幸せという呪縛

秋赤音

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秘めた心

9.秘密会議

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「夏木野さんと話があるから、
いつもより早いけど亜樹十は戻ってくれる?」

「亜樹羅が?珍しいね。わかった。おやすみ」

「「「「おやすみなさい」」」」

夕食が終わり、亜樹十が別館へ戻った本館。

「では、はじめようではないかー。
なんばーいちが、いいしごとしたんだよ!」

幼子の声を合図に、机に向かい合い座る四人の影。
真剣な表情で向き合う三人の大人と、不機嫌な幼子が一人。

「夏木野さん、和十から聞いたのですが…。
街で男性に声をかけられていたのは本当ですか?」

「本当です。
宿街近くの食事店へ誘っていたので、すぐに引き離しましたが」

「驚くほど、わかりやすいな。
子供の前で隠す気はないのか…」

隠し切れない嫌悪感が目や口元に現れる。
雰囲気の変わる父親に、幼子は慌てた。

「お父さん!違うの!それは、ななにちまえのおはなし。
夕ごはんは、俺たちと食べるやくそくだから、だめ!
なつきのが守ってくれたから、だいじょーぶ。
今日おはなししたいのは、昨日のことだよ。
お絵かき道具を買いにいってたらね?
きれいな女の人が、べたべたしてきたからバイバイしたよー」

「「「・・・・・」」」

無邪気に怒っている幼子、和十の発言に一瞬だけ場が和む。

「夏木野さん」

綺麗すぎる完ぺきな笑顔と澄んだ声が、その名を呼んだ。
説明を求める二つの視線が、夏木野に突き刺さる。
夏木野はその視線を受け止め、
表情を変えずしっかりと視線を返す。

「はい。亜樹十は適当にやりすごしましたが、
あれはしつこい属性だと思われます」

「夏木野は、亜樹十とかず…会長を引き続き警護するように」

「夏木野さん。その方々のお名前は分かりますね?
きちんとお礼をしなければいけませんので」

「はい。後で伝えます」

冬椿 和十が発案した”あきと先生を守る会”。
発案しただけで、子供だからと参加できなかった和十は
日々の自主的な見守りや自身に降りかかるかもしれない実害から、
小等学生になれば参加できることになっていた。
しかし、亜樹十が弟子と認めらことで、
想定より早く空席の会長席に座ることになった。

保護対象は、冬椿 亜樹十。
光が差すと青紫を映す漆黒の髪は、
揺れるたび柔らかく項を掠めて人の目を引き付ける。
月を閉じ込めたような白銀の澄んだ瞳と白く滑らかな肌。
筆を持つしなやかな指先と、
適度な筋肉で整った体つきは誰もを魅了するようになっていた。
年月を重ねたことで深みが増す魅力も加わるが、本人に自覚はない。
亜樹十が気だるい気持ちで歩いていると、
黙っていれば憂いの美男性にしかならない。
和十は、亜樹十と共に買い物で街を歩いていて、
身の危険を感じることも増えてきたことを両親に言った。
暴漢が亜樹十の髪を切ろうと襲ってきたり、
貴族階級のような女性が強引に連れ去ろうとしたこともあった。
幸い、今のところは本人がすべて丁寧に断っているが。
万が一があってはいけないと、
外出しているときは夏木野が秘密で警護することで対処している。
相手の身元調査は和馬と分担だ。

「ねむい…あきとせんせーとねる。まもるー」

「うん。もっと大きくなったらな」

「おとーさ…やくそく…」

「約束だ」

和馬は、机にうつぶせそうになった和十を抱き上げる。
健やかな寝息をたてる息子に、小さな約束をつぶやく。
その様子をみて微笑む亜紀羅は、夏木野へ目だけで合図をする。
合図をみた夏木野は、静かに礼をして部屋を出る。
執事に従い、別館にある客間へ向かった。

「俺たちも寝よう。夜更かしは、体に悪い」

「そうね」

30分も経たない時間だが、無駄はなく話の確認と共有はできた。
和馬は和十を抱き上げたまま子供部屋に寝かしつけ、
執事に警護を任せる。
傍で待っている亜紀羅と共に寝室へ向かった。
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