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影に鳴く
瞬く逢瀬
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薄暗い路地裏。
互いに熱を吐き出すと、
客は萎えたモノを俺からぬく。
お金は先にもらっているので、
そのまま立ち去っても問題はない。
身支度をしていると、腕をつかまれる。
「待てよ。
天使サマ、もう少しだけ一緒にいてくれないか?」
一部の客は、なぜか俺を天使と呼ぶ。
素手で土遊びをしていた場所には草木が生えず、
ついには生殖力がないと判断された俺を。
祝福を与えるのが天使なら、俺は逆だと思う。
命を奪うのが死神や悪魔だというなら、俺はそれだ。
最近、俺の客だった人間が死んでいると聞いた。
穏やかな気持ちにはなれないが、
生活のために選んだ道なので引き返す気はない。
「どうして、俺を天使と呼ぶ?
噂は、知っていると思うけど。
どちらかといえば、死神か悪魔らしい話」
「その噂から天使…と聞いたがな。
俺も、その一人。
触れた温かさも、こうして話をしてくれる時間も、
俺にとってはすべてが幸せだから」
客は、とても穏やかな表情だった。
もうすぐ死ぬかもしれないのに。
「幸せ?」
「ああ。とても。ありがとう」
掴まれたままの腕が俺を引き寄せ、
再び客に抱きしめられた。
「どういたしまして?」
「どうして疑問形?まあ、いいか。
そういえば、悪魔もいるらしい。
"手に触れられるだけで体の異常が無くなる"と評判だ。
強姦された妊婦の腹から生まれるはずだった子供を消した…とな」
「本当に体の異常がなくなるなら、
それこそ安らぎを与える天使みたいだ。
どうして、悪魔?」
背中に感じるぬくもりを感じながら、
耳元で聞こえる声に問う。
「理由までは分からないが…
"全てを無にする「天使」で「悪魔」"だと言われている」
「俺にも理由が分からない。
困っている人を助けられるなら、良いことではないのか?
それこそ、医者が求めていそうな力なのに」
「そうだな。新地の奴らは何を考えているのか。
まあ、分からないから、ここにいるんだろうが」
その言葉はとても心地が良かった。
俺も、分からないからここが合っているんだろう。
「俺は同じ仕事があったとしても、ここを選ぶと思う」
「俺も」
楽しそうに笑う客に思わずつられると、
嬉しそうに客は笑った。
「シア」
柔らかく名前を呼ばれ、そっと手を繋がれた。
その手を握り返すと、客はゆっくりと離れた。
最後に指先まで名残惜しむように繋がれた手を解く。
腕には綺麗な花が小さく一輪咲いていた。
「なに?」
「ありがとう」
振り向くと目が合ったのは穏やかな笑み。
そして、客は背を向けて歩き始めた。
数日後。
相変わらず廃れた街を歩いていると、
遺体を運ぶ人とすれ違う。
袋からこぼれている腕には、
見たことのある小さな花が咲いていた。
ふと、足音がした。
「シア!」
向かいから、待ち合わせの客がきた。
あっという間に俺を腕の中へ収めると、
目を細めて見下ろした。
「お腹すいたよね?
僕のお気に入りのお店があるから行こう?」
「まかせる」
「ありがとう。今だけは僕の天使でいてね」
俺の頬に口づけると、
嬉しそうに微笑む客は俺の肩に手を添えて歩き始めた。
互いに熱を吐き出すと、
客は萎えたモノを俺からぬく。
お金は先にもらっているので、
そのまま立ち去っても問題はない。
身支度をしていると、腕をつかまれる。
「待てよ。
天使サマ、もう少しだけ一緒にいてくれないか?」
一部の客は、なぜか俺を天使と呼ぶ。
素手で土遊びをしていた場所には草木が生えず、
ついには生殖力がないと判断された俺を。
祝福を与えるのが天使なら、俺は逆だと思う。
命を奪うのが死神や悪魔だというなら、俺はそれだ。
最近、俺の客だった人間が死んでいると聞いた。
穏やかな気持ちにはなれないが、
生活のために選んだ道なので引き返す気はない。
「どうして、俺を天使と呼ぶ?
噂は、知っていると思うけど。
どちらかといえば、死神か悪魔らしい話」
「その噂から天使…と聞いたがな。
俺も、その一人。
触れた温かさも、こうして話をしてくれる時間も、
俺にとってはすべてが幸せだから」
客は、とても穏やかな表情だった。
もうすぐ死ぬかもしれないのに。
「幸せ?」
「ああ。とても。ありがとう」
掴まれたままの腕が俺を引き寄せ、
再び客に抱きしめられた。
「どういたしまして?」
「どうして疑問形?まあ、いいか。
そういえば、悪魔もいるらしい。
"手に触れられるだけで体の異常が無くなる"と評判だ。
強姦された妊婦の腹から生まれるはずだった子供を消した…とな」
「本当に体の異常がなくなるなら、
それこそ安らぎを与える天使みたいだ。
どうして、悪魔?」
背中に感じるぬくもりを感じながら、
耳元で聞こえる声に問う。
「理由までは分からないが…
"全てを無にする「天使」で「悪魔」"だと言われている」
「俺にも理由が分からない。
困っている人を助けられるなら、良いことではないのか?
それこそ、医者が求めていそうな力なのに」
「そうだな。新地の奴らは何を考えているのか。
まあ、分からないから、ここにいるんだろうが」
その言葉はとても心地が良かった。
俺も、分からないからここが合っているんだろう。
「俺は同じ仕事があったとしても、ここを選ぶと思う」
「俺も」
楽しそうに笑う客に思わずつられると、
嬉しそうに客は笑った。
「シア」
柔らかく名前を呼ばれ、そっと手を繋がれた。
その手を握り返すと、客はゆっくりと離れた。
最後に指先まで名残惜しむように繋がれた手を解く。
腕には綺麗な花が小さく一輪咲いていた。
「なに?」
「ありがとう」
振り向くと目が合ったのは穏やかな笑み。
そして、客は背を向けて歩き始めた。
数日後。
相変わらず廃れた街を歩いていると、
遺体を運ぶ人とすれ違う。
袋からこぼれている腕には、
見たことのある小さな花が咲いていた。
ふと、足音がした。
「シア!」
向かいから、待ち合わせの客がきた。
あっという間に俺を腕の中へ収めると、
目を細めて見下ろした。
「お腹すいたよね?
僕のお気に入りのお店があるから行こう?」
「まかせる」
「ありがとう。今だけは僕の天使でいてね」
俺の頬に口づけると、
嬉しそうに微笑む客は俺の肩に手を添えて歩き始めた。
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