悠久の約束と人の夢

秋赤音

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悠久の約束と人の夢

10.恋、語る

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人間と縁を絶った聖域。
緑豊かな大地を踏みしめる者が増え、賑やかな声を通る。

ふと、一筋の光が地へ刺さり消える。

「シルド。私、自分の足で歩けるわ」

「俺の傍が一番安全だ。
何かあれば、セイラはそのまま対処するだろ」

男性が花の回廊を歩くたびに揺れるのは、
腰まである淡い茶を耳の高さで一つに束ねてある髪。
薄黄の瞳は緑の瞳を見上げるが、
閃光のような速さで向かってきた何かを短剣で弾きながら、
光で煌めいて銀にも見える淡い灰の髪に見惚れている。

「王女様がなんで剣術を極めたんですかね」

青い瞳は弾かれた短槍を眺めながら呟いた。

「王女だからだな。
妾の子供はなにかと大変だからな。
シルドの防御は強いな…魔力も消されるし」

「見えない壁が食べているようです」

二人の様子を遠くから見つめる二つの影。
そこへ降り注ごうと空を翔るのは無数の光。

「良い模擬戦ですね」

「ラン。あれを一人でやる気がないなら乗るんだな」

栗茶の長く結われた髪が解け、狼の姿へと変わる。
弓を加えた赤い瞳は、青い瞳を見る。、

「久しぶりですね。あとで撫でさせてください」

一瞬だけ愛でるように目を細め狼から弓を受け取った男性は、
まだ空にある光を射抜く。

「槍は良いですね。矢にもなりますから。
次は空中戦もいいですね。
僕の背にアヤを乗せたいです」

「それを言うのは私たちくらいだな。
ほどほどにしよう、
蛇の恨みは怖い」

「それでも、僕のためなら噛むんですね」

「私のためだ。勘違いするな」

地を翔けながら紡がれる言葉には温かさがある。
4人の遊びを神殿だった場所から見る濡鴉色の瞳は、
鈍灰の長髪を女性に預けながら微笑む。

「相変わらず綺麗な髪ですね…セイラのように結ってみますか?」

「私は、大空の黒い髪が好きです。
同じように結っていいなら、いいですよ」

深青い瞳は笑みを浮かべると、白い鳥へと姿を変える。
そして、いくつか羽を抜き姿を戻す。
短い詠唱の後、羽は二つの結い紐となった。

「シン。あとで私の髪も結ってください」

「わかりました」

出来たばかりの結い紐を受け取った男性は、濡鴉の瞳に深青を映す。
その様子を見ていた白い蛇は、同じように自分の鱗をとる。
綺麗な白金の髪の女性へと姿を変えた蛇は、
あっという間に髪留めにしたそれを、男性へ押しつけた。

「大地。我も、同じようにしろ、です」

「わかった。同じように、だな。
海菜。僕にも後で何か贈らせて?
これは決定事項だ」

深緑の瞳を見つめながら、滑らかな白金を耳からよけると、
受け取った髪留めをつけた。
露になっている耳元へ囁かれた言葉に目を瞬かせた女性は、
忙しなく首を縦に動かしながら男性と一歩分の距離をとる。

「我に似合う品にしろ、です」

男性に抱えあげられ同じように髪留めをつけて微笑む女性。
甘い笑みを返す男性は、女性の頬へ口づけた。
その光景を、真新しい屋敷の窓から見る女性は苦い笑みを浮かべている。

「兄さん、とても楽しそうだ」

「雫丘は、私といて楽しくない?
光夜、次で終わりだ」

「楽しい。
…兄さんが遠くなったみたいで寂しいだけで。
僕は凪斗といるのは楽しい。
でも、こんな…恥ずかしい、から!」

赤く染まった頬を近くにいる女性へ向け、
目で助けを求める女性。
しかし、その女性を男性がさらに抱き寄せたことで女性は耳まで赤くする。。
助けを求められた女性は、その背には隙間がないように見せる程の抱擁を見て
首をかしげる。
首が動くことでサラサラと灰色の髪が肩から背へ流れる。

「初めて自己紹介したときからですので、
普通のことだと思ってますが…それに、私も、ですので」

苦笑いする赤い瞳は、深紅の瞳を見上げる。

「俺は問題ない。
一時の羞恥心よりも、傍にいられる方を優先する。
凪斗、甘いです。俺の勝ちですね」

男性は膝の上に乗せている女性の困り顔を嬉しそうに眺めながら、
遊びの駒が置かれた盤で小さな王が倒れた。

「緋蓮、今日はそろそろ帰りますか。
凪斗、ぜひ、また遊びに誘ってください」

「ありがとう。
妻も友人ができて楽しそうだから、ぜひ」

笑顔で言葉を交わすと、ため息をつく女性を抱き上げ歩き始める。
客人を見送ろうと、深緑の瞳が薄青の瞳を見つめる。
それを合図に男性から離れた女性は、深いため息をついた。
しかし、男性は女性の手をとり、金の髪を揺らしながら大きく一歩進む。

「凪斗。人前で、家の中まで、手は」

「雫丘はいつも温かいな」

嬉しそうな笑顔で言う男性に見惚れた女性は口を閉じた。
その光景を遠い目で見る紅い瞳は、ゆっくりと口を開く。

「雫丘。もう、慣れだと思います。
私も一時は同じようにしていましたが…ね、光夜?」

「緋蓮、何ですか?」

「自分で歩かないと、体が弱ります」

「境界の綻びが消えるまでは、こうさせてください」

「わかりました」

紅い瞳は見上げた揺らがない深紅の瞳に諦め、力なく微笑む。

「では、また会おう」

互いに笑顔で別れた4人は、その後、それぞれに甘い時間を過ごした。
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