼフィーヌは、魔王ルシフェルが最も愛する『人間の愛人』だった。
野にひっそりと咲く、すみれの花と同じ紫の瞳、しなやかにゆれる金色の長い髪。真珠のような艶めく肌に包まれた豊満な肉体は、魔王の激しい性欲をじゅうぶんに満たした。まさに、愛人にふさわしい肉体の持ち主であった。
しかし、ルシフェルがいちばん気に入っていたのは、彼女の清楚な微笑であった。
ジョゼフィーヌははるか昔、南フランスに存在した小さな村のカトリック教会のスール(シスター)であった。敬謙なカトリック信者であり、また、天界の神に選ばれし聖女でもあったが、人間に生まれ変わった魔王ルシフェルの罠にかかり、その身を堕落させたのである。
ルシフェルはジョゼフィーヌを人間の愛人として、人間界にかこうつもりだったが、魔界の情勢が変わり、3人目の妻の座に正式につかせることとした。さらにジョゼフィーヌを自分の部下でもある2人の悪魔と婚姻させた。
ひとりは上級悪魔であるベルフェゴール。
もうひとりは魔界の大公爵と呼ばれているアスタロト公爵だった。
「ジョゼフィーヌ様、昨夜は魔界でお疲れになったでしょう。でも大変お綺麗でしたよ」
黒い巻き毛に黒い大きな瞳・・まだあどけない子供の顔をした少年が、大きな窓のカーテンを開けた。
「・・・夢を見ていたんだわ・・・」
「どのような夢でございますか?僕は夢を見たことがないのでわかりませんが、人間は夢をよく見るのですか?」
「そうね、楽しい夢や、懐かしい夢・・、時には哀しい夢・・・」
「へえ・・僕も見てみたいなぁ」
少年はジョゼフィーヌにガウンを羽織らせ、笑って手際よくお茶を入れ始めた。
<人間は・・・>
少年の言葉にジョゼフィーヌは哀しくなった。
セルジュ・・
あなたもかつては人間だったのよ・・・
ジョゼフィーヌは、窓辺で花咲く庭をみつめ、懐かしくも悲しい出来事を思い出す。
あれはいつのことだったのか・・・
野イチゴをたくさん摘んだカゴ
お菓子を焼く甘い匂い
小さな村の小さな教会で、心優しき神父様に仕え、親を亡くした子供達と暮らしていた日々。
セルジュもその中の一人だった。
善良な村人達は貧しくとも力を合わせ、皆が寄り添うように生きていた。
皆が私を「スール・マリ」と呼び、愛してくれたのはいつのことだったのか・・・。
「ジョゼフィーヌ様、ご存知ですか?昨夜の宴ではサタン様がジョゼフィーヌ様を大変お気にいられたと、もう魔界中で噂が持ちきりだそうですよ」
少年は得意満面の笑みでにこにこと語り続けている。
笑うたびに口元に小さな牙が見え、舌の色は青黒い。
人間ではない証が、少年から見えた。
「夕べは疲れたろう、ジョゼフィーヌ」
ふいに耳元に言葉をかけられ、ジョゼフィーヌは驚いた。
いつの間にかルシフェルが、後ろから自分の体を抱きしめていた。
「ルシフェル様・・、おみえになるのでしたら、きちんと着替えてからお迎えしましたのに」
「構わないさ。夕べの魔界の乱交騒ぎで、君が機嫌を損ねていないか確かめにきただけだからね」
「機嫌を損ねるなど・・・」
柔らかな金色の髪、緑色の瞳のルシフェル。
穏やかな微笑みで、心地よい甘い声で、誰をも魅了するルシフェル。
ルシフェルは首筋にくちづけながら、言葉を続けた。
「魔界の連中は騒ぎ好きで困る。この私でさえ騒ぎに乗せられて、もう少しで君を皆の前で抱いてしまうところだった」
ルシフェルの手はジョゼフィーヌの就寝用の白いシルクのスリップドレスをたくしあげ、真珠色した両足の間へと指をすべらせていった。
「お目覚めでございますか、ジョゼフィーヌ様」
「セルジュ・・?」
「はい、セルジュでございます。」
スイスの山奥、人知れぬ里に館はあった。
館の女主人ジョゼフィーヌは、魔王ルシフェルが最も愛する『人間の愛人』だった。
野にひっそりと咲く、すみれの花と同じ紫の瞳、しなやかにゆれる金色の長い髪。真珠のような艶めく肌に包まれた豊満な肉体は、魔王の激しい性欲をじゅうぶんに満たした。まさに、愛人にふさわしい肉体の持ち主であった。
しかし、ルシフェルがいちばん気に入っていたのは、彼女の清楚な微笑であった。
ジョゼフィーヌははるか昔、南フランスに存在した小さな村のカトリック教会のスール(シスター)であった。敬謙なカトリック信者であり、また、天界の神に選ばれし聖女でもあったが、人間に生まれ変わった魔王ルシフェルの罠にかかり、その身を堕落させたのである。
ルシフェルはジョゼフィーヌを人間の愛人として、人間界にかこうつもりだったが、魔界の情勢が変わり、3人目の妻の座に正式につかせることとした。さらにジョゼフィーヌを自分の部下でもある2人の悪魔と婚姻させた。
ひとりは上級悪魔であるベルフェゴール。
もうひとりは魔界の大公爵と呼ばれているアスタロト公爵だった。
「ジョゼフィーヌ様、昨夜は魔界でお疲れになったでしょう。でも大変お綺麗でしたよ」
黒い巻き毛に黒い大きな瞳・・まだあどけない子供の顔をした少年が、大きな窓のカーテンを開けた。
「・・・夢を見ていたんだわ・・・」
「どのような夢でございますか?僕は夢を見たことがないのでわかりませんが、人間は夢をよく見るのですか?」
「そうね、楽しい夢や、懐かしい夢・・、時には哀しい夢・・・」
「へえ・・僕も見てみたいなぁ」
少年はジョゼフィーヌにガウンを羽織らせ、笑って手際よくお茶を入れ始めた。
<人間は・・・>
少年の言葉にジョゼフィーヌは哀しくなった。
セルジュ・・
あなたもかつては人間だったのよ・・・
ジョゼフィーヌは、窓辺で花咲く庭をみつめ、懐かしくも悲しい出来事を思い出す。
あれはいつのことだったのか・・・
野イチゴをたくさん摘んだカゴ
お菓子を焼く甘い匂い
小さな村の小さな教会で、心優しき神父様に仕え、親を亡くした子供達と暮らしていた日々。
セルジュもその中の一人だった。
善良な村人達は貧しくとも力を合わせ、皆が寄り添うように生きていた。
皆が私を「スール・マリ」と呼び、愛してくれたのはいつのことだったのか・・・。
「ジョゼフィーヌ様、ご存知ですか?昨夜の宴ではサタン様がジョゼフィーヌ様を大変お気にいられたと、もう魔界中で噂が持ちきりだそうですよ」
少年は得意満面の笑みでにこにこと語り続けている。
笑うたびに口元に小さな牙が見え、舌の色は青黒い。
人間ではない証が、少年から見えた。
「夕べは疲れたろう、ジョゼフィーヌ」
ふいに耳元に言葉をかけられ、ジョゼフィーヌは驚いた。
いつの間にかルシフェルが、後ろから自分の体を抱きしめていた。
「ルシフェル様・・、おみえになるのでしたら、きちんと着替えてからお迎えしましたのに」
「構わないさ。夕べの魔界の乱交騒ぎで、君が機嫌を損ねていないか確かめにきただけだからね」
「機嫌を損ねるなど・・・」
柔らかな金色の髪、緑色の瞳のルシフェル。
穏やかな微笑みで、心地よい甘い声で、誰をも魅了するルシフェル。
ルシフェルは首筋にくちづけながら、言葉を続けた。
「魔界の連中は騒ぎ好きで困る。この私でさえ騒ぎに乗せられて、もう少しで君を皆の前で抱いてしまうところだった」
ルシフェルの手はジョゼフィーヌの就寝用の白いシルクのスリップドレスをたくしあげ、真珠色した両足の間へと指をすべらせていった。
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