幸せという呪縛

秋赤音

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どうぞ、幸せでいてください

0.祝福

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「瞑。ありがとう」

「朋ちゃん。こちらこそ、来てくれてありがとう」

揃いの白い正装に身を包む男性と女性。
その女性は、
華やかなワンピースドレスを着た女性に笑みを向ける。
パーティーの最後のお客様の見送りだ。
見送られている女性の隣で、
女性を迎えにきた男性が観察するように頭からつま先までを見ている。

「朋絵。来た時より綺麗になっていないか?」

「お兄ちゃん!わかる?
感動したし、
瞑のお兄さん…メイクの師匠が良いことを教えてくれたからね。
それに、子供の頃は着物を着て帰ったら
『綺麗!可愛い!』って言ってた。
あれも師匠が」

「ほう?あなたが…妹の師匠でしたか」

白いドレスの女性の隣で静かに立っていた男性に視線を向ける。
黒と白の正装で身を包む男性は、困惑した笑みを浮かべた。

「師匠…かは分かりませんが、
妹がよく就活の次期にはいくつか質問に応えただけです。
着物のときは、妹のお願いを叶えていただけです」

送迎の男性は、その言葉に目の奥を光らせた。

「確かに。妹は、大切ですよね?」

「そうですね。妹は、大切です」

送迎の男性は、そっと手を差し伸べる。
正装の男性は、その手に自身の手を重ねる。

「服飾デザイナーをしています。
妹に似合う服を追及していたら…ですけどね。
ぜひ、ヘアメイクの腕前を見せていただきたいです」

「とても楽しそうですね。
今度、妹に似合う服探しのときはお店を訪ねます。
ヘアメイクは、俺でよければ…ですけど」

「はい。服飾はオーダーも承っております。
一緒に、妹へ楽しさを…そして美しく着飾りませんか?」

「良いですね。ぜひ妹夫妻を連れて伺いたいです」

固く結ばれた握手と、同志と出会えた嬉しさで輝く瞳。
その隣で、何かを閃いた女性も表情を輝かせる。

「ってことは?師匠にメイクを教えてもらえる?」

「そうです。モデルに選ばれれば、ですが」

「お兄さん。私、モデルになるから!」

友人たちの語らいを、新郎新婦は見守る。

「懐かしいね」

「そうだね。お義兄さんとは今でも同盟仲間だよ」

互いは向き合うと、微笑みを交わした。

「これからも、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

その和やかな雰囲気を遠目から見守る目が二つ。

「…幸せそうね」

「そうだな」

花嫁の容姿の面影がある夫婦は、暗い目を向けていた。

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