人形は瞼をとじて夢を見る

秋赤音

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舞う乙女は異国で咲く

5.死が分かつまで

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七日後。

「おそらく問題ないと思うけど、
何かあればニコルに言ってください」

「よかったな。
せっかくだから、手合わせして帰るか?」

「いいの?なら、先にウォルさんから。
いいよね?」

頑丈な結界が迎えてくれたニコルの家で、
目的は一時間もたたずに終わった。
そして、ニコルから、
命の恩人へ対価を払う機会が与えられた。

「はい。お願いします」

「リリアは、ここで一緒にお菓子を食べてようか」

「早く、早く!
実は、すでに結界をはってあるから、
いつでも始められます」

どこからか現れた追加のお菓子でランファの視線を奪うニコル。
私は、楽しそうな声のリアンさんの背を追う。
手合わせは、互いが傷でボロボロになるまで続いた。
止めに入ったニコルと交代で部屋へ戻ると、
ランファに驚かれた。
しかし、どこか嬉しそうに笑っている。

「楽しかった?」

「まあ、な」

「よかった」

「いいな…私も手合わせしたい」

「ダメだ。ランファの肌に傷なんて、一つも許さない」

拗ねるランファをどうしようか悩んでいると、
ニコルと手合わせを終えたリアンさんが戻ってきた。

「リリアさんとは、手合わせ頼まれても無理です。
まだ死にたくないので、ごめんなさい」

「どういうことですか?」

「分からない方がいいことも、あるよな」

私を見てそういうニコルに、
ランファはますます疑問を深めたらしい。

「ですね。まずは、手当です」

リアンさんはお礼と言って、ニコルと私を治してくれた。
その後、ニコル特製の食事を四人で食べる。
少し早めの夕食を終え、家に帰ると、
ランファを抱えて風呂場へ行った。
誰も入れないように結界をはる。

「ウォル?」

外出した服のまま床におろされたせいか、
戸惑っているランファ。
座らせたランファの前で膝を折り、抱きしめる。

「私では、物足りないのか」

「ええ、と?」

「武人として、
魔法を扱う者として…自分ができる限界で成果は出してきた。
確かに、まだまだ未熟だが。
他の者に目が映るほど、ランファにとっては弱いのか」

困惑しているランファに構わず、続けた。
言葉を吐き終わると、答えを促すようにランファを見る。

「ウォルは、強いです。
手合わせしたくなったのは、
ウォルがとても楽しそうだったから、
同じことをしてみたくなっただけです」

拗ねたようにそう言うと、私の胸に顔をうずめた。

「そうか」

何も答えないランファ。
可愛らしい理由と行動に、理性を投げ出した。

「私たちしかできない、楽しいこと、しようか」

耳元で囁くと、ランファがびくんと反応し、
私の服の裾をつかんだ。

「おふろ…はいって、から…なら」

瞳が潤む顔を見せたランファの唇を塞ぐ。

「ウォル…ぅ、んっ、……っ、…ぁ、んん!」

唇からこぼれた声と、脱力する反応で達したのが分かる。
ランファに触れているすべてを解いて離れる。
離れたばかりだが欲しくなる目の前にいる温もりを、じっとみる。
焦点の合わない瞳が私を見上げた後、すぐに目をそらした。

「イったのか」

「はい…ごめんなさい」

「そうだな。いいとは言っていない。
ずっと感情がかなり乱れているようだが、
私がなにをした?」

「リアンさんが、妬ましくなっただけです。
でも、ウォル、
楽しそうだから、嬉しくて…自分がわかりません」

おそらく、ランファは嫉妬したのだろう。
悩んでいる目の前で悪いと思うが、
それが嬉しくてたまらない。

「おそらく、だが。
それを嫉妬、というらしい」

「し…っ、私、そんな…ごめなさ…っ」

謝ろうとする口をふさぐ。
舌を強く吸えば、こぼれる声。
呼吸が苦しそうなので離れる。
魔力をたどり体の具合を確認すると、
ランファの魔力が、乱れる感情に同調しているのが伝わる。
そして、情欲で潤む秘部から蜜が足を伝っているのが分かった。

「服、脱いで?」

「はい」

目の前で潔く脱いだ後、座ったままだが器用に取り払われた布を
丁寧に傍へ置いている。
その様子も、肌を覆うものがなくなったランファをじっと眺める。

「ランファ」

「私は、その妬みが嬉しい。
ランファが私へ向ける全ての感情が欲しい。
だから、隠さないで」

「ウォル…」

「わかるまで、この体に、刻みつける」

指の腹で柔く表面を撫でるたびに、
呻くような声が聞こえる。
首筋から体の中心を伝い、
腹の、熱を埋め込むその場所で止まる。

「はい」

とろけた笑みが私をみた。
そして自ら足を開き、蜜が溢れる秘部を晒す。

「上にのれ」

そう言いながら、上着を脱いだ。
あとは脱ぐことすら惜しく、
手早く張りつめて苦しいものを開放する。

「ぁ…っ、はい」

ランファは下肢で主張するものを見て吐息をもらす。
新たに足を伝って落ちている蜜を眺めていると、
甘い香りが濃くなったランファが私へまたがった。
秘部と昂りが擦れ合う度に聞こえるのは、
こぼれるランファの吐息と艶な呻き。
ゆっくりと埋まっていく感覚が、私を満たす。

「あ、ん…んぁ……っ、あ、ウォル、イく。
もう…ゆるしてくださ、…っ」

まだ半分のところで、すでに達しそうなナカ。
ランファが夢中で腰を動かしながら懇願する。
絶え間なく聞こえる水音は、
ランファの感情を表しているようだ。
泣いているようにも聞こえたので、
半分の力であやすように強弱をつけながら突き上げる。

「あ!や、それ、我慢できな…ぁっ、ああ…っ」

「まだ、奥まで届いていないだろう?」

「お、く…まで…あ!…ん、ぁあ……っ」

達しそうになると弱める。
すると、催促するように押し付けられる動きが、
自身を奥へと導いていく。
すべてがナカへ包まれると、懇願する瞳に応える。
強く、奥へ、奥へと自身を刻みつける。

「そうだ。そのまま…ご褒美だ。イけ」

「ウォル…んんっ、あ、ああっ!…ぅ、ん…っ」

達した後も堪能するようにうごめくナカは、
隙間なく自身を包んでいる。
味わうように動く緩やかな腰をそっと撫でると、
うっとりとした甘い声がこぼれる。

「まだ、足りない。
ランファもほしくないか?ここに、たっぷりと」

「あ…、…っ、ウォルの、ほしい…」

撫でる手を腰から腹へ伝わせ、
自身が埋まっているところを軽くおし、撫でる。
すると、ランファは再び緩やかに貪るような動きへ変わる。

「そのまま、イけ」

「あ!あ…っ、イく、あ…っ、ん、ぁ、あああ!」

ランファの動きに合わせて深くつくと、
ナカを強く締めつけながら達した。
一滴もこぼさず飲もうとする様を感じながら、
連続で二度、三度と熱を出す。

「そうだ。こぼさないようにな」

「ぁ…いっぱい、ナカに…っ、またイく…ぅ、ああっ」

出した魔力へ栓をするように、
まだ昂るままの熱を奥へ押し込む。
その刺激で達した様子を眺めながら、
ナカの柔らかさを堪能する。

「まだ足りないようだな」

「そんな、あ!んんっ、もう、む、り…ぃ、や、あ!」

言葉とは逆に、体は欲を貪って淫らに動く。
湧き出るような蜜と出したばかりの白い欲が、
さらにナカの滑りを良くしている。

「ああ!ん!んぅっ!…ぁ…あっ!
ぬいて、くださ…ぁああっ!」

「そうだ。イけ。もっとだ」

「ウォル、や、ぁ、あぅ…んんっ!…ぁ、なん、で…」

「私の魔力で満たしたい」

「もう、いっぱい…あ、あっ!そこ、や、ぁ!イく…っ!」

さすがに体が限界らしく、
私の首から背中に腕をまわして抱きついてくる。
その呼吸は荒いままだが、
私が緩やかに動くと苦しそうに呻く。

「ど、ぉして…ぁ、あ…っ」

「あとで、話す。これで最後だ。
しっかり受け止めろ」

「出して、ナカ…ぁ、ウォルで、いっぱいにしてくだ…ぁっ、ん、ん!あ、イく、ぅ…あああ!」

最も強い締めつけを感じながらとろけきったナカに全て出した。

「うぉ、る…」

私の名をつぶやいた直後、穏やかな寝息が聞こえてくる。

「ただの、嫉妬、だ」

私自身が驚いている。
こんなにも持て余すとは、思っていなかった。
目的のためとはいえ、
魔力に深く干渉されるのが気に入らなかったが、
こんなにも燻りが消えないと予想していなかった。

「無理させてごめん、な」

寝ている者を相手に話すのは無駄だと分かっているが、
嫉妬の理由が苦しく、できれば言いたくなかった。
下肢の繋がりを解いて、一度ゆっくりと寝かせる。
秘部から足に伝う白混じりの雫の多さに、
ますます罪悪感がこみ上げる。
体を冷やさないようにと思い、
脱いで投げていたままの上着でランファの身を包む。
ランファが着ていた服を持って、
そのままランファを抱き上げる。
転移魔法で自室へ戻ると、
腕の中でランファが身じろぎする。

「うぉ、る…ここは?」

「私の部屋だ。無理をさせたな。
今日はここで休めばいい」

「ん…いっしょ、に…ね、る」

「当然だ」

「ん…」

瞼は開かないまま、
再び眠るランファをゆっくりと寝台へおろす。
上着をとろうとするが、ランファが握っていたのでやめた。
その上から毛布をかける。

「おやすみ」

翌朝。
結界がはってあるままの風呂へ転移して一緒に入る。
肩を並べて湯船につかっていると、昨日のことを聞かれた。
思考と体が矛盾して快楽に溺れ浸る状態の理由も。
嫉妬と、その理由を恥ずかしさを堪えながら答えると、
意外にも嬉しそうに微笑んだ。
そして、快楽に染まる理由には心当たりがあるらしく、
顔を真っ赤にしながら黙ってうなずいてばかりだった。

避妊魔法。
生まれた理由は、楽をするためだったらしい。
無理やり魔法で生殖機能を魔力に変えて、
それが体液に上乗せされる。
一度に多い魔力を交わすことで、
媚薬を飲んだような体になる。
しかし、それすらも"便利"や"楽しみ"と言われている。

そもそも、魔力を交わす行為そのものが危険とされている。
相手の立場や魔力の相性しだいでは、毒も力にもなるからだ。
最悪の場合は生きていられない行動をあえてすることで、
神経を刺激している。
背徳感や危機的状況で目覚める鋭さか、
あるいは、恐ろしく無防備なまでの安堵感。
どちらにしても、触れ合うことで満たさせる感情がある。
そこに、抗えない強さの暴力が上乗せされて、
異常な興奮状態が生まれる。

仕事や武術や魔法を磨いて憂さを晴らす者のいるが、
お酒や暴力に身を預け、辛いことを強烈な快楽で流し、
明日へ向かって歩き続けている者も多い。
兵士や貴族は、決まりごとが多く、
懐妊すると厄介なことが多い。
しかし、誘惑も多い。
出会いの場は豊かで、
欲には従順な許され自由さが垣間見えるが、
表向きの決まりや"花嫁は純潔"という伝統が、
独特な空気を作っている。
ヒリヒリとした緊迫感と常に背合わせの状況。
安らぎとは無縁な世界に浸り、
正しく働かない神経から生まれるのは、
他者を虐げたいと言う欲望。
そちら側になって、
ほんのわずかな安全地帯でもいいから得たい感情。
暴力や暴言、性行為は、
それらを表現するのにちょうどよく使われた。
避妊すら面倒な者は、
同性をはけ口に使うこともあると聞く。

「確かに、子供は作るなと言われているけれど。
それも承知で一緒にいます。
避妊は当然だと、思いますが…まさか、そんな」

おそらく、過去の様々を思い出したらしく、
赤い顔は目をそらし、唇をきつく閉じた。

「あと。あえて、言っていなかったが。
初めから、使っていただろう。
確かに兵士にとって懐妊は厄介だからな。
よく叩き込まれている。
そこへさらに、意識して使うと、どうなると思う?
私も毎回使っているからな」

三重の避妊魔法。
身体が交わす一度に魔力が多すぎる。

「そんなの、抗えない暴力と同じ…です」

「そうだ。だが、私たちは魔力の相性が良すぎる。
互いに循環し、力に変えられる。
おかげで、ああなるが、
それでも理性にしがみついていられるのは、
日々の鍛錬のおかげだ。
互いに武人でよかった」

「私が武人で…」

ランファは赤い顔のまま驚いて、
今にも泣いてしまいそうな声だ。
おそらく、思い出した過去を考えている。
確かに褒められたものではないが、
それがなければ出会えなかった。
今では送り主に感謝している。
結果だけ見れば、スパイに、自ら率先して、
守るべき自国の情報を与えてしまったことになるが。

「素質があったから磨いてみたが、後悔はしていない。
元々、一生どこへも逃がすつもりはなかったからな。
私は、ランファの全てを愛している」

湯の中で、そっと手の甲に触れる。
すると、その手にランファの手が重なる。
隣をみると、私に向き合い見つめるランファがいた。

「はい。私も、ウォルを愛しています」

涙声の告白に、思わず頬が緩む。
零れ落ちそうな涙を舌ですくって飲むと、
照れたように笑って私に口づける。

「返してください。涙も私の一部です」

触れただけの唇は、離れた後で綺麗な弧を描き、
苦く笑っている。

「分け合えばいいだろう」

「はい」

私の言葉に瞬くと、やはり苦く笑った。
重なっている手の指先をわずかに動かすと、
ゆるりと絡む指先。
空いている手を首筋にそえ、そっと口づけた。
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