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封じられた欲望
10.愛と情
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「勇者と巫女の魔力が消えました」
「祠から魔王の魔力が消えました」
「魔王の魔力が消えた?素晴らしい。
いい…巫女?どうしてだ」
玉座から見下ろす王にかしずく従者たち。
顔を上げることなく、息を詰まらせる。
「わかりません」
「探せ、あれは秘宝を持っている」
「はい。今、他の者と調べています。失礼します」
慌ただしく王の間を出た従者たちは二度と戻ってこなかった。
魔王が姿を消し、勇者がいなくなった王宮。
七日を過ぎた頃から、少しずつ魔獣が出現するようになった。
秘宝を持ったまま巫女もいなくなったことで、
聖女と共に強い結界を張ることもできない。
強い魔力を維持しながら結界を保つにも限界があった。
対抗できる武力は日ごとに減っていく。
王宮が苦戦していると同時に、街にも新たな来訪者がいた。
賑わう通路から一歩影に入れば、世界は変わる。
嬌声と悲鳴の中に助けを呼ぶ声が混じるが、すぐに悲鳴と嬌声に変わる。
逃げるように促す声と身を隠して守ろうとする声は、甘い囁きに変わり周囲を巻き込んでいく。
街の影で交わされるのは、人間に化けた魔獣と人間の交わり。
天使と呼ばれた魔と幼い頃から関わってきた者の多くは、抗うことなく受け入れた。
「会いたかった天使が、会いに来てくれた」と嬉しさで満たされたという。
魔に魅了され犯された人間は、消えるか、半魔獣に変わる。
人間に化けた半魔獣は、巧みに誘い、影へ人間を堕とす。
静かな侵略に、誰一人として気づかない。
結果、すべての民は魔獣に身を裂かれ、適合した者は半魔獣と化した。
ただの人間ではなくなった民が王宮に押し寄せ、魔獣と共に占拠していく。
「この国も、これまでか」
ただ一人だけが場にいる王の間。
血濡れの騒動の気配がない綺麗な調度品と静けさ。
王は玉座に座ったまま、己の身を短剣で貫こうとした。
しかし、その手に白く細い指が添えられる。
「お父様、いけません。
民を大切に、最後まで守ると教えてくれたのはお父様です」
「エルディナ…お前にはあれが民に見えるのか?」
短剣を奪われた王は、短剣をもって離れた微笑む王女を睨む。
「お父様…お疲れなのですね」
「ディナ。お妃様が部屋にこもりきりで会うこともできないのでは…」
「そう、なのですか…リィは、お父様の気持ちがわかるのですね。
お父様に天使様のご加護がありますように」
赤い瞳の男性に抱き寄せられた王女は、悲しみを滲ませた声で祈った。
「同じ男としては、ね。
愛するディナと会うことができないと思うと…」
「リィ。私はいつでも共にいます。
だから、泣きそうな顔をしないで?」
王女は男性の頬に口づける。
口づけに応えるように男性も王女の頬に口づけを贈る。
「王の間には民を誰も通しません。
お父様は私たちが守ります」
「お妃様の安全は聖女様と王子が守っています。
ご安心ください」
二人は寄り添いながら王の間を出た。
「ありがとう。すまない」
王は魔術で造った短剣を喉元に突き立てる。
しかし、王の腕は黒い光に拘束された。
「そういうことは、冠を譲ってからすることだろう」
「そうです。王様として民に道を示してください」
「お、お前たち…死んだはずでは」
「確かに死んだ」
「私が殺しましたからね」
宙にいる巫女と勇者が現れたことに驚く王。
開いた口がふさがらないまま呆然と見ている。
同時に王子と聖女が現れた。
「お父様。その顔を民に晒すのは王として問題だと思います」
「ウィル、ネス…妃、お母様はどうした」
拘束が解かれたことに安堵したが、
妃を守っているはずの王子が空中から現れ動揺する王は、震える声を隠さないまま現れた王子に問う。
「お母様?王宮が占拠される前に隣国へ逃げました。
大丈夫です。
強い護衛を何人も連れていましたから」
「私も守りの魔術をかけましたので、よほどの攻撃に当たらなければ無事なはずです」
王子の傍に寄り添う聖女は柔らかな笑みを浮かべている。
「お父様、その冠を僕にちょうだい」
「あ、ああ…そうだな。
これは息子であるお前が継ぐんだ」
王は玉座に息子を手招く。
王子が段を上って王の近くに立つ。
「ありがとう」
冠をのせて玉座を離れた瞬間、
王子に鞘のある剣で腹を刺される王。
驚いて目を大きく見開きながら、倒れそうになる体を王子に支えられる。
「これからは、僕が民を守るからね」
王は身を起こすと、王子を玉座に座らせる。
「どうか、この国を、守って、く、れ」
王子は王から剣を一瞬でぬく。
すると、王は倒れ、消えた。
惜しむように漂う光は剣に吸い込まれる。
「おやすみなさい。お父様。
また、会えるから」
目を伏せて微笑む王子は、慈しむように血濡れの剣を見る。
「話す時間はゆっくりできただろ。俺は戻る」
宙へ浮いたまま消えかかる勇者と巫女を見上げる王子は微笑んだ。
「勇者さん、ありがとうございます。
巫女様、剣を授けていただきありがとうございます。
大切に、します」
巫女と勇者は笑みを浮かべ、消えた。
「ウィルネス、お父様の気配が…」
「お姉様、リーフレン様。お父様は、ここです」
鞘からぬかれた剣は王に姿を変えた。
王に向き直り微笑む王子と、よみがえった王に安堵する王女。
「よかった。
立派な王になるには、私たち、まだ足りないから」
「はい。これからも多くのことを学ばせてもらいたいです」
王となった王子の傍に寄り添う聖女は、笑みで溢れる和やかな場に笑みを向けていた。
王女に寄り添う男性は、安堵して力が抜けた王女の体をしっかりと支える。
「祠から魔王の魔力が消えました」
「魔王の魔力が消えた?素晴らしい。
いい…巫女?どうしてだ」
玉座から見下ろす王にかしずく従者たち。
顔を上げることなく、息を詰まらせる。
「わかりません」
「探せ、あれは秘宝を持っている」
「はい。今、他の者と調べています。失礼します」
慌ただしく王の間を出た従者たちは二度と戻ってこなかった。
魔王が姿を消し、勇者がいなくなった王宮。
七日を過ぎた頃から、少しずつ魔獣が出現するようになった。
秘宝を持ったまま巫女もいなくなったことで、
聖女と共に強い結界を張ることもできない。
強い魔力を維持しながら結界を保つにも限界があった。
対抗できる武力は日ごとに減っていく。
王宮が苦戦していると同時に、街にも新たな来訪者がいた。
賑わう通路から一歩影に入れば、世界は変わる。
嬌声と悲鳴の中に助けを呼ぶ声が混じるが、すぐに悲鳴と嬌声に変わる。
逃げるように促す声と身を隠して守ろうとする声は、甘い囁きに変わり周囲を巻き込んでいく。
街の影で交わされるのは、人間に化けた魔獣と人間の交わり。
天使と呼ばれた魔と幼い頃から関わってきた者の多くは、抗うことなく受け入れた。
「会いたかった天使が、会いに来てくれた」と嬉しさで満たされたという。
魔に魅了され犯された人間は、消えるか、半魔獣に変わる。
人間に化けた半魔獣は、巧みに誘い、影へ人間を堕とす。
静かな侵略に、誰一人として気づかない。
結果、すべての民は魔獣に身を裂かれ、適合した者は半魔獣と化した。
ただの人間ではなくなった民が王宮に押し寄せ、魔獣と共に占拠していく。
「この国も、これまでか」
ただ一人だけが場にいる王の間。
血濡れの騒動の気配がない綺麗な調度品と静けさ。
王は玉座に座ったまま、己の身を短剣で貫こうとした。
しかし、その手に白く細い指が添えられる。
「お父様、いけません。
民を大切に、最後まで守ると教えてくれたのはお父様です」
「エルディナ…お前にはあれが民に見えるのか?」
短剣を奪われた王は、短剣をもって離れた微笑む王女を睨む。
「お父様…お疲れなのですね」
「ディナ。お妃様が部屋にこもりきりで会うこともできないのでは…」
「そう、なのですか…リィは、お父様の気持ちがわかるのですね。
お父様に天使様のご加護がありますように」
赤い瞳の男性に抱き寄せられた王女は、悲しみを滲ませた声で祈った。
「同じ男としては、ね。
愛するディナと会うことができないと思うと…」
「リィ。私はいつでも共にいます。
だから、泣きそうな顔をしないで?」
王女は男性の頬に口づける。
口づけに応えるように男性も王女の頬に口づけを贈る。
「王の間には民を誰も通しません。
お父様は私たちが守ります」
「お妃様の安全は聖女様と王子が守っています。
ご安心ください」
二人は寄り添いながら王の間を出た。
「ありがとう。すまない」
王は魔術で造った短剣を喉元に突き立てる。
しかし、王の腕は黒い光に拘束された。
「そういうことは、冠を譲ってからすることだろう」
「そうです。王様として民に道を示してください」
「お、お前たち…死んだはずでは」
「確かに死んだ」
「私が殺しましたからね」
宙にいる巫女と勇者が現れたことに驚く王。
開いた口がふさがらないまま呆然と見ている。
同時に王子と聖女が現れた。
「お父様。その顔を民に晒すのは王として問題だと思います」
「ウィル、ネス…妃、お母様はどうした」
拘束が解かれたことに安堵したが、
妃を守っているはずの王子が空中から現れ動揺する王は、震える声を隠さないまま現れた王子に問う。
「お母様?王宮が占拠される前に隣国へ逃げました。
大丈夫です。
強い護衛を何人も連れていましたから」
「私も守りの魔術をかけましたので、よほどの攻撃に当たらなければ無事なはずです」
王子の傍に寄り添う聖女は柔らかな笑みを浮かべている。
「お父様、その冠を僕にちょうだい」
「あ、ああ…そうだな。
これは息子であるお前が継ぐんだ」
王は玉座に息子を手招く。
王子が段を上って王の近くに立つ。
「ありがとう」
冠をのせて玉座を離れた瞬間、
王子に鞘のある剣で腹を刺される王。
驚いて目を大きく見開きながら、倒れそうになる体を王子に支えられる。
「これからは、僕が民を守るからね」
王は身を起こすと、王子を玉座に座らせる。
「どうか、この国を、守って、く、れ」
王子は王から剣を一瞬でぬく。
すると、王は倒れ、消えた。
惜しむように漂う光は剣に吸い込まれる。
「おやすみなさい。お父様。
また、会えるから」
目を伏せて微笑む王子は、慈しむように血濡れの剣を見る。
「話す時間はゆっくりできただろ。俺は戻る」
宙へ浮いたまま消えかかる勇者と巫女を見上げる王子は微笑んだ。
「勇者さん、ありがとうございます。
巫女様、剣を授けていただきありがとうございます。
大切に、します」
巫女と勇者は笑みを浮かべ、消えた。
「ウィルネス、お父様の気配が…」
「お姉様、リーフレン様。お父様は、ここです」
鞘からぬかれた剣は王に姿を変えた。
王に向き直り微笑む王子と、よみがえった王に安堵する王女。
「よかった。
立派な王になるには、私たち、まだ足りないから」
「はい。これからも多くのことを学ばせてもらいたいです」
王となった王子の傍に寄り添う聖女は、笑みで溢れる和やかな場に笑みを向けていた。
王女に寄り添う男性は、安堵して力が抜けた王女の体をしっかりと支える。
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