幸せという呪縛

秋赤音

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自己中心 ― 箱庭の遊び

1.与えられた役割

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狂っている、と思う。
それでも、いい。
私は幸せだから。

「里栖川さん。お願いがあるの」

「俺たちに関わる大切な願いだ」

「有栖川さん、と来栖川さん…我が家でできることなら話を聞きますが」

始まりは、幼い頃のことだった。
難しい顔をした両親は、
愛想のいい笑みの親しい来客と共に応接室に向かった。
私たちは言いつけの通りに仲良く遊んで、話が終わるのを待っていた。
麗しい双子の兄弟と姉妹は、いつみても癒される。
皆で持ち寄った道具を並べて始めるのは人形遊び。
兄弟が服を、姉妹が飾りを、私は家具を並べる。
組み立てていると、麗人たちは私を見て微笑む。

「灯莉が作るお家は可愛いですね」

「ありがとうございます」

「お人形さんも可愛い家具をもらえて嬉しいでしょうね」

人形を動かしながら麗しい姉妹は微笑んでいる。
その様子を楽しそうに見つめる麗しい兄弟は、
それぞれの想い人に寄り添っている。
至高の美しい光景だ。

「早苗、俺たちが将来住む家は灯莉にお願いしよう」

「雅十…素敵なお話ね」

「兄さん…僕が先に言おうと思っていたのに。
香苗も可愛いお家がいいですか?」

「そう…ですね。奏十と住むなら、二人が楽しい家が良いです」

「姉さん、返事になっているけど少し違う気もするのよ」

「そうですか?」

笑みが途絶えることのない麗しい空間は、話を終えた大人に壊された。
早く、大人になりたい。
この世界を守れるだけの力がほしい。

後日、新しい屋敷がたてられた。
両親は、将来の私が住む家だと言った。
案内されたが、一人で住むには広すぎる屋敷だ。
話を聞きながら考える。
大人になった麗人たちに住んでもらおう。
想像するだけで心が満たされる未来。
必ず、叶えたい。
微笑みかけてくる両親に返事をしながら笑みを返す。

「灯莉。私たちからの贈り物を大切にしてね」

「はい。お父様。お母様」


学び舎を卒業すると、両親はすぐに屋敷を与えてくれた。
私は幸せだ。
だって、願いが叶ったのだから。

学び舎から卒業が近くなった頃、
いつも一人でいた有栖川家の麗しい三男は私と同じ人だと知った。
彼は庭作業にも興味があるとも知り、専属の庭師として雇おうと考えた。
しかし、互いにいずれは結婚を強いられる。
彼も私も、己の平穏を守りたい。
利害が一致すると、すぐに婚姻を願った。
広い屋敷を二人で管理することが決まると、麗しい兄弟と姉妹が私に願いを告げた。
「卒業したら、屋敷に住まわせてほしい」と。
私は歓迎した。
卒業して約束通りに物事は進んだ。
両親が組んだ婚姻は覆ることがないまま、
長子同士と次子同士で結ばれた麗人たち。
私は、麗人たちの幸せを守る機会が与えられたのだ。
なんて幸せなことだろう。
一番近くで至高の光景を見続けることができるのだから。

朝食を終えて屋敷の掃除をしていると、夫の愛玩人形が歩いていた。
その足取りは何かを惜しむように遅い。
目の前を会釈で通り過ぎた後姿を見送り、夫の部屋に行く。

「遊十さん。お人形様が寂しそうですよ」

「あ…灯莉さん。言われなくても分かっています。
拗ねている妻も美しいと思いませんか」

相手が机に向かったままの会話は幼い頃からで、いつの間にか慣れてしまった。
夫は美しい人形を愛している。
趣味を極めた結果、人間に近い機械人形を生み出すことに成功した。
指導は必要だが用途に合わせて調節ができる性能は、売り物としても良い評判だ。
「いずれは生殖も行えるようにしたい」と、楽しそうに研究を続けている。

「そうですね。良い研究のためにも食事はとってください」

「はい。ありがとうございます」

要件を伝えると部屋を出る。
廊下を掃除していると、窓から休憩をする麗人たちが見えた。
作業部屋から出てきたばかりのような四人は、くつろいだ笑みで何かを話している。
想い合う同士が寄り添う様は、やはり美しい。
世間では仮面を演じる麗人たちが少しでも安らげるようにしたい。
今のところは叶えられているようだ。
正面から夫と、夫に腰を抱かれた人形が歩いてくる。
人形の頬は赤く、発情した女のようだ。
楽しそうに人形を見つめる夫の様子と微かに聞こえる玩具の音に、原因を察した。
おそらく夫の部屋に向かうのだろう。
夕食までは近づかないようにしよう。

今日も平和で、幸せだ。

夫が部屋に入った扉の音を聞きながら、
窓の外にある至高の景色に心から思った。
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