34 / 40
悠久の約束と空の夢
1.喰い
しおりを挟む
「私、オウマ様の…王様のご子息の傍にいます。
瀬菜様は、ハヤトという名の聖職者の方が守ってくれているので少しは安心です。
私も見守ります。
しばらくしたら、戻りますね」
帰ってきた詩織は、行き来をするたび、
落ち着かない様子で過ごしていた。
しばらく出かけないではいたが、やはり落ち着きがなかった。
作業が終われば出てくるため息と憂いの表情を一瞬見せても、
笑顔で誤魔化して悩みを話すことはなかった。
そして、何かの決心がついたのか、しばらくは戻らないと言う。
「気をつけて、だよ」
「詩紅様…大丈夫です。
民は白い獣に悪さをしません。
祈る熱意ばかりの民が多くて困りますが、
身の安全面では少しだけ安心です。
盗賊には気をつけてください」
「はい。いってきます」
不安と好奇心に溢れた瞳はまっすぐに先を見て消えた。
今頃はどこか目立たない場所へ降り立っているだろう。
「詩織…」
落ち込む詩紅に特別な緑石を渡す。
自分用と同じものを複製した集音道具。
これが何か察した詩紅は、瞳を大きく見開く。
石はそっと受け取る手で大切そうに包まれる。
「詩紅、これを。
風が周囲の様子を知らせてくれます。
瀬菜のことも分かるようにしてあります。
今、音だけでなく目でも確認できる仕組みを作っています。
完成したら試運転の手伝いをお願います」
「使い方は、分かる…でも、いいのか?」
「私の代わりに見張っていてもらえると助かります。
新しい仕組み作りに集中したいので、お願いします」
「…わかった。僕、頑張る」
揃いの石から聞こえる楽しそうな少年と少女の声。
土を耕す音もする。
珍しい子供だ。
「ハヤトというのは安全なのか、きちんと確かめなければ…
オウマという者は王と呼ばれているが、何者だ?
シンと名乗る者は魔術が得意そうだが…」
「今からそれらを見極めるのです。
一緒に、ね」
「そうだよね。大空、ありがとう」
唸るのをやめた詩紅は石を首飾りにして身につける。
魔力を流せば頭へ直接伝わる仕組みは瀬菜と詩紅が考えた。
とても便利で、今では必需品になった。
私も安全のために急がなければいけない。
「お互い様です。
皆で穏やかさを維持するのです。
私は作業に戻ります」
「うん。あとは任せて」
明るい声で消えた詩紅。
魔力の残像がなくなるまで見送り、作業へ戻る。
隠していた鏡を取り出し、魔術を使う。
まずは聖域を見渡せるかからだ。
これができれば、音だけよりも分かることが増える。
後悔をそのままでは終わらせない。
穏やかな暮らしのため、鳥の長としてできることをするだけだ。
瀬菜様は、ハヤトという名の聖職者の方が守ってくれているので少しは安心です。
私も見守ります。
しばらくしたら、戻りますね」
帰ってきた詩織は、行き来をするたび、
落ち着かない様子で過ごしていた。
しばらく出かけないではいたが、やはり落ち着きがなかった。
作業が終われば出てくるため息と憂いの表情を一瞬見せても、
笑顔で誤魔化して悩みを話すことはなかった。
そして、何かの決心がついたのか、しばらくは戻らないと言う。
「気をつけて、だよ」
「詩紅様…大丈夫です。
民は白い獣に悪さをしません。
祈る熱意ばかりの民が多くて困りますが、
身の安全面では少しだけ安心です。
盗賊には気をつけてください」
「はい。いってきます」
不安と好奇心に溢れた瞳はまっすぐに先を見て消えた。
今頃はどこか目立たない場所へ降り立っているだろう。
「詩織…」
落ち込む詩紅に特別な緑石を渡す。
自分用と同じものを複製した集音道具。
これが何か察した詩紅は、瞳を大きく見開く。
石はそっと受け取る手で大切そうに包まれる。
「詩紅、これを。
風が周囲の様子を知らせてくれます。
瀬菜のことも分かるようにしてあります。
今、音だけでなく目でも確認できる仕組みを作っています。
完成したら試運転の手伝いをお願います」
「使い方は、分かる…でも、いいのか?」
「私の代わりに見張っていてもらえると助かります。
新しい仕組み作りに集中したいので、お願いします」
「…わかった。僕、頑張る」
揃いの石から聞こえる楽しそうな少年と少女の声。
土を耕す音もする。
珍しい子供だ。
「ハヤトというのは安全なのか、きちんと確かめなければ…
オウマという者は王と呼ばれているが、何者だ?
シンと名乗る者は魔術が得意そうだが…」
「今からそれらを見極めるのです。
一緒に、ね」
「そうだよね。大空、ありがとう」
唸るのをやめた詩紅は石を首飾りにして身につける。
魔力を流せば頭へ直接伝わる仕組みは瀬菜と詩紅が考えた。
とても便利で、今では必需品になった。
私も安全のために急がなければいけない。
「お互い様です。
皆で穏やかさを維持するのです。
私は作業に戻ります」
「うん。あとは任せて」
明るい声で消えた詩紅。
魔力の残像がなくなるまで見送り、作業へ戻る。
隠していた鏡を取り出し、魔術を使う。
まずは聖域を見渡せるかからだ。
これができれば、音だけよりも分かることが増える。
後悔をそのままでは終わらせない。
穏やかな暮らしのため、鳥の長としてできることをするだけだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
リリカローズは王国の華
かがり 結羽
恋愛
ラローザ伯爵家の娘、6人兄弟姉妹の次女レリッサの元に、今年も王宮主催の舞踏会の招待状が届く。
婚約を解消したばかりのレリッサは、舞踏会のパートナーを父に依頼しようと訪れた軍の本部で、黒髪に琥珀色の瞳が印象的な青年リオネルと出会う。
彼はとにかくレリッサに甘くて優しくて、次第にリオネルに惹かれていくレリッサだったが、彼にはどうやら秘密があって…。
他サイトでも掲載中です。
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
元婚約者様の勘違い
希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。
そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。
しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。
アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。
カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。
「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」
「そんな変な男は忘れましょう」
一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる