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悠久の約束と人の夢
29.受け継いだ者
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先代の王が亡くなった知らせに隣国が動いた。
信仰と共にある豊かだった大地が奇跡と魔術に依存して痩せた領土で有名だったが、
崇めていた神を忌む神に変えた後は時間をかけて安定した繁栄を取り戻した国として狙われていた。
実現された大地の豊かさと民の暮らしの共存は、新たな火種も実現させた。
人間がいない国を守っていた最後の砦の消失を勝機を見た王は、
己の力を強くするため考える。
目指すは動く魔術である影人の生け捕りと懐柔と、
先代の書斎に置かれていた誰も読んだことがないとされる謎の書物。
そして、新たな領土とや豊かな水と食料を求めて攻める。
しかし、惨敗、
たかが影と言われていた影人が初めて力を奮い、
その強さが広まり始めた頃、各国に残っていた何かが消えた。
何があったかすら分からない状況に違和感を覚え、侵略する国を制圧しながら調査した。
知っていた歴史が消えていたことが分かったが、我が国でも同じ現状が始まっていた。
共に調べていた従者も忘れ、記録した書物もなぜか消えていた。
気味が悪い程に話題にすら上がらなくなった特定の歴史。
消えたというより、意図的に何かが書き換えられた気配がある。
なぜ自分はまだ覚えているのかを不思議に感じながら、
やっとのことで訪れた弔いの場。
通りがかった教会の扉は解放されていて、
内では何かに祈る影人が数人、天へ感謝を述べていた。
穏やかな街を通り抜け、
王の館で許可をもらい、影人の護衛が案内をしてくれた。
見晴らしが良く、国が一望できる先代らしい選び方だ。
澄んだ風がそよぎ、
葉が揺れる木々に守られるようにある小さな石も彼らしい。
王の威厳を誇張するよりも、民の暮らしを優先するのは死後も変わらない。
「本当だ…人間がいない。
でも、ここの食材は美味しい…どうしてだ」
「本当に影が動いていました…会話もできるなんて」
初めて連れた従者は驚く。
当然だろう。
影が人間と同じように活動をしているのだから。
『影人に王の座を渡す』と告げられたときは、私も驚いた。
今では全てが懐かしく、思い返せば後悔もある。
『影人は強い』と誇らしく微笑む彼の言葉を真剣に聞かないまま、
友好国として食料と金属を交換してきた。
噂には聞いていたが、我が国の金属で造られた強く新しい武器を初めて見たときは驚いた。
『影人が造った』と子供の成長を見守る親のような優しい眼差しで言っていた。
「綺麗な景色ですね」
「はい。我が国の誇りです」
後ろで待つ影人は穏やかな声で告げる。
色とりどりな大地の息吹きと豊かさが造るのは、心休まる美しさ。
人型の煙で表情は分からないが、笑みを浮かべている気がする。
幼い頃に親の会議で連れられた時は、もっと寂れた場所だった。
親いわく、昔はもっと美しかった…だが、聖女の奇跡に縋る民にその気配は薄れていた。
こんな国と仲良くしないといけないなんて、と子供なりに思っていた。
今は、違う。
友好でよかったと。
侵略から守ってよかったと、心から思う。
武術も達者で有名な先代の王妃が仕込んだ剣と盾が味方である安心感は大きい。
「また、きます。
約束の物は王の館で受け渡し終えています。
民の幸福にお役立てください」
「はい。私もお渡しする物が…まずは、こちらを。
先代の指示で、『来られた際はもてなすように』と。
景色を見ながら食べると、いつもとは違った味わいです」
手渡されたのは、小さな箱。
蓋を開けると、色とりどりの食材でできた食事がある。
人数分の用意があるらしく、手慣れた様子で準備が整った。
「館に戻ったら、交換の品をお渡しします」
毒見のように目の前で食べた影人は、着席を促した。
「ありがとうございます」
着席すると、念のため従者に食べさせたが、問題ないので頂く。
「いただきます」
声が重ねり始まる食事。
一口食べれば止まらない味わいの美味しさは幼い頃と変わらない。
美味しいだろう、とそよいだ風が懐かしい声を届けた気がした。
信仰と共にある豊かだった大地が奇跡と魔術に依存して痩せた領土で有名だったが、
崇めていた神を忌む神に変えた後は時間をかけて安定した繁栄を取り戻した国として狙われていた。
実現された大地の豊かさと民の暮らしの共存は、新たな火種も実現させた。
人間がいない国を守っていた最後の砦の消失を勝機を見た王は、
己の力を強くするため考える。
目指すは動く魔術である影人の生け捕りと懐柔と、
先代の書斎に置かれていた誰も読んだことがないとされる謎の書物。
そして、新たな領土とや豊かな水と食料を求めて攻める。
しかし、惨敗、
たかが影と言われていた影人が初めて力を奮い、
その強さが広まり始めた頃、各国に残っていた何かが消えた。
何があったかすら分からない状況に違和感を覚え、侵略する国を制圧しながら調査した。
知っていた歴史が消えていたことが分かったが、我が国でも同じ現状が始まっていた。
共に調べていた従者も忘れ、記録した書物もなぜか消えていた。
気味が悪い程に話題にすら上がらなくなった特定の歴史。
消えたというより、意図的に何かが書き換えられた気配がある。
なぜ自分はまだ覚えているのかを不思議に感じながら、
やっとのことで訪れた弔いの場。
通りがかった教会の扉は解放されていて、
内では何かに祈る影人が数人、天へ感謝を述べていた。
穏やかな街を通り抜け、
王の館で許可をもらい、影人の護衛が案内をしてくれた。
見晴らしが良く、国が一望できる先代らしい選び方だ。
澄んだ風がそよぎ、
葉が揺れる木々に守られるようにある小さな石も彼らしい。
王の威厳を誇張するよりも、民の暮らしを優先するのは死後も変わらない。
「本当だ…人間がいない。
でも、ここの食材は美味しい…どうしてだ」
「本当に影が動いていました…会話もできるなんて」
初めて連れた従者は驚く。
当然だろう。
影が人間と同じように活動をしているのだから。
『影人に王の座を渡す』と告げられたときは、私も驚いた。
今では全てが懐かしく、思い返せば後悔もある。
『影人は強い』と誇らしく微笑む彼の言葉を真剣に聞かないまま、
友好国として食料と金属を交換してきた。
噂には聞いていたが、我が国の金属で造られた強く新しい武器を初めて見たときは驚いた。
『影人が造った』と子供の成長を見守る親のような優しい眼差しで言っていた。
「綺麗な景色ですね」
「はい。我が国の誇りです」
後ろで待つ影人は穏やかな声で告げる。
色とりどりな大地の息吹きと豊かさが造るのは、心休まる美しさ。
人型の煙で表情は分からないが、笑みを浮かべている気がする。
幼い頃に親の会議で連れられた時は、もっと寂れた場所だった。
親いわく、昔はもっと美しかった…だが、聖女の奇跡に縋る民にその気配は薄れていた。
こんな国と仲良くしないといけないなんて、と子供なりに思っていた。
今は、違う。
友好でよかったと。
侵略から守ってよかったと、心から思う。
武術も達者で有名な先代の王妃が仕込んだ剣と盾が味方である安心感は大きい。
「また、きます。
約束の物は王の館で受け渡し終えています。
民の幸福にお役立てください」
「はい。私もお渡しする物が…まずは、こちらを。
先代の指示で、『来られた際はもてなすように』と。
景色を見ながら食べると、いつもとは違った味わいです」
手渡されたのは、小さな箱。
蓋を開けると、色とりどりの食材でできた食事がある。
人数分の用意があるらしく、手慣れた様子で準備が整った。
「館に戻ったら、交換の品をお渡しします」
毒見のように目の前で食べた影人は、着席を促した。
「ありがとうございます」
着席すると、念のため従者に食べさせたが、問題ないので頂く。
「いただきます」
声が重ねり始まる食事。
一口食べれば止まらない味わいの美味しさは幼い頃と変わらない。
美味しいだろう、とそよいだ風が懐かしい声を届けた気がした。
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