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【第一章】異国の地へ
1.出国
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「【紅乙女】に、極秘の命令だ。
オーヴァル国へ偵察に向かってもらう。
国外は初めてだが、いつも通り己で考え、成果を出せ。
内容は、王族や貴族の内情を調べてくること。
できれば詳しく。金の儲け方や日ごろの行動、魔法の使い方は必見だな。
任務の期限は2年。失敗すれば、この国では死んだことになる。
我が国のことを話せば自滅する術がかけられてあることを忘れるな」
水守家は、表向きは貴族向けの商いをする名家。
裏の顔もあり、代々王族の影で動く役目を担っている。
「はい。出立はいつですか」
「明日の闇夜、転移が確実にできる場所までは船を用意している」
「承知いたしました」
いつもなら、すでに退室を促されているはずだが、それがない。
主様にひざまずいたまま、その声を待つ。
「…胡蝶、顔をあげろ。お前の母と、共に待っている。
必ず帰ってこい。命令は絶対だ」
「……はい」
命令通りに顔を上げると、珍しい主様の表情と目が合った。
苦い虫を食べたような顔と惜しむような言葉は初めてだった。
最小限の荷物を再確認し、最後に変装をする。
青みの胴の鉱石のような瞳は、明るい黄みの茶色の瞳へ。
黒に紅色が溶け込んだような色で肘まである長い髪を、
明るい赤みの強い茶色のの肩より少し長い髪へ。
髪は邪魔にならないように簡単に結う。
衣服はあえて簡素な物を選んだ。
身支度を終えて、予定通りに出立する。
月明かりのない海を、向かう方角へ向けて静かに早く進む。
故郷からだいぶ遠ざかり、遥か遠くだが目印になる山が見えた。
「【焼失】」
乗る船をゆっくりと魔法で燃やしながら、狙いを定める。
完全に沈みかける手前で、新たな魔法を唱える。
「【転移】」
姿が消えたと同時に、船のすべてが暗い底へ沈んだ。
「船が、燃えたようです」
「行ったか」
「半日したら、私たちのことを忘れる…でしたか」
「これも命令だった。あの容姿なら、世話好きな誰かの目にとまるだろう。と」
海がある方を見つめていたその人は、ゆっくりと身をひるがえして女性の方を向く。
そのまま一歩近づいて、女性がのばす手にすがるように抱きしめた。
「また、父と、呼んでくれる日はくるのだろうか」
「私も、また、母と呼ばれたいです」
二人は少し離れて向き合い、手を重ね合わせて、小さくつぶやく。
「「神の良きお導きがありますように」」
オーヴァル国へ偵察に向かってもらう。
国外は初めてだが、いつも通り己で考え、成果を出せ。
内容は、王族や貴族の内情を調べてくること。
できれば詳しく。金の儲け方や日ごろの行動、魔法の使い方は必見だな。
任務の期限は2年。失敗すれば、この国では死んだことになる。
我が国のことを話せば自滅する術がかけられてあることを忘れるな」
水守家は、表向きは貴族向けの商いをする名家。
裏の顔もあり、代々王族の影で動く役目を担っている。
「はい。出立はいつですか」
「明日の闇夜、転移が確実にできる場所までは船を用意している」
「承知いたしました」
いつもなら、すでに退室を促されているはずだが、それがない。
主様にひざまずいたまま、その声を待つ。
「…胡蝶、顔をあげろ。お前の母と、共に待っている。
必ず帰ってこい。命令は絶対だ」
「……はい」
命令通りに顔を上げると、珍しい主様の表情と目が合った。
苦い虫を食べたような顔と惜しむような言葉は初めてだった。
最小限の荷物を再確認し、最後に変装をする。
青みの胴の鉱石のような瞳は、明るい黄みの茶色の瞳へ。
黒に紅色が溶け込んだような色で肘まである長い髪を、
明るい赤みの強い茶色のの肩より少し長い髪へ。
髪は邪魔にならないように簡単に結う。
衣服はあえて簡素な物を選んだ。
身支度を終えて、予定通りに出立する。
月明かりのない海を、向かう方角へ向けて静かに早く進む。
故郷からだいぶ遠ざかり、遥か遠くだが目印になる山が見えた。
「【焼失】」
乗る船をゆっくりと魔法で燃やしながら、狙いを定める。
完全に沈みかける手前で、新たな魔法を唱える。
「【転移】」
姿が消えたと同時に、船のすべてが暗い底へ沈んだ。
「船が、燃えたようです」
「行ったか」
「半日したら、私たちのことを忘れる…でしたか」
「これも命令だった。あの容姿なら、世話好きな誰かの目にとまるだろう。と」
海がある方を見つめていたその人は、ゆっくりと身をひるがえして女性の方を向く。
そのまま一歩近づいて、女性がのばす手にすがるように抱きしめた。
「また、父と、呼んでくれる日はくるのだろうか」
「私も、また、母と呼ばれたいです」
二人は少し離れて向き合い、手を重ね合わせて、小さくつぶやく。
「「神の良きお導きがありますように」」
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