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始まらない御伽噺
4.そろそろ、限界です
しおりを挟む最近、なぜか、とても見られている。
「磨希子」
「ありがとう。化煙」
いつものように、磨希子の荷物を少し預かる時も。
「あわわわ」
「あ、ぶね…気をつけてください」
こけそうになった磨希子の荷物を支えたときも。
「化煙ー」
「はい」
磨希子が枝創子先輩お手製の弁当を食べさせてくれる時も。
僕は、その視線の理由を聞くことにした。
一緒に食べ終わった昼食が終わり、
正直ドキドキでハラハラな緊張を抑える。
「巳化牙先輩。放課後、少し時間をいただけますか?
できれば、帝も一緒だと嬉しいです」
「あ、ああ…どこへ行けばいい?」
困り顔で目を泳がせている先輩の姿は、
とても新鮮だが今はそれどころではない。
「ここで、いいですか?」
「わかった。
帝と話す予定があるから、私から伝えておく」
「ありがとうございます」
最近、帝と何か意気投合しているらしく、
よく話している。
そして、たまにこぼれて聞こえくる単語から予想したことがだ。
おそらく、僕と磨希子の様子が関わっている。
そして、あっという間に、放課後がやってきた。
「巳化牙先輩。帝。
時間をいただき、ありがとうございます。
先に言います。
間違っていたら、申し訳ないです。
あくまで僕の勘違いだと思いますが、
気になっているので聞きます。
最近、僕と磨希子の様子を観察していますか?」
予想は、当たっていた。
そして、知ってしまった秘密の話。
秘密にしてください、から始まった巳化牙先輩のこと。
帝は謝るだけで何も話さなかったが、
何か理由があるのだと思う。
「…つまり、です。
体裁を整えるため、恋人らしい振る舞いをしたい。
その、手本が僕たち…ですか」
確かに、婚約しても寄ってくる人はゼロではない。
ならば、仲が良いことを見せた方が手っ取り早いと思う。
恋愛主義の人が多いので、ある程度は避けられる。
相思相愛を遠くから保養に眺められることくらいは、
可愛いことだろう。
「まあ、そういうことだ。
先に経験しているだろうから、わかるだろう」
その苦い表情は、おそらく、
最愛への愛情と自身の欲が混ざってできている。
その感情には、自分にも覚えがある。
「御主人。
俺、そろそろ…姫羅が帰る時間なので、失礼します。
本当に、ごめんなさい。
これからは、自分で…」
「帝」
何かを抱えているであろう帝は、
重そうに体を動かしながら背を向けようとしていた。
すべてを言い切る前に、あえて言葉を遮る。
「一人で、抱えこまないでください」
「そうだ。無理に話さなくていいが、
気晴らしくらいなら付き合える」
「ありがとう、ございます」
儚く笑った帝は、今度こそ背を向けて立ち去った。
「化煙。いや、化煙先生。
最愛を楽しませるには、どうすればいい?」
巳化牙先輩は、ぽつりと、つぶやくように問うてきた。
その視線は、偶然視界に入ってきた枝創子先輩を切なそうに見ている。
「そうですね。
相手の方に聞くのが一番だと、思います」
僕は、枝創子先輩の後ろにいる楽しそうな磨希子を見る。
二人が向かっているのは、おそらく、いつもの待ち合わせ場所。
「そうか」
「はい」
「ありがとう。
行こう。枝創子たちが、待っている」
「はい」
その後、いつものように帰る道は、
なぜかとても優しい色を帯びているような気がした。
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