願いと欲望

秋赤音

文字の大きさ
上 下
58 / 68
願いと幸せ

6.待ち人

しおりを挟む
三ノ島は、静かだ。
人が暮らす気配の面影だけを残す壊れかけた街。
そこに今を生きる気配はない。

「ここに秘宝があります」

「共鳴か?」

「おそらく…体が温かいです」

お姫様は、ふわりと柔らかく微笑む。
隣にいる巫女様は頬を赤らめ、苦しそうに短く息を吐いている。

「巫女様。大丈夫か?」

「…っ、だ、大丈夫、ですっ」

潤んだ瞳、甘えるような声。
体が冷えて病にかかったかもしれない。
ちょうど、少し先に大きな屋敷が見えた。
やはり壊れかけているが、風と万が一の雨からは守ってもらえそうだ。

「この先の屋敷で休もう」

「そうですね」

「…っ、ん、くっ…ぅっ」

屋敷に近づたびに苦しそうな巫女様。
ついに歩くのが難しくなったので、抱きかかえて移動した。
屋敷に見えた建物は大きな教会だった。
本来は祈りの場だったところの中央には秘宝らしき剣がある。
さらに、クオンたちはいくつか部屋があることを確認した。

「朝までここにいさせてもらうか」

「そうですね。巫女様は先にお部屋で休んでいてください」

「はい、そう、します…っ」

祭壇がある部屋から一番近い部屋まで送り、扉は開けたままにして祭壇へ戻った。
秘宝を前にしたお姫様は、剣に触れた瞬間、闇にのまれた。




私は、指示に従って秘宝に振れ、魔力を注いだ。
すると、大きな闇が私を覆った。
脱出を試みたができない。
上も左右も分からない暗闇に焦っていると、足をつかんだ。
振り払おうとするが動く程に締めつけてくる。

「魔術4、使えない…っ」

足元から何かが体を這い、あっという間に手足の動きを封じられた。
魔術が使えない原因も分からない。
そして、暗闇を造る魔力をよく知っている。
ずっと会いたいと願っている大好きな、温かい人。

「フレン。どうして、フレンの…っ」

「ディナ」

声がした。
聞きたかった声がした。

「フレン?」

何も見えないどこかに向かって問いかける。

「ここに、いる」

背後とお腹に温かな気配が現れた。
顔を後ろに向けるような何かに身を預ける。

「どこ、ぁ…フレン、んっ…んぅっ、あっ…っ」

唇にそうような感覚の温度は懐かしいフレンの温度。
自分に都合のいい現実だと思う私を、フレンの気配が幻ではないと示しているようで。

「やっと、会えた」

「…っ、フレン、会いた、かった、ぁ…っ、なに、を?」

口づけに夢中になっていると、気づけばフレンの手が私の服を暴いていた。

「秘宝を具現化するために…ディナ。ごめんね。
順番を違えるけど、必要なことだから。
いつか結婚するし、問題ない」

晒された体に這う温度が心地よく、ようやく会えた嬉しさと体感で高ぶる体。
フレンの優しい愛撫は甘く理性を溶かしていく。
やまない口づけは深く、
熱くなる胸を焦らしながら時折に与えられる先端への刺激。
同時に、疼く秘部の入り口をなぞる指先。
フレンを体の全てで感じられる幸せに、何もかもがどうでもよくなりそうで。

「あっ、ぅんぁああっ、…フレン、フレン、ほしいのっ、フレンの、ほしい…ぁっ、ああっ」

「ディナ。まだ、だめ」

「ぃやぁっ、くるし、ぃ…っ、熱い…あついの…っ」

じわりと焼けるような熱い秘部にフレンの指を誘い込んだ。
するりと入ってきた温度。
離さないように強く締めつければ、さらに疼きが広がる。
切なさを慰めてほしくて腰を揺らすと、フレンの指先がゆっくりと愛撫を始めた。

「ディナ…これ、気持ちいい?」

「んぅ…っ、フレンの指、気持ち、いい…っ」

「よかった」

フレンは、指を増やして優しい声と真逆のような激しい愛撫で私の身を焼いていく。
熱い、熱くて、死んでしまいそう。
全身でフレンの存在と魔力を感じながら死ねるなら、きっと幸せ。
もっと、ほしい。
フレンに合わせて動くと、熱さが増していく。
最果てが見えそうになった瞬間、そっと抜かれた指。
出ていくのを止めようと追いかけるけど、間に合わなかった。

「いくときは、一緒がいいから…いれて、いい?」

「…ん、いれて…っ、奥まで、フレンでいっぱいにして…っ」

入り口にフレンの熱を感じ、嬉しくて熱に秘部を摺り寄せる。
すると、ゆっくりと入ってきた。
フレンを受け入れられる嬉しさだけで眩暈がした。
初めての痛みすら気持ちを高揚させた。
全てを秘部で包んだ瞬間、我慢できない感情が爆ぜた。

「ぁ…っ、フレンの、はいって、きて、はぅっ…んんっ、くぅんぁああああああああっっ!!」

「ディナ…っ、で、る…ん、くっ」

体にフレンの魔力が注がれるのを感じながら、何度も果てる。
さらに熱いままの昂ぶりに突き上げられ、限界が分からないような快楽が全身を走る。

「フレン…っ、あっ、んっ、フレンっ…すき、いっしょに、いて…っ」

「ディナ…っ、これからは、ずっと、一緒だから…っ」

「ん、んぅ…ぁっ、あっ、あぁんっ、フレン、また、んぁ…っぁあああああっ!」

フレンの魔力をたっぷりと注がれ、同時に違う魔力も入ってきた。

「…っ、ディナ、愛してる」

「フレン、私も、愛してる」

唇に触れるだけの口づけの後、ぐらりと目が回った。
魔力の波と私を支える温かなフレンの体に身を預けた。



闇が晴れると、一人の男性が腕にお姫様を抱えて現れた。

「何者だ」

お姫様が人質にとられているので下手に動けない。
問いに微笑む男性は、お姫様を大切そう見つめる目を俺に向けた。

「エルディナ・ローザ様の婚約者、リーフレン・アイリスと申します」

赤い目が強く印象に残るような男性。
姿を知らされていない婚約者と名乗る相手の言葉は鵜呑みにできない。
危険人物か判断に迷っていると、お姫様の瞼が開いた。

「フレン?」

「ディナ。部屋はどこにある?」

目の前で甘い空気を漂わせながら親しそうに呼び合う二人。
初めて見る怖い程に無防備なお姫様の様子に戸惑う。
判断に悩んでいると、お姫様が俺を見た。

「クオン。この人は、私の婚約者だから安心してください。
秘宝は無事に…この通り、です。
休むので、部屋に行きます。
背後の守りは任せます」

「はい」

目の前で具現化された剣は、返事をするとすぐに消えた。
護衛のため、お姫様を抱える婚約者様の後ろを歩く。
部屋の前に着くと、婚約者が抱えているお姫様を降ろして先に入った。

「問題ない。ディナ」

「私は彼がいるので大丈夫です。
巫女様をお願いします」

「はい」

指示を出すとお姫様は婚約者の手をとって部屋に入った。
命令通りに右隣の部屋にいる巫女様の様子を見に行った。
扉を叩いて声をかけたが返事がないので部屋に入ったが、目に見えた以上は無かった。
静かに眠っている様子に安堵する。
部屋に戻ってベッドに転がり目を閉じていると、左隣から聞こえてくる喘ぎ声。
噂が本当なら、久しぶりに再会した愛し合う恋人だ。
大人の知識もあるのだから、当然の展開だろう。
孤児院で聞く拷問よりも優しい音だ。
幸せ時間を守るためにも、より周囲の音に注意する。

翌朝。幸いにも問題は無く教会を出た。
島を出ようと次の転移装置へ向かう途中、攫われたはずの聖女様を見つける。
「魔王から逃げてきた」という聖女様。
その手には傷ついた鳥がいる。
「一晩休めば治る」と言う聖女様の言葉に、お姫様は移動を明日にすることを決めた。



魔王のところから聖女様が逃げ出せたのは幸いだ。
聖女様が連れている鳥のため、自分のために出発を延ばした。
せっかく旅をしているのだから、と人の気配が無い街をフレンと二人で歩いた。
聖女様といると、嫌なことばかり考えてしまいそうで、そんな自分が嫌だった。
弟を早く解放したい焦る気持ちを抑えられているのは、フレンのおかげ。
嫌な私すら受け入れてくれるフレン。
周囲に誰もいない廃屋で交わした口づけから始まった睦事は、夜よりは短い時間で濃い触れ合いだった。
日が暮れて、皆と共に食事を終えると、それぞれの部屋に戻る。
魔術で簡単に身を清めると、フレンは私の存在を確かめるようにそっと抱きしめた。
ベッドに仰向けで寝かされ、見上げるフレンの赤い瞳は私だけを見ている。
夢中で愛し合い、待っていたフレンと離れることなく隣で眠っている。
それだけで、強張る体から無駄な力が抜けていく。
事後の名残を感じる温度のまま抱きしめられ、心地よい疲れと共に瞼を閉じた。


馴染んだ気配に目を開ける。

「エルディナ」

「リーリア?」

いつもと同じはずの声は、いつもより少しだけ遠い気がする。
姿が見えない。

「エルディナ。会えてよかったですね」

「ありがとう。リィのおかげ」

二つの音が揃って聞こえる。
クオンも巫女様もだいたいは同じだが、いつも同じことは無い。

「エルディナが頑張ったからです。
これからは本物の婚約者と仲良くしてください。
たくさん魔力をもらったので、そろそろお別れです」

「そう…リーリア、ありがとう」

「契約ですから。エルディナ、お幸せに」

声が途切れた瞬間、視界が歪んで目を閉じた。

「ディナ」

呼ばれた声に目を開けると、私を心配そうに見つめるフレンがいた。

「フレン」

「大丈夫。ディナだけは何があっても守る。
ずっと一緒にいる」

「うん」

抱きしめられた腕に体を預けた。

身支度を整え、フレンに抱えられて待ち合わせ場所に向かった。
聖女様が連れていた鳥はいなくなっている。
「目が覚めるといなくなっていた」と微笑む聖女様を見つめる巫女様。
なんとなく、嫌な予感がした。
四ノ島へ移動すると、突然に巫女様が消えた。
周囲を警戒しながら枯草が生える道を進むと、人の気配が無い寂れた町が見えてきた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】禁断の絶頂

未来の小説家
恋愛
絶頂を我慢したい彼女の話

とりあえず、後ろから

ZigZag
恋愛
ほぼ、アレの描写しかないアダルト小説です。お察しください。

【R18】深夜に蜜は滴り落ちる

ねんごろ
恋愛
 エッチです

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

さして仲良くない職場の先輩と飲み会の後に毎回セックスして繰り返し記憶をなくしている百合

風見 源一郎
恋愛
真雪が目を覚ますと、セックスをした後だった。隣には、すごくエッチな体をした女の人がいた。前日には会社の飲み会があったことだけを覚えている。 酔った勢いで、さして仲良くもない会社の先輩を相手に処女を散らしてしまった真雪は、しかし、見知らぬはずの部屋に、見知ったものばかりが置かれていることに気がついたのだった。

連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)   「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」 久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。

処理中です...