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神、人里へ
8.分身との再会
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ある日、神官が変わった。
立派な神官になった分身の姿に感動する。
あの日以降、戻った煉は神官を続けた。
そして、儀式で助けたうちの一人の巫女と結婚して女の子を授かった。
しかし、アスカ国への不信感と、魔力の強すぎる娘のために異国を学ぶことにした。
失踪扱いの煉の後にきたのが、分身の「アレン・ヴァルド」。
「アレン・ヴァルド」は、ヴァルド家を継ぐ兄と違い、
ほとんど外の人間と接点を持たずに過ごす。
だから、「アレン」を知るのはごく一部の人間に限られる。
孤児院の管理をする神官とヴァルドの夫妻と子供。
すでに巫女候補だった澪、”お父様”である「神」だけ。
神官見習いになると家族との接触も絶たれるので、成長期の大半は神殿で
神官や「神」と過ごしている時間だった。
もう一つの分身の「リアン」は「アレン」の兄になる。
親子水入らずの空間の中、「リアン」が先生となり武術を学んでいたこともある。
「お久しぶりです。お兄様」
「ひさしぶり。ここしばらくは、神官らしく忙しいよね」
「おかげさまで」
「リアン、もう神官になったんだよお」
「そうだった。おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます」
ふと、三人は目を合わせると、同時に笑った。
「かしこまった挨拶は終わりにして…これ、民からの献上品」
「一緒にいただこう」
「「はい」」
国や民の暮らしが安定している様子が伝わるような品々だった。
それを有難くいただきながら、話を続ける。
「アレンの後継者、元気してるかなあ?」
基礎教育を終えて、講義に加えて実習も始めているのは知っているが、
あえて聞く。
「はい。今度連れてきましょうか?」
「考えておくねえ」
「はい」
夕暮れになり家に帰るアレンを見送り、
リアンと共に献上品で夕飯をいただく。
「お兄様が本当に神官になるとは…驚きです。
あの王子が国を安定させていることにも驚いていますが」
「うん。まさかここまで育つとは思っていなかったけど、嬉しいねえ。
強欲王子、民にとって良き王みたいだねえ」
澪にとって毒でしかない王子は親の跡を継ぎ、今は王座に座っている。
純潔を重視する【詩詠み】になってからの澪は、安全に暮らしている。
他の巫女に比べると色恋や世継ぎ問題とは自然と離れるためだ。
実子を必要としない王妃という立場ゆえに、他での実績を求められた。
【詩詠み】の巫女として慈善活動はしていたし、
国母として民と交流する時間も多く作っているので、国民から愛される王妃になっている。
亡き先代の王妃と強欲王子に一人の女の子がいて、
さらに煉の娘も引き取ったので、澪は二児の母としても頑張っている。
王子といるときを除けば元気そうな澪に、ヴァーレンも少し気が穏やかに過ごせている。
「強すぎる欲は案外と壊れやすくて、
ちょっとしたことで叶わなくなることもあるから。
可能性はあると思います」
「そうか。リアンは物知りだねえ」
「ニコル先生のおかげです」
実体験を思い出すように話すリアンに、外へ出してよかったと思った。
生き生きと過ごす様子は、見ていてとても楽しい。
「うん。大切にするんだよお」
しっかりうなずいて嬉しそうに笑うリアンは、
手を合わせて食事を終え、一人鍛錬を始めた。
立派な神官になった分身の姿に感動する。
あの日以降、戻った煉は神官を続けた。
そして、儀式で助けたうちの一人の巫女と結婚して女の子を授かった。
しかし、アスカ国への不信感と、魔力の強すぎる娘のために異国を学ぶことにした。
失踪扱いの煉の後にきたのが、分身の「アレン・ヴァルド」。
「アレン・ヴァルド」は、ヴァルド家を継ぐ兄と違い、
ほとんど外の人間と接点を持たずに過ごす。
だから、「アレン」を知るのはごく一部の人間に限られる。
孤児院の管理をする神官とヴァルドの夫妻と子供。
すでに巫女候補だった澪、”お父様”である「神」だけ。
神官見習いになると家族との接触も絶たれるので、成長期の大半は神殿で
神官や「神」と過ごしている時間だった。
もう一つの分身の「リアン」は「アレン」の兄になる。
親子水入らずの空間の中、「リアン」が先生となり武術を学んでいたこともある。
「お久しぶりです。お兄様」
「ひさしぶり。ここしばらくは、神官らしく忙しいよね」
「おかげさまで」
「リアン、もう神官になったんだよお」
「そうだった。おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます」
ふと、三人は目を合わせると、同時に笑った。
「かしこまった挨拶は終わりにして…これ、民からの献上品」
「一緒にいただこう」
「「はい」」
国や民の暮らしが安定している様子が伝わるような品々だった。
それを有難くいただきながら、話を続ける。
「アレンの後継者、元気してるかなあ?」
基礎教育を終えて、講義に加えて実習も始めているのは知っているが、
あえて聞く。
「はい。今度連れてきましょうか?」
「考えておくねえ」
「はい」
夕暮れになり家に帰るアレンを見送り、
リアンと共に献上品で夕飯をいただく。
「お兄様が本当に神官になるとは…驚きです。
あの王子が国を安定させていることにも驚いていますが」
「うん。まさかここまで育つとは思っていなかったけど、嬉しいねえ。
強欲王子、民にとって良き王みたいだねえ」
澪にとって毒でしかない王子は親の跡を継ぎ、今は王座に座っている。
純潔を重視する【詩詠み】になってからの澪は、安全に暮らしている。
他の巫女に比べると色恋や世継ぎ問題とは自然と離れるためだ。
実子を必要としない王妃という立場ゆえに、他での実績を求められた。
【詩詠み】の巫女として慈善活動はしていたし、
国母として民と交流する時間も多く作っているので、国民から愛される王妃になっている。
亡き先代の王妃と強欲王子に一人の女の子がいて、
さらに煉の娘も引き取ったので、澪は二児の母としても頑張っている。
王子といるときを除けば元気そうな澪に、ヴァーレンも少し気が穏やかに過ごせている。
「強すぎる欲は案外と壊れやすくて、
ちょっとしたことで叶わなくなることもあるから。
可能性はあると思います」
「そうか。リアンは物知りだねえ」
「ニコル先生のおかげです」
実体験を思い出すように話すリアンに、外へ出してよかったと思った。
生き生きと過ごす様子は、見ていてとても楽しい。
「うん。大切にするんだよお」
しっかりうなずいて嬉しそうに笑うリアンは、
手を合わせて食事を終え、一人鍛錬を始めた。
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