瞬く間に住む魔

秋赤音

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花は愛を乞う

絡め繋ぐ

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一か月後。
会いにきたスノウ・クラフ様の表情は、真昼の日差しとは逆で暗かった。
酔えば原因について話すと思い、酒につき合うよう指示した。
ゆったりとした長椅子の隣にいるスノウ・クラフ様。
盃に注げば、瞬く間に腹へと消える酒。
何度か繰り返すと、あっという間に酒に飲まれてしまったスノウ・クラフ様。
肩にもたれてきて、とろんとした目が盃を眺めている。

「夫が、最近になって夢で恋人の名前を呼んでいるの。
記憶操作を何度しても、三日に一度は…私どうすればいいの」

「夢を見るようになったきっかけに心当たりはありますか?」

「きっかけ?心当たり…ある、街で偶然に出会ったの。
妻を連れた、ウォル・ガディに。
あのときは、あまり熱心に見ていなかったのに」

水に興奮作用のある薬を混ぜて渡すと、ますます語りは滑らかになった。
日常の惚気と苦痛を交互に話すスノウ・クラフ様に実験の経過を兼ねて、夜伽について聞いた。

「夫はね、とっても、とーっても優しく抱いてくれるの。
痛くないようにって、焦らして、焦らして、ぐずぐずになった私でも。
奥までゆっくりと入ってくるの、熱くて逞しい…でも、夢では同じように恋人を…ぅ…ぅうっ、どうして…」

おそらく、今スノウ・クラフ様が身に受ける快楽は本来恋人が味わていたはずのもので。
どちらも権力者の伴侶に選ばれなければ、交わした愛を温め続けていたはずだった。
自分も、偶然が重ならなければ、今という時間は得られなかった。
きっと、誰も悪くない。
そうしなければ、生きていけないだけだ。
涙を流し始めたスノウ・クラフ様の肩を抱き寄せると、スノウ・クラフ様の目がこちらを見た。

「ジル様?」

「夫様はどのようにスノウ様を抱いているんです?」

「夫は、ジル様のように自慰を求めないの。
意地悪な玩具も使わないし、私が嫌だと言えばやめてくれる。
ジル様と違って、そう…優しい、の」

スノウ・クラフ様は、誇らしそうに微笑んだ。
羨ましい。
ドレスで隠れない場所に痕を残すような人間が、優しいとは思えないが。
痕を残すことができるのが羨ましい。
だが、目の前で発情し始めているスノウ・クラフ様を眺められるのは愛人特権だと思っている。
契約だからこそ見られる一面は、きっと自分だけのものだ。
遠慮なく柔らかな胸に触れると、すでに硬い先が当たる。
ドレス越しに胸の先を避けながら愛撫をすると、喘ぎ声と水音が聞こえてくる。
スノウ・クラフ様は気づいているだろうか。
まだ指示していないのに、自ら秘部に触れて自慰をしていることに。

「スノウ様、今日は夫様に倣って優しく、します」

「ぁ…っ、んん…ぁ、…やさ、しく?」

「はい。今日は玩具を使わないし、いれません。
その代わり、胸で受けとめてくださいね」

ゆっくりとその場に押し倒し、ドレスを脱がせた。
そして、自身をスノウ・クラフ様の目の前に晒し、汗が滲む胸の間に入れる。
何度も胸で射精をした後、物足りなさそうに見つめてくるスノウ・クラフ様をわざと一人で浴室に向かわせた。
あまりにも時間がかかっているので様子を見に行くと、扉越しに聞こえる喘ぎ声。
そっと扉を開けると、驚いた表情が出迎えてくれた。
遠慮なく近づいて、壁に背を預けながら目の前に晒されている秘部に手を伸ばす。
自慰をしている手に重ね添え、動かし始める。

「ぁ…これ、は…ぁひぃい!ぃひやあああ!つよいぃっ…それ、だめ…きもち、ぃいからぁあ…ぁひゃあっ!」

「優しくしたのに、物足りなかったですか?
夫様が相手でも、同じように自分で自らを慰めているんですか?」

空いている片手で胸に触れると、押しつけてくるように身を寄せてきた。

「ちがぁああああっ、んひぃいいいい…っ!イくの、とまらなぃいゃあああああっ!!」

何度も潮を吹きながらイくスノウ・クラフ様。
それでも満足する気配はなく、むしろ腰の動きは激しくなっていく。
興奮薬が効いているんだろう。
物足りないらしく、傍に置いてあった玩具を見つめている。

「玩具は嫌なんだろう。だが、夫ではない子種も嫌だろう」

「あんっ、んぁあああ…もっと、強く…ぁ…子種、子種があぁあっ」

無防備な腹の上に射精すると、惜しそうに見てくるスノウ・クラフ様。

「この子種は夫様のものではありません」

「は…ぁっ、ジル様の、奥まで…ほしいです…っ」

「無理です。指では届きません」

「ぁあ…は、ぁっ、指、では…なくて、射精…して、ください」

「いいだろう」

秘部の奥まで一気に貫き射精すると、満足そうに熱いため息をはいたスノウ・クラフ様。
場所を変え、体位を変え、求められ、何度も交わった。
気づけば夜は去り、新しい朝が始まっていた。
興奮薬の効果がなくなったスノウ・クラフ様は、鏡をみて映った自分の姿に顔を青くした。
夫ではない男にすがり、夫のものではない精を全身に浴び、秘部からは流れ出ている様に。
繋がりを解くと、スノウ・クラフ様は慌てて浴室に向かった。
遺伝子の回収のため、続いて浴室に入った。
道具を見せると、素直に応じたスノウ・クラフ様は何度もイき、蜜を床へ散らした。


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