願いと欲望

秋赤音

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願いと幸せ

9.願い

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巫女様の背を追うと、聖女様と王子様が甘い雰囲気で見つめ合っている姿が見えた。
お姫様方も穏やかな眼差しで見守っている。
その様を、呆然と見つめる巫女様は、「憧れの王子様と婚約」と小さく呟いた。

「この日を待っていました。私は、幸せ者ですわ」

嬉しそうに話す聖女を王子はその場で抱き寄せる。

「知っていた、けど、でも」

俺が目の前に立っても気づいていないようだ。
表情ははりつけたような笑みだった。
巫女様に声をかけようと、した。
出来なかったのは、突然、背後でお社が壊れたから。
地面が揺れて動けないでいると、「遅い」と頭の上で笑う女の声と共に現れた鳥。
鳥は、見上げる宙で人の姿へと変わる。

「封印は綻びていた。
かけ直したものすら、簡単に解けた。
人間は、魔王をなんだと思っている」

魔王と名乗った鳥は、巫女を魔術で拘束した。

「巫女様!」

拘束を術で切る前に巫女様は魔王の傍に寄せられる。
何のための護衛だろうか。
できることの最善を考えるが、お姫様方も守らなければいけない。
苦い表情を浮かべているお姫様を見ると、「今は動くな」と音のない声は言った。




私の居場所なんて無いと、知っていた。
王子様と聖女様が相思相愛なのは有名だった。
でも、約束されたから。
私にも少しくらい気持ちを向けてくれると、勝手に期待していた。
でも、やっぱり、勝手な期待でしかなかったのだ。
見つめ合うウィルネス様と聖女様は似合っている。
絵に描けば誰もが賛美する光景だった。
近寄ることが怖くなり、足が動かなかった。

「愛する者との永遠がほしくはないか」

耳元で囁かれた声で、初めて自分が拘束されていることに気づいた。
ウィルネス様の動きを封じたものと同じ、黒い帯にこめられている悪魔の力。
わかっていても、誘惑に心は揺れる。
見下ろすと、互いを守るように身を寄せるウィルネス様と聖女様が羨ましくて。

「ほしい」

ウィルネス様。
少しでいいから、私にも同じ気持ちを向けてください。

「これは、リンドの…よかったな娘。
我に少し力を渡せば、内に眠る能力が目覚める手伝いをしよう。
願いをこめて相手に触れれば、想いが叶う力だ。
契約するなら、名を名乗れ」

魔王は嬉しそうな様子で契約を誘う。
魔力をあげることには慣れた。
鍛錬すればどうにでもなることも知っている。

「私はアンナ。
力をあげます。だから、新しい力をください」

「我はエンリだ。リーシャの上司でもある。
異性にしか発動しないはずだが、今回は特別だ。
受け取れ」

言葉が途切れたと同時に、体にある魔力が減った。
減ったと同時に、体の内側で何かが変わった。
減った少し、は意外と辛くない。
しかし、ぬけた魔力を求めるように体が発情して熱くなる。
リーシャがいれば慰めてくれたのだろうか。

「我が迫る口実を与えようか。
皆が見ている前だから、堂々と被害者の顔をして強請ればいい」

「え?…んぁ!首、がしま…っ、ぁ、あっは…んぅっ、なに、はいって…っひやぁああ!!」

首に巻き付いた帯は、緩やかに締まるようなちょうどいい具合で留まっている。
同時に、服の上から与えられる胸への強い愛撫で果てた。
動けば締まる首。
魔王が呼吸しやすいように緩めると、服の中に何かがはいってきた。
するりと秘部の入り口に何かが触れて、焦らすように撫でた後、入り口を塞いだ。
簡単に侵入した何かは、私の感じるところばかりを攻める。
水音が大きくなり、嫌でも自分の状態を知る。

「着たままというのも面白い。
王子がアンナを見て勃起している。
もっと見せてやろう」

「やぁん…っ、そこ…は、ぁっ、足、開かないで…見ないで…みなぁっんん、奥、まで入って…はっ、んぅ…あぁ…っ」

「そうだ。アンナ、王子のものがほしいだろう。
ほしければ、王子の名を呼び、もっと腰を使え」

「あっ、ウィルネス様、…っ、ウィルネス様ぁ…んぁっ、あっ、ぅんんっ!」

腰を振ると、秘部を愛撫する何かが大きくなった。
一度は受け入れた、ほしかった存在が再現されている。
我慢することはできなかった。
夢中で何かを締めつけて、擦りつけるように体を動かす。
一瞬だけ締まる首の痛みすら快楽に変わっていく。

「アンナ、だめです。悪魔に魅入られては…」

下からウィルネス様の声がした。
名前を呼ばれて嬉しかった。

「ほら、助けを呼んでみればいい」

「ウィルネス様ぁ、…助けてっ、ください…っ、いゃあ…ぃくっ、いくぅ…っ!」

「…魔王、アンナを、巫女様を放してください」

ウィルネス様の問いに、魔王は応えるつもりらしい。
見えた果ての手前で止まった何か。
焦れる体が刺激を求めて自然と揺れる。

「巫女?淫らな巫女だな。
このまま贄として我が躾けてもいいんだが、な?」

突然、何かが激しく動き始めた。
そして、熱い魔力が注がれる。

「ぁ…ウィルネス様…、ウィルネス様ぁ…あぁっんんぁああああ!!」

「アンナ!僕の妻になる人です。放してください」

「いいだろう。我も消える」

熱の余韻に浸っていると、拘束が消えた。
気づけばウィルネス様の腕に抱きとめられていた。
このまま私の傍にいてほしい。
温かさで気が緩み、意識が薄くなっていく。




お姫様は、巫女様が魔王に拘束されて動けなかった。
下手をすれば命をとられるかもしれない。
俺たちは、目の前で見せつけられる痴態を見上げるしかなかった。
巫女様の艶やかに助けを求める喘ぎ声と魔王の気配が、場を支配していた。
「消える」と言った魔王は、巫女様を手放したと同時に消えた。
眠る巫女様を抱えた王子様と、王子様に寄り添う聖女様。
周囲を警戒するお姫様と婚約者様は、肩の力をぬいた。
安全だと判断したようだ。

「私たちは、王宮に戻ります。
フレン、戻ったら忙しいですわよ」

「ディナと結婚できるなら、嬉しい忙しさです」

見つめ合う二人を優しい眼差しで見つめる王子様は、聖女様と笑みを交わした。
腕の中で眠る巫女様を抱きよせると、お姫様をまっすぐに見る。

「エルディナ。僕は巫女様の魔祓いをします。
しばらくは四ノ島で暮らしていいですか?」

「はい。巫女様をお願いします。
聖女様は、どうしますか?」

「私は、ウィル様の傍にいます」

「わかりました。
クオンは、私たちと王宮へきてください」

お姫様は話し終えたらしい。
その目は戻るための道を見ていた。
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