天は地に夢をみる

秋赤音

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特別な日常

夢は幻となりて

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11月23日、「いい兄さん」記念
本編には影響しません。

........




「神官が殺生していいのか?」
「…まあ、身を守る手段、ということで。
それに、今は【黒鳥】です。【雷鳥】様?」
「様は結構。では、遠慮なく連れていく」
「はい」

黒い月が濃紺の空に浮かぶ夜。
明かりはなく、辺りには影一つない暗闇が広がっている。

「後ろは任せた」
「前をお願いします」

黒装束の男性たちは、
遠くにある南の館を見ながら話をしている。
互いの顔は見ないまま、隣り合わせで同じ場所を目指す。

「では、私は上から」
「でしたら、下から行きます」
「「民に幸あれ」」

魔法で転移して、雷は屋上。煉は一階の入り口に立っている。
誰も外にいない状況で、そっと部屋へ続く扉を、同時に開けた。

「「【拘束】」」
「わ!何者…っ」

雷は光魔法、煉は闇魔法で輪を作り、そこにいる数名を捕らえる。
数名が何とか、逃れて窓や扉から外へ出ようとするが、見えない壁に阻まれた。

「なんだ、出られないぞ」
「魔法で壊してやる!」

彼らは壁を壊そうとするが無駄に終わり、
あっさりと二人の魔法に捕まる。

「さて」
「はい」

二人は、捕まえた者たちを一階に集めた。
雷は、その一人ずつの手首に飾りをかける。
拘束を解くよう煉に頷いて合図をし、二人は魔法を解いた。

「尋問の時間だ。
嘘をついたら、その飾りから電流が流れる」

初めは馬鹿にしていた者いたが、その嘘で身は人生を閉じた。
苦しむ人がでてくると、とたんに怖気づいて話す者もいた。
中には、苦しみに耐えながら何も話さず命が切れた者もいた。

「…また、ですか」
「また、裏切者だな。早く対応しないと」
「残りの者が今も北の館にいれば、今から行けますね」

煉は、北の方を向いてそう言った。
雷はすでに転がっている死に体の始末を始めている。

「丸焦げにするかな」
「いいですね。【探索】…まだ、います。
どうしますか?」

黒く見える限界の小さい粒子が煉の手のひらの上に集まってくる。
人形の形をした影は、雷の様子を伺うように首を傾げた。

「行こう。ついで、だ」
「はい」




「…らい」
「れ、ん?」

おかしい。煉は、私を名前で呼んだことはないはず。
それに、こんなに柔らかく澄んだ声では…。

「雷、起きて?」

ルナ、だ。ルナが呼んでいる。
早く戻らないと、心配しているだろう。
煉も、家で捺癸さんが待っているはずだから。
民の憂いを消し、私たちの生活を守るためとはいえ、
神官に殺生はさせるわけにいかない。
捕まえるだけなら、神もきっと許してくださるだろう。

「雷。雷。そろそろ、お腹がすいたわ」

煉も早く帰って、捺癸さんの食事を…。

「る、な。悪いやつらは、消したから」

目を開けると、泣きそうな表情で私の手をにぎる小さい手に、
空いている片手を重ねて包む。

「雷。ありがとう」

そのまま起き上がると、
伸びてきた細い腕に抱きしめられた。
そこで初めて、夢を見ていたことに気づく。

「ルナ。私は、寝ていたのか」
「よく、寝ていたわ。
私の膝、気に入ってもらえて嬉しい」

そうだった。昼食を食べた後に眠気がきて。
すると、ルナが『膝枕』がしたいと言って、お願いしたままだった。
恥ずかしさはあるものの、
嬉しそうなルナの声に、やってよかったと思う。

「心地よい眠りだった。ありがとう」
「…いえ。眠くなったら、またするわ」
「その時は、お願いする」

そう言うと、ルナは抱きしめていた腕を解いて、
私の頬に触れるだけの口づけをした。

「しょっぱい、ね」

どうやら、私は泣いていたらしい。
懐かしい記憶と、今傍にいる温かな存在に、
思わずルナを抱きしめた。

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