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「裁かれろ、裁かれろ」
自分で自分の処理も出来ねェ奴はなァ、人様に世話を掛けるんだよ。
ー苦しい、苦しいと嗤うには、十分すぎるモンじゃァ、在りませんか。ー
そんな大したモンじゃァ、無い。然しなァ、これは...
「裁かれろ、裁かれろ、裁かれろ」
人がなあ、罪を犯したときにァ、法の前で初めて裁かれる。死んだ後にァ、魂が神によって初めて裁かれる。手前は一体、何がそんなに可笑しくて嗤う。何故、猫の死体を飲む。何故、椿の首を喰らう。お前の罪は何だ。言ってみろ。俺の目の前で。
「裁かれろ、裁かれろ裁かれろ裁かれろ裁かれろ」
正解を、それでも尚、求めるのか。生き方と書き物と、区別をつけるのは何時だって、手前の勝手で、それでも神に罪を求めるか。
「裁かれろ...裁かれろ.....」
いい加減に、生きた心地で自分を慰めるなよ。
辺りが暗転した。気づいたら自分は何処か部屋の布団に横になっていた。
周りを見渡し1番最初に目に付いたのは低い机だった。否、机の上にある書き物だ。布団から重い体を引きずり机の上の物を手に取った。文体から察するに、手紙だろう。どこの誰が自分に寄こしたんだろう。否、これは自分に宛てた物なのだろうか。
-拝啓、倖様
この手紙を読んでお出ででしょうか。貴方は自身の犯したモノを、覚えていらっしゃるでしょうか。貴方、年頃は十九で御座います。今、居る部屋は貴方がこれから新しい罪を犯す処で御座います。余り汚さぬよう、ご配慮くださいませ。これから屹度その居間に見知らぬ女が入り込みます。結果が貴方の全てを悟らせてくれるでしょう。私は時期に貴方の元へ参ります。-
最後に、名前は書いていなかった。手紙を読み終わったあとに気付いた。そうだ、何も思い出せない。自分の名前も歳も、これを読むまでわからなかった。それになんだ。見知らぬ女とは、なぜこの書き手は未来でも見ているような事を書いた。もし本当にそうなら、じぶんは。犯したモノとはなんだ。疑問が溢れて堪らない。
「........此処は、アパート?」
外から鳴り響いてきた、まるで階段を激しく上がってくる音に、此処は1階ではないと察した。その音に続いて、自身のいる部屋のドアを激しく叩く音。騒がしい音。
「ねえ。ねえ、ねえ、いるんでしょう!開けてください!顔を、顔を見せて!私を安心させてください!」ドアの外で女の声が響いている。自分は重い体を持ち上げ、ドアの方へと歩き、手に掛けた。
その瞬間ドアは勢いよく開きその衝動で自身の体が崩れた。腰を打ち、阿保抜かした顔で見上げるは、全く見知らん女だった。女は自分の体ごと奥へ引きずり腰を下ろした。
「何を見る目で居らっしゃるの?一体長い間何処へ行っていたの。貴方を探すのにどれだけ時間と心配を掛けたと思っているの?私は、私は.........」言葉に勢いを亡くした女は俯き、自分の手を必死に握っている。その温度にも、まるで覚えがない。
「すまない、君は誰なんだ。」率直に、素直に。きっと、慎重に。
「あら何を冗談ばかり、私は貴方の妻よ?頭でも痛めたの?それともまた私をそうやって困らすの......?ああきっとお茶が欲しいんだわ。今すぐにでも淹れてきますから、そこで外でも見ておいて。」女は忙しいように立ち上がり、流し場へ行った。女が背を向けたあと、自分はハッと気づいたように机に目をやった。手紙。きっと都合が悪くなる。自分はそれを急いで服の内側へと仕舞った。その後何も知らないような振りを見せようと顔を外に向かした。その時初めて、この居間に窓があることを知った。自分は一体何者で、何処の誰で、何の職に就いているか。まるで分からない自身のこの状況を、嘲笑うように外は明るかった。立ち上がり、女に掴まれた襟を治し、ドアを開けベランダへ立った。都会、きっとここは都会の裏にあるアパート。それを察せと言わんばかりのコンクリートの壁。
「あら、鳥でも飛んでいたのかしら?」
真後ろに女がいた。後ろを見ると机の上に湯気を立たせた湯のみが二つ有った。
「貴方、本当に何もかも忘れてしまったの?子供が居るのよ、可愛い可愛い子供が。貴方との子供ではないけれど2人であんだけ可愛がっていたじゃないですか」再婚相手自分が?横に立たせて初めてわかった。此奴、この女、だいぶ歳をとりやがっている。三十中半、いや、四十過ぎか。だが手紙に自分は十九と書いていた。合わない、どうにも合わない。
「済まないな、もう一度聞くけど、君は本当に僕の妻なのか」
「ええそうよ、結婚してあるわ。苗字も貴方のものですもん」
苗字、そういえばあの倖という名前は姓なのか名なのか....
ああ、判らない、わからないわからないわからないわからない解らない。
「きっと頭が混乱しているだけなんだわ、ほらあなたの通帳よ。忘れて出て行ったもんですから私がずっと持っていたの。」
犬が、猫が、鳥が、アァ俺の目の前で死にやがる。可笑しい顔して笑いやがる泣きやがる、赤ん坊が、餓鬼が、畜生が、俺の頭を喰いやがる。空が海が俺を飲みやがる。あぁあ。----あああああああああああああ----
また、暗転した。
気づいたら布団の上だった。
頭が痛い、頭というか、首が。
「...........あ、あの女。」女がいない。居間で話してベランダに居た女が居ない。外を見やるが居たのは女ではなく、男だった。髪が黒く背丈は自分ほどの、痩せこけた足首が外側を向いている。ベランダの、柵の下を見下ろしている。机の上を見た。手紙と引き換えの湯のみが二つ。
どう云うことだ。自分は体を起こしベランダへ向かった。男に話しかけようとした時、男の方が早く、こちらを振り向いた。
「あんた、アンタがやったんか」
自分は呆けて、目を丸くした。やった?何を?自分は男が目をやっていたとこに、視線を向けた。
女が、落ちていた。あたりのコンクリートに、その女の血らしきものが散らばっていたので、様子を見るに、ここから落ちたのだろう。否、落とされたのだ。
「......自分は、自分は何も知らない。何も知らないよ!きっと女、この女が自分で」
「じゃああんたの顔にへばりついてるモンはなんだ。絵の具でも付いてるって言うのか。」
顔? 俺は顔に手をやった、気色の悪い、液体の触り心地。視認するとそれは、人間の血だった。
「ここになあ、ほら。煉瓦が転がってたんだよ。大方きっとこれで女の頭を割って、落としたんだろう。男手じゃないとこの煉瓦は振るえねえな。」
見れなかった。血のこびりついた煉瓦なんて。
「お前さあ、いい加減に」
「違う。これは違うんだよ、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
煉瓦を叩きつけて割った。男はギョッと目を大きくして見ていた。その崩れた自分の背中をさすって、自分を中に入るように言った。
落ち着いた様子の自分を慰めるように茶を飲ませた。急に音が止まったように静かになった居間は、耳に入れるに雑音でしか無かった。
「名前は斎。歳は十九。落ちてた女の連れ子だよ。あんたは再婚相手。名前は倖。安心してくれ、俺はお前を仇で殺したりなんかしない。」細目で、天然に巻かれた黒い髪の毛、細っこい首とあざの目立つ腕。女の連れ子、きっと女が落ちてしばらくして此処へ入ってきたんだろう。
「お、俺はお前なんかろくに育てれないぞ....稼ぎ口も解らない...どうしてここにいるのか、なんで女が落ちているのか....いや、本当に知らないんだ!気づいたらここで横になっていて、それで」
「ここに湯のみが二つ有るだろう。きっと女が沸かして置いたものらしいが、これはあんたと茶を飲む為に淹れたんじゃあない。俺と女があんたの死体を見ながら飲む為に入れたもんだ。女が死んでなきゃ、アンタが死んでたって訳だ。アンタのした事は正当防衛で片付くさ。安心して飲めばいいよ。尤も、旨くはねえだろうけど。」男、斎はそう言いながら茶柱ごと湯を飲んだ。
「アンタに働き口も稼ぎもある。寝る場所もな。ここではねえ。さっさと片して、ここから出るぞ。臭くてたまったもんじゃねえなあ。」
片す?女の死体を?と言ったが、そうではなく、湯のみの方だった。
正解を、それでも尚、求めるのか。生き方と書き物と、区別をつけるのは何時だって、手前の勝手で、それでも神に罪を求めるか。
「裁かれろ...裁かれろ.....」
いい加減に、生きた心地で自分を慰めるなよ。
自分で自分の処理も出来ねェ奴はなァ、人様に世話を掛けるんだよ。
ー苦しい、苦しいと嗤うには、十分すぎるモンじゃァ、在りませんか。ー
そんな大したモンじゃァ、無い。然しなァ、これは...
「裁かれろ、裁かれろ、裁かれろ」
人がなあ、罪を犯したときにァ、法の前で初めて裁かれる。死んだ後にァ、魂が神によって初めて裁かれる。手前は一体、何がそんなに可笑しくて嗤う。何故、猫の死体を飲む。何故、椿の首を喰らう。お前の罪は何だ。言ってみろ。俺の目の前で。
「裁かれろ、裁かれろ裁かれろ裁かれろ裁かれろ」
正解を、それでも尚、求めるのか。生き方と書き物と、区別をつけるのは何時だって、手前の勝手で、それでも神に罪を求めるか。
「裁かれろ...裁かれろ.....」
いい加減に、生きた心地で自分を慰めるなよ。
辺りが暗転した。気づいたら自分は何処か部屋の布団に横になっていた。
周りを見渡し1番最初に目に付いたのは低い机だった。否、机の上にある書き物だ。布団から重い体を引きずり机の上の物を手に取った。文体から察するに、手紙だろう。どこの誰が自分に寄こしたんだろう。否、これは自分に宛てた物なのだろうか。
-拝啓、倖様
この手紙を読んでお出ででしょうか。貴方は自身の犯したモノを、覚えていらっしゃるでしょうか。貴方、年頃は十九で御座います。今、居る部屋は貴方がこれから新しい罪を犯す処で御座います。余り汚さぬよう、ご配慮くださいませ。これから屹度その居間に見知らぬ女が入り込みます。結果が貴方の全てを悟らせてくれるでしょう。私は時期に貴方の元へ参ります。-
最後に、名前は書いていなかった。手紙を読み終わったあとに気付いた。そうだ、何も思い出せない。自分の名前も歳も、これを読むまでわからなかった。それになんだ。見知らぬ女とは、なぜこの書き手は未来でも見ているような事を書いた。もし本当にそうなら、じぶんは。犯したモノとはなんだ。疑問が溢れて堪らない。
「........此処は、アパート?」
外から鳴り響いてきた、まるで階段を激しく上がってくる音に、此処は1階ではないと察した。その音に続いて、自身のいる部屋のドアを激しく叩く音。騒がしい音。
「ねえ。ねえ、ねえ、いるんでしょう!開けてください!顔を、顔を見せて!私を安心させてください!」ドアの外で女の声が響いている。自分は重い体を持ち上げ、ドアの方へと歩き、手に掛けた。
その瞬間ドアは勢いよく開きその衝動で自身の体が崩れた。腰を打ち、阿保抜かした顔で見上げるは、全く見知らん女だった。女は自分の体ごと奥へ引きずり腰を下ろした。
「何を見る目で居らっしゃるの?一体長い間何処へ行っていたの。貴方を探すのにどれだけ時間と心配を掛けたと思っているの?私は、私は.........」言葉に勢いを亡くした女は俯き、自分の手を必死に握っている。その温度にも、まるで覚えがない。
「すまない、君は誰なんだ。」率直に、素直に。きっと、慎重に。
「あら何を冗談ばかり、私は貴方の妻よ?頭でも痛めたの?それともまた私をそうやって困らすの......?ああきっとお茶が欲しいんだわ。今すぐにでも淹れてきますから、そこで外でも見ておいて。」女は忙しいように立ち上がり、流し場へ行った。女が背を向けたあと、自分はハッと気づいたように机に目をやった。手紙。きっと都合が悪くなる。自分はそれを急いで服の内側へと仕舞った。その後何も知らないような振りを見せようと顔を外に向かした。その時初めて、この居間に窓があることを知った。自分は一体何者で、何処の誰で、何の職に就いているか。まるで分からない自身のこの状況を、嘲笑うように外は明るかった。立ち上がり、女に掴まれた襟を治し、ドアを開けベランダへ立った。都会、きっとここは都会の裏にあるアパート。それを察せと言わんばかりのコンクリートの壁。
「あら、鳥でも飛んでいたのかしら?」
真後ろに女がいた。後ろを見ると机の上に湯気を立たせた湯のみが二つ有った。
「貴方、本当に何もかも忘れてしまったの?子供が居るのよ、可愛い可愛い子供が。貴方との子供ではないけれど2人であんだけ可愛がっていたじゃないですか」再婚相手自分が?横に立たせて初めてわかった。此奴、この女、だいぶ歳をとりやがっている。三十中半、いや、四十過ぎか。だが手紙に自分は十九と書いていた。合わない、どうにも合わない。
「済まないな、もう一度聞くけど、君は本当に僕の妻なのか」
「ええそうよ、結婚してあるわ。苗字も貴方のものですもん」
苗字、そういえばあの倖という名前は姓なのか名なのか....
ああ、判らない、わからないわからないわからないわからない解らない。
「きっと頭が混乱しているだけなんだわ、ほらあなたの通帳よ。忘れて出て行ったもんですから私がずっと持っていたの。」
犬が、猫が、鳥が、アァ俺の目の前で死にやがる。可笑しい顔して笑いやがる泣きやがる、赤ん坊が、餓鬼が、畜生が、俺の頭を喰いやがる。空が海が俺を飲みやがる。あぁあ。----あああああああああああああ----
また、暗転した。
気づいたら布団の上だった。
頭が痛い、頭というか、首が。
「...........あ、あの女。」女がいない。居間で話してベランダに居た女が居ない。外を見やるが居たのは女ではなく、男だった。髪が黒く背丈は自分ほどの、痩せこけた足首が外側を向いている。ベランダの、柵の下を見下ろしている。机の上を見た。手紙と引き換えの湯のみが二つ。
どう云うことだ。自分は体を起こしベランダへ向かった。男に話しかけようとした時、男の方が早く、こちらを振り向いた。
「あんた、アンタがやったんか」
自分は呆けて、目を丸くした。やった?何を?自分は男が目をやっていたとこに、視線を向けた。
女が、落ちていた。あたりのコンクリートに、その女の血らしきものが散らばっていたので、様子を見るに、ここから落ちたのだろう。否、落とされたのだ。
「......自分は、自分は何も知らない。何も知らないよ!きっと女、この女が自分で」
「じゃああんたの顔にへばりついてるモンはなんだ。絵の具でも付いてるって言うのか。」
顔? 俺は顔に手をやった、気色の悪い、液体の触り心地。視認するとそれは、人間の血だった。
「ここになあ、ほら。煉瓦が転がってたんだよ。大方きっとこれで女の頭を割って、落としたんだろう。男手じゃないとこの煉瓦は振るえねえな。」
見れなかった。血のこびりついた煉瓦なんて。
「お前さあ、いい加減に」
「違う。これは違うんだよ、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
煉瓦を叩きつけて割った。男はギョッと目を大きくして見ていた。その崩れた自分の背中をさすって、自分を中に入るように言った。
落ち着いた様子の自分を慰めるように茶を飲ませた。急に音が止まったように静かになった居間は、耳に入れるに雑音でしか無かった。
「名前は斎。歳は十九。落ちてた女の連れ子だよ。あんたは再婚相手。名前は倖。安心してくれ、俺はお前を仇で殺したりなんかしない。」細目で、天然に巻かれた黒い髪の毛、細っこい首とあざの目立つ腕。女の連れ子、きっと女が落ちてしばらくして此処へ入ってきたんだろう。
「お、俺はお前なんかろくに育てれないぞ....稼ぎ口も解らない...どうしてここにいるのか、なんで女が落ちているのか....いや、本当に知らないんだ!気づいたらここで横になっていて、それで」
「ここに湯のみが二つ有るだろう。きっと女が沸かして置いたものらしいが、これはあんたと茶を飲む為に淹れたんじゃあない。俺と女があんたの死体を見ながら飲む為に入れたもんだ。女が死んでなきゃ、アンタが死んでたって訳だ。アンタのした事は正当防衛で片付くさ。安心して飲めばいいよ。尤も、旨くはねえだろうけど。」男、斎はそう言いながら茶柱ごと湯を飲んだ。
「アンタに働き口も稼ぎもある。寝る場所もな。ここではねえ。さっさと片して、ここから出るぞ。臭くてたまったもんじゃねえなあ。」
片す?女の死体を?と言ったが、そうではなく、湯のみの方だった。
正解を、それでも尚、求めるのか。生き方と書き物と、区別をつけるのは何時だって、手前の勝手で、それでも神に罪を求めるか。
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