幸せという呪縛

秋赤音

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明けた夜の向こう側

4.これからも一緒に、

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「アイズ?ああ…探していた妻が見つかったのか。
おめでとう」

「見当はついていたがね。
妻は昔から隠れるのが上手く、確信がもてなかった。
今ははっきりわかる。
感情の揺らぎからこぼれる魔力は、確かに妻だ」

そこに現れたのは、漆黒の翼を纏う、黄金の髪をした男性。

「ちょうどいい。エアス、紹介するよ。
彼は、悪魔王のアイズ。友人だよ。
ついでに言うと、エアスの保護者である国王の中身は大天使。
その兄とは友人だよ。
弟が、下界に落とされた妻を探して下界に降りたと言っていた。
そして、国王の隣にいる王妃の中身は悪魔で、アイズの妻。
最後に、エアスのお兄さんとお姉さん。
血縁関係は、国王がお父さんの異母兄妹だよ。
器に似ているけど、中身は人間らしくないものが混ざっている」

…と、戸惑う僕に優しい声のディーちゃんは、
隣で説明してくれた。
静かに友人を見守る表情は、とても嬉しそう。

同じとき。
目の前では、痴話喧嘩らしきものが始まっている。
アイズさんは空中から飢えた獣のように、
王妃様が王座の隣でアイズさんをにらみ、見つめ合う。
王座の前にいるお兄様とお姉様は、
完全に空気と化している。
僕も、それを黙って見守る。

「フィーネ、帰ろう。その器を人間に返してからだが。
娘は我が子として迎え育てよう。
そうだな。まずは、妻とフィアがかけた魅了を解こう。
わざわざ妻と同じ銀の髪の器を選び、乗っ取り、
亡き者にした後で誘惑して、王妃の座を得るとは。
しかし…まあ、よくやったな。
気持ちが向かないからと、魅了で強引に好きにさせるとは。
フィアは母親によく似ている。
銀の髪でよかったな。
母が恋しい子供を手懐ける手助けにはなっただろう。
さて…これで国王とジュネスは、正常に戻ったはず」

「やめて…やめてよ…」

アイズさんは音もなく地に降り、
その場で動かず、身を縮めて怯える王妃のところへ歩み寄る。
王妃の目の前に立ち、無防備な額へ触れると、
一瞬の黒い光が王妃を包む。
次の瞬間現れたのは、アイズさんより小さいが同じ翼を纏う女性。
抵抗しないその女性を抱え、
お兄様たちの横を通り、その後ろへ立つ。

「ああ、そうだ。名前はジュリス…だったよな。
お兄さんから、伝言だ。
困りごとは相談しなさい…とね。
これはお兄さんの友人としての助言だが。
寂しがっていたので、
その器が天へ行くときはしっかり話すといい。
色々と聞かされるだろうが…すべて終わった後のことだと思う。
勝手で悪いが、王妃とフィアは連れていく。
フィアの存在と王妃の器は、人間のきまりで弔ってくれ」

「わかりました」

「妻が迷惑をかけたお詫びに、
保護しているエルネスをお返ししよう。
ジュリスもエルネスも大変だったな。
話はエルネスから聞いた。
落ちた先で国王に見初められたエルネスと添い遂げるため、
国王の器を乗っ取ったそうだな。
その得た幸せを悪魔に奪われるとはね」

「え?エルネスは病で…」

諦めの中に小さな欲が芽生え始めたような瞳は、
悪魔をすがるように見ている。

「そういえば、そういうことになっていたのだったな。
その病、妻が仕向けた呪いのようなものでね。
呪いを抱え、魔界をさ迷っていた大天使は、
魔法で呪いを浄化して元気に過ごしている。
本当に、迷惑をかけた」

アイズさんは、そう言って謎の出入り口を開く。
そこから出てきたのは、大きな純白の羽を纏う銀の髪の女性。

「ジュリス…」

「エルネス…私は、もう、悪魔と交わり穢れてしまった。
一緒にいることは…」

「ジュリス。
穢れは浄化できると知っているでしょう。
どうしても気になるなら、永遠の愛を誓って?
浄化した後で穢れた以上に、
私の魔力で染めれば問題ないですから」

「しかし…」

天使は、力なくうなだれている国王に近づき、
その身をしっかり抱きしめた。
同時に、黒い光が溢れ、宙へ消える。

「ジュリス。再び私と、この国を導いてくださいね。
次の王であるジュネスと共に国を担う兄弟も育てましょう」

「エルネス…ごめんね。
ずっと、エルネスに会いたかった。
愛している」

「許します。
ずっと、私を想ってくれてありがとう」

アイズさんは静かにその場を見届けると、
困惑しているフィアを魔法で拘束する。
ディーちゃんと僕に一瞬の笑みを向けて、消えた。

「お母様?」

天使が現れた頃から、その姿を見つめて放心していたお兄様。
泣きそうな顔で、寄り添う国王夫婦に問う。
天使は、国王から離れてお兄様を抱きしめる。

「はい。本当にお空の上にいましたが、
帰ってきました。
これからは、ずっと一緒です」

泣き出したお兄様を静かに抱きしめたままの天使を見守る国王
天使の姿に戻り、
大きな白い羽に黄金の髪で、空へ向かって首を垂れた。
ふと、天使は、静観しているディーちゃんを見た。
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